2018年SMiRAコンファレンス(その2)

日本語の生徒さんと初めてのGCSE試験に取り組んでいる間に、すでに10日が過ぎてしまいました。イギリスは晴天が続き、今日は飛び切りの青空の下で、ハリー王子とメガンさんの結婚式が無事終了。式の時間帯に食料を買いに出たら、お店はガラガラで人通りもまばらでした(笑)。

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「恐怖の顔を変える Changing the Face of Fear」

2018年SMiRAコンファレンスの1番バッターは、SLT(言語療法士)でSMのための臨床ネットワーク団体事務局長のアナ・ビアバディ・スミスさん。

まず、「花という言葉から何をイメージしますか?」という質問からスタート。

「真っ赤なチューリップ」

「野に咲く白いデイジーの群」

など、会場からは様々な花のイメージが出ました。日本人だったら、季節がら桜の花を連想したかもしれません。

と、導入は楽しかったのですが、そこから脳科学の領域に突入。「ニューロプラスティシティ Neuroplasticity 神経の可塑性(かそせい)」という難しい言葉が飛び出し、頑張ってメモを取ったものの、進行が速すぎて後から見たらチンプンカンプン…。文章のつながりがおかしな部分もあると思いますが、どうぞご容赦ください。

簡単にいうと、以下の脳の働きに着目して「話すこと」への不安・恐怖のイメージを変えることができるというお話でした。

  • 同じ言葉でも人それぞれ持っているイメージが違う。
  • 人が言葉を発する(連想する)までには、イメージやそれにまつわる感情、そこにたどり着くまでの思考がある。
  • 人の行動や決定は意識的にコントロールされるだけでなく、無意識的な機能(潜在意識)による部分もかなり大きい(それまで蓄積された膨大な認識や体験が行動や決定の基盤となっている)。
  • 人にはそれぞれ「世界(外界?)」に対する自分のモデル(世界観?)があり、その「世界」の範囲内でものごとを理解しようとする。
  • 脳は適応可能な状態を維持し続ける → 人は誰でも脳を改善していく能力を備えている → 自助的な神経可塑性が備わっている。

周囲が子どもを「恥ずかしがり屋」「内気」とみなし、そう呼んでいると、子どもは自分がそうだと思い込んでしまう。大人のボディランゲージを読み取り、負のイメージを受け取ってしまう。その結果、塗り重ねた「自分は恥ずかしがり屋」という観念から抜け出すのが難しくなる。

また、不安が強い人・子どもは癖や習慣を持ちやすい傾向にある。

同じ思考や行動を何度か繰り返しているうちに、新しいシナプス(脳の神経細胞を繋ぐ回路)ができあがる。回を重ねることで回路が強化され、その思考や行動が癖になったり、習慣化してしまう。時に、習慣化した癖・行動はやめようと思っても、やめられないほど強くなることもある。

(みく注:場面緘黙の場合を当てはめてみると、最初は反射的に声を出せないことが多いのではないかと思います。次に同じような場面に遭遇した時、黙っていることで少し安心できた(無意識かもしれませんが)と感じる――「黙る」という不安・恐怖への対処法を繰り返していくうちに、それが強化され習慣化してしまう。自分も周囲もそれが「当たり前」になると、周りの反応が気になって声を出すことがますます難しくなります)。

しかし、これらのシナプスは固定化された回線ではないので、癖・習慣を変えていくことは可能。急に変えることは無理なので、スモールステップで少しずつ改善させる。それには、まず周囲が子どもへの見方を変え、態度を変えることが重要。

(みく注:まず、子どもが安心できる環境づくりをすることによって、周囲だけでなく、子ども自身の意識や考え方を変える → 子どもの心の準備ができたら、スモールステップに取り組む)

<スモールステップの注意点>

子どもが不安・恐怖を感じない「安全地帯」から少しだけ出て不安と向き合い、実現可能な目標を作ること。

その時に、子どもの学習タイプが役立つ。

  • 視覚優位型
  • 聴覚優位型
  • 体感優位型

学習タイプにリンクさせると、不安・恐怖のイメージを変えやすい。

まず、不安・恐怖がどんな風に見える/聞こえる/感じるかを探り、子どもの持つイメージ/音/フィーリングなどを変えていく。

不安・恐怖に名前をつけ、「脳の中の小部屋に怖がりのチャーリーが隠れてるのよ」と子どもに説明する。不安や恐怖は子ども自身ではなく、別の存在だと認識させる。その存在のイメージ/音/フィーリングなどを変えていく。

(みく注:緘黙の子どもは、「話すこと」以外にも、「トイレに行けない」「給食が食べられない」「体がうまく動かない」「人の目が気になる」など、他の不安・恐怖も抱えていることが多いです。これらに名前をつけて、絵を描いて可視化することも有効だと思います。

家庭でできることは、「できない部分」ではなく「できる部分を」に着目して、それを言葉にして伝える。例えば、「大人しい」の代わりに、「繊細でよく気が付く」など。人と比べず、その子の良さを見つけ、いいところを伸ばしていくこと。難しいですが、子どもがのびのびできる家庭環境を作れればベストですよね)

ちょっと尻切れトンボになってしまいましたが、主旨はこんな感じでした。脳の可塑性は生涯続くため、何歳になっても自分を変えることが可能とのこと。年齢を重ねると、より時間がかかるということですが、なんだか嬉しく思えました。私たちも、まだ変わることができるんですね。

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2018年SMiRAコンファレンス(その1)

2018年SMiRAコンファレンス(その1)

先月21日、イギリスのレスターで2018年SMiRAコンファレンスが開催されました。例年だと3月に行われるのですが、今年は大雪で延期になり4月に。全国から保護者、学校関係者、専門家など90名ほどが集まり、4つの講演と意見交換会で盛り上がりました。講演の内容は下記の通りです。

  • 「恐怖の顔を変える Changing the Face of Fear」 アナ・ビアバティ゠スミス SLT(言語療法士)&場面緘黙のための臨床ネットワーク事務局長
  • 「SMiRAによる、『場面緘黙の支援の求め先一覧』の紹介 Introducing SMiRA’s “How to Get Help for SM” chart 」スザンナ・トンプソン SLT
  • 「保護者そして教員の視点から見た場面緘黙 SM from a parent and teacher’s perspective」クレア・ニール 保護者&SMiRAコミッティメンバー
  • 「場面緘黙トーキングサークル―場面緘黙経験者による成人のためのサポート SM Talking Circles- Peer support for adults with lived experience of SM」 ジェーン・サラザー 元緘黙当事者

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昨年と変わったことは、会長のアリス・スルーキンさんがご高齢のため正式に退任され、シャーリー・ランドック゠ホワイトさんが会長に就任されたことでした。

前会長のアリスさんは、シニア精神医学ソーシャルワーカーとして働いていた1960年代後半に「話さない子どもたち」に遭遇し、いち早く場面緘黙を研究・支援してきたパイオニア的存在。事務局長であるリンジーさんの娘さんを治療した縁から、1992年に二人でSMiRA(Selective Mutism Information Research Association)を創設。緘黙児支援に尽力されてきました。(実は、2005年に電話でうちの息子を「緘黙」と診断していただき、個人的にも大変お世話になりました)。

今回会長になられたシャーリーさんは、長らくSMiRA役員会のメンバーとして活躍されてきた女性です。元農学研究科学者で現在はセカンダリースクールの教師。20代の緘黙の娘さんがいるため(最近になって良い支援者に巡り合い、現在自立するための準備中だとか)、保護者、教師の立場も理解し、総合的な視点でSMiRAを引っ張って行ってくれそうです。

<シャーリーさんの挨拶より>

場面緘黙を患う子どもは、140人にひとり。イギリス全国だと7万9000で、成人も入れるとかなりの数になります。何と、世界中に約1370万人のSM児がいる計算になるそう。(ただ、私は地域コミュニティの絆が強い国は、発症率が少ないんじゃないかと推測していますが…)。

近年、イギリスでは財政赤字のため、国民医療(NHS)に費やされる国家予算がどんどんカットされています。学校における特別支援教育に対する援助も厳しい状況になってきているのが現状。

そのため、学校や公共機関からの支援を待つのではなく、保護者が学校での介入・対策に積極的に働きかけ、関わることを強調していました。

その際、武器となるのが2016年に改定された『場面緘黙リソースマニュアル(The Selective Mutism Resource Manual)』です。

約500ページに及ぶこの実用書は、緘黙治療の第一人者といわれるSLTのマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさんが最新の知見と治療体験をもとに共著。2001年に初版が出版されて以来、イギリスでは緘黙治療のバイブルと呼ばれ、専門家や学校関係者に高い評価を受けてきました。

改訂版では、最新の情報に加え幅広い克服方法がステップ・バイ・ステップで説明されていて、実践に役立つ情報が満載。マニュアルを購入すると、ウエブ上で膨大な資料にアクセスできる仕組み。(イギリスの学校・教育システムに合わせた実用書なので、日本の学校で活用できるかは不明ですが)

まず保護者がマニュアルを勉強して、介入・支援をリードしていく――難しいことですが、専門家による治療に頼らなくても、理論さえ正確に理解できていれば、自分の子どもの特質を一番よく知っている保護者と現場スタッフで、緘黙支援に取り組めるということ。もちろん、マギーさん著によるSMiRA資料やFBでの意見交換なども頼りにできる場です。「臆せずに、自分の子どものために行動を起こして」と、保護者の後押しをしてくれる挨拶でした。

★お断り:コンファレンスでは講演資料は配布されず、私が取ったメモを頼りに書き起こしています。間違った箇所があるかもしれませんので、どうぞご了承ください。

イギリスの緘黙啓発月間

あっという間に9月が終わり、すでに10月も末。ひとつの仕事が大体片付いたところで学校のハーフターム(1週間の中間休み)が始まり、やっとまったりできました。

たまっていた掃除と洗濯をした後は、PC中毒気味。それから、久しぶりに本を読んだり、しばらく会えなかった友達とお茶したり。今年の秋は怒涛のように過ぎてしまったな~と思いつつも、ぼーっと過ごす毎日…。

さて、イギリスでは毎年10月が場面緘黙の啓発月間。大変遅ればせながら、SMiRAの掲示板で拾ってきた情報をお伝えします。

SMiRAの今年の啓発イメージはこれ↓

娘が1対1で先生と話し始めた時、

彼らは「これで緘黙が治った」と思ったの。

気づかなかったのね。

これはまだ始まりにすぎないって、

克服への道のりは、まだまだ遠いということを。

掲示板の投稿で興味深かったのは、世界有数のこども病院でロンドンにあるグレート・オーモンド・ストリート・ホスピタルが、今月6日に発表した研究論文。場面緘黙児に対するASD(自閉症スペクトラム障害)の診断方法についての研究です。

http://adc.bmj.com/content/102/Suppl_3/A31.2

(SMiRAでは、かつてから場面緘黙児(人)の中には一定の割合でASDとSMを併発している子ども(大人)がいるというスタンス。掲示板では、ASDの診断がおりた子どもに対する相談が増えているような…。親としてはとても気になるところです)

間違いがあるかもしれませんが、論文の抄訳を訳してみました。

<緘黙症状を呈する子供のための自閉症スペクトラム障害の診断経路の開発>

著者:マッケンナ、Kスティーブンソン、Sティミンズ、Mバインドマン

論文抄訳

背景:自閉症スペクトラム障害(ASD)は複雑な発達上の症状であり、至適な診断基準は多面的なプロセスを要する。我々のクリニックにおける診断は、標準化した発達問診(3DI)、標準化した半定型の尺度(ADOS-2)を用いた子どもとの直接の相互交流における観察を含む。診断評価が複雑になる要因のひとつは、ASD児の約70%がひとつ、もしくは複数のメンタルヘルス系の疾患や、さらなる発達の問題を併発していることによる。約40%のASD児が不安障害の基準を満たしており、その中には特定の状況で話すことができないという特徴を持つ場面緘黙が含まれる(SM; DSM-5)。この子どもたちは、ある状況では自信を持って話すのに、話すことが期待される他の状況では、一貫して話すことができない。最近の研究では、緘黙児の69%に発達に関連する障害が診断されており、うち7%はASDの一種であるアスペルガー症候群と診断されていることが報告されている。

方法:我々のASD専門アセスメントクリニックでは、ASDの疑いがある緘黙児が紹介されてくるケースが増えている。社会的コミュニケーションに対する評価が重要になるが、子どもがクリニックで話さないことがチャレンジとなる。現時点では研究は限られており、緘黙症状を持つ小児におけるASD診断については合意された評価プロトコルはない。我々はケーススタディを使用し、緘黙症状を呈する小児のASD診断のための評価プロトコルを開発している。これには、子どもの緘黙症状の程度やそれが診断に及ぼすインパクトを理解するため、最初の評価を延長することも含まれる。その情報により、子どもがクリニックで話さなくても包括的な評価ができるよう、ADOS-2に必要な変更を加えたり、観察を追加するなどの計画を立てることができる。

結論:緘黙児におけるASD診断のアセスメントには、診断の信頼性と有効性を確保するためのスタンダードなプロセスを維持しつつも、繊細かつクリエイティブで慎重に個別化したアプローチが必要であり、またそれが可能であると提案する。

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まず最初に目が行ったのは、最近の研究では、「緘黙児の69%が発達的な障害を持ち、その中でアスペルガー障害を併発している子どもが7%いる」という部分。これはHクリステンセンが2000年に発表した論文からの引用だと思われます。

「緘黙児の69%が発達障害を併存」ときくと、ASDの子が半分以上も?! という印象を受けませんか?でも、アスペルガーを併発している子どもは7%となっています。

日本で「発達障害」というと、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。近年、広汎性発達障害という言葉が自閉症スペクトラム障害に置き換えられるようになりましたが、なんとなく発達障害=ASDというイメージが強くないですか?

文部科学省ホームページより:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/hattatu.htm

英語でDevelopmental Disordersという場合、例えばDSM-5だと「発達障害」には精神発達障害、運動能力障害(発達性協調運動障害など)、コミュニケーション障害(表出・受容性言語障害や音韻障害など)も含まれます。これらが上記の「その他これに類する脳機能の障害」に値するのかもしれませんが、不明確だし「その他」については障害名も記されていません。

私は、緘黙の子どもがASDと診断される場合、高機能自閉症/ アスペルガーのケースが殆どではないかと思っています。というのは、高機能ではないASDの場合、3歳くらいで家族や園などが気づくことが多いと思うので。

抑制的気質の強い緘黙児は、感覚過敏があったり、極端に怖がりだったり・頑固だったりと、普通の子より育てにくい傾向があるように感じます。彼らをHSC(非常に敏感な子)と呼ぶのか、発達の凸凹がある子と呼ぶのか――でも、それが即ASDには結びつきません。対人コミュニケーションの困難を抱えているかどうか、見極める必要があります。

だいたい、自閉症スペクトラムという概念には、健常の人も含まれるのです。例えば、健常の人を水として、自閉症の人をオレンジジュースとします。水に少しずつオレンジジュースを加えていくと、どこから水ではなくなり、どこからオレンジジュースになるのか?

この図はウィキメディアからお借りしました。

https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=51752079

大切なのは、ASDに限らず緘黙児が他に抱えている問題があれば、早期に発見して対処法を見つけてあげることだと思うのです。特別支援が必要な子どもと接してきて、治らない症状や障害であっても、子どもが抱えている生きづらさを軽減してあげることは可能だと感じているので。

NYのグループ治療プログラム『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』(その2)

SMiRAコンファレンスより、児童セラピスト、ルーシー・ネイサンソンさんの講演の続きです。

NYのグループ治療プログラム、『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』を経験して

<まとめ>

  • 場面緘黙を1週間で完全に克服することは不可能
  • このプログラムは治療プロセスの一部
  • 殆どの子どもは継続的な介入が必要
  • 克服するには長い時間がかかる
  • この集中治療により、子どもは話すきっかけを得、成果を積み重ねていくことができる

ひとつ注意していただきたいのは、この講演はルーシーさんが体験した範囲内での話だということ。決して『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』の全容ではありません。治療プログラム終了後、学校での支援にどう繋げていくのか、どの程度の子どもが学校で話せるようになるのか、などの詳細は不明です(Child Mind Instituteが考案した特別プログラムなので、外部に漏れないようにしている部分もあるのかも)。

ルーシーさん自身は、「もし自分がこのプログラムを取り入れるとしたら、全部取り入れずに一部だけ使い、他の治療法と組み合わせると思う」と言ってました。

質疑応答では、以下のような質問がありました。

1) 緘黙児全員が導入セッションで声を出せるようになるのか?

ルーシーさんが担当した子は声を出せたそうですが、全員が話せたかは不明とのこと。もし話せない子がいるとしたら、その子は本番には進めないんでしょうか?

2) この集中プログラムの後、学校で話し始める確率はどのくらいか?

これも不明。学校への支援に繋ぐためペアレントトレーニングが行われますが、学校がトレーニング通りの支援に協力してくれるかどうか――実際にやってもないと判りませんよね…。

3) 参加料金はどのくらい?

これも不明でした。が、アメリカは医療費が高いことで有名なので、もし医療保健がない・効かない場合は、一体どんな額になるんでしょう…?

4) 集中プログラムでは子どもの答えに対して、セラピストが長い文章で答えを反復する方法だが、慣れてくればもっと自由に会話できるようになるのか?

残念ながらこちらも不明。治療中に子どもがセラピストになついて、自由な会話ができるようになる、という感じではないみたいでした。……………………………………………………………………………………………………

今回のコンファレンスには、イギリスの緘黙治療の第一人者といわれるマギー・ジョンソンさんなど、多くのSM専門家が参加していました。専門家からは、セラピストが子どもの答えを反復するやり方ついて、「最初はいいとしても、ずっと続けるのはどうか?徐々に自由な受け答えができるようにしていく必要があるのでは?」という意見が多かったです。「長い目で見ると、短期間で発語を促す方法より、自発的な発語を促す長期的なスモールステップ方式の方がいいと思う」という人も。

イギリスはアメリカと比べると保守的な傾向が強く、薬の服用や発語を強制することに対しては否定的な意見が多いです。ただ、緘黙状態が長引けば長引くほど、同じ環境での自発的な発語は難しくなってきます。転校や進学をきっかけに、本人が頑張って話し始めるケースは多いですが、話し始めるきっかけって以外と少ない…。そういう意味では、きっかけを作ってくれるこの治療プログラムは貴重かなと。

あと、「自由な会話」ができるようにならなければ緘黙を克服したことにはならない、という意見もありましたが、これについてはちょっと疑問が…。

私は小さい頃とても内弁慶で、小・中・校を通して「大人しい子」と評されてました。授業中に当てられたりすると、緊張して必要最低限のことしか言えないことが多かったです。休み時間に友達とお喋りするのと、授業中やみんなの前で発言するのとでは、全く別の自分がいました。自由に会話ができる人って、本当に限定された数人だけ…。今だに自分の気持を上手く伝えられなくて、後になって「こう言えば良かった」「どうしてあんなこと言っちゃったのかな」と反省することも多いし…。

教室など多くの人に見られる公の場で自由に会話することは、緘黙の子・人でなくても難しいと思うんです。(イギリスの小学校とかだとグループで活動することが多いので、話しやすい雰囲気ではありますが)。だから、もう少しハードルを低くして、公の場では質問に答えたり、自分の意見を言えるようになればOKじゃないかな…。

ただ、たとえ口下手であっても、気の置けない友人や親族には、自分の興味のあることや得意なことだったら、安心して話せるんじゃないでしょうか?楽しく話せる人や場所があれば、それが自信に繋がります。だから、好きなことや趣味を持つことは本当に重要だと思うんです。親にすれば、子どもがネットゲームやアニメ、アイドルグループなどに夢中になれば心配になるもの。でも、親から見てどんなくだらないことでも、楽しみを持つことが生きる力になると思うんです。そして、それが行動を起こすきっかけになるかもしれません。

好きなアーティストのファンクラブに入ったり、ネットゲームでオンライン上の仲間を作ったり――そこから次なる発展があるかも。人間って「好きなこと」にはめっちゃパワーを出せると思うので。

話が反れてしまいましたが、この集中治療プログラム、もし息子が緘黙だった頃にアクセスできていたら…う~ん、参加させるかどうか悩むところですね。1対1ではなくて、知らない子どもや大人たちと一緒、しかもその中で話さなくてはいけない――結構プレッシャーが大きいかも。やってみる価値はあると思うのですが、やはり子どもの反応次第でしょうか。

治療プログラムではなくても、子どもがやりたそうな習い事をさせてみるとか、友達を誘って出かけてみるとか、まず楽しめるきっかけを作るのがいいかもしれませんね。

(おまけ)

昨日、イチゴを食べようと思って洗っていたら、「あれっ?」。イチゴのさきっぽ(ヘタじゃない方)に何やら緑のものが…。

ツブツブの種が集中してる実の一番先から発芽してました~!生まれて初めて見ました

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ナターシャ・デールさん(21歳)の緘黙克服

ナターシャ・デールさんの緘黙克服(その2)

NYのグループ治療プログラム『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』

 

NYのグループ治療プログラム、『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』

SMiRAコンファレンスより。

児童セラピスト、ルーシー・ネイサンソンさん 「NYのグループ治療プログラム、『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』を体験して」

NYのChild Mind Instituteは、メンタルヘルスや学習における障害に苦しむ子ども達をサポートする独立した国の非営利団体。このブレイブバディズSMは、2009年に児童心理学者カーツ博士によって考案された、グループ緘黙治療プログラムです。

https://childmind.org/center/selective-mutism-service/

(このプログラムを経験したリリーちゃんと両親がビデオに登場しています)

(みく注:このサイトでは、1日もしくは2日間のプログラムを行っていると記されているので、ルーシーさんが参加したセッションは特別だったのかも…)

ロンドンに住む児童セラピストのルーシーさんが、この短期治療プログラムに参加。今回の講演では、彼女が実際にセラピストのひとりとして体験したことやその感想を伝えてくれました。

『ブレイブバディズSM(Brave Buddies SM)』の概要

  • 内容:行動療法を用いたグループセラピー
  • 対象:3~8歳
  • 期間:1日5時間、5日間継続(事前の導入セッションあり)
  • 場所:学校の教室を模した部屋

Brave Buddies は「勇敢な仲間たち」とでも訳せばいいんでしょうか?学校の教室を模した部屋で、授業のような形態を用いて行う小グループ治療プログラムです。緘黙が学校で起こっていることを考えると、疑似学校で治療プログラムを行うことは理にかなってますね。プログラム終了後、実際の学校で効果を持続できるよう、保護者の教育もあるとか。

プログラムを開始する前に行う活動:

  •  導入セッション
  •  ブレイブバディズ
  •  ペアレントトレーニング

セラピーに参加する子どもたち(薬を服用している子も含む)は導入セッションで合流。子どもたちが同じ部屋で遊んでいるところに、それぞれの子どもを担当するセラピストが徐々に入っていく。

  • セラピストはまずCDI (Child Directed Interaction 子ども主体のインタラクション)を用いる。側にいて、子どもの行動を声に出して説明し、模倣し、省みる(褒める)。
  • VDI (Vocalisation Directed Interaction 音声主体のインタラクション) を用いて、計画的に、意図的に声を出すよう促す。
  1. Yes, Noの2者選択ではなく、答えを言わなくてはならない質問やオープンエンドの質問を使用し言葉を導き出す。
  2. 答えを何秒か待ち、発語がなければ再び答えを促す。
  3. 質問例: ○○ちゃんは、赤い花がいい、それともピンクの花がいい?
  4. 子どもが「ピンク」と答えたら、セラピストは「○○ちゃんは、ピンクの花がいいんだね」と長い文章で繰り返す。
  5. セラピストの質問に答えられたら、後で玩具と交換できるブレイブバッジを与える

導入セッションでセラピストの質問に答えられるようになった子ども達は、次に5日間の集中プログラムへ。

学校と同じように、サークルタイムや工作の時間などを設ける。主任セラピストが加わり、全体の活動を引っ張っていく。

子どもたちは同じ部屋で活動するが、各自に担当セラピスト(導入セッションと同一)がつき、最初は1対1で対応。慣れてきたら、新たな主任セラピストが子どもたち(全体)に質問。子どもはまず自分の担当セラピストに答えを言う。次に、主任セラピストがひとりずつ子どもに質問し、子どもから直接答えを引き出す。答えることができたら、皆の前で褒める。

  • 教室のような部屋で何度も話す練習 <連続的なエクスポージャー法> → 実際に教室で話す練習へ
  • 担当セラピストを交代させる <「強化法」> → 話せる人の輪を広げる
  • より多くの人と話すことに焦点を当てる
  • 「忍耐への耐性」を積み上げることに焦点を当てる
  • 同じ質問をすることで不安を減らす
  • ペアレントトレーニングにより、保護者がセラピストになってエクスポージャー法を持続できるようにする

まとめと質疑の様子は次回お伝えする予定です。

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ナターシャ・デールさん(21歳)の緘黙克服

ナターシャ・デールさんの緘黙克服(その2)

 

ナターシャ・デールさんの緘黙克服(その2)

遅くなりましたが、ナターシャさんの講演の続きです。

実は、ナターシャさんがスピーチしている間、昨年のコンファレンスの講演者でSLTのリビー・ヒルさんが傍でずっと見守っていました。それで、リビーさんの支援を受けてるんだなと思ったんですが、彼女の話しの中には出てこず…。

また、18歳でカレッジに進学したことが緘黙を克服のきっかけとなったということでしたが、どんな支援を受けたのかイマイチ不明確…。

この辺りの詳細を知りたくて本人に連絡してみたら、すぐ返事をくれました。写真もお貸りできることになったので、ここに掲載しますね。

よく転校や進学によって環境が変わることで緘黙を克服・改善できた、という話を聞きます。自分が緘黙だということを周囲が知らない新たな場所で、勇気を出して話し始める人は多いよう。ナターシャさんの場合もそうでした。

進学した農学系のカレッジはのんびりした雰囲気で、動物飼育のコースにはたくさんの動物がいたそう。動物たちに囲まれた環境、そして学校が1対1でTAをつけてくれたことが、ナターシャさんの不安を減少させました。緘動が和らいだのがターニングポイントとなったようです。

かわいい動物たちに話題が集まって、彼女が話さないことがそれほど注目されなかったのかも?それで、以前ほど自意識過剰にならなくて済んだのかもしれませんね。

まずは不安度が下がらないと話す練習もままならないので、環境を変えたことが大きなプラスとなったケースだと思います。そこからかなり努力して、現在までコツコツと緘黙を克服してきたそうです。

どういう縁なのかは判りませんが、ナタリーさんは昨年からリビー・ヒルさんの言語療法センターで働いているとか。そこで場面緘黙に対処できるよう、リビーさんからソーシャルシンキングのセッションを受けたそうです。場面緘黙に対するセラピーは、これが初めてだったということ。

それ以前に不安(多分、社会不安ですね)に関連するセラピーを何度か受けたそうですが、緘黙状態は改善しませんでした。多分、学校の環境が変わらなかったため 、不安を下げることができなかったんでしょう。それでも、誰かが気にかけてくれることは重要ですが…。

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<SMiRAコンファレンスより>

ナターシャさんの緘黙克服法

  • 実現可能な、毎日の小さなゴールを定める
  • 微笑みやジェスチャーも進歩の印とする
  • 家族や親戚に文書でメッセージを送ることから始め、徐々に難度をあげていく

ナターシャさんから家族への願い

もし私が話すようになっても、「よくやった」とか言わないで欲しい。普通のことなんだから褒めたりせずに、他の子と同じように扱って。

(みく注:ナターシャさんは完璧主義の傾向が強いので、他の子と違う扱いをされるのが嫌なんだろうと思われます。子どもによっては、褒めることでどんどん自信をつける子もいます。お子さんの性格を見極めたうえで対応してください)

今はまだ緘黙克服の道半ば。まだまだ、私が緘黙であることを理解して、支援をしてもらう必要があります。

緘黙に苦しむ子や成人は完全主義の傾向が強く、ものを詳細まで見たり、物事を詳細まで考えたりする傾向が強いと思います。だから、写真を撮ることに向いているんじゃないかな。

私にとっては、カメラを持って外に出ること、写真で自分を表現することが助けになりました。

緘黙の克服に取り組んで1年経った19歳の頃、不安が原因で脱毛症になったことも…。ネガティブな思考が頭に浮かぶこともしょっちゅうでした。

でも、「もしこうだったら」と悔やんだり、考え込んだりするのは時間の無駄。

幼いころからの写真やビデオを観返して、自分が誰なのか、何がしたいのか――欠落した部分を探し出そうとしました。自らの不安が作り出した私、ではなく本来の私を取り戻すために。

緘黙は今もまだ私の一部です。まだ不安になることもあって、自分の限界を学んでいるところです。

現在は特別支援の場で働いていて、殆どの人と話すことができます。たとえ何かうまくいかないことがあっても、それでいい、違う形でアプローチすればいい、と思えるようになりました。

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環境を変えるのはひとつの方法ですが、「学校を変えれば、緘黙を治せる」と安易に考えない方が懸命です。環境は変わっても、それが合わないこともあるし、特に人間関係は運に左右されることが多いので。また、「このチャンスに絶対話し始める」とハードルをあげすぎると、かえって落胆してしまい、逆効果になることも…。

ナターシャさんも言ってましたが、緘黙児・の人は完璧主義の傾向が強いです。「これができなきゃ駄目」と頑なにならず、失敗しても「まあいいか」と居直れることも大事。自分に優しく、マイペースでゆっくり一歩ずつ進むことが大切ではないでしょうか?

学校外で話せるようになった子どもが、どうしても学校だけで話せないというケースだったら、転校してみる価値はありそう。その際は、本人の意志を確かめてください。規模が小さい面倒見のよさそうな学校、子どもが得意なことを活かせそうな学校が見つかるといいですね。

緘黙の克服には時間がかかります。思い通りに進まないことも、うまくいかないこともあるでしょう。有能な専門家やセラピストにめぐりあえても、彼らはあくまで支援者。誰かが治してくれる訳ではなく、自分が努力して声を出し、話す練習をしていくしかないんです。

不安で緘動になっていた時期が長かったというナターシャさん。18歳からコツコツ頑張って、21歳の今、100人近くの聴衆の前でスピーチできるようになっています。本人はもちろん、ご家族も長いこと悩み苦しんできたんだろうなと思うと、本当に感慨深いものがあります。

そうそう、ナターシャさんの質疑の時に、最前列の端にいた元緘黙の女性が、「緊張するので前を向いたまま話しますね」と前置きしてから発言したのが印象的でした。自分の不安を減らすだけでなく、周りの理解も得られる不安への対処法ですね。

あと、午後の質疑の時間には、家族以外と何年も話したことがないという女性が、手を挙げて堂々と発言!「周囲が緘黙を理解してくれる人たちばかりだと、話すのがこんなに楽!」と本人も驚いてました。きっと、同年代のナターシャさんが頑張っているのを見て、触発されたんだろうと思います。

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SMiRAの2017年コンファレンス

場面緘黙克服のために抵抗力 Resilience を高める

ナターシャ・デールさん(21歳)の緘黙克服

 

ナターシャ・デールさん (21歳)の緘黙克服

SMiRAコンファレンス2017年の講演内容の続きです。

ナターシャ・デールさん 『SM–My Recovery 場面緘黙――私の回復』

次に登場したのは、ここ4年間でかなり緘黙を克服しつつある21歳のナターシャさん。7歳の頃から緘黙に苦しみ、学校では緘動で動けなかった時期も長かったそうです。緘黙克服への道を歩み始めたのは18歳と、年齢的にはかなり遅い時期。

緘黙期間が長いと社会不安障害やパニック障害、OCDなどを併発する可能性も高くなり、克服はより難しくなるといわれます。でも、ナターシャさんは現在ほとんどの人と話せるようになっているとか。年齢が上の人たちにとって、とても励みになるんじゃないでしょうか。

今回のSMiRAコンファレンスは満席に近く、参加者は90名を超えていたと思います。後ろの方に座っていたナターシャさんが、かなり緊張した様子で登壇した時、大丈夫かなと少々心配になりました。が、原稿を棒読みしている感じは否めなかったものの、しっかり聞こえる声でひと安心。ナターシャさんがスピーチを終えると、会場は温かい拍手に包まれました。

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<スピーチの内容>

場面緘黙だった時は、まるで2人の私がいるみたいでした――学校での私ナターシャと、家での私タッシュ。

学校では緘黙が私を支配し、常に大きな不安に押しつぶされそうでした。体が硬くなって姿勢が悪くなり、たびたび腹痛に襲われて…。世界から自分が隔離されてるような感覚だったんです。

家では不安から開放され、本当に安堵しましたが、ものすごい疲労感も…。

緘黙が私の人生を支配し、私には何の主導権もなかったんです。いつも誰か理解してくれる人が側にいてくれれば、と願っていました。

私が緘黙を克服し始めたのは18歳の時。もちろん、それ以前にも一生懸命話そうと試みましたが、そうできる環境じゃなかったんです。

学校は騒がしくて、そのために不安が増しました。学校スタッフは緘黙についての教育を受けてなくて、緘黙のアセスメントもIEP(Individual Educational Plan 個別教育支援計画)もなかったんです。

もしも、席順を配慮してもらえていたら――

体育や音楽やドイツ語などの授業、ランチを食べる学校のカンティーン(全生徒用の大食堂)など、何らかの配慮をしてもらえていたら――もう少し楽になっていたかもしれません。

転機が訪れたのは、18歳になってカレッジに進学し、動物飼育のコースを始めた時。

5年ぶりに家族以外の人と話せました。動物がいて、微笑んだりジェスチャーを使えることが多かったのが功をなしたと思う――今考えると、アニマルセラピーですね。

でも、話せたからといって、誇らしくは感じなかったし、決して楽しい経験ではなかった…。

とにかく、話そうと試みる回数を増やすにつれて、徐々に話すことが楽になっていきました。

母がウサギを飼わせてくれたこともすごく助けになりました。ブランブルという名前をつけて親しんだことが、ポジティブな効果を生みました。

毎日庭に出て、ブランブルに話しかけてたんです。

あと、TVのコメディ番組からも学ぶことも多かったかな――人生にはポジティブな面もあるって。時には、自分の失敗を笑い飛ばすことも大切だって。

自分の他にも緘黙に苦しむ人が大勢いると知り、自分の話を共有しようという自信が持てました。私だけじゃなかったんだと。

それで、昨年7月にFBに『Selective Mutism Recovery–Natasha’s Story 場面緘黙からの回復--ナターシャの話』を開設したんです。

追記:ナターシャさんの現在のブログは『I am not Shy:I have Selective Mutism』でした。リンク先を追加しますね。

https://www.facebook.com/Iamnotshyblog/

https://iamnotshyblog.wordpress.com/

それまで色々なタイプのセラピーを受けました。でも、殆どのセラピストは私のこと、緘黙のことを理解していなかったと思います。

それでも、セラピーを受けたことで不安を減らすことができ、自分の夢を追うことができました。

ずっと何かを成し得たいと思いつづけてきて、最終的にはカウンセラーになることが目標なんです。

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このスピーチは当時のメモを見ながら書きだしたのですが、抜けている箇所や誤解している箇所もあるかもしれませんのでご了承ください。

長くなってしまったので、続きは次回ご紹介しますね。

<関連記事>

SMiRAの2017年コンファレンス

場面緘黙克服のために抵抗力 Resilience を高める

 

場面緘黙克服のために抵抗力(Resilience)を高める

2017年SMiRAコンファレンスより

SLT(言語療法士)アニータ・マッキアナンさんの講演『場面緘黙克服のために抵抗力(Resilience)を高める』

実は、当日地下鉄工事のため予定していた電車に乗り遅れ、講演会が始まってから会場入りした私。すでに満席に近くて、空いている席がなかなか見当たらず…。昨年より参加者が増えたという印象でした。

やっと見つけた席につくと、既にSMiRAコーディネーターのリンジーさんの挨拶が終わり、アニータさんの講演が進行中。

講演者のアニータさん(右)

現代のカウンセリングの基礎である、来談者中心療法(Client-Centered Therapy)を創始した、アメリカの臨床心理学者、カール・ロジャーズの「Actualizing  Tendency (自己現実の性質)」について話しているところでした。

あとで調べたら、これは「人間には有機体として自己実現する力が自然に備わっている」という説。アニータさんは、緘黙の克服には生まれつき備わっている困難に抗う力、Resilienceを高めることが重要と考え、その方法を話してくれました。

 

<アニータさんによる場面緘黙の説明>

    子どもが初めて場面緘黙になった時:

     怖い体験  →   Fight or Flight(戦うか逃げるか)の本能的な反応 

                           ↓    

              脳からの信号により 喉がしまったような状態に                                                                                                                                                                ↓  

                  同じような恐怖に襲われそうになると、無意識のうちに同じ反応がおきる

               ★この反応が繰り返されることで、緘黙が定着

高い所に行くと足がすくんでしまう高所恐怖症などと同じように、場面緘黙の場合は話さなければならない状況になると、喉がしまったような状態になって声を出すことができない。この反応は無意識のうちに起こるので、本人にはどうしてそうなるのか判らない。

克服法:Graded Exposure(認知行動療法CBTによる段階的な暴露法)

何故話せないのかを本人に説明。スモールステップで少しずつ話す恐怖に立ち向かい、意識的に恐怖を克服していく(アニータさん自身、緘黙ではありませんでしたが、幼少の頃から複数の恐怖症を抱え、それをひとつずつ克服したとか。経験者故に話に説得力がありました)。

<緘黙の克服に重要な3つのキー>

  1. Resilience     抵抗力
  2. Self-Efficacy    自己効力感
  3. Healthy Coping   健全な対処 

1)Resilience 抵抗力を高める

SM児は学校で話せないこと、家庭外で友達や大人と円滑なコミュニケーションを取れないことで、集団やグループの中で孤立しやすく、弱い立場におかれやすい。学校生活が負担になることも多く、長期間の緘黙が人間関係に大きく影響することも。こういった負の状況に負けない抵抗力をつけることが重要。(「反発力」や「回復力」と訳すことが多いようですが、ここでは「抵抗力」という言葉を使いますね)

・肯定的な人間関係 → 家族、親戚、友人など、子どもを囲む社会的なネットワーク作り/ SM児にとって暖かい家庭環境・人間関係があることが必須

 ・感情面での支援     →   ひとりでも信頼できる人がいると、子どもの心境は全く違ってくる/ 友達や愛情を注げるペットを持つことも大きな支援となる

2) Self-Efficacy 自己効力感を育てる

「自己効力感」とは、簡単にいうと自己に対する信頼感や有能感のこと。何か問題がおきた時、「対処できる」「大丈夫」と思えること。自己効力感を育てることにより子どもの自己評価があがり、行動を起こすことができる。

・自分で問題を解決する機会を持たせる → 子どもが自分のアイデアを持てるようにする(親はサポーター役)

・役割や責任を持たせる → 自分のことは自分で

・自分の価値観を持ち、自己防衛できるよう奨励していく

・子どもの興味や才能を伸ばす  → 得意なことや好きなことが、話すことや対人恐怖のバリアを破るきっかけになる

3) Healthy Coping   健全な対処法を身につける

問題に対して健全な対処をするためには、自分の感情を理解してコントロールできることが必要。ネガティブな感情やストレスも人生の一部として受け入れ、自分なりの対処法を身につける。

・大人が模範を見せていく → 理知的な問題解決、問題に立ち向かい、ストレスに耐える姿など

・子どもの視野を広げる → ポジティブな行動や考え方を奨励し、間違いは認め、柔軟性のある対応を

・自分の感情について話せる環境づくり

・大人が自分の人生体験について話す機会を持つ

・緘黙を恐怖症と捉える → 恐怖症は無意識のうちに定着する不合理な思考 → 思考は変えられる → 克服可能

・不安になった時のために、自分なりの対処法を見つけ出す → 呼吸法やマインドフルネスなど、自分にあったものを

★緘黙児は自分の感情について話したがらない傾向が強いので、絵本などを使い誰でも不安になる時があることを理解させる

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3つのキーの他にも、ポジティブな学校環境、助けを求める勇気を持つことなど、いろいろな提案がありました。が、ひとつアニータさんが強調していたのは、「助けを待っているだけではダメ」ということ。イギリスでは緘黙支援が充実していると思われがちですが、参加した保護者たちの多くは「支援不足」を訴えていました。

学校が支援プログラムを準備してくれるといっても、やはり限度があります。政府は各セクターの予算カットを強要していて、特別支援に関しても見直されているのが現状…。場面緘黙のみでは行政からの予算はおりないため、どうしても後回しにされがちなのです。

また、「やっと専門家に会えた」と思っても、専門家が緘黙を治してくれるというものではありません。専門家の提案にそって支援プログラムを遂行していくのは、結局のところ家族が中心。イギリスでも保護者が中心となって、学校に働きかけて協力関係を築き、専門家も巻き込んでスモールステップで克服していくという感じです。それには、本人の努力も不可欠です。

アニータさんは、日常の「小さな機会」を見逃さないようにとアドバイス。例えば、赤ちゃんが産まれたばかりの同級生の家族がいたら、同級生の学校の送り迎えを引き受けたり、近所の子を自宅に招いて遊ぶ機会を設けたり、職場の同僚の家族と出かける機会をもつなど。

アニータさんが担当した子どもの母親は、友達の送り迎えをかって出たとか。初めは何も話せないので、お母さんが間に立って会話を盛り上げていましたが、子どもは徐々に声がでるようになり、友達とも話せるように!以前は通学の際に緊張が強かったそうですが、学校にいくまでの時間を楽しく過ごせるようになったということです(注:子どもの気持ち次第なので、無理強いは禁物です)。

緘黙児にとっては、ほんの小さな変化が大きなステップアップとなります。そのため、保護者には家庭や職場でのソーシャルネットワーク作りを奨励していました。

保護者もシャイな方が多いかもしれませんが、できる範囲で頑張りましょう。小学校高学年になると親の出る幕は少なくなってしまうから、低学年までが頑張りどころかもしれませんね。でも、日本の小学校だと集団登下校だし、他の保護者と会う機会が少ないかな…。

次回は、場面緘黙を克服中のナターシャ・デールさんの講演について書く予定です。

<関連記事>

SMiRAの2017年コンファレンス

 

SMIRAの2017年コンファレンス

学期末でバタバタしていて随分遅れてしまったのですが、3月18日(土)に、イギリスの場面緘黙支援団体SMIRAの定例総会に行ってきました。

今年も全国各地から緘黙児の家族、言語療法士を中心とする専門家やTA(教育補助員)などが集まり、参加者は90名ほど。昨年10月に『場面緘黙リソースマニュアル第2版』を出版したSLT(言語療法士)のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさん、昨年の講演者でアニマルセラピストのリビー・ヒルさん、BBCに出演した緘黙克服中の成人女性、サブリーナさんなど、錚々たる顔ぶれが揃い、活発に意見が交わされました。

SMiRAコーディネーターのリンジーさん(左)と役員のヴィッキーさん

今年の講演プログラムは:

  • 場面緘黙克服のために抵抗力(Resilience)を高める SLT(言語療法士)アニータ・マッキアナンさん
  • 私の回復体験 ナターシャ・デールさん(21歳)
  • NYの治療プログラム “Brave Buddies” 参加体験 児童セラピスト ルーシー・ナサンソンさん
  • ディスカッション
  • 1月に亡くなった緘黙児、ケイティ・ラフちゃん(7歳)の追悼イベント(希望者のみ)

今回講演した二人のセラピストは、いずれもプライベートでSM治療を行っています。NHS(国民保健サービス)に頼る場合は、長い順番待ちがあるうえセラピストや専門家を選ぶことはできません。また、地区によってサービスにバラつきがあり、宝くじに例えられることも…。

最近イギリスでは、オンラインで言語やコミュニケーションの治療を受けられるプログラム等も出現。料金はかかりますが、プライベート治療の選択肢が随分増えたように思います。

コンファレンスでは資料が配布されなかったため、手書きのメモしかないのですが、講演の概要は追ってKnet会員掲示板と稚ブログで紹介していく予定です(大幅に遅れててすみません)。

追記:

コンファレンスが終了した後、会場となった教会ホールの向かい側にある公園で、ケイティ・ラフちゃんの追悼イベントが行われました。

春の花が一斉に咲き始め日増しに春めいてきていましたが、この日は朝から灰色の曇が垂れ込め、肌寒い気候に逆戻り。どんよりとした曇り空の下、ケイティちゃんの冥福を祈って、自由の象徴ともいえる白い鳩を空に放ちました。

 

イギリス北部の都市、ヨークに住む7歳のケイティちゃんがナイフで殺害されるという痛ましい事件が起きたのは、今年1月のこと。犯人がまだ15歳の少女だったという事実が明かされ、全国的なニュースになりました。

ケイティちゃんが場面緘黙だったこと、SMiRAとの関わりがあったことで、SMiRA役員や関係者、保護者や当事者のメンバーたちの間に大きな衝撃が走りました…。

はにかんだ笑顔が本当に可愛い女の子――ケイティちゃんは緘黙ではあったけれど、みんなと一緒に外遊びをするのが大好きで、友達も多かったといいます。いつもは自宅の庭で遊んでいたそうですが、彼女が発見されたのは自宅のすぐ近くの公園…。

もしかしたら、話せないケイティちゃんを無理やり誘い出したのかも…、叫びたくても「助けて」の声が出なかったのかも…。どんなに怖かったことか――そう考えると本当に切ないし、ご家族の気持ちを思うとやり切れないです。

娘を悲劇の少女としてではなく、自分たち家族を幸福にしてくれた茶目っ気ある美しい少女として覚えていて欲しい――そんなご両親の思いに敬意を払いたいです。

ケイティちゃんのご冥福を心からお祈りします。

https://www.theguardian.com/uk-news/2017/feb/13/funeral-seven-year-old-katie-rough-archbishop-of-york-sentamu

 

国会議事堂内で場面緘黙の啓発イベント

7月6日(水)、ウェストミンスター宮殿(国会議事堂)内で、ルーシー・パウエル議員(労働党)とナイジェル・エバンズ議員(保守党)、そしてSMiRAが共催する場面緘黙の啓発イベントが開かれました。

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このイベントは昨年10月の場面緘黙啓発月から計画されていたもので、何度か延期された後、一昨日無事に開催されました。SMiRAの活動に感銘を受けた保護者が匿名で大きな寄付をし、その資金でこのようなハイグレードの啓発キャンペーンが可能になったのです。

参加したのは、大学教授や言語療法士などの専門家、SMiRAの役員、SMiRA会員の保護者、そして複数の国会議員ほか。2階のビッグベン側に位置する個室で、ドリンクとカナペがふるまわれ、和やかな雰囲気の中で啓発会が始まりました。

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    左から、『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者、アリソン・ウィンジェンズさん、トニー・クライン教授、SMiRAコーディネーターのリンジーさん。『Tackling SM』の寄稿者やSMiRAに協力する専門家たちが大勢参加していました

最初の挨拶は、場面緘黙の著書を持つトニー・クライン教授。60年代に初めて緘黙児に遭遇した時の思い出や、場面緘黙を取り巻く状況がどのように変わってきたかをユーモアたっぷりに話してくれました。SMiRA会長のアリス・スルーキンさんは現在97歳というご高齢で、今回参加されなかったのですが、クライン教授は彼女の功績にも触れました。

次に、SMiRAに大きな寄付をし、このイベントの推進にも貢献したジョナサン・ストレイト氏が登場。保護者の心情とSMiRAを支援することになったいきさつを語りました。昨年は匿名で参加されていたのですが、今回は前に出て挨拶し盛大な拍手を浴びました。
IMG_20160706_133514娘さんが学校で話せない姿を見て愕然とし、学校側が手をこまねいているのを見かねてSMiRAに連絡したとか。娘さんの症状は、現在かなり改善しているとのこと。彼の寄付金のお陰でSMiRAのサイトデザインも一新し、昨年秋の啓発キャンペーンは効果大だったようです。
   

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その後は、SMiRAの役員や会員たちが、緘黙の子どもたちの声や保護者の心情を短い言葉で伝えました。特に、子ども自身が書いた文章や詩は、心にじーんと響くものが多かったです。

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   最後は、このイベントのホスト役を務めたパウエル議員が締めくくりました

近年、イギリスではNHS(国民保健サービス)の予算カットにより、子どものメンタルヘルスケアの予算も削られつつあります。そのうえ、先日の国民投票でEU離脱が決まり、政治的にも経済的にも不安定な状態――そんな中での啓発会でしたが、議員たちとのパイプが今後、場面緘黙の子どもたちの助けになることを願ってやみません。

<おまけ>

現在、国会議事堂として使われているウエストミンスター宮殿の歴史は、11世紀に遡ります。1529年に大火災が起こるまで王室の宮殿だったのが、修復後には議会や裁判が行われる場所に。1834年に再び大火事に見舞われ、1860年に修復した際に現在のゴシック・リバイバル様式になりました。

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     まさに豪華絢爛!バッキンガム宮殿にも勝っているような…。全長265mの建物内に1100以上の部屋と11個の庭があるとか…

仕事中の国会議員に混じって、観光客や社会見学できた小学生の一群など、人がいっぱい。至る所に警察官が立っていて、入る前に飛行場と同じようなセキュリティチェックがありました。

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           入口の大広間。1834年の大火を免れた天井の梁が荘厳です!

何とこの大広間の一角にはカフェと下院のギフトショップまであるんです。帰る前に、SMiRAの役員たちと一緒にお土産を物色しました~。もうこんな機会もないと思うと、ついつい真剣に。斬新なネーミングのアイテムも多かったです。

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下院のロゴ入りミントクリーム、”CHURCHILL’S” と名づけられたポートワイン、ビッグベンのTシャツ