SM H.E.L.P. サミット マギー・ジョンソンさんの講演(その1)

11月ももう半分過ぎてしまいましたね。イギリスでは冬時間に切り替わってから日暮れが早く、時間が経つのが本当に早い気がします。

     昨年は中止になった近隣の花火大会が今年は決行。燦めく光を求めて多くの人が集いました

………………………………………………………………………………………………………………………………

場面緘黙啓発月だった先月に開催されたSM H.E.L.Pサミットでは、ティーンと大人の場面緘黙がテーマでした。印象的だったのは、イギリスで緘黙治療の第一人者と言われるSLT(言語聴覚士)マギー・ジョンソンさんの講演。その内容を数回に分けてお伝えします。

場面緘黙との出会い

マギーさんが場面緘黙と出会ったのは偶然のことでした。SLT(言語療法士)の資格を取って初めて治療にあたったのが、話さない15歳の少年。保護者も周囲もどうしていいか判らず、少年は寄宿制の特別支援学校に入れられていたとか。唯一話せる相手、母親から切り離されてしまっていたのです。

新米SLTのマギーさんの仕事は、当時「選択性緘黙(Elective Mutism)」と呼ばれていた症状を持つこの少年を話せるようにすること。初めて聞く症状名――1976年当時はまだインターネットもなく、医学事典に載っていたのは「本人が話すことを拒否している」という説明。

(「選択制緘黙」は80年代前半にDSM-III(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)に初登場しましたが、話すことへの継続的な拒否(persistent refusal to speak)とされていました)。

少年は母親と連絡を取るために、寄宿舎の公衆電話を使わなければなりませんでした。そこには他の生徒や教師がいて、話したら声を聞かれてしまいます。彼は受話器をトントン叩いて音を出すことで、母親とコミュニケーションを取っていたそう。

マギーさんは「当時は何も知識がなくて、彼と向かい合って座っていたの。私の視線をまともに受けて、長い沈黙がどんなに苦しかったことか」と回想します。

ある日のこと、沈黙し続ける彼のほほにひとすじの涙が…。それを見て、マギーさんは「話すことを拒否してるんじゃない。わざと話さないんじゃない。専門書は間違っている!」と直感したそう。でも、どうしたら助けられるのか判りませんでした。

この少年は1年後に学校を去ったそうですが、その後彼が自殺を図ったことを知り、マギーさんは大きなショックを受けました。そして、この体験こそが彼女を場面緘黙の治療法を見出すミッションへと駆り立てたのです。

この少年との出会いがなかったら、マギーさんが世界に先駆けて多くの場面緘黙児や青年、成人を助けることはなかったと思うと、運命的なものを感じます。

次の緘黙ケースは、同じように寄宿学校に入れられた8歳の男の子。この時は、まず話すことへのプレッシャーを取り除き、非言語でコミュニケーションを取るよう指示しました。子どもが話したいと思っていること、何かが話す妨げをしていること、それは不安によるものらしいと気づいたからです。

教育心理士に相談し、自分の持つコミュニケーション法の知識と心理士の持つ不安の知識を掛け合わせて、スモールステップ方式の取り組みを考案。幸いにもこれが功をなし、少年は1年半でマギーさんと話せるように。そのあと6か月で誰とでも話せるようになりました。なによりも、彼が幸せそうになったことが本当に嬉しかったとか。それ以来、学校でもクリニックでも同様の対処法を使うことにしたそう。

この間アメリカでも場面緘黙の研究が進み、1994年に発表されたDSM-IVでは症状名が「場面緘黙(Selective Mutism)」と変更され、「ある場面では継続的に話せない」という記述に。それでも、どこから不安が来るのかはまだ謎でした。

(長いので、次回に続きます)

<関連記事>

大人の緘黙ー緘黙啓発月のSM H.E.L.P. から

第2回 SM H.E.L.P オンラインサミットから(その1)

第2回 SM H.E.L.P オンラインサミットから(その2)

第2回 SM H.E.L.P オンラインサミットから(その3)

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

大人の緘黙ー緘黙啓発月の SM H.E.L.P.から 

沈黙  アンティジェ・ボーシン

家ではおしゃべりで、陽気で、声も大きいのに                                           人が大勢いる場所だと、声が小さくなって、引っ込み思案になってしまう                  学校やお店では黙ったまま                                                       この場面緘黙はいつか治るの?

声がでないのは                                                                              わざとじゃないわ                                                                周囲に人がいるとき                                                                          音がでないの

突然、金縛りにあったように                                                                     固まってしまって                                                                               話せない                                                                                               行ける場所がない

見たり、聞いたりすることは簡単なのに                                   質問したり参加したりするのは、とても難しい                                でも、何度でもトライしてみて                                        無駄なことは絶対ないから

寛容でいてくれるだけでいい                                                                                      もしみんながそれを知ってくれたら                                       プレシャーなしに、仲間に入れて、人生の楽しみをわかちあってくれたら                                         成長するのに必要なのはそれだけ!

Silence
by Antje Bothin      https://antjebothin.wordpress.com/

Talkative at home, happy and loud
But quiet and withdrawn in a crowd
Silent at school and in the shop

Does this selective mutism ever stop?

 

It is not a choice
This hiding of the voice
When people are around
There is no sound.

 

Like a sudden freeze
Being in a tight squeeze
Unable to talk
Nowhere to walk.

 

Like a sudden freeze
Being in a tight squeeze
Unable to talk
Nowhere to walk.

 

Observing and listening is easy to do
But asking and joining in is hard to pursue
Keep trying and trying again
Nothing is ever in vain.

 

If  people only knew
That kindness is the thing to do
Inclusion, no pressure and some fun in life
Is all that is needed to thrive!

…………………………………………………………………………………………………………………………..

 左がアンティジェさん、右は主催者のケリーさん

上記の詩は、先週末に行われたSM H.E.L.Pサミットのスピーカーのひとり、アンティジェ・ボーシンさんが書いたもの。小学校就学時から場面緘黙に苦しみ、1人でこつこつと緘黙を克服してきた女性です。ドイツとイギリスの大学で学び、ビジネスエンジニアリングの学士号、メディアテクノロジー修士号、情報学博士号を取得。現在はフリーランスのライター、詩人、翻訳家、語学教師として活動し、現在初の小説を執筆中だそう。

いまなお場面緘黙と対峙しているというアンティジェさん。柔らかな口調で緘黙だった時代を静かに語り、今悩んでいる人たちにアドバイスをくれました。

どんな風に緘黙を克服してきたか:

最初の記憶は定かではないけれど、小学校に入学した後、クラスメイトとは全く話しませんでした。先生には単語で応えることができたけれど、挙手などは無理。3世代家族の家庭では、おしゃべりで学校とはまるで別人でした。

学校では大人しくてすごく内気な子と思われていました。「変わらなきゃ、もっとしゃべりなさい、手を挙げて」と言われ続けた学生時代…でも、どうやったらできるのか誰も教えてくれませんでした。

当時「場面緘黙」は全く知られておらず、「あなたが変なのよ。あなたが変わらなきゃダメ」というスタンス。

成績は良かったから、進学してもっと勉強したかったのに、「話さないから無理」という教師も。学びたい科目があって、どうしても勉強を続けたいというモチベがあったから、頑張れました(博士課程まで進んだのは社会人になってから)。

「場面緘黙」という症状名に遭遇したのは、20歳のころ。本を読んで知り、自分に当てはまるところが沢山あると感じました。「昔から自分が人と違うと気づいていて、皆と同じようになりたかった。家での自分を外で発揮したかったんです」

場面緘黙という言葉を知り、できれば親しい人に伝えられたらと思いました。でも、その前に自分で克服したいと考えて。

大学では発表やディスカッション、そして友人関係上どうしても話す必要がありました。怖かったけれど常に挑戦して、少しずつ少しずつ慣れていったんです。クラスで発表する時、声が小さいので「もう一度繰り返して」とよく言われました。

1対1なら会話はできたけど、どうしても声が出ない時は紙に書いて渡しました。質問に答えることはできても、自分から話を振ることが難しくて…。ボランティア活動に参加し、毎日自分に課題を与えて、スモールステップを始めました。初日は誰かに「こんにちは」と話しかけ、次の日は2人にという風に。話しかけやすいのは、やっぱりおとなし目の人でしたね。

一番苦手だったのは、グループでの会話やディスカッション。人が大勢いるところで話しているのを聞かれるのが怖い――いつも気がかりでした。1対1なら上手く話せるのに、誰かに聞かれていると思うと緊張してしまうんです。

今緘黙に苦しんでいる人たちへのアドバイス:

本でもビデオでもオンラインでもいい、色々調べてみて。緘黙は自分で克服できると思います。決して諦めないで、モチベを持ってポジティブに。少なくとも状況は良くなると信じてください。

自分の意見を主張できること(Being assertive)が、とても大切です。

私の場合はSNSで支援グループを発見したことも大きかった。自分だけじゃないと知ること、緘黙の体験を共有できることがとても重要だと思います。緘黙仲間同士でのオンラインチャットにも挑戦してみてください。

…………………………………………………………………………………………………………………………..

治療のガイドは何もなく、支援者もいなかったため、ひとり手さぐりで挑戦しなければならなかったと振り返るアンティジェさん。「これを勉強したい」というモチベがあったからこそ、頑張れたんですね。ひとつでもいい、「これが好き」と言えるものを持つこと、発見することがとても重要なんだと再確認しました。

<関連記事>

第2回 SM H.E.L.P オンラインサミットから(その1)

第2回 SM H.E.L.P オンラインサミットから(その2)

第2回 SM H.E.L.P オンラインサミットから(その3)

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

第2回 場面緘黙 H.E.L.Pオンラインサミットから(その3)

<5月中旬に開催されたオンラインサミット、第2回Selective Mutism H.E.L.Pから>

緘黙体験者、ジェイミー・ラゴさん

ダンスの振り付師で緘黙絵本の著者でもあるジェイミー・ラゴさんは、幼少のころから20歳ぐらいまで場面緘黙でした。そんなジェイミーさんを救ってくれたのが踊ること。サミットでは緘黙になった時の状態を詳しく説明し、自分なりの対処法を語ってくれました。

ジェイミーさんは入園するまでただ内気な子と思われていました。でも、実は家族の中で打ち解けて話せたのは母親だけ。入園時のスクリーニングテストで言葉が出ず、場面緘黙症と判明しました。感覚過敏やADHD、ASDなどの診断はなかったそう。

園では周囲の子どもたちと交わることなく、ただ遠巻きに観察する毎日。遊びに参加したいのに身体が動かない――環境に馴染んで大丈夫と感じられるまでに、時間がかかりすぎたのです。

自分が普通に話せると解っているのに、どうして声がでないのか?そのメカニズムは不明でした。母親に「今日は園どうだった?」と訊かれる度に、「まあまあだった」と答えていたとか。

自らの緘黙状態を「冷凍庫の中にいるような感覚」と回想――頭が空っぽになって、自分の名前もわからなくなる…。本当にパニックになりそうな恐怖を感じていたといいます。

そんな恐怖の中で大人から矢継ぎ早に質問されても、何も言えないのは無理もありません。

「動けない恐怖から逃れられるなら何でも良かった。幼いころは、パーティーやお出かけなどで居心地が悪くなると、どこでも眠りこんでしまったわ」。

成人してから、「この不安を処理するには、ただ時間をかければいい」と自分なりのリカバリー法を発見。凍りついた瞬間をやりすごすことができれば、話せる状態になると判ったのです。

それからは、極度の不安に襲われることは稀になりました。でも、時間をかけても恐怖を処理しきれない時は今でもお昼寝するんだとか。「それが場面緘黙に対して起こる、私の身体の反応なんでしょう」とにっこり。

ジェイミーさんの場合、帰宅してからメルトダウンを起こすことはありませんでした。7歳のころからダンスを習っていたため、踊ることでフラストレーションを発散できていたと推測しています。

母親がダンスを始めさせた時、本当はやりたくなくて母親を憎んだそうです。でも、それは新しいことへの不安の裏返し。

当時、話せる仲良しの友達がいて、4人で一緒に習い始めたことが功をなしました。ひとりで参加していたら、続けられなかっただろうと振り返ります。

「チームスポーツだけど、自分で自分の体をコントロールできるから娘に合いそう」と、ダンスを選んだお母様。先見の明がありましたね。

小学校時代は『ジェイミーはシャイで内気』とレッテルをはられているようで、本当に嫌だったそう。園と小学校のメンバーが同じで、そのイメージを払拭するのは困難でした。

「小1の時が一番ましだったかな。みんなが私を変な目で見ないから、友達も一番できたの。でも、学年があがる度にクラスが変わって、話せる子と離れ離れになって、年々友達を作るのが難しくなった…」。

毎年慣れた頃に時計がリセットされる――違うクラス、先生、教室、クラスメイトたち――環境に慣れるのに時間がかかる緘黙児には辛い状況です。

学生時代を通して、緘黙を理解してくれた先生もいれば、そうじゃない先生も。

テストに関しては、ひとり別室で受け時間を延長してもらっていたとか。周囲のことが気にかかり、問題を処理するのに時間がかかったといいます。

学校や心理士を通して何度も検査を受けましたが、正式な治療プログラムを受けられたのは成長してから。場面緘黙症を克服できたと感じたのは20歳のころでした。

学生時代ジェイミーさんが習慣にしていたのは、不安を感じた時にそれを書きとめること。そのメモを心配箱(Worry Box)に入れると、少し安心できたといいます。

「後で心配箱を開けてみたら、メモに書いてあったのは取るに足りないことばかり。それでも、書くことで不安に対処できていたんだと思う」

なんでもいい、ジェイミーさんのように自分が安心できるなんらかの対処法を持てるといいですね。

場面緘黙症で苦しんでいるティーンへのメッセージ:

自分は自分のままでいい。言葉でなくても自らを表現できるものを探すことが大事。あなたはひとりじゃない。サポートグループやインターネットで仲間を探して、仲間を作って。

保護者へのメッセージ:

子どもが自分自身を発見できるように、十分な時間や機会を与えて辛抱強く見守ってほしい。

*          *            *

ジェイミーさんは26歳になった現在も、まだ場面緘黙(の後遺症?)に苦しむことがあるといいます。社会的な場面、特に大勢の人や同年代の人が集まる場では、自分に自信が持てなかった過去を思い出し不安になることがあると。

彼女の絵本『ウィローの言葉 Willows Words』は、話せない少女が踊ることで言葉をとりもどすというお話。この絵本を通じて緘黙の子ども達や保護者に希望をもってもらえたら、と願っています。

https://willowswords.com/willows-words/

なお、この記事はかんもくネットが発信しているnoteの記事に手を加えたものです。

https://note.com/kanmoku_net/

<関連記事>

SM H.E.L.P主催者、ケリーさんのスモールステップ(その1)

SM H.E.L.P主催者、ケリーさんのスモールステップ(その2)

第2回  場面緘黙H.E.L.P.オンラインサミットから(その1)

第3回  場面緘黙H.E.L.P.オンラインサミットから(その2)

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

第2回Selective Mutism H.E.L.Pオンラインサミットから(その2)

ぐずぐずした天気が続くなか、イギリスのバラの季節が終わってしまいました。雨の合間に出会ったバラたちの美しい姿を、ここに留めておきたいと思います。

<5月中旬に開催されたオンラインサミット、第2回Selective Mutism H.E.L.Pから>

今回のサミットでは、子どもが「話せない」ことの根底に潜む問題にスポットを当て、作業療法やサウンドセラピー、感覚統合に関わるスピーカーも招いていたのが特徴的でした。その中に、内耳にあって重力と直線加速度を司る働きをする前庭器官(vestibular system) についての話が出て、とても興味深かったです。

私が勤めている高機能ASD児とティーン専門の特別支援校には、作業療法士と言語聴覚士が常勤。生徒たちの運動能力や言語・コミュニケーション力、情緒面など総合的な発達を支援しています。今まで粗大運動などの不器用さが、前庭器官と関係しているとは知りませんでした。

◎ジョリーン・ファーナルドさん:米国の音声言語病理学者(Speech & Language Pathologist)、DIR-SMモデル(Developmental, Individual-differences, & Relationship-based model  発達段階と個人差を考慮に入れた相互関係に基づく緘黙治療のモデル)を考案し、独自の治療方を持つクリニックを運営。著書に『The Comprehensive Guide to Selective Mutism』がある。

*            *             *

ジョリーンさんが場面緘黙症と向き合うことになったのは、娘さん(今年20歳)が3歳で場面緘黙症を発症したから。それまでは大学で少し学んだ程度で、緘黙とトラウマを結びつけていたそう。でも、それが間違った知識だということにすぐ気づきました。

緘黙治療といえばCBTのエクスポージャー法が定番ですが、ジョリーンさんが最初に採用したのは、ソーシャルワーカーとの遊戯療法(箱庭療法?)。社会的な場で固まって動けなくなる娘を見て、まずは遊びで不安を下げようと考えたのです。

次に、作業療法(OT: Occupational Therapy)を追加していく過程で、大きな変化があったといいます。(作業療法は人の感情的、社会的、身体的ニーズに影響を与える障壁を下げるための療法)。

「基本的に娘の行動が全く変わったのよ。前庭は私達の身体を統制する窓口のような器官だけど、それが正常に働いていなかったのね。だから、脳から出た司令を体に伝えるシステムが上手く機能していなかった」

脳は身体が受ける感覚的な刺激を統制していますが、その情報が脳にきちんと伝わらないと、闘争か逃走か反応(fight or flight)、フリーズ反応(freeze)、疲労感覚(fatigue)のシステムが誤作動してしまうといいます。緘黙は喉がしまったような感じになって声がでないのが特徴ですが、一部の緘黙児がそうであるように娘さんも体全体が硬直。また、感情の統制がうまくいかず、学校から帰ると癇癪を爆発させ、社会的な場に出ると疲労が激しかったとか。

それ以外にも、課題が見えてきました。

「娘にはまず自分自身の感情を理解する必要があった。それから、人の感情を理解することも」(ジョリーンさんは子どもの情緒面の発達を支援することの大切さを訴えています)。

「6歳のころに人の絵を描かせてみたら、大きな頭から短い手足が直接出ているだけ。胴体も首もなかった。普段の行動からみて、空間における自分の身体の位置がきちんと把握できていないようだったわ」

作業療法を続けることで、娘さんの不安の根底に何があるかを理解できたといいます。「話せないことは氷山の一角でしかない。それがよく解ったの」と回想。そこからは、薬も考慮に入れた総合的なアプローチに目を向けたそう。その過程で出会ったのが発達心理学者、スタンレー・グリーンスパン博士によるDIRモデル(ASD児の治療プログラムとして有名)でした。

緘黙児の中には音声や言語、コミュニケーション、感覚処理、運動機能、視覚空間など様々な問題を抱えている子がいます。その複雑さ考えると、障害のすべての側面に対処するDIR/ Floortime のような包括的な治療モデルが必要。

それぞれの子どもの発達に合わせて、音声や言語、運動や感覚の処理などを含む個人差を考慮したうえで、家庭・学校・地域での相互関係を通じて、社会性や情緒面の発達をサポートしていく。それがジョリーンさんの治療方針です。

追記:

緘黙児でなくても感覚過敏があったり、ちょっと体が硬かったり・バランス感覚が悪かったり、文字を書くのが苦手だったり、というようなことがあるかと思います。イギリスの公立学校では、5歳になる歳で入学。1年目はレセプションと呼ばれ、1年生になる前の準備コースのような感じです。

この学年中に、入学した子どもたちに対して、ひとりずつ身体面・情緒面(社会面を含む)・言語面・学習面(数字の観念や指示に従えているかなど)などの発達状態を調査。気になる点がある子に関しては、SENリストに載せ、保護者に連絡を入れ対策を考えます。

例えば、息子のクラスでは35人のうち半数以上がリストに。ASDや身体的な障害を持つ子から、話し言葉が不明瞭だったり、友達に譲ることができないといった情緒的な面まで幅広くカバーされていたよう(息子ももちろん入っていて、小児クリニックで診察を受けたため、IEPは「アクション+」という評価でした)。

SENリストに乗った子は、学期中は要観察。問題がないと分かるとリストから外され、レセプションが終わるころには半数以下になりました。

学校とNHS(国民保健制度)が連携しているため、気になるところがあれば学校を通じて保護者や医療機関に連絡が行きます。家庭では少々問題があってもそれを個性と捉え、保護者が気づかないこともあるかと思うので、このシステムは利点が多いと思います。

<関連記事>

SM H.E.L.P主催者、ケリーさんのスモールステップ(その1)

SM H.E.L.P主催者、ケリーさんのスモールステップ(その2)

第2回  場面緘黙H.E.L.P.オンラインサミットから(その1)

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

第2回 場面緘黙 H.E.L.Pオンラインサミットから(その1)

イギリスでは相変わらず雨模様のさえない天気が続いています。それでも、昨年コロナで中止になったイベントが、今年はポツポツ再開されるように。先の日曜日、昔住んでいた町のフェスティバルで個人宅の庭が複数公開されたので、曇り空のもと庭巡りに行ってきました。

<5月中旬に開催されたオンラインサミット、第2回Selective Mutism H.E.L.Pから>

◎ゲイ・ジェイムスさん:保護者で緘黙本『Living beyond Silence』の著者

ジェイムスさんの息子、トレバー君が場面緘黙を発症したのは4歳のころ。今から20年近く前のことで、アメリカでもまだ専門家は殆どいませんでした。

別州で緘黙治療の経験がある小児心理士を探し当て、まず「しゃべるか、しゃべらないかで大騒ぎしないこと」とアドバイスを受けました。残念ながら治療はうまく行かず、自ら支援に乗り出すことに。多くの資料を参考に、手探りしながら下記の支援を行っていきました。

最初に行ったこと(幼児期)

  • エクスポージャー法で不安に向き合う機会を多く作る
  • フラストレーションを発散できるよう、スポーツクラブなどに参加させる
  • 同年代の子どもと接する機会を作る

友人や家族への説明

  • いくら説明しても解ってくれない人はいる。全員を説得するのは無理
  • 緘黙児は周囲の反応に敏感なので、子どもがいる場では話題を変える(「今日は話すの?」と的外れな反応をし続ける人もいたとか

園・学校が楽しいところだと教える

  • 兄がいたため、学校がどんなに楽しいかを話して聞かせていた(話さなくても友達は多かったそうで、「いい聞き手だったんだと思う」と回想)

園・学校と情報を共有する

  • 園の先生たちが緘黙に気づき、どうしたらいいか訊ねてきた(「無理に話させないこと」と伝えることができた)

帰宅後のメルトダウン(怒りやフラストレーション)対策

  • 一人になれる時間・空間が必要
  • 子どもの気持をなだめてくれる活動・対象を探す(好きだった絵を習わせ、音楽や身体を動かす活動にも参加させた)
  • 猫を飼うことで、帰宅を待ちわびるようになった

家では普通に行動し話せているのに、なぜ外では他の子と同じようにできないのか?自分の子どもに障害(心の病)があると認めるのが難しかったそう。

大きなターニングポイントが来たのは7歳のころ。誰とでも話せる訳ではありませんでしたが、先生から名前を呼ばれると応えられるように。それからも、親子での取り組みは長く続きました。

ジェイムスさんの著書『Living beyond Silence』の表紙は、グラフィックアーティストになったトレバー君の手によるもの。闇の中に立つ少年は、自分が緘黙だった頃のイメージを描いたそう。その先には明るい光があり、適切なステップを踏めば未来は明るいことを暗示しています。

現在、トレバー君は家を出て自立し、主に音楽活動を通して世界中を旅しているとか。話すことには全く問題はありませんが、緘黙は不安障害のひとつ。将来も不安が消え去ることはないだろうとジェイムスさんは考えています。

ジェイムスさんの話で特に印象に残った箇所:

1) 場面緘黙の資料や情報を集めた時、息子の立場で考えることができるようになった。大きな不安のために、声が出せないのだと共感できた。子どもがどれだけ苦しい思いをしているか――まず共感してあげることが重要。「あなたの気持ちは分かるよ」「長い間声を出せなくて、フラストレーションがたまるよね」など、頻繁に声掛けすること。

2) 子どもの気持ちを蔑ろにしないよう十分注意が必要。不安を感じたり、人目を気にしたりする子どもに、「そんなこと気にしなくていい」「そんな風に思わなくていい」というのは逆効果。自分の子どもでも、人として尊重してあげて欲しい。

3) 自分達だけで治すのは無理。子どもが不安に感じる場面で話すチャレンジをするには、周囲の協力が必要不可欠。保護者だけでは解決できない問題なので、話せる人のサークルに参加したり、第三者の専門家を巻き込むことが重要。

(ここからは私の感想です)

大人でもそうですが、口に出して共感してもらえると嬉しいものです。特に、今は世界中がコロナ禍であまり明るいニュースがない状況。緘黙児は周囲の空気に敏感なので、自分を取りまく不穏な空気に大きな不安を感じているかもしれません。厳しいロックダウンを何度も繰り返してきたイギリスでは、専門家が子どものメンタルヘルスの悪化に警鐘を鳴らしています。

日本には言葉に出さずに人の気持ちをくみとる文化が根付いていますよね?はっきり言うと角が立つことも多いし、親しい仲だと「そんなの言わなくても解る」と思いがち。反対に、欧米では「ちゃんと言わないと伝わらない」文化で、カルチャーチョックを受けたことも多くありました。「言ったもん勝ち」感も強いです(笑)。

イギリスでは母親が子どもに対して、「愛してるよ」「ダーリン」などと、常に愛情を言葉で表現します。子どもが何かできた時は、もうべた褒め(笑)。初めて見た時はちょっと抵抗感があったのですが、子どもが安心でき、自信を持つのに寄与してるかなと。「一度言ったからもう解っているはず」と思わず、何度でも言葉がけをして安心させてあげたいものです。

なお、この記事はかんもくネットが発信しているnoteの記事に手を加えたものです。

https://note.com/kanmoku_net/

<関連記事>

SM H.E.L.P主催者、ケリーさんのスモールステップ(その1)

SM H.E.L.P主催者、ケリーさんのスモールステップ(その2)

にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

どうして場面緘黙になるの?

6月もすでに半ばを過ぎてしまいました。イギリスではロックダウン中の4、5月と記録的に晴天が続いたのですが、6月に入った途端に例年並みの変わりやすい天候に…。毎日のコロナ感染者も死者も、まだまだ安心できるレベルまで減少しておらず、第二波が心配です。

  3週間ほど前、パーゴラの両脇に植えた白薔薇の根本に大穴が!我が家の庭に毎晩キツネがやってきて、悪戯していくのです…。苦肉の策で、キツネ除けバリケード(夜間用)を考案しました(^^;)

…………………………………………………………………………………………………………………………..

自分の子どもはいつ、どのように場面緘黙になったのか? 実は、思い当たるふしがないという保護者が多いのだそう。

今回の講演の中で、マギーさんが緘黙の引き金要因について説明され、なるほどと思いました。

家族は引き金となった出来事や原因を突きとめようと過去を遡り、「これに違いない」と見当をつけているかもしれません。でも、実はそうでない場合も多いようです。子ども自身も覚えていないかもしれません。

不安障害のひとつである場面緘黙は、恐怖症と同じメカニズムを持つ。

恐怖症を発症する3つのメカニズム

  1. Transference(転移)
  2. Modelling(モデリング)
  3. Direct Association(直接的な関連付)

1.Transference(転移)

殆どの緘黙児は話せない人・場所・活動が決まっているが、実のところ特定の人・場所・活動自体が怖いのではないことが多い。祖父母や先生など、大好きで話したいのに、喉が閉まったようになって声がでない。

この「話すこと自体が怖い」という不合理な恐怖症はどこから来たのか?

本来、恐怖を感じたのは「話すこと」ではなかったが、不安でパニック状態になっている時に、「話すこと」が恐怖の対象として結び付いてしまう(転移)ケースが多い。

引き金になる出来事が起きた際、親や家族が傍にいなかったケースが多いといい、原因がつかめないのもうなずける。

例えば、見知らぬ場所やショップなどで、子どもが親や家族を見失ったとする。子どもは頭が真っ白になり、心臓がドキドキしてパニック状態に。そんなところに、見知らぬ大人がやってきて、親切心で矢継ぎ早に質問を浴びせかけられたら?

子どもは喉が閉まったようになり、質問に応えることができず、恐怖は更に大きくなる。この「何か言わなきゃいけないのに、声が出ない」という体験が恐怖と結びついてしまう(転移)。

この恐怖体験をしばらくは忘れていることが多いが、次に親が傍にいない時に見知らぬ大人に話しかけられると、以前体験した恐怖と「声が出ない」状態が蘇る。これを何度か繰り返すうちに、子どもはどんな場面でこの恐怖に遭遇するかを学習し、極力そうなる場面を避けるようになっていく。

2. Modelling(モデリング)

子どもは頼りにしている人の言動を見て学習する。例えば、兄姉が話すことを恐れ・回避しているのをずっと見ていると、弟妹も「話すことは怖い」と思い込み避けるように。また、移民で内気な親が親族としか交わらず、家庭外(学校を含む)で英語を話したがらない様子を見て育ったケースなど。

3. Direct Association(直接的な関連付)

「話すこと」自体に恐怖を覚えたケース。例えば、話している時にからかわれたり、批判されたりした場合。また、不安な状態の時に、何かを言うよう強要されるような体験をした場合など。

<関連記事>

緘黙と恐怖症

早期発見・治療の重要性

あっという間に時間が過ぎて、またまた更新の間が空いてしまいました。ふと気づいたらすでに5月も半ばちかく――いつの間にか前庭のイングリッシュローズの一番花が咲いてました。ここのところ20度を超える日が続き、春爛漫の花薫るような気候です。

IMG_7691

Mary Rose の一番花。今年はピンクの色がちょっと濃いみたい

IMG_20160510_141008IMG_20160513_163316

ご近所を歩いていると、色々な花との出会いがあります

ところで、しばらくブログを見ないうちに、いきなり文字の色が薄くなっているのに気づきました。字がボヤケてしまい、読みにくくてすみません!多分、WordPressをアップグレードした段階で問題が生じたと思うのですが、主人にきいても原因が判らず…。どうしようもないので、今回は太字にしてみました。

さて、4月20日に参加した場面緘黙ワークショップでは、「障害(disorder)」という言葉がすごく引っかかりました。Hクリステンセンによる研究データ(『場面緘黙のワークショップに行ってきました』を参照ください)を見ると、「分離不安障害」や「社会不安障害」など、併存する症状には殆ど “障害(Disorder)” という言葉がついています。

クリステンセンの論文の抄録をチェックしたところ、対象となった54名の子どもの年齢には触れてないよう。発症年齢を考えると、3~12歳くらいと思うんですが…。併存する障害があるかないかの判断は、DSM4を基準にして、子どもへのアセスメントと親への調査を通して行われたとあります。

併存している症状が、厳密に「障害」と名がつくほど深刻だったのか?話さない子どもに対して厳正な診断ができたのかどうか?また、何歳くらいの子どもが多かったのか?いろいろ気になります。

これに対して、年齢順に併存症をならべたマギーさんとアリソンさんのデータを見ると、最初の4項目(年齢が幼い順から)は「分離不安」や「全般性不安」など、”障害(Disorder)”という言葉がついていません。

「~症」と「障害」の違いについてマギーさんに質問したところ、「簡単にいうと、深刻な症状が長期に渡って持続し、生活に支障をきたすレベルが『障害』」ということ。例えば、「社会不安障害」だと、DSM-Vでは深刻な社会不安の状態が6ヶ月以上続く場合と定義されています(詳しくは『専門家に相談する必要性?』をご参照ください)。

2年ほど前に、《9歳の壁》について書きました(詳しくは『告知するかしないか(その3)』をご参照ください)。小学校の中・高学年になると、場面緘黙の治療は難しくなるといわれています。その理由は、プレ思春期に入る9歳頃から、子どもはものごとを対象化してみることができるようになり、自分と周囲を意識しはじめるため。その時点で、すでに何年も緘黙状態が続いて「話さない子」のイメージが固定化してしまい、自意識も強くなるため、話し始めることがより困難になるのです。

マギーさんとアリソンさんのデータにも年齢は書かれてないのですが、子どもが自分を客観視できるようになり、周囲と比べることが多くなるこのプレ思春期あたりから、併存する症状が悪化する可能性があるのではないか――そう思い当たりました。

例えば、入園したばかりの園児の中には、初めて母親と離れて大泣きする子がよくいますよね?それでも、大体の子は1ヶ月くらいで園に馴染みはじめるんじゃないでしょうか?こういった子ども達は「母子分離不安」はあるものの、「障害」まではいってないはず。

(1ヶ月以上経っても全く母親から離れられず、ストレスで心や体に不調が出てくるようであれば、「障害」になるのかな?その場合は、専門家に相談したり、入園を見合わせる必要もでてくるかと思います。年齢的な目安はありますが、子どもは一人ひとり違うので、我が子からのサインを見逃さないことが重要になってきそう)。

マギーさんとアリソンさんのリストをみると、「障害」という名がつく不安症は最後から2番めの「社会不安障害」。順番からいって、幼児期ではなくプレ思春期~思春期のころかなと想像できます。幼児期でも社会不安を感じている子は多いはずですが、それは家庭とは違う学校や園の雰囲気、知らない大人達に対する、感覚的・生理的なものが大きいんじゃないでしょうか?

それが、プレ思春期や本格的な思春期に入ると、より深刻化する可能性がでてくるように思います。その理由は、社会不安障害の定義は、「他者から否定的な目で見られたり、否定的な評価をされることへの恐怖や不安」というものだから。周囲の目が気になるようになり、自分についてより深く考えることができるようになってはじめて、「他者から見た自分の評価」を下すことが可能になるからです。

子どもの体と心が急激に変化する思春期は、誰もが悩みや葛藤を経験する時期。不安になりやすく繊細な緘黙児は、緘黙だけでなく併存症を抱えていることが多いのに、それに加えて、思春期特有の葛藤を抱えながら毎日を過ごさねばなりません。それが、かなりのストレスとなり、併存症が悪化しても不思議ではないと思うんです。

場面緘黙は早期発見・治療が重要といわれますが、それは緘黙の併存症を悪化させないことにも繋がるのではないかーー今回のワークショップで感じたことのひとつです。

<関連記事>

場面緘黙のワークショップに行ってきました

場面緘黙と他の不安障害の関連性--場面緘黙のワークショップから

専門家に相談する必要性?

告知するかしないか(その3)

 

場面緘黙と他の不安障害の関連性――場面緘黙のワークショップから

前の記事『場面緘黙のワークショップに行ってきました』の続きです。

ここからは、場面緘黙と他の不安障害の関連性について、ワークショップで学んだことと、私が思ったことを書きますね。

データ1については出典が定かでないのですが、発達的な障害は除外して、情緒的な障害に的を絞っているようです。データ1と2の「不安障害全般」を比較すると、61-97%と74%で同じような傾向といえます。緘黙児には、不安になりやすい抑制的な気質の子が多いことが解っていますが、それを証明する数字ではないでしょうか?

2つのデータからみえてくるのは、場面緘黙の子どもや大人は、場面緘黙+別の不安障害を発症している確率が70%くらいは(あるいはそれ以上)あるということ。アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアルの最新版、DSM-V (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) では、「場面緘黙」は不安障害に分類されています。ということは、同じ不安障害のカテゴリー内で、「場面緘黙」に加え、多くの子どもや大人が「社会不安障害」や「分離不安」などを併行して発症しているのです。

そんなこと当たり前と思われるかもしれませんが、

不安になりやすい気質 → 様々な不安障害になりやすい

ということを心しておくべきではないでしょうか?(もちろん、生まれ持った気質や発達の問題、育った環境、人間関係などが影響してくると思いますが)。

合併症ではなく併存症という言葉が使われているので、「場面緘黙」になったから、それが原因で「社会不安障害」など他の不安障害になる訳ではありませんよね…。どちらかというと、不安になりやすい子どもが、社会的な場面に適応できなかった場合、何らかの不安障害を発症したり、複数の不安障害を併せもつ傾向が強いといえるのではないでしょうか?

(Wikiで調べると、

合併症:「あ病気が原因となって起こる別の病気」または「手術検査などの後、それらがもとになって起こることがある病気」 

併存症:「異なる病気が時系列に関係なく起こる」)

マギーさんが強調していたのは、「場面緘黙」と「社会不安障害」などの他の不安障害は、異なるということ。一般的に緘黙児には社会的な不安が強い子が多いですが、社会不安が悪化して「社会不安障害」になった時、別の独立した障害として、緘黙と切り離して考える必要が出てきます。

  • 場面緘黙:人前で話すことに対する恐怖や不安
  • 社会不安障害:他者から否定的な目で見られたり、否定的な評価をされることへの恐怖や不安

IMG_20160420_152306

“場面緘黙の権威”として知られる、マギー・ジョンソンさん

例えば、不登校を考えてみると、緘黙だから不登校になる訳ではないですよね?学校や園の環境が整っていれば、緘黙児は毎日普通に学校に通い、普通に学校生活を送ることができるはず。不登校になる背景には、社会不安障害や何らかの恐怖症が潜んでいるのではないでしょうか?

場面緘黙治療や取り組みは、子どもの持つ「不安」にスモールステップで対処し、自己評価を高めていく、(認知)行動療法が主流。これは他の不安障害にも有効なようです。特に、早期発見・治療ができれば、その後の学校生活に問題が残らないことが多いよう。ただ、緘黙は治っても、併存していた他の不安障害が同時に治るとは限りません。特に、緘黙期間が長く続くと、併存症を発症する傾向が大きくなるように思います。ただでさえ心のバランスが崩れやすい思春期に、緘黙を抱えていることが大きなストレスになるのは想像に難くありません。

もし「社会不安障害」や「パニック障害」などが残ってしまった場合は、程度にもよりますが、そのための治療が必要になってきます。「後遺症」だから仕方ないと諦めず、早い段階で心理士やセラピストに相談してみてください。

<関連記事>

場面緘黙のワークショップに行ってきました

場面緘黙のワークショップに行ってきました

先週から、なにやらバタバタ忙しくなり、また更新が遅れてしまいました。なので、今回の記事の内容ももう1週間以上前のこと…時間が過ぎるのが早いです!

先週の水曜日、SMiRAが主催した場面緘黙ワークショップのエクステンションレベルに参加しました。講師は『場面緘黙リソースマニュアル』の共著者、言語療法士のマギー・ジョンソンさんとアリソン・ウィンジェンズさん。

IMG_20160420_111650

講師のアリソン・ウインジェンズさん

2日間の集中コースでしたが、基本的な対応を学ぶコアレベルは3年ほど前に済ませたので、今回は複合的な場面緘黙やティーンの支援に焦点をあてたエクステンションレベルに挑戦。この日の参加者30名のうち、両日参加した人が9割を占めました。言語療法士、教師、TA、看護師といった専門家が多かったです。

ちなみに、私の隣に座っていたのは、ポーランド出身でアイルランド在住という緘黙児のママ。ポーランド人のための支援グループを立ち上げ、今や会員が2000人近くいるとか。彼女の隣には、わざわざポーランドからやってきた言語療法士が2人。国内に場面緘黙の専門家がいないということで、彼らの熱意が伝わってきました。

ところで、3月14日に『ポーランドから場面緘黙の画期的な治療法?』という記事を書いたんですが、いまひとつピンと来ず。お隣さんに訊ねてみたところーー「私は信用していない!」と否定的な返答が…。実際のところはどうなんでしょうね?

 

さて、話を元にもどすと、今回のワークショップで興味深かったのは、場面緘黙と併存症、それぞれの対処方について。まずは、併存症とその発症率について、3つのデータを紹介します。

データ1:場面緘黙に併存する症状と併存率(概要)

□ 不安障害全般 ― 全体の61-97%

  • 社会不安障害(SAD)― 約65%
  • 分離不安 ― 12-32%
  • 特定の恐怖症 ― 30-50%

□ 反抗性障害 ― 6-10% (平均より高め)

  • 軽度の反抗的な兆候 ― 非緘黙児における不安障害の割合と同じ

*注:反抗性障害の認識は、教師よりも保護者の方がが少ない

*みく注:多分、イギリスにおける最新の統計かと思うのですが、資料にはこのデータのソースがついておらず出典は不明。できたらマギーさんに質問しようと思ってます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

データ2:Hクリステンセン(2000年)による併存症と併存率/(研究対象:54名の緘黙児)

発達障害全般 ― 69% (うち調節障害 13%)

□ コミュニケーション障害 ― 50%

  • 音韻障害 ― 43%
  • 受容-表出混合性言語障害 ― 17%
  • 表出言語障害 ― 11%

□ 排泄障害 ― 30% (うち調節障害 9%)

□ 発達性協調障害 ― 17%

□ アスペルガー(ASD児は除外) ― 7%

□ 軽度の学習障害 ― 8%

不安障害全般 ― 74%

  • 社会不安障害(SAD) ― 68%
  • 分離不安障害 ― 32%
  • 全般性不安障害(GAD) ― 13%
  • 特定の恐怖症 ― 13%
  • 強迫性障害(OCD) ― 9%

★全体の46%の子どもが発達関連の障害と不安障害を併存

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

データ3:マギーさんとアリソンさんの治療現場から見た併存症

  •  分離不安
  • 全般性不安
  • 問題行動
  • 他の恐怖症
  • 自閉症スペクトラム(ASD)
  • 社会不安障害(SAD)
  • 自傷/ うつ

*注:幼児からティーンまで、年齢の低い順から顕著な症状を並べています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ちょっと長くなりそうなので、次回に続きます。