日本では発達障害と見なされやすい?(その2)

初めて会う言語療法士が、緘黙の子どもに学校で言語テストを行なえるのか?

地区によっては、言語療法士が家庭を訪問してくれるケースもあるということ。また、子どもが全くしゃべらなかったり、緊張で固まってしまった場合は、言語療法士が何度か学校に通って慣れさせてから、というケースもあるようです。

重要だと思われるのは、言語療法士が学校を訪問する際、SENCO(特別支援コーディネーター)と担任やTAを交えたミーティングを行なうこと。学校での様子、保護者から得た家庭での様子など、現場からの子どもの情報が伝わります。言語療法士が教室で子どもを観察することも多く、言語テストのみでなく、子どもの全体像を把握したうえで、発達障害を疑うべきかどうか判断しているようです。ここに保護者も加わるのが理想ですが、ケースバイケースでしょうか…。

イギリスの言語療法士って、優しい雰囲気の女性が多いように思います。子どもの扱い方にも慣れているので、緘黙児が緘動になりにくいかもしれない。また、小さい子の場合は、テストに絵カードを使うので、指差しで答えることが可能です。

息子はというと、5歳3ヶ月の時に言語療法士に会いました(緘黙になってから10ヶ月後くらい)。息子を別室に呼び出して、1対1で言語テストを行なったようです(学校の手違いで、保護者の私達には事後報告でした)。

●言語テストの内容 Derbyshire Language Scheme Picture Test使用

A) 注意力&聞く力

視線は合うか、集中力はどれくらいあるか、指示に従えるかなどをチェック(社会性やコミュニケーションスキルもチェックしていると思われます)

B) 話し言葉に対する理解力(英語)

絵カードを使って、理解力のレベルをチェック

B) 話し言葉(英語)

絵カードを使って、話し言葉のレベルをチェック

テストでは指差しOKですが、息子は初めから囁き声がでたようでした。この当時、仲の良い友達ひとりに囁ける程度まで回復していました(放課後、友達を家に呼んで遊ばせる”Play Date”が効果的でした)。また、TAと1対1の読本の時間(15分)には、小さな声が出せてました。

言語療法士からの報告書によると、テストは絵カードを中心に、それほど難しくないものを選んだとあります。この頃には、既に私からSENCO(特別支援コーディネータ)へSMIRAの資料を提出済み。緘黙児は試されることを嫌い、それが解ると不安が増すことを考慮して、遊びに近いテストにしてくれたようです。

結果を聞いて笑ったのですが、私の苦手な前置詞や冠詞の使い分けができてないと…。当時、英会話の相手はほとんど私だったので、そのせいですね(反省)。それから、時々文章中で動詞が抜けるとも。基本的なことは理解できているし、文章で答えられるけれど、年齢に見合う言語能力があるかどうかは、将来きちんとテストする必要があるということでした。

別のエントリーで詳しく書きたいと思っていますが、息子の場合は既に発達テストを済ませていた(発達障害ではないという結果でした)ため、心理士への紹介はありませんでした。

う~ん、これでは初めて会う言語療法士が、緘黙児に学校で適正な言語テストをすることができるかどうか、の答えになってませんね。

ただ、日本では学校と家庭、相談機関、医療機関が連携していないところに問題が潜んでいるように思えます。学校、家庭、専門家から見た子どもの全体像がちゃんと把握されているのかな、と…。

それから、日本の学校とか病院とかの公共施設って、とってもよそよそしい感じがするんですよね。イギリスの小学校に行ってみて驚いたのは、校舎の壁に子どもの達が描いた壁画があったり、教室はもちろん、学校のあちこちに子どもの作品がいっぱい飾ってあって、ものすごくデコラティブ(笑)。これも、それほど緊張せずに言語テストができる理由かもしれません。

教室では、通常6人程度のグループ別に席が設けられ、授業によって席を変えたり、ホワイトボードを使った授業では、全員がカーペット敷きの床に座って学習することも多いです。インファントと呼ばれる幼児部(5~7歳)では、自分の机はありません。ジュニア(8~11歳)にあがると、やっと自分の机がもらえるのです。そして、教科書は学校においてあって、時々使う程度というのが驚きでした!

通常は6人くらいのグループで一緒に学び、全員で学習する時は床に座ることも多いですね。また、ロンドンでは人種のバラエティも豊かです。

イギリスの小学校の授業風景1(写真だけ参照してください)

イギリスの小学校の授業風景2(写真だけ参照してください)

どうですか?日本の小学校のように整然とした雰囲気とは、全く違いませんか?日本から駐在員のお子さんが転校してくると、よく「イギリスの学校は楽」と思うらしいんですが、本当にそういう感じなんですよ。先生もフレントリーだし(笑)。だから、イギリスでは緘黙児が緘動になりにくいのかな、とも思います。

あと、複数の心理士に訊いたんですが、発達障害、特にASDかどうかを見分ける時、イギリスではWISCのようなIQテストはしないようなんです。日本ではWISCの結果を見て、できることとできないことの凸凹が大きいと発達障害という風になってるみたいですが…。

私はどうしても息子の特性傾向が知りたくて、7歳4ヶ月の時に心理士にWISCテストをしてくださいとお願いしました。すると、「ASDかどうかをチェックするのは、別のテストです」と。そして、親子面談と個人面談(質疑応答の他、絵を描いたようです)でスクリーニングをした結果、年齢に合った社会性とコミュニケーション力があるという理由から、再びASDではないとの診断がおりました。

息子は感覚過敏で、苦手なこと、新しいことをするのにものすごく抵抗があり、私からみると、かなりこだわりが強いように感じていたんですが…。こだわり+感覚過敏=発達障害という図式ではないような…。自閉症の特徴である3つ組(想像力の障害+社会性の障害+コミュニケーションの障害)が組み合わさって、初めて発達障害となるのかな、と推測してます。

話があちこちにそれて申し訳ないですが、またまた次回に続きます。

 

日本では発達障害と見なされやすい?(その1)

仮説1: A)日本では場面緘黙が広汎性発達障害と診断されやすい傾向にある

まず、場面緘黙が疑われる場合、どんなルートで診断されるのかイギリスと日本で比較してみたいと思います。私はこちらでの経験しかないので、間違っていたらご指摘ください。

●イギリスの場合

通常、場面緘黙かどうかを見分けるのは言語療法士

まず言語療法士により、言語能力テストが行われる。発達に何らかの問題があるかもしれないと判断した場合は、心理士に連絡が行き、必要があれば発達テストが行われる。(”The Wandsworth Care Pathway for Selective Mutism” 参考。これは、ロンドンのワンズワース地区における場面緘黙治療のケアルートを示した資料です)。私の見聞きしたところでは、緘黙児が発達検査を受ける事はあまりないようです。

ちなみに、イギリスでも全国的に定められたケアルートや支援方法がある訳ではなく、地区やそれぞれの学校によって異なっているのが現状です。SMIRAの本拠地であるレスターシャー州と言語療法士マギー・ジョンソンさんが働くケント州では、特にシステムが整っています--というか、彼らが頑張って整えたのですが。同じロンドン市内でも住んでいるエリアや学校で受けられる支援がかなり違うので、宝くじのような感じですね…。

●日本の場合

場面緘黙かどうかを見分けるのは、児童相談所や発達センターなどの相談機関や医療機関に所属する医師または心理士、相談員(?)(正式な診断ができるのは医師のみ)

まず、保護者は相談機関を訪ねたり、学齢期の子どもの場合はスクールカウンセラーに相談することが多いという印象があります。そこで紹介されて、医療機関を訪ねることになるのかな?緘黙児にWISCなどの発達検査をする傾向が強い印象があるんですが、違っていたらご指摘ください。

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息子の場合は、学校側に場面緘黙の知識がなかったため、最初に小児クリニックの門を叩きました。ですが、通常は学校に言語療法士が来て子どもの様子を観察してから、言語能力テストをすることになると思います。イギリスでは学校と地区の医療機関が連携していて、特別支援教育を受ける子ども達のために、心理士や言語療法士などのセラピストが定期的/不定期的に学校に来てくれるのです。

言語療法士が学校でどうやってセッションをするかというと、授業中に子どもを連れ出して、別室で個別のアセスメントやセラピーを行なうんです。私にはとっても不思議なんですが、楽器の個人レッスンも各教師が学校へ出張してくるんですよね。授業を抜け出して15分~30分のレッスンを受けるんですが、勉強が遅れないか気が気ではありません。でも、それが普通です。地区の陸上競技会やコンテストなどでも、選ばれた子が授業を抜け出して参加したり…。

余談ですが、だからこそ子ども達は特別支援を受けている子どもに、それほど違和感がないのかもしれません。誰かが授業中に抜けるのが普通なので、「あっそう」という感覚なのかなと。教室内もいつもガヤガヤしてるし、基本的にグループ学習だし。その点では、日本で緘黙児が言葉の教室に通う方が、心理的に大変じゃないかなと思います。

長いので、ここで一旦切りますね。

関連記事:緘黙は発達障害なのか?

緘黙は発達障害なのか?

 

子どもの場面緘黙を知った時、親がまず心配するのは「治るのか?」ということではないでしょうか?私はその次に、場面緘黙は発達障害なのかどうかがすごく気になりました。

というのも、息子が緘黙だった2005年~2008年当時、日本の多くの緘黙児に広汎性発達障害や発達障害の傾向があるという診断が下りていたからです。何となく、「場面緘黙=広汎性発達障害かそのスペクトラム」という風潮があったような気がします。そのことは、「場面緘黙とは?」(その2)でも触れました。

ちなみに、イギリスでは広汎性発達障害(PDD/Pervasive Developmental Disorders)という言葉は殆ど聞きません。昔、SMIRA代表のアリスさんと話していて、PDDという言葉が通じなかったことがありました。小児クリニック等での体験からいっても、こちらでは自閉症スペクトラム障害(ASD/Autistic Spectrum Disorder)を使うことが多いようです。現在では日本でもそうなりつつあるようですが。

掲示板や保護者会、講演会から判断すると、SMIRAでは純粋な場面緘黙児が主流という印象を受けます(残念ながら、どの程度の割合なのかは調査できていないそうです)。従って、自閉症スペクトラム障害の二次障害としての緘黙については、あまり話題になりません。子どもにASDの傾向ありとの診断がおりた、という話は割と例外的なのです。

「これはどうしてなんだろう?」と、長いこと不思議に思っていました。日本では広汎性発達障害を併せ持つ緘黙児が多くて、イギリスでは少ない--国によって違うのでしょうか?そんなはずはないですよね。他国においても併存のケースは聞きますが、日本ほど多くない印象を受けます。

昨年5月、マギー・ジョンソンさんのワークショップで質問してみたところ、「場面緘黙=ASDではない」という答えが返ってきました。でも、ASDを抱える緘黙児は一定数いるということ。詳しい数字は判らないけれど、その割合はそれほど高くないと思うということでした。特性に類似したところもあるため、ASD児への対応策が緘黙児にも効果的なことがあるとも(例えば、新しい場所や出来事に適応しにくいため、事前に予行練習をするなど)。

(アメリカ精神医学会のDSM -VやICD-10(国際疾病分類)では、自閉症スペクトラムや学習障害などがある場合、場面緘黙は二次障害として扱います。でも、マギーさんは併存の場合もあえて場面緘黙のカテゴリーに加えているそう)。

5年ほど前に、ロンドン大学で教育心理学を教えているトニー・クライン教授とお話する機会があったのですが、教授は「場面緘黙とASDは別」という考えでした。理由を訊くと、「どちらも不安が背景にあるが、不安の質が違う」ということ。(例えば、ASD児が先のことを想像できない不安に対して、緘黙児は先のことを想像して不安になる)。

クライン教授やSMIRAはDSMを基準にしているため、ASDと診断されている子どもは除外されていると考えられます。でも、SMIRAではASD児をスクリーニングしている訳ではないので、会員の割合のコントロールはできませんよね。

日本では、疑がわしいケースは広汎性発達障害と診断する傾向が強いのではないか?また、イギリスの学校ではASD児への支援が充実しているため、二次障害としての場面緘黙が出にくいのではないか、というのが私の仮説です。

また、場面緘黙の定義に注目すると、「話せる人とは年齢にあった会話力&ソーシャルスキルを持っていること」を前提としています。母親が子どもと日常会話を交わしていて、子どもが年齢にあった会話力&ソーシャルスキルを持っているかどうか、判断できるでしょうか?ごく小さい子ならわかりやすいと思うのですが、年齢があがってくると親とろくに話もしない子どもも多くなってきます。

日本語の持つ構造や「察し」の文化のために、子どもの会話能力やソーシャルスキル能力を判断しにくいのではないか、というのがもうひとつの仮説です。

あちこち話が飛んでしまいましたが、これからこの3つの仮設について考えていきたいと思っています。

関連記事:言語療法士マギー・ジョンソンさん

関連記事:ロンドン大学教育心理学教授トニー・クライン氏