緘黙児と習い事-うちの場合

緘黙児、というか抑制的な子どもにとって、好きなことを奨励し、個性を伸ばすことはとても重要だと思います。本人が「これが好き」「楽しい」「得意」と感じることが自信につながり、自己評価があがるからです。また、将来的に仕事に結びつけば素晴らしいですが、趣味としてキープできれば社交の糸口になってくれそう。

うちの息子の場合は、4歳の頃から音楽教室に参加し、その延長で7歳から吹奏楽器を習い始めました。理由は小さいころからいつも鼻歌を歌ったりと音感が良かったこと。また、スポーツ好きの子どもではないのが明白だったからです。

音楽教室に入った当時は、引っ込み思案だったものの、まだ緘黙ではありませんでした。途中で(4歳半で小学校に入学してから)緘黙になったんですが、その後も先生から「お宅の子は歌ってません」とか「固まってます」と注意されたことはなく、多分何とかやってたんでしょう。

吹奏楽器を選んだ理由は、お試しでヴァイオリンとコルネットをやってみたら、初めて挑戦したコルネットで結構音が出て先生に褒められたから。この頃は緘黙症状が徐々に和らいでいて、人前で「吹く」ことが、「話す」練習になるように思えたからでもありました。また、楽器ができれば、学校以外の友達を作れるかもという希望もありました。

スポーツもやらせたかったんですが、本人がものすごく嫌がり、やってもいいよという感じになったのは緘黙が随分改善した9歳のころ。が、この年齢になると、既に同級生は空手3年目とか、地区の少年サッカーチームのレギュラーとかになっていて、これから始めるにはすでに時遅しという感じでした。

その後、アーチェリーと卓球にトライしたものの、どちらも正式にクラブに入会する段階になって脱落…試合のために猛練習するほど好きじゃなかった/上手くなかったんですね…。今では、時々祖父に連れられてゴルフに行くくらいかな。

これまでの経験で思うことは、

  • 適性がないと長続きしない
  • 周りの子と同じ時期にスタートしないと、後からは入りづらい
  • 集団よりマンツーマンで習えるもの、マイペースで進めるものがベター

息子はマイペースで今も楽器を続けています。地区のブラスバンドにも入っていますが、ポジションはいつもその他大勢のひとり。そんな息子ですが、今年に入って楽器をやっていて良かったと思えることがいくつかありました。

2月のハーフタームに義両親宅に滞在した際、村の公民館で小中学生のための音楽セッションがありました。義両親は責任者夫婦と親しく、息子も彼らとは顔見知り。私と義父は公民館に息子を預け、3時間ほど買い物へ。帰りがけに息子を迎えに行くと、年下の男の子と一緒にドラムを叩いていました。

夕食の支度をしていた時、「今日は大勢の子に楽器を教えたよ。これだったら、日本でホームスティもできそう」と息子が漏らしたのです。(我が家には主人のドラムキットとギター、息子がグラニーにもらったウクレレなどがあり、息子はよくこれらで遊んでいます)。

3月中旬には、遅れに遅れていたグレード5の検定試験を受けました。ゆっくり目だったものの、大幅に遅れたのは1年半歯の矯正をしていたためと(高音が出せなかった)、昨年試験間際になって先生が突然変わったため。

2年以上も同じ課題曲を練習してたので受かるハズの試験でしたが、当日思わぬ落とし穴が…。息子を連れて試験官の家に行くと、伴奏してもらう先生がなかなか来ない!(試験は平日の授業中に、不便な住宅地で行われるのです)。そのうえ、息子は「サイレンサー(消音ミュート)忘れた!」とパニック気味。チューニングに5分もらえるのですが、別室から聴こえる音がビビってました~!

緘黙は治っても、息子の抑制的な気質は変わってません。待合室には試験を受けに来た子どもや親がいるため、演奏を聴かれたくない気持ちが大きく、動揺してたと思います。

で、そのまま試験に突入。待合室で最初の課題曲を聴いた私は、「ああ、これは落ちた」と確信したのでした。それまで何回聴いたか判らない曲でしたが、あんなに詰まったのは初めて。2曲めからは失敗しませんでしたが、これは駄目だと思って息子にも言いました。そうしたら、先日合格したという知らせが!(息子いわく、「この曲の課題部分はクリアしてたから」だそう。賭けに負けて50ポンド取られました…)

そして先週木曜日は、息子の音楽人生のハイライト(多分)でした。地区の小中高生の吹奏楽団と管弦楽団、合唱団など総計1500名を集結させ、クラシック音楽の殿堂といわれるロイヤルアルバートホール(RAH)でコンサートを行ったのです。私が住む地区では音楽教育に力を入れていて、これは5年に一度の大イベント。私たち夫婦はRAHのボックス席の前列に陣取り、双眼鏡で息子を探すこと約10分。その他大勢のひとりに心からのエールを送りました。辞めたい時期もあったけれど、続けていれば何かいいこともあるんですね。

IMG_20150423_182833 BBCプロムスも開催される由緒ある会場

RAH1

 先生方の努力のお陰で一生の良い想い出ができました

どうして緘黙のティーンが短期間で話し始めるのか?

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その14)

先回の投稿から、またまた1ヶ月空いてしまいました。いきなり仕事が集中し、その後2週間ほど帰国している間はネット難民になっていました(日本では空港を除いて無料Wifiを飛ばしているところはないんでしょうか…)。イギリスに戻ったらすっかり春の気候。なにも手入れしていなかった中庭が、すっかり緑につつまれていました。

帰国中に息子は知人宅で生まれて初めてのホームスティ(4泊5日)を体験。なんと、スティ先の3人の子ども(特に、11歳の長男くん)が息子に輪をかけたような恥ずかしがり屋で、親が仲介して会話を盛り上げてくれたとか。あまり日本語は上達しませんでしたが、薪風呂や掘りごたつのある実家に連れて行ってくれたり、パネルで注文するくるくる寿司や空手教室など、貴重な経験をいっぱいさせていただきました。

さて、番外編の続きです。年が上の子への支援について、マギーさんに直接お伺いしたところ、「支援を受けたティーン全員が2、3週間で口をきくようになった」との答え。これらのティーン達は緘黙が長期間続いていたと思われるのに、すごくないですか?

その理由を色々考えてみて、下記のようなことを思いつきました。

1) 公の場で話せるようになった訳ではない

まず注意すべきなのは、彼らは自宅または学校の一室で支援者に話した、または読本などで声をだしたのであって、クラスで周囲に聞こえるように話せるようになった訳ではないということ。緘黙が習慣になってしまったティーンがそんなに簡単に話せるはずはなく、やはり克服までにはかなりの時間と努力が必要と思われます。でも、一言の答えであれ、一行の文章であれ、新しい人に対して発話できたというのはすごいことですね。これをきっかけに、どのようにステップを進めていくか、子どもが支援者と共に納得しながらどう取り組んでいくかが重要なんだと思います。

2) 学校内でのセッションの不安度が低い?

自宅は安心できる場所ですが、緘黙が起こっている現場の学校はかなりの難関のはず。どうして学校での支援も同じような結果がでるのか?これはイギリスのセカンダリースクール(12~16歳)の構造によるところが大きいような気がします。イギリスでは小学校はどこも小規模ですが、セカンダリーでは急にマンモス校と化します。日本の大学のようなシステムになっていて、教科ごとに教室を移動。ベースとなる自分の教室はなく、決まった席も机もありません。同じクラスでもバラバラの教室で授業を受けることが多く、常に移動している状態。誰かが特別な支援を受けていても、それほど目立たないのではと思います。

また、イギリスには特別支援チーム専用のスタッフや学校に通ってくる専門家がいて、教師でない大人が支援セッションを担当します。緘黙の子は自意識が過剰なことが多く、同じ学校内でも人・場所・時間帯で不安や緊張度が違います。自分のことを知っている(=苦手意識が強い)クラス担任と自分の教室でセッションするのでなく、別の大人と他の生徒が入ってこない部屋・時間帯にセッションをすることで不安度が下がり、成果が出やすいと考えられます。

3) 第三者の大人とのつながりを持ちやすい環境

年齢が上の子には、本人が納得したうえで意識的に緘黙を克服していく方法が有効といわれています。第三者の大人と信頼関係を持つことで、自分を客観的に見ることができ、それが大きな自信に繋がるのでしょう。イギリスではこの第三者の大人はだいたい特別支援員(TA)か言語療法士。こういった教師でない大人が長期の支援を行うシステムがあることが、すごく強いと思います。

日本で特別支援教育を担うのは教師だと思いますが、例えばスクールカウンセラーを増やすなど、外の大人に定期的な支援をしてもらえるといいなと思います。養護教諭や用務員など、教員以外の大人にも配慮してもらえると嬉しいですね。

4) 家庭のサポートも大きく影響していそう

マギーさんが所属しているケント州のコミュニティヘルスNHSトラストは、公共の機関です。ケント州に住む友人によると、親や支援者が直接マギーさんに無料相談できる定例会が開かれているそう。(同じイギリスでも住んでいる場所によって違うんですが、ケント州とSMIRAのあるレスター州は緘黙支援が充実しています)。ということは、支援者と親、専門家のネットワークも充実しているんですね。この支援プログラムでは親とのセッションもあるので、親も子どもの状況を把握でき、それに見合ったサポートが可能になります。

思春期の子どもとどうコミュニケーションを取り、家庭を居心地のいい場所にできるかは世界的な課題です。例え子どもが自分のことを話さなくても、親に信頼されていて、いつでも助けてもらえると感じていれば、心理的に随分違うのではないでしょうか。