大人しい子  vs  緘黙児

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イギリスでは先週から場面緘黙啓発月間が始まり、メディアや精神医学関係機関、SNSなどを中心に盛り上がりを見せています。初日には、SMiRAの本拠地であるレスターのBBCラジオ局が、場面緘黙を取り上げました。

http://www.bbc.co.uk/programmes/p0322npy

(6分50秒くらいから。日本でも聴けるかどうか不明ですが、リンクは今月末まで)

10分ほどのスロットに、SMiRAコーディネーターのリンジー・ウィティントンさんと15歳になる緘黙の少女の母親、エマ・ガスキンズさんが出演。リンジーさんが場面緘黙について解説し、エマさんは娘について語っています。ちょっと時間がないので翻訳はしませんが、興味深いなと思ったところだけ。

「場面緘黙って何?」とDJのエイディ・デーモン氏に訊かれ、リンジーさんは「不安によって起こる症状」と答えました。使ったのは、”disability (障害)”でなく、”condition (症状)”という単語。やはり、イギリスでは「恐怖症」と同様で、「症状」という捉え方になってきているようですね。

背景には様々な原因があって特定できないものの、不安によって話せなくなる状態が場面緘黙。入園・入学時に発症することが多く、話さない状態が2・3週間も続いたら要注意です。なるべく早い段階で言語療法士(SLT)にアセスメントをしてもらい、不安を取り除いてからスモールステップで支援を始めるよう勧めていました。

日本だと心理士や児童精神科医に相談すると思うのですが、イギリスでは場面緘黙といえば言語療法士です。これは、言葉に関わる問題だからという理由に加え、子どもの言語に問題がないかチェックする必要もあるから? 緘黙治療の第一人者と言われるマギー・ジョンソンさんがSLTなので、SLT界では緘黙に関する知識が豊富というのもあるかもしれません。

スモールステップでの治療については、それほど難しいものではないため、やり方さえ理解できていれば、専門家でなくても教師やTAで充分と説明。私は、治療の要は子どもとの相性と愛情と、とにかく根気じゃないかな、と思っています。

(ところで、緊張すると実際に喉が締まったようになって、声が出しにくくなることって普通の人でもありますよね?ネットで探してみたら下記のページを見つけました。「首筋の肩甲舌骨筋が膨らむことによって、声が圧迫される」とあります――これが緘黙の正体??)

→ http://ure.pia.co.jp/articles/-/17026?p

DJのエイディは、「小学校のクラスに、レセプション(準備学年)から6年生まで、7年間ずっーとしゃべらない女の子がいた」と回想。その子が話さないことに周囲がヤキモキして、教師までもが「恥ずかしくないよ。話せば?」と本人に言ってたそう…。自分がしゃべらないことをみんなに注目されて、すご~く嫌だったでしょうね…余計話せなくなっちゃいそう…。

エマさんの娘さんは、緘黙傾向の強い恥ずかしがり屋だった?

イギリスでは3歳から幼稚園、4・5歳から小学校が始まるので、緘黙の発症年齢は通常3~5歳くらいなのですが、エマさんの場合は、娘さんが15歳で学校を変わってから「全く話さない」と宣告されたということ。自分の娘に問題があると認めるのが、ものすごく辛かったと話しています。

エマさんもご主人もシャイで、娘さんも小さい頃から外では大人しくて恥ずかしがり屋――多分学校では少し話せていて、先生たちはそれほど深刻に捉えてなかったのでしょう。緘黙傾向がある恥ずかしがり屋でも、学校で少しはしゃべれて、友達がいて、表情がよく、勉強面で問題なければ、親も先生も「おとなしい子」で安心してしまうことが多いのかも。エマさんの娘さんのように、家でとてもおしゃべりな場合は、特に。

「うちの子は恥ずかしがり屋で、クラスで発言ができない」くらいに思っていたのが、いきなり全く話せなくなったら、それはものすごいショックですよね…。なんだか、身につまされるものがあります。

実は、リンジーさんの娘さんも元緘黙児だったのですが、リンジーさんは子どもが幼児の頃から「何か違う」と感じていました。赤ちゃん時代はよく笑う、おしゃべりでハッピーな子だったのに、1歳半頃からガラリと変わり、極度の引っ込み思案に。知らない人に話しかけられると固まるようになり、その度合いがどんどん悪化していったそう。

場面緘黙になるかならないか、いつなるのか――性格や環境に加えて、子どもをめぐる人間関係や出来事にも大きく左右されそうですね。とにかく、親は諦めず、根気よく、気長にサポートするのみ。でも、決してひとりじゃないので、一緒に頑張りましょう。

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イギリスでは10月が場面緘黙啓発月間です

 

 

イギリスでは10月が場面緘黙啓発月間です

 

イギリスでは場面緘黙を一般に広く知ってもらうため、毎年10月が啓発月間となっています。3年ほど前に始まり、期間中はTVや新聞・雑誌などメディアでのPRの他、イギリス各地でイベントや広報活動が行われます。

SMiRA 2015年キャンペーン公式ビデオ

イギリスの支援団体SMiRAでは、5月頃からキャンペーンの準備を始めていました。メインとなるのは、10月15日(木)に本拠地レスターのギルドホールで開催されるオープンイベント。私もお手伝いを兼ねて参加させていただく予定です。ロンドンでのイベントも調整中だそうで、10月末か11月頭になりそうとのこと。

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キャンペーン用の新しいロゴと啓発グッズ各種

啓発キャンペーン初日には、コーディネーターのリンジーさんと当事者の家族がBBC地方ラジオ局のインタビュー番組に出演(スタジオ録音?)する予定。この他にも、新聞・雑誌の特集やラジオ番組など、多くのメディアで取り上げられるようです。

携帯電話を使った支援キャンペーンも実施中。会員に呼びかけて、それぞれの地区の学校や関係施設へのリーフレット配布など、草の根的な活動にも力を入れています。無理することなく、できる人ができるところで協力するというスタンスがいいですね。私も何かしたいなと思って、公式ビデオに日本語字幕をつけさせてもらいました。

SMIRA3携帯電話キャンペーンでは、メッセージと支援金を募集中

ここ3年ほど、SMiRAの活動はFacebook中心になっていたんですが、さっきのぞいてみたら、サイトがリニューアルオープンしていました!ガラリと雰囲気が変わって、とても見やすくなったと思います。ティーン&成人用の新資料もあり、SLTマギー・ジョンソンさん著の段階的な克服法をダウンロードできます。

http://www.smira.org.uk/index.html

今月は色々なメディアで場面緘黙が取り上げられると思うので、見つけたら(ちょっと時間がかかるかもしれませんが)報告していくようにしますね。

 

SMIRAコンファレンスに行ってきました。

先週の土曜日、イングランド中部のレスターで行われた2014年SMIRAコンファレンスに行ってきました。(もとは「全国保護者会」という名前だったのが、規模が大きくなって「コンファレンス」と改名されたそう)

レスター駅で、同じロンドンからの電車に乗ってきた言語療法士(SLT)のアリソン・ウィンジェンズさんに遭遇!会場までご一緒して、お隣の席に座らせていただきました。アリソンさんは、SM治療のバイブルと呼ばれる『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual 2001年)』をマギー・ジョンソンさんと共著した方です。現在は現役から退き、時々大学などで講師をされているとか。

この夏(多分8月頃)、SMIRAから新書『(仮題)場面緘黙克服の取り組み:専門家と保護者のガイドTackling Selective Mutism: A Guide for Professionals and Parents (Alice Sluckin, Benita Rae Smith編)』が出版される予定なんですが、アリソンさんは場面緘黙とASD併存のケースの支援について寄稿。他にもマギーさんなど多数の専門家が寄稿していて、今回はKnetも関与しています。(まだ入稿前の昨年秋くらいに、この本が既にAmazonにエントリーされていて、ちょっとビックリしました)。

さて、10時から午後4時まで、ぎっしり詰まったプログラムは下記の通り。

・ 事務局長リンジーさんの挨拶
・ SLT マギー・ジョンソンさん  『小学校中学年以上と10代の子どもの支援』
・ SMIRA会長 アリス・スルーキンさん 『認知行動療法(CBT)の利用法』(簡単な説明)
・ 保護者 ジェイン・ディロンさん 『ローカンとジェシーキャット』
・ ディスカッション

リンジーさんの挨拶では、ミスイングランドのカースティさんから激励の言葉も。今年は参加者が70名を超え、その中の27人はSLTやTAなどの専門家や学校関係者。秘書役のヴィッキー・ロウさんほか、SMIRA事務局のメンバーを入れると合計で約80名ほどだったでしょうか。

マギー・ジョンソンさんの講演が、年齢が上の子どもの支援だったためか、緘黙のティーンエイジャーが両親と一緒に何人か参加していました。会場に足を運ぶだけでも勇気がいったと思うんですが、親との信頼関係が強いんでしょうね。ランチタイムにその一人と筆談したところ、筆談のスピードも速く、自分の意見をしっかり持ってました--学校がマンモス校だったこと、敏感すぎて騒音に耐えられなかったこと、登校できず今は家で学んでいること…。同年代の友達が欲しいという文を見て、とても切なかったです。

『ジェシーキャット - 少年の心を開いた猫(Jessie Cat: The cat that unlocked a boys heart)』の著書、ジェイン・ディロンさんの講演はかなり短く、ご紹介した新聞記事やTV番組と大体同じような内容でした。あれ以来、それほど大きな変化はなく、毎年担任が代わるごとに少し後退して、3学期には改善するというパターンが続いているとか。まだまだ自由に話せるという訳ではありませんが、仲のいい友達とは継続的に話せているそう。

IMG_4117ローカン君とジェシーキャットの話をするジェインさん

個人的に少しだけお話したのですが、ローカン君の小学校は規模が小さく1学年ひとクラスのみ。27人のクラスメイトとはずっと一緒なので、安心しているということでした。会場にはローカン君本人とお父さん(医師)も来ていて、ジェインさんの隣で本当に大人しく座ってました。写真で見る通りの、細くてきゃしゃな感じの男の子でした。

2時間あったマギーさんの講演は、すごく興味深かったです。支援を始める前に、まず自己評価をあげ、場面緘黙に向き合う必要があると強調。それから、支援者(第三者)を確保し、環境を整え、できたら専門家の支援を得、しっかりした戦略を立てて「話す恐怖」を克服していくというもの。全部の条件を満たすのは無理なので、できるだけ多く組み合わせてということでしたが、日本ではかなりハードルが高そう…。

IMG_4116マギー・ジョンソンさん(写真がブレててスミマセン)

ディスカッションでは、ASDの緘黙児のケースや薬についての質問などが出ました。「緘黙は症状であって、何故その症状が出ているかにスポットをあて、何か根本的な問題があればそれにも取り組まなければいけない。そうでないと、喋れるようになっても、根本にある問題はそのまま残ってしまう」というマギーさんの言葉が印象に残りました。例えば、子どもがコミュニケ-ションに問題を持っているとしたら、喋れるようになっても、自然にコミュニケーションが取れるようになる訳ではないんですね。まずは、喋ることばかりに焦点をおかず、子どもの全体を見ることが大切なんだなと思いました。

関連記事 ローカン君とジェシーキャット(その1)

      ローカン君とジェシーキャット(その2)