緘黙だった教え子のAちゃんが卒業しました

もう2週間が過ぎようとしていますが、7月に教え子のひとり、Aちゃんが卒業していきました。 私が勤務している学校は、高機能ASD(自閉症スペクトラム障害)の子どもを専門とする特別支援学校。Aちゃんは高等部で日本語のGCSE(国家試験)コースを選択したので、3年間の付き合いでした。

 

        最後の授業の日にAちゃんにもらったカード、とても嬉しかったです。右は彼女が作った日本語すごろくのイラストの一部

このAちゃんが場面緘黙(だった?)と知ったのは、なんと教え始めて1年ほど経ってからのこと(詳しくは『教え子が緘黙だった!!』をご参照下さい)。

私の授業では何ら問題がなかったので、彼女が緘黙だということに全く気づかなかったのでした^^;  ただ、いつも声が出るまで少し間があくのが気になっていました。

声を出そうと緊張しているのは解っていたため、5秒くらい待つことにしていました。日本語を選択している生徒は1つのクラスに片手で数えられる程。だから時間をかけられたんですね^^;

Aちゃんの最初のクラスはなぜか寺子屋スタイルで、一時期レベルが違う生徒4人が一緒に授業をしていたことも。が、Aちゃんが黙ってしまったことは一度もありませんでした。

その理由は小人数で安心度が高かったためか、自分の知識に自信があったためか?それとも、負けず嫌いの一面が影響したのか…。

負けず嫌いといえば、日本語3年目の生徒と一緒に会話の練習をした際、Aちゃんの声のほうが大きかったのが印象的でした(習ったばかりの箇所だったので、自信もあったはず)。

GCSEのクラスに変わってからは、もうひとりの生徒に負けじと自主的に応えることも多くなっていったのです。

日本では、よく場面緘黙時に英語を習わせるといい、と言いますよね?外国語の方が母国語より話しやすいと感じる緘黙児は多いようです。考えてみれば、語学学習の初期は、復唱や回答が決まっていることがほとんど。自分で答えを考えて言うよりは随分楽です。

この3年間でAちゃんに変化がありました。質問をふると、応える時に微笑むことが多くなり、応えた後もニコニコしているのです。応える時の間もほとんどなくなり、応えるスピードも上がりました。

(まあ、これは試験用の「会話」の練習をした成果かもしれませんが)

外国語のGCSE(国家試験)で試されるのは、「会話」「読解」「聞き取り」「作文」の能力。「自分」「将来の希望」「地域・旅行」など5つのテーマがあって、自からの意見を表明することが重要になってきます。

だから、彼女の趣味がPCゲームで K&J-ポップのファンであることや、将来の夢など、授業で聞き出して、それをテーマに会話の練習をすることも多かったんです。興味のあることを話すのは、誰でも楽しいですよね?

Aちゃんの唯一の欠点といえば、欠席がものすごく多かったこと(ストレスに弱い?)。試験前後もかなり休んで焦ったのですが、勉強は家で続けていたよう。なんとか無事に試験を終えることができました。

そして、卒業間近になって彼女のTAから連絡がありました。

卒業式の日にAちゃんを送り出す祝辞を述べなければならないのに、言うことが見つからないというのです…。

「クラスでは何も話さないし、褒めるべきことが何もないから、良いところを教えてほしい」と。

えーっ、良いところはいっぱいあるのに!

そして、いまだクラスで話せてなかったということがショックでした…。

2年前、彼女が緘黙であることを偶然耳にした時、1対1なら話すけどグループ活動やクラスでは声が出せていないと聞いて、

「まずは一番仲の良い子とスライディングイン法をしてみれば」と提案し、その後も、時々クラスでの様子を訊ねたりはしていたのですが…。

でも、私には生徒のケアをする役割は与えられていないし、講師の分際で口出しすることも憚られ…。そして、カリキュラムの遂行や細かな授業計画・各生徒の学習状況報告の要求に追われて、いっぱいいっぱいの状況。

もっと何かしてあげられなかったのかと、今とても悔やまれます。

殆どの卒業生たちは9月から学校近くのカレッジに通うんですが、Aちゃんは自宅に近いカレッジに1人で電車通学する予定。

知っている人が誰もいない全く新しい環境で、Aちゃんが希望に満ちた新たなスタートを切れます様に!!

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教え子が緘黙だった!!

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SM H.E.L.P. 2022年10月サミット

今日はイギリスの緘黙支援団体、SMiRA(Selecive Mutism Information & Research Association )の30周年記念日です㊗ どうもおめでとうございます🎊

故会長のアリスさんとコーディネーターのリンジーさんがSMiRAを創設してくれたお陰で、我が家を含めどれだけ多くの家族が助けられたか。

関係者の皆さんの努力に、本当に頭が下がります。長い間ありがとうございます。

秋も深まってきて、日暮れがどんどん早くなってきました

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10月は場面緘黙の啓発月なのでSMiRAでもオンライン講習会などを開催しているのですが、時間が取れないでいました。やっと先週末にSM H.E.L.P.の秋サミットを視聴できたので、紹介させていただきます。

今秋のサミットでは場面緘黙の経験者や保護者らが自らの体験や支援状況、取り組みなどを語ってくれました。絵本や活動本を出版したり、セッションなどを提供している人も多く、現在子どもの緘黙と格闘している保護者にはとても励みになると思います。

講演者: アメリカ在住のヴェロニカ(Veronica DeStefano)さん。3人の子どもの母親で次女のルーシーちゃんが緘黙

ルーシーは他の子とどこか違う――そう気付いたのは、ルーシーが3歳のころ。幼稚園に通い始めて1年の間、「すごく静かで、全然話さない」と言われ続けたとか。最初は「とてもシャイだけど、今に慣れるわ」と答えていましたが、結局最後まで慣れることはなかったのです。

全く応答しないため園ではアセスメントも図工もできず、自宅に送られてくることに。話せないだけでなく、行動の抑制もあり、ルーシーが園で何を学び、何ができるのか全く見当がつかない状態でした。

「本当に不思議だったわ。家では姉弟の中でも一番賑やかで、ものおじせず声も大きいの。頑固なところもあるわね。園に入るのを楽しみにしてたのに、園と家では全く別人のようで…」

4歳検診の際に医師に1年間ずっと園で話さなかったことを告げると、「それは内気なだけじゃない、違う症状です」といわれました。

幸運なことに、そのクリニックで働く同僚の息子が場面緘黙と診断されたばかりだったとか。医師は同僚に意見を聞き、同じ症状だと確認。ヴェロニカさんは場面緘黙に関する情報や専門家・セラピストのリストを入手することができたのです。

すぐに行動を起こし、デンバーの不安障害センターを訪問。そこで正式に診断が下り、翌月には娘と一緒にSMキッズキャンプに参加したそう。

キッズキャンプで出会った専門家の協力を得て、園での支援体制を整えることができ、家でもスモールステップでの取り組みを始めました。

ルーシーは順調に進歩し続け、現在はレストランで注文したり、クラスでの発表もできるように。支援チームができたことで先生とクラスメイトの理解も得られ、友達もできたということ。ただ、7歳になった現在、学年が上がって新しい校舎、新しい支援チームと環境が変わり、家で癇癪を起こすことも。始めて学校に行きたくないと言い始めたとか。

SM H.E.L.P. 主催者のケリーさんとのQ&Aから

<場面緘黙の知名度はまだまだ低い>

「ルーシーはいつも隅っこにいて、誰とも遊ぼうとしない」と教諭にいわれ、不安が募った。医師から「場面緘黙」という症状名を聞くまで、誰も知らなくて…。ネットを検索すると多くの情報やビデオが出てくるのに、何故教諭や医師が知らなかったのか疑問に思った。

<SMと恥ずかしがり屋の違い>

極端にシャイな子でも最終的には人や環境に慣れて、遊びに加わったり、話したりするようになると思う。でも緘黙児は違う。いつまで経っても慣れることができず、不安が強いまま。特に、顔の表情が違うと思う――恐怖のためか無表情でその場にいたくないのが明白に感じ取れた。

<SMキッズキャンプ>

キャンプに参加した時は最年少。1日8時間のセッションで、色々なことにチャレンジさせてくれた。例えば、犬と猫とどちらが好きか他の子達にステッカーで答えてもらったり、1ドルショップで買い物をしたり。チャレンジブックにたくさんのステッカーをもらえて、それが自信に繋がった。今でも時々眺めて「こんなに頑張れたんだね」と話すそう。キャンプでは途中で疲れてスタッフの膝で寝てしまったことも。

保護者のミーティングでは主催者が長時間の質疑応答に応えてくれ、とても有意義だった。また、ここで出会った専門家が園に来て緘黙についての講習を行ったことで、支援体制を整えることができた。

<家庭での取り組み>

短時間の間にキャンプで学んだエクスポージャー法を、帰宅してからさっそく日常生活で実行。それが大きなターニング・ポイントとなった。

例えば、レストランに行ったら「注文を取りに来た時、あの小さい女の子に水がいいか、レモネードがいいか訊いてくれる?」と事前にウエイトレスに耳打ちするなど。常時、何ができそうかを考えて計画を立てる。娘の前で「この子の名前を訊いてくれる?」と訊ねるのは自身も恥ずかしいけれど、母親が勇気を出している姿を見せることも大切という。

<IEPと支援体制の重要性>

園や学校に緘黙の知識をつけてもらえるよう働きかけることは本当に重要。関わるスタッフ全員にルーシーのニーズを知ってもらえ、学校全体で対処できるようになる。特に、IEP(個別教育支援プラン)を作ってもらえたことが大きかったと思う。

<著書:『ルーシー・レモンと勇気のシャボン玉』>

ヴェロニカさんは自らの体験を生かして緘黙支援本『ルーシー・レモンと勇気のシャボン玉』シリーズを3冊出版。1冊目は子どもにも判りやすく緘黙を、2冊目はエクスポージャー法を説明。3冊目はエクスポージャー法にスモールステップで挑戦する実践的な内容。

Lucy Lemon and the Brave Bubbles      

Lucy Lemon’s Brave Bubble Pop!

Lucy Lemon’s Brave Bubble Activity Book

 

 

 

みく感想:

やはり緘黙治療には早期発見・治療が必須だと思い知らされます。診断後すぐにSMキッズキャンプに参加したり、専門家と学校との懸け橋になるなど、ヴェロニカさんの行動力には脱帽です。アメリカでも、イギリスでもそうですが、まだまだ緘黙支援が得にくい地区もあり、保護者も大変。抑制的な傾向のある人も多いと思うのですが、保護者もスモールステップで勇気を出していきたいですね。

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SM H.E.L.P主催者、ケリーさんのスモールステップ(その1)

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イギリスの場面緘黙支援団体、SMiRAからの声明文

もう9月も後半ですね。イギリスでは19日にエリザベス女王の国葬を終えてから、穏やかな秋の日が続いています。

 空には一面のうろこ雲。秋バラが咲く中、バラやボケの実が変わりゆく季節を感じさせます

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先週の水曜日、9月21日にSMiRAのFBでコーディネーターのリンジーさんから声明文が発表されました。

「話したがらない(reluctant speaker*)」「話すことに回避的(reluctant talker*)」という表現に関するSMiRAからの声明

SMiRAでは、このところ場面緘黙と同じ意味あいで「話したがらない」「話すことに回避的」という表現の使用が増えてきたことに気づきました。これらの表現を使うことは、誤解を招いたり、場面緘黙の子・人たちは「話せない」のではなく「話すことを拒否している」という誤った考えを助長したりするため、有益ではありません。

会員の家族の多くは、「Selective Mutism 場面緘黙」という症状名は理想的ではないと考えています。というのも、「選択的  Selective(日本語訳は場面)」という言葉は、まだまだ混乱を招きやすいからです。Selective Mutism/ SMにおける「Selective 選択的」とは、あるものには影響を与え、他のものには影響を与えないことを意味する医学用語です。何かを選ぶときに用いる「選択」を指しているのではありません。これは重要な違いです。

「Selective Mutism  場面緘黙」という名前は、アメリカ医学界の診断統計マニュアル(DSM 5)や国際疾病統計マニュアル(ICD 11)により、国際的に認定され、診断基準が設けられています。SMiRAでは、正式に名前が変更されるまでは、この名前を使用すべきだと考えます。

これまでの研究から、場面緘黙はその複雑さ、症状の現れ方、発生に寄与する要因などの点で差異が広範囲にわたることを示す証拠が増えています。単純にタイプ分けしたり、スペクトラムだと説明できないことが明らかになってきました。従って、診断基準に適合するすべてのケースを場面緘黙(SM)と呼ぶべきです。ただし、SMiRAでは現在のところ、ジョンソン&ウィンジェットが2016年に『場面緘黙リソースマニュアル第2版』『ハンドアウト3』で定義した記述「Low Profile Selective Mutism(認識されにくい場面緘黙)」および「High Profile Selective Mutism(認識されやすい場面緘黙)」を引き続き使用します。場面緘黙は今なお見過ごされたり、誤解されがちな症状です。これらの記述を使うことで、若者が緘黙かどうか見分ける際に、話すことが困難な状況で全く無言である必要はないことを明確にすることに役立つはずです。

SMiRAでは過去30年にわたり、場面緘黙は話すことを拒否しているのではなく、(全く話せない、もしくは自由に)話すことができない不安障害としての認識を高め、風説を払拭し、場面緘黙の特性に関する誤った情報に異議を唱える努力をしてきました。今後も精力的に取り組んでいく所存です。

*speaker・talker(話し手)をより解りやすいと思われる表現にしました

SMIRA statement regarding the use of the terms ‘reluctant speaker’ and ‘reluctant talker’.

SMIRA has an increase in the terms ‘reluctant speaker’ and ‘reluctant talker’ being used as synonyms for Selective Mutism. We find the use of these terms is unhelpful, as they may be misleading, he mistaken belief that people with SM may be refusing to speak, rather than being unable to do so.

Many of our families feel that ‘Selective Mutism’ as a name for the condition is not ideal, as there is still confusion over the word ‘Selective’. In SM, ‘Selective’ is being used as a medical term to mean affecting some things and not others. It does not refer to selecting, as in making a choice. This is an important distinction.

The name ‘Selective Mutism’ has international recognition and diagnostic criteria within the Diagnostic Statistical Manual (DSM 5) and the International Classification of Diseases (ICD 11). SMIRA believes that until such time as the name is changed officially it should be the term used.

There is increasing evidence from research to suggest that SM varies widely in complexity, in how it presents and in the factors that contribute to its occurrence. It has become clear that SM cannot be simply divided into types or described as a spectrum and therefore all cases that fit the diagnostic criteria should be entitled ‘Selective Mutism’ or ‘SM’. However, at present, we will continue to use the descriptors ‘Low Profile Selective Mutism’ and ‘High Profile Selective Mutism’ as defined in the Selective Mutism Resource Manual 2nd Ed., Handout 3, Johnson & Wintgens (2016). SM is currently still an often overlooked and misunderstood condition, so we feel that the use of these terms helps to ensure that it is clear that young people do not have to be completely silent in their challenging spaces to “qualify” as having SM.

Over the past thirty years SMIRA has striven to raise awareness of SM as an anxiety disorder in which the person is unable to speak (either at all or freely) rather than refusing to speak, and to dispel myths and challenge misinformation around the nature of SM whenever possible, and we will continue to do so vigorously into the future.”

最近ではASD(自閉症スペクトラム)などの発達障害と場面緘黙を併発するケースの研究や、脳医学的な研究が進み、これまでの場面緘黙の定義が揺らぎ始めているという印象を受けます。それが上記の声明文からもうかがえますね。

もしかしたら、近い将来に場面緘黙の診断基準や定義が変更されるかもしれませんね。ただ、治療法としてCBTを利用したスモールステップ法が有効なのは同じじゃないかなと感じています。

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10月は場面緘黙の啓発月間です

早いもので今年もすでに3か月を切りましたね。秋も深まってきて、朝夕は暖房を入れるようになりました。イギリスではマスクをしない人が増えてきて、コロナ感染者の数は一向に減らず…。毎日の感染者数は3万~4万人と高いままで、冬に突入したら一体どうなっちゃうんだろうと不安です。

        雨上がりにみかけた二重の虹と玄関のステンドグラスの光

さて、10月は場面緘黙(メンタルヘルス全般)の啓発月間。イギリスのチャリティ支援団体SMiRAでは、オンライン講習会を複数開催中です。

10月2日に行われた第一回目の講習会は、SLT(言語聴覚士)のスザンナ・トンプソンさんによる『場面緘黙の案内(An Introduction to Selective Mutism)』。参加者は保護者、専門家、学校関係者、緘黙経験者など30名ほど。最初に録音された講習ビデオを観て、その後に質疑応答という形式でした。

ビデオを観ている間に質問があればタイプしていき、ビデオが終わった時点でスザンナさんが質問に応答。質問者とのやり取りは少なかったものの、全部の質問にテキパキと答えてくれました。

まだ緘黙歴が短い園児や小学生を対象とした講習会でしたが、その中で興味深かった点をご紹介します。

1) 園や学校での緘黙教育を徹底する

まずは園や学校スタッフ全員に場面緘黙を知ってもらい、子どもに対して誰もが一貫した対応をすることが重要。緘黙児は緊張すると、固まったり、無表情になったり、下を向いたり、視線を避けたりと様々。中には、笑顔に見えたり、ニヤニヤしているように見えたりする子も。緊張と不安に対する反応はそれぞれ違うことを理解し、まず緊張をやわらげることを考える。

緘黙をいち早くキャッチし、すぐに保護者に知らせて支援を始めることが大切。発見が早ければ早いほど、回復も早い。

2) 専門家との関わり

SLTや小児心理士など、専門家が子どもと1対1でセッションを行う必要はない。これは緘黙状態がまだ固定していないため。専門家は主に保護者や学校にアドバイスし、緘黙を理解させ支援の指示をする。まずは子どもを取り囲む環境を変え、「話す」プレッシャーを取り除けば、改善は早い。

専門家がいなくても、周囲の理解と協力があればマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさん共著の『場面緘黙リソーズマニュアル(Selective Mutism Resource Manual)』で充分対応できるとのこと。(学校の別室で保護者やキーワーカーが子どもと週3回、10~15分ほどの『スライディング・イン』法セッションを行うことを奨励)。

3)  子どもに自信をつけさせ、自己評価をあげる

どうせ答えないからと、とばしたりせず常に参加させること。できるだけ時間をあたえ、頷きなどでも応えられたら、言葉がけを忘れずに(褒められるのを嫌がる子も多いので、さりげなく)。

子どもは目立つことや他の子と違うことを嫌がる。保護者と子どもと取り決めをしておき、子どもが一番やりやすい方法(カード、秘密のシグナルなど、性格や年齢によって異なる)でコミュニケーションを取れるようにする。常にスモールステップで進むことが大切。

また、保護者や友達が緘黙児のために代弁するのは良くない(話さなくてもいい状態に慣れてしまうため、緘黙を強化する原因になる)。常に話す/ コミュニケーションを取れる機会を与え続けること。

4)トイレの問題

園や学校でトイレに行けない緘黙児は多い。カードや秘密の合図を使える子どももいるが、全員に有効という訳ではない。まず覚えておきたいのは、緘黙児は自分から行動を起こすのが難しいということ。

一番いいのは、先生がクラス全員にトイレタイムを促したり、二人一組でトイレに行かせたりする方法。みんながやれば不安は下がるし、誰かと一緒だったら行きやすいかもしれない。

それぞれの子どもによって違うので、まず何が不安なのか子どもに確認する必要がある(大人が思ってもみないことを不安に感じている子も)。どうしたら一番楽か子どもと話し合って対策を決めると良い。

スザンナさんは園児から大人まで場面緘黙に苦しむ多くの人たちの治療にあたっていますが、やはり早期発見・介入することが最重要と強調していました。現場に緘黙の知識があれば、専門家が関わらなくても改善は早いのです。学校側の支援体制も問題ですが、保護者も気づいた時点でいち早くアクションを起こすことが大事です。

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CBTってどうやるの?(その4)

イギリスは雨が降ったり止んだりの日々が続き、記録的に寒い5月となりました。その天候不順もようやく終わり、今週末から例年なみの天気に回復するようです。

やっとモノクロームの空とサヨナラできそう

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3)  ステップ毎に克服できそうな目標を定める

スモールステップで重要なのは小さな成功体験を積み重ねていくこと。だから、高すぎるハードルは禁物です。だからこそ、目標を立てる際に当事者である子どもの意見をきくことが大切といえるでしょう。

段階的に少しずつ不安に直面し、その状態に慣れることで不安を克服していくのがエクスポージャー法。ステップ毎に達成できそうな目標を立てることが重要です。

ハードルが高すぎて失敗すると、後退することも多々あるので要注意です。「もうやらない!」と拒絶する子もいるかも…。でも、そういう時でも粘り強く励まし続けて、一歩一歩進むしかないのです。

子どもは新たな挑戦に対して、「そんなの無理」「イヤ」としり込みするかもしれません。そんな時、もうひと押ししても大丈夫かどうか判断できるのは、一番近くで子どもを見ている保護者だと思うのです。できそうだなと思ったら、「ちょっとだけ、やってみる?」と誘って反応を見てみて。

失敗を恐れず、子どもの気持ちに沿ってコツコツ進むしかないですね。

スモールステップに挑戦したら、必ず声をかけて褒めること。褒められることでだんだん自信がついてきます。しばらく続けると、自ら「挑戦したい」という気持ちに。挑戦を続けることで、自分で計画し自主的にスモールステップを実施できるようになっていきます。これは将来とても役立つと思います。

4)  モチベーションや明確な目標を持たせる

小さい子なら、ステッカーチャートやお菓子、玩具などのご褒美が有効。星が5つたまったら、好きなお菓子や欲しいものを与えることで、モチベーションが上がります。

息子が小2(6歳)の頃、Dr WhoがTV放送されて全国で大流行し、学校中の男子がDr Whoカードやグッズを集めていた時期がありました。息子はカード欲しさに、自分から「ありがとうを言うから買っていい?」と、何度も文具店に足を運んだものです。

年齢が上の子の場合は、ご褒美というよりも自分がやりたいことや将来の希望など、現実に沿ったスモールステップ計画を本人が主体となって立てるのが望ましいよう。でも、本人に「変わりたい」という気持ちがなければ、計画を立てることは難しいかもしれません。(年が上の子の支援については『マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』』をご参照ください)。

何年も緘黙が続くと、本人も周囲も「話さない子」に慣れてしまい、行動を起こすのに多大な勇気とエネルギーが必要になってきます。周囲の雰囲気が良くサポートもあって、本人があまり困っていない場合は特に。不安が低減し居心地が悪くない状態で安定しているため、新たな変化の方がより恐ろしいのです。

こうした場合は無理強いせず、いつでもサポートできることを知らせてください。
進学や就職が近づいてきて、本人が「変わりたい」という気持ちになるまで、趣味など学校外でのスモールステップがお勧めです。ひとりで買い物する、電車に乗る、家事を手伝うなど、自立に向けた準備もできるはず。

下の図は、人が恐怖に対面した際の恐怖の度合を時間の経過ともに現したものです。赤い矢印は本人が予期する恐怖感。緑の線は1回目のトライ、紫は2回目、オレンジは3回目、ブルーは4回目と、同じ恐怖に4回繰り返して直面しています。

どの回でも恐怖感は2分でピークに達し、その後時間が経つにつれて下降。10分で半減、もしくはそれ以下に。1回目のトライでは最大90%の恐怖を感じますが、2回目は60%に軽減。4回目のトライでは最大で30%と恐怖感は1回目の1/3に。

何度も繰り返すことで恐怖の対象に慣れ、それほど恐怖を感じなくなるのです。頭の中で想像がどんどん膨らんで、不安がマックスに達してしまうのが緘黙児。実際に恐怖と対面して最初の2分間を我慢すれば、不安が徐々に軽減していくことを自ら体験することが本当に大切。

「なーんだ。それほど怖くなかった」と思えたら、次もやってみようという気になるはず。

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CBTってどうやるの?(その3)

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10代で発症する場面緘黙

6月も下旬に入った今週、ロンドンは32度の猛暑日を記録中。まだロックダウン中なのにも関わらず、大勢の人々が海辺に押し寄せて、社会的距離など頭の片隅にもない様子…第二波が来ませんように!

   我が家の小さな中庭に植えた紫陽花、アナベルは今年も増殖中。夜9時過ぎまで明るいので、夕食のあと庭に出て涼んでいます

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最も場面緘黙を発症しやすい年齢は2~4歳と、イギリスでは入園や就学を経験する時期と重なります。マギーさんは、これに加えて小学校からセカンダリースクールへの移行期(11~12歳頃)に緘黙になる子がいると指摘。日本だと小学校から中学校への移行期ですね。

この年齢は多感な思春期と重なり、身体的・精神的に最も影響を受けやすい年ごろです。

イギリスの小学校はおおむね小規模で1学年1~2クラスしかないところもざら。学校職員は全校生徒だけでなく、保護者の顔と名前まで覚えていて、とてもアットホームな雰囲気。そんな家庭的な環境の小学校から、大規模なセカンダリー(12~16歳・5学年)への移行は、どの子にとっても大きな変化の時期です。

特に、Comprehensiveと呼ばれる公立校に進学する場合、全校生徒数が1000人前後に膨れ上がることも。日本の中学の様にベースになる自分の教室はなく、教科ごとに教室を移動するシステム。校舎も複数棟あり、どちらかというと大学に近い感じです。また、複数の小学校から生徒が集まるため、交友関係もより複雑に。

マギーさんとアリソン・ウインジェンズさんが共著した『場面緘黙リソースマニュアル』第二版では、場面緘黙のカテゴリーをひとつに統一(詳しくは『緘黙のカテゴリーはひとつだけ』をご参照ください)。その中で、新たに追加されたのが、認識されやすい場面緘黙 (High-profile selective mutism)と 認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism)です。

(「目立つ緘黙」と「目立たない緘黙」ともいえそうですが、日本語訳がまだ決まっていないので、直訳で高プロフィールと低プロフィールとした方がいいのかも…)

認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism)は、出席の返事や短い答え、音読などができ、学校でもなんとか声が出せる状態。促されると少しだけ話すため、周囲は場面緘黙だとは思いません。

マギーさんの説明によると、このタイプは性格的な要素が強く、同調的で人の期待に応えようとする傾向が強いとのこと。頑張って質問に応えようと、何とか単語や短い言葉を絞り出すのです。

実のところ、話さない結果への不安が話す恐怖に勝るために声が出るのですが、このバランスは微妙で、答えに自信がある時しか作用しません。

よく観察すると、声が小さい、視線を合わせようとしない、無表情、身体が硬直しているなど、極度に緊張しているのがわかります。特徴的なのは、いつまでたっても緊張が持続し、自発的に発言したり、話しかけたり、長い文章で答えたりと、普通に話せるようにならないこと。

小学生時代はこの状態で何とか切り抜けることができても、セカンダリーに入ると対応しきれなくなり、認識されやすい場面緘黙 (High-profile selective mutism)へと移行する危険があります。

たまたま環境が良く、本人の努力で症状が改善していくこともあるかもしれません。でも、声が出ているから大丈夫だろうと、支援せずに放っておくことは大変危険です。

トイレなど必然の要求を発したり、指示に従って短いメッセージが言えても、親しい友達や家族を除いては、相互的な会話をすることができません。「~(して)ください」や「ありがとう」など、何でもない依頼や挨拶も困難です。

声が出せるから緘黙症状は軽いとみなされがちですが、大きなストレスを抱えて身体的な症状が出たり、不登校になってしまう子も。話さないことに慣れて緊張が少ない緘黙児と比べ、決して軽症だとは言えません。

助けや許可を求めたり、いじめや病気を報告したり、自ら説明することができないため、同級生や教師の理解を得られにくいのです。そのため、虐めの対象になったり、無視されたりと、危険にさらされる可能性が高くなります。

子どもの人格形成に非常に大切な自己評価が下がってしまう傾向も…。また、心のバランスを崩して、二次的な不安障害を発症してしまう可能性も出てきます。

認識されやすい場面緘黙 (High-profile selective mutism)の子が、まだ緊張は続くものの、スモールステップで何とか声がでるようになった状態も、認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism)といえます。場面緘黙を完全に克服できた訳でなく、環境によっては逆戻りしてしまうケースも。

人・場所・活動に関わらず、子どもが自信をもって自由に受け答えできるようになるまで支援を止めないことが大切です。

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緘黙と恐怖症

どうして場面緘黙になるの?

緘黙児とロックダウン

ロックダウン8週間目にして、先週から第一段階の解除が始まったイギリス。気持ちのいい初夏の天候に誘われて、人々は風光明媚な海辺の町にどっと押しかけているよう。今週末は三連休なので、第二の感染の波が来ないか心配です…。

さて、先週から大きな問題となっている学校の再開。やはり6月1日からスタート予定で、各学校は準備に追われています。

政府の方針では、まず小学校(5~11歳)から再開するとしています。全学年ではなく、最も若いレセプションクラス(5歳)と1年生(6歳)、そして来年全国試験を受ける予定の6年生(11歳)を優先。

一度に教室に入れる人数を最大15人までに抑え、4~5人の小グループに分けて他のグループと交わらない様にする、下校の時間を早めるなど、様々な対策を考えているよう。

また、セカンダリースクール(12~16歳)は10年生を、6thフォームやカレッジ(17~18歳)は12年生を(両学年とも来年全国共通試験を受ける予定)、夏休み前に学校に戻す計画を立てています。

私が日本語を教えている特別支援学校でも、子ども達や担当の教師・TAのグループ分けや、様々な規則が決まりました。給食は当分ストップするため、保護者は毎朝お弁当を作らなければなりません。学校にはキッチンがあるのですが、こちらも使用禁止。

ただ、登校は強制ではなく、保護者の希望で安全性が証明されるまでは当面登校しない、または9月まで登校しないという子ども達も。

ヨーロッパの他の国々と比べると、イギリスでは毎日の感染者数も死者数も充分には減っていません。教師も生徒も全くマスクなしで授業を再開と言うのは、やはり心配…。

さて、ロックダウンの期間中、緘黙児の保護者達が集うSMiRAのFBページは、「ロックダウンのお陰で、子どもが元気になった!」という報告が相次ぎました。

学校に行く不安がなくなり、家で大好きな家族と一日一緒に過ごせるという安心感からでしょう。社会的なプレッシャーから解放され、のびのびと過ごせた子が多かったよう。

それと同時に、それまで学校で積み上げたスモールステップの成果が水の泡になりそう、と心配する保護者の声も…。

SMiRAでは、ロックダウン中に家庭の快適ゾーンに引きこもってしまわない様、自分の子どもにあった小さな不安を克服するスモールステップを計画・実行するようアドバイス。ロックダウン中はオンライン授業やオンライン受診に切り替わったため、SLTのマギー・ジョンソンさんからは、これを利用して発話に繋げるようにとの提案も。

その成果か、緘黙児が先生や心理士、セラピストに対して初めて声を出せたという報告もチラホラ。直接顔を合わせるよりも、PCやタブレットの画面越しの方が不安が少ないんでしょうね。

また、ティーンの緘黙児には、自立に向けて徐々に苦手なことや家事に挑戦させるという提案もありました。

緘黙児は新しい環境に慣れるのに時間がかかります。なので、長い休みの間にそれまでの進歩が逆戻りしてしまうことも珍しくありません。でも、もし後退してしまったとしても、そこまで達した経験があれば、またきっと戻れるはず。だからスモールステップでの前進体験は絶対無駄ではないと思うのです。

私の日本語の生徒たちは、オンライン授業では大体自分のカメラをオフにしています(写真嫌いと、多分パジャマ姿を見られたくない?)。この方法だと、緘黙児は自分の顔を見られることなくやり取りできるので、すごく気が楽なのではないでしょうか?

もし電話でなら話せる友達や親戚がいる場合は、下記のようなスモールステップができそうです。

  1. 端末やタブレット、携帯でまず音声だけで話をする(途中から、相手のカメラをオンにしてもらい顔が見えるようにする)
  2. 慣れてきたら、相手の画像を見て話す(自分のカメラはオフ、不安が強い場合は最初はマイクもオフにして声を出す練習をする)
  3. 慣れてきたら、自分のカメラもオンにする
  4. 同じ建物内で1~3を繰り返し徐々に距離を縮め、最終的には同じ部屋へ
  5. 最初は背中合わせにタブレットを通じて会話、最終的には実際に顔を見て話す

電話でも話せない場合は、まず文字のメッセージ交換から始めてもいいですよね。

6月から登校を予定しているイギリスの緘黙児たちは、今大きな不安をつのらせています。でも、4~5人の小グループ活動が多くなりそうなので、発話のチャンスかも。親しい友達と同じグループにするなど、学校側が配慮してくれるといいですよね。

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ロックダウン解除へ第一歩

ひとりっ子や第一子の緘黙

ここ2週間ほどで、あっという間に世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大しつつあります。ヨーロッパではイタリア北部で感染者数が急増。国境周辺の国々だけでなく、ヨーロッパ各国でイタリアから帰国した人たちの感染が確認されています。

WHO(世界保健機関)がパンデミックへの備えを訴えるなか、今週は世界の株式市場が大暴落…。私たちの暮らしはこれからどうなってしまうのか、世界中に不安が広がっています。政府からイベント自粛や小中校一斉休校の要請が出た日本では、もっともっと深刻で危機感が大きいことでしょう…。

本当に、早く収束してくれることを願ってやみません。どこの国の科学者でもいい、早く特効薬を開発して欲しいです。

 

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緘黙児にはひとりっ子や第一子が多いと言われています。最近になって『Tackling Selective Mutism(日本では2017年に翻訳本『場面緘黙支援の最前線』として出版)』を読み返していたら、第3章にそのエビデンスがありました。

この章は現在イギリスの緘黙支援団体、SMiRAの副会長を務めるヴィクトリア・ロウさんが執筆。彼女が2011年に発表した修士研究論文『Silent Voices』を元に書かれています。この研究は10~18歳の緘黙児30人を対象に、詳細な質問表に解答をしてもらう形で行われたもの。

「第一子、ひとりっ子の発症率は56%」で、「先行研究結果との合致が確認された」とあります。

うちの息子もひとりっ子、かつ早生まれです(イギリスでは学校の新年度が9月から始まるため、6~8月生まれの子どもが早生まれ)。3歳半での公立幼稚園の入園時、4歳半での就学時は、クラスで一番おチビちゃんのひとりでした。

息子が生まれた時に「8月生まれの男の子?ちょっと可哀そう」と複数の人から言われ、当初は「???」。でも、入園・入学の時期になってやっとその意味が解ったのでした。

クラスの中でも身体が小さくて、もっと際立つのはその幼さ。9月生まれの子と比べると、精神面でも、運動面でも、言語面でも、発達の違いが明確だったように思います(4歳10か月で発達テストを受けた際は年齢相応という診断。詳しくは『息子の緘黙・幼児期4~5歳(その20)』をご参照ください)。

実際、小学校では「早生まれの子も小2(7歳になる年)の終わり頃までには追い付く」と説明を受けました。これは日本だとちょうど小1に当る年。イギリスでは修学年齢がちょっと早すぎるような気がしますね…。

多くの同級生達と比べ、早生まれで身体も精神も未発達、しかも抑制的な気質を持つ子どもが、園や小学校で集団生活を送る――これが大きな不安を感じる要因になると推測できます。

また、ひとりっ子や第一子は「初めての子」として親の愛情をたっぷり受けて育ったマイペース型の子が多いような…。特に、ひとりっ子だと兄弟姉妹と人間関係で揉まれる体験を積んでいないので、同級生との人間関係に慣れておらず、それも不安になる要因となりそう。

だからといって、ひとりっ子で早生まれ、引込み思案の子が全員緘黙になる訳ではありません。どんな学校・先生・クラスに巡り合うか、運も大きいと思うんですよね…。

(ひとりっ子だからと、入園前から友達と頻繁に遊ばせたり、複数のプレイグループに通ったり、モンテッソーリの託児所に預けたりと努力はしたつもりでしたが、抑制的な気質はなかなか変わるものではなく…)

でも、緘黙になったお陰で息子のことをもっと深く理解できるようになったように思います。困ったら相談してくれるようになったことは、大きなプラスかな。

ところで、イギリスの幼稚園や小学校(幼児部)では、誕生日を迎える子どもの親が学校にケーキやお菓子を持参して、クラスで振舞うことがしばしば。担任が「今日は〇〇君の誕生日だから、お母さんがケーキとお菓子をくださったのよ」という感じで、バースデーソングを歌った後にみんなで分けて食べるのです。

夏休みの真最中、8月中旬生まれの息子は、残念ながら一度も学校で誕生日を祝ってもらったことはありません。友達家族がホリデーに出かけて不在の時期なので、夏休みが始まってすぐ前倒しで誕生会をしていたのが懐かしいです。

Cちゃんのこと

この春、緘黙のティーン、Cちゃんと接する機会が何度かありました。カレッジに通うアニメ好きの18歳の女の子です。

父親か母親が傍にいれば、第三者の前でも言葉が出るし、こちらの質問には筆談でスラスラ答えられる――でも、直接話せる人は両親と異父兄弟ふたり、友達ひとりしかいません。

両親はCちゃんが小学校低学年の頃に離婚し、その後ふたりとも再婚しています。Cちゃんは母親に引き取られましたが、週末や休みには父親の家に泊まりに行ったりと、頻繁に会っているそう。

義父とは10年以上も一緒に暮らしている訳ですが、直接話したことは一度もないとか。また、慕っている義母とは、知り合って3年以上になるのにやはり直接は話せません(実の親とは目の前で話しているだけに、自分には話してくれない義娘への感情は複雑ですよね…)。

Cちゃんが緘黙になったのは、小学校に入学した5歳のとき。父親によると、学校では手厚い支援を受けてきていて、クラスに自分が話しているビデオを観てもらい、少し言葉が出かけた次期もあったそう。

でも、セカンダリースクール進学(12歳)やカレッジ進学(16歳)など、学校やクラスが変わる度に元に戻ってしまうことを繰り返したとか。

カレッジでも席順を考慮してもらったり、TAをつけてもらったりと、話せないけれど安心できる学校生活を送れていたよう。イギリスでは夏休み明けの9月から新学年が始まるのですが、来期からは新たなコースで勉強し始めるということでした。

一度Cちゃんと待ち合わせて家に来てもらったことがありました。最初は緊張していましたが、好きなアニメのゲームをしているうちに笑い声が出ました。Cちゃんと筆談で色々話をしてみて、その時に感じたことを書きとめておきます。

1) 年齢にそぐわない幼さと食の細さ

Cちゃんは平均的な18歳の女の子と比べると、体格が小さく年齢よりも随分幼く見えました。この年齢だと、お化粧やネイルをしてる子が多いんですが、化粧っ気は全くなし。服装も地味なジャージ姿で、友達とお洒落やファッションの会話をするのは難しそうだなと感じてしまいました…。

彼女の希望でチキンナゲットとポテトをテイクアウトしたのですが、もともと量が少ないのに2/3ほどしか食べませんでした。スムージーを勧めたところ、バナナと苺はOKだったものの、ブルーベリーとラズベリーはNG。これも半分以上残し、お水も殆ど飲みませんでした。

きいてみたら、普段から水分はあまりとらないと…。トイレに行くのを避けるため、水分を摂らないようにしてきた結果ではないか?と思い当りました。嫌なことがあると腹痛になるということで、とても繊細な子だなと感じました。

2) 家庭でのサポートは?

小学校低学年の時に両親が離婚して、一緒に住んでいた母親が割とすぐに再婚し、弟が二人生まれました。幼い弟たちの世話に追われ、母親は手いっぱいだったようです。事情はよく判りませんが、家庭での緘黙支援はあまりなかったよう。

父親によると、感覚過敏のためか好き嫌いが激しく、食べられるものが極端に偏っているとか。彼女が頑固だったせいもあるのか、極力好きなものしか食べないという生活をしてきたようです。

 

学校では早くから緘黙を察知して支援体制を整えてくれたそうですが、もしかしたら「話さなくてもいい状況」に慣れてしまった恐れがあります。また、家庭との連携や家庭での支援不足が緘黙を固定させる要因のひとつになったのかも。また、多感な時期に両親が離婚して新しい家族ができたことで、家でのびのびしたり、自己主張したり、思い切り甘えたりすることができなかった可能性もあるのかなと…。

話せる友達が同じカレッジにいるそうですが、違うコースで学んでいるため、一緒にいられる時間があまりない、と淋しそうでした。友達はどんどん新しい友人関係を築いていて、置いて行かれる気がするとも…。父親によると、一緒に遊びに行ったりできる友達がいないということで、将来をとても心配していました。

でも、オンラインでやり取りしている外国人の友達がいるとのこと。オンラインでもSNSでもいいので、誰かと繋がれるといいですよね。好きなアニメが今後の突破口になるかもと思い、何かイベントに参加してみたらと勧めてみました。その後どうなったのか、気になっています。長い夏休み、楽しめてるといいんですが…。

SMiRAのFBページでも、友達付き合いがなく外出できないでいるティーンが大勢いるようです。年齢があがってくると、家族と外出することを嫌がる子もいますよね。そんな子たちが出遭える機会があればいいのにな、と心から思います。

緘黙のカテゴリーはひとつだけ

イギリスで緘黙治療といえば、言語療法士のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが共著した『場面緘黙リソースマニュアル(The Selective Mutism Resource Manual)』なくしては語れません。

2001年に出版されて以来、その実用性が高く評価され、緘黙治療のバイブルと呼ばれてきました(詳しくは『場面緘黙とは?(その3)』をご参照ください)。実際の取り組みで得た知見やエビデンスをベースに、子どもの不安を軽減する多様な手法を体系化して掲載。2016年10月に出版された第二版では、ティーンや成人にまで範囲を広げ、多くの資料を追加しています。

実は、この第二版から場面緘黙のカテゴリーが変わりました。そのことを書かなくちゃというのは頭の隅にあったのですが、既に二年以上が過ぎてしまったという…(^^;)

2001年の初版では、「場面緘黙の要素を持つ引っ込み思案」から「年齢があがってから発症する場面緘黙」まで5つのカテゴリーがありました。それが、2016年の第二版からはひとつに統一されたのです。

SAD(社会不安障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)、言語関連の障害などを併発するケースも、年齢があがってから発症するケースも、全て同じ場面緘黙と捉える考え方です(注:トラウマが原因の緘黙(Traumatic Mutism)は除外)。早期発見・介入が治療の鍵になることは、以前と変わりません。

興味深いのは、カテゴリーはひとつに統一されたものの、認識されやすい場面緘黙(High-profile selective mutism*)と 認識されにくい場面緘黙(Low-profile selective mutism*)が新たに追加されたこと。(*High-profileとLow-profileの翻訳に関して、ぴったりくる訳が見つからないので、「ハイプロフィール」「ロープロフィール」とカタカナ表記の方がいいかもしれません)。

SMiRAのウエブサイトからダウンロードできる資料『ハンドアウト3 大人しい子?それとも緘黙?(Handout 3  “Quiet Child or Selective Mutism?”)』からその部分を抜粋しますね。

http://www.selectivemutism.org.uk/info-quiet-child-or-selective-mutism/

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<大人しい子どもは、どの時点で場面緘黙と判断されるか?>

緘黙児はひとりひとり違いますが、以下の共通点がある

★特定の人とは自由に話せるのに、それ以外の人とは話せない(よく2重人格といわれる)

★話せる状況と話せない状況の明確なパターンがある

★発話が期待されるイベントへの参加に回避的、または消極的

★自由に話すことの困難さが理解されないと、大きな苦痛を感じる

<認識されやすい緘黙児と認識されにくい緘黙児>

認識されやすい場面緘黙(High-profile selective mutism)

これらの子どもや若者たちは、特定の人々とは全く話しません。会話パターンのコントラストが明確なため、簡単に場面緘黙と認識できます。例えば、教育の現場では子どもとは話すのに、大人とは話さない。校庭では友達と自由に話すのに、他の人に聞こえる室では話さない、といった具合に。また、良く会う親戚とは話すのに、あまり会わない親戚とは話さないなど。通常は、他人に聞こえないところだと、すぐさま両親と話します。

いったん緘黙だと認識されれば、この子たちの沈黙は不安のためコミュニケーションが難しいからだと理解されます。

認識されにくい場面緘黙Low-profile selective mutism

これらの子どもや若者たちは、促されると少しは話すので、大人は「恥ずかしがり屋」「大人しい」または「反抗的」と捉えがち。認識されやすい緘黙児と同様に、話すことが強い不安を引き起こすのに、それを理解されにくいのです。彼らは期待に応えようとする思いが強く、なんとか言葉を絞り出します。実のところ、話さない結果への不安が、話す恐怖に勝るために声が出るのですが、このバランスは微妙で、話題に自信がある時しか作用しません。学校では出席の返事をしたり、要求に応じて音読したり、シンプルな問いに答えたりすることがあるかもしれません。しかし、普段より声は小さく、アイコンタクトも減ります。トイレなど必然の要求を発したり、指示に従って短いメッセージを伝えたりすることもあるかもしれません。しかし、親しい友達や家族を除いては、相互的な会話をすることはなく、自分からは話しかけません。「(して)ください」や「ありがとう」といった、何でもない依頼や挨拶が非常に難しいのです。いじめや病気を報告したり、助けや許可を求めたり、自ら説明したりできないことを解ってもらえるまで、彼らは危険にさらされます。困難に気付かれず、自分を守る発言ができないため、支援どころか懲戒されてしまうかもしれません。

もっと大きな声で話しなさい、もっと貢献しなさいと繰り返し奨励することは、更に子どもを苦しめるだけです。彼らの困難を誤って把握し続けると、ますます話さなくなり、不登校が多くなり、どんどん自信を失っていく可能性があります。

認識されやすい場面緘黙の子どもが適切なサポートを受けると、最初は質問には答えるけれど自分から会話を始めることはない――認識されにくい場面緘黙の子どもの症状と似た感じになります。

場面緘黙の子どもや若者を支援する際、認知しやすい緘黙も認知しにくい緘黙も、不安のないコミュニケーションと活動参加を可能にするために、同じ支援が必要です。まずは、 話すことに対する全てのプレッシャーを取り除いてください。その後、各自のペースで段階的に話すことへの恐怖と向き合わせます。 重要なのは、場面緘黙が本人の性格ではないことを説明し、自覚させることです。 場面緘黙は、彼らが幼少の頃に経験した「恐れ(例えば、暗闇や花火のように)」のように、乗り越えることができるものだと。

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