場面緘黙と自閉症スペクトラム障害(ASD)SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その8)

3月も後半になり、イースターの長期休暇まであと1週間。急に暖かくなったかと思うと、また気温が下がったりして、寒暖差が激しい今日このごろです。

     でも、野外はすっかり春の様相。花屋さんの店先は季節の花々があふれています。

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さて、またまたSM H.E.L.P. 秋サミットの続きです。今回はSMとASD併存のケースについて。

クレア・キャロルさんは教育心理学者として20 年近いキャリアを持ち、英国マンチェスターの One Education に所属。教育現場における神経多様性のある子ども達のためのプロジェクトに参加している。ASD(自閉症スペクトラム障害)の息子さんにSM(場面緘黙)の症状があったため、2014 年に場面緘黙の追加トレーニングを受講。2017 年に英国の場面緘黙支援団体 SMiRA の理事に就任している。

2018年北欧で発表された論文からの抜粋

ステファンバーグ等の研究(『ASDとSMを併存する児童(Children with Autism Spectrum Disorders and Selective Mutism: Steffenburg H, Steffenburg S, Gillberg C, Billstedt E. )』によると、北欧におけるSM発症の平均年齢は 4.5 歳。診断時の平均年齢は 8.8 歳でした。男女比では女子の方が多く(男子: 女子 = 2.7: 1)、研究グループの63%(2/3)がASD(男女差なし)であることが判明。 ASDを併存するSMグループは、症状の発現が遅く、診断時の年齢が高く、言語遅延の病歴はより多く、境界線IQまたは知的障害の割合が高いという結果が出ています。

ASDと場面緘黙の併発率について

イギリスではつい最近までASDとSMが併存するという診断を下しにくい状態にありました。これは、ASDが一次障害として上位診断されていたためです。

SMiRAが現在行っている調査によると、参加した264名の家族のうち自信を持って緘黙のみと答えたのは全体の28%。 残り72%の家族は他の疾患を併発していると考えており、その中ではASDの疑いが最多。その内、85%は診断がおりておらず、62%がASDの診断中・または診断待ちの状態です。

ASDで話さない子と、ASDとSMを併発している子との違い

Non-Verbal (言語を伴わない)のASD児はどこでも話せませんが、ASDとSM併存の子どもは場所によっては話せるという明確な違いがあります。SMの基準は全く話せないということではなく、普段の様に話せないということ。また、自発的に話すことができず、少しだけ返答をするケースも考慮に入れなくてはなりません。

イギリスではここ5年の間に、ASDに対する考え方が変わってきています。 ASDであることを肯定的に捉えてサポートする動きに変わりつつあるのです。社会的スキルのトレーニングに重点を置くのでなく、ASDの若者のニーズを分析・考慮し、彼ららしく人生を歩いていける様にサポート。彼らがしたいこと、家族が望むことを応援し、やりたくないことは絶対に強要しないといううスタンスを取っています。

ASDにSMが加わるケースを調査していくと、どうして緘黙になるのか、通常とは異なる原因が見えてくるといいます。一般的に、ASDではないSM児においては、人に話しているところを見られる恐怖や社会不安が大きな要因。一方、ASD児は不安のために圧倒(overwhelmed)された状態に陥り、そのせいで緘黙になっていると考えられます。この場合、話せないだけでなく、身体が硬直している場合が多く、部屋の片隅でひとり突っ立ったままということも。

こうしたケースでは、話せない環境そのものに目を向ける必要があり、通常のスモールステップは有効ではありません。

ちょっと長いので次回に続きます。

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全般性不安障害の可能性? SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その3)

場面緘黙と他の不安障害の併存 SM H.E.L.P.2024年秋サミットより(その4)

場面緘黙と社会不安障害 SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その5)

場面緘黙と強迫性障害 SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その6)

場面緘黙とPDA(病理学的要求回避) SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その7)

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場面緘黙とPDA (病理学的要求回避)SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その7)

3月ももう半ばですね。時間があっという間に過ぎ去って、季節がどんどん移り変わっていきます。そのスピードに全然ついていけていない自分が怖い(^_^;)

       イギリスでは先週末まで初夏のような気候で、樹木の花が一斉に咲き始めました。が、それから以前の寒い日々に逆戻り…。

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さて、昨年秋のSM H.E.L.P.の記事はまだまだ続きます。

ダニエラ・ジェタホール(Danielle Jata-Hall)さん は、ニューロダイバージェント(neurodivergent: 神経多様性=脳や神経の発達が「標準的」な人々とは異なるため、認知機能または感覚機能が標準とは異なる)の 子どもを3人持つ母親。3人ともASD(自閉症スペクトラム障害)で、うち2人はPDA(Pathological Demand Avoidance 病理的要求回避 ) 。ダニエラさんは特別支援が必要な子どもをサポートする教育現場で働き、支援グループの運営も。受賞歴を持つブロガーでもある。特に、PDA の啓蒙・研究者として知られ、著書に『Black Rainbow』や『 I’m Not Upside Down, I’m Downside Up』がある。

我が子のPDA(病理学的要求回避)を発見

長女の様子がおかしいと気づいたのは2016年のこと。表面的には社交的でコミュニケーションスキルに問題はないと思っていたため、レーダーから外れていました。でも、思えば赤ちゃん時代から感情の起伏やコントロール要求が激しく、どう扱っていいか判らず振り回されていました。

小学校に入学すると、コミュニケーションに問題があることが明らかに。娘は自分をコントロールすることができず、精神的に大変な状態に陥りました。学校に相談したところ、返ってきたのは「心配しすぎ」との返答。外見上は上手くやっているように見えるため、信じてもらえなかったのです。

ペアレントコントロール等を学んで対応しましたが、上手くいかず…。行き過ぎの行動に罰を与えるようにしたところ、頭を壁にぶつける自傷が始まってしまいました。

そんな時、英国のSLTリビー・ヒルさんがアドバイザーをしているTV番組を観て、娘の症状がPDAだと気づいたのです(詳しくは『PDA(病理的要求回避)の具体例』をご参照下さい)

例え自分がしたいことであっても、要求だと思うと全てが不安に繋がってしまうのがPDA。極端なケースだと、歯を磨いたり、お風呂に入ったりなど、暮らしの中ですべき当然のことでさえ要求と捉え、実行することが困難になります。娘は楽しみにしていたハロウィーンでさえ行けませんでした。

巧みな言い訳で逃れようとする

歯を磨くのを避けるために、「顔を先に洗ってから」「着替えてから」など、もっともらしい言い訳をします。どのくらい回避・拒否し続けるかは決まっておらず、すぐ終わるときもあれば長く続くことも。玩具などを使ってやらせることに成功しても、本人がそれを要求だと見破れば再び拒絶。今日我慢できても、明日我慢できるとは限りません。娘は感情の起伏が激しく、その変化の速さに追いつけない状態です。

人に執着することも

娘はロールプレイやごっこ遊びが異常に上手く、誰かになったつもりになると外でも問題なく行動できたりします。また、人に焦点を当て執着してしまうこともあります。

現在13歳になる娘をトイレに連れて行き、時には手助けをしなければならない場合も。「どうやって歯を磨かせるか」と考えた時、「磨かせる」という表現自体が要求ですよね? 子どもと話し合い、もしできなければ口を濯ぐだけでOKという選択肢も用意しましょう。私は子どもが自分でコントロールできていると感じられる様、言葉を選んだり、間接的に告げたりする様にしています。

行動する前に、どういう風に言い回しを変えるか、どこまで妥協するかを考えておくこと。私が優先するのは子どもの衣食住と健康です。優先したことを終わらせるために、他は妥協せざるを得ない場合も多々あります。

保護者はPDAの子どもの困難を理解し、どのように支援できるかを探って下さい。一方、子どもは自分の困難を理解して、それをどう管理できるようにするかを学んでいきます。全部はできないので、まずは優先順位を決めて、後はできなくても仕方ないと諦めることも必要です。

外から見ると、保護者が子どもを甘やかしているだけに見えるかもしれません。躾がなっていない子どもの保護者として、責められることも多いでしょう。でも、人がどう思うかより、自分の子どもが毎日の要求にどうやって対処していけるかの方が大切です。PDAは比較的新しい症状なので、まだまだ研究中。全員が理解してくれる訳ではないから、周囲が少しずつ変わっていくのを待つしかありません。周囲に説明する時、私は解りやすいようにウェブや本のページを借りて伝えるようにしています。

保護者の心理を考えると心労がすごいと思います。周囲がPDAの知識を持たないため、保護者はいくら頑張っても批判されがち。批判されると、自分の行動が正しいのかどうか判らなくなり、混迷してしまう人も多いことでしょう。

PDA協会には豊富な資料があり、コンタクトを取ることが可能です。是非アドバイスをもらって下さい。あとは、少しでもいいから自分の時間を持つこと。保護者が自分を守ることが大切です。PDAの子どもを抱える母親、父親、家族に、独りじゃない、本当によくやっているよと声をかけたいです。自体はこれからもっと良くなって行くはずだと信じています。

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場面緘黙と併存しうる不安障害 SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その2)

あっという間に秋が深まり、先週ロンドンでは初雪が降りました。街では既にクリスマスのイルミネーションが輝き始めています。ハムステッドの森林公園は日本ほどではないですが、紅葉がピークを超え枯れ葉が舞い散る季節に。

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アメリカのケリー・メルホーンさんが緘黙啓蒙月の10月に開催したSM H.E.L.P.秋サミットの続きです。このサミットでは場面緘黙とASD(自閉症スペクトラム障害)との併存、そしてその他にも併存しうる不安障害などがテーマ。その中には、社会不安障害(Social Anxiety Disorder:SAD)全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder: GAD)、病理学的要求回避 (PDA)、強迫性障害(obsessive-compulsive disorder: OCD)、拒食症(anorexia)などが含まれていました。

対談者:マイケル・トンプキンズ博士(Michael A. Tompkins, Ph.D. )

トンプキンズ博士は公認心理学者であり、サンフランシスコ・ベイエリアの認知療法センターの共同所長及び、ベック認知行動療法研究所の教員でもある。著書と共著書は16冊。この対談は特に全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder)に焦点を当てたもの。

場面緘黙と不安障害の併存について

一つの不安障害を抱えていると、別の不安障害や感情障害(うつ病など)を抱える確率が24、5%になると言われており、子どもの場合はその確率がもっと高くなります。例えば、社会不安障害(SAD)、うつ病、パニック障害などを併発する可能性が増加。特に、ティーンになる過程では、過剰な心配のためパニックアタックを発症することも。そうなると、今度はパニックアタックが起こるのを心配しすぎて症状が強化されたり、OCDの場合は症状が悪化して医療介入が必要になったりします。

不安障害の治療には、何が一番の不安要因であるかを解明する必要があります。場面緘黙の子どもの場合は幼少期に発症するため、併発している他の障害があっても判明しにくく、要因も突き止めにくいのが特徴。

子どもが極端に心配性だったり、身体的な症状が出ていたり、登校を拒否したりする時、他の子ども達に比べて不安の度合いが強すぎることが保護者には判るはずです。最初のステップは、専門医の診断を得ること。信頼できる医師を受診し、できれば小児の治療に慣れている心理士にかかることが大切です。特に、CBT(認知行動療法)の暴露療法(エクスポージャー法)を実践しているかどうかが重要になってきます。

全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder: GAD)とは?

全般性不安障害(GAD)は、毎日の生活の中でさまざまな物事に対して漠然とした心配や不安を6ヶ月以上持ち続ける疾患です。この障害を抱える人の不安は持続的で程度も過剰であり、本人は思うようにコントロールできません。徐々に身体症状や精神症状が現れ、睡眠や毎日の生活にも支障をきたすようになります。

GADの人は常に身体が緊張した状態で、腹痛や頭痛、睡眠障害などが起こります。要因はまだ解明されていませんが、生まれ持った気質と環境に影響されると見られています。本人は不安をコントロールできないと信じ込み、心配することを止められません。治療法としては、CBT(認知行動療法)を用いて不安になるプロセスを抑え・遅らせるスキルと自信を身につけさせます。

GADは克服できるか?

不安障害は慢性的なものです。例えば喘息と同じで、喘息の薬は喘息を完治させるものではなく症状を和らげるためのもの。GADの治療は症状によって本人が苦しまなくなること、上手くコントロールできるようになることを目指します。不安がなくなる訳ではありませんが、不安に対処するスキルを色々身につけることで、自分を守っていくことができる様になります。

まずは、子どもがエクスポージャー法にトライすることが第一。不安に立ち向かうことで、自己肯定感が高まります。不安と自己肯定感は同じベクトルの対極にあるのです。

子どもが自分から「やろう」と思えること、モチベーションを持つこと。小さい子どもの場合は、トライした後に褒美や報酬があるといいでしょう。子どもは恐怖心や不快感から不安になる状況を避けようとするため、保護者の支援が不可欠になってきます。子どもが不安だと保護者も不安になりやすいですが、保護者が自分の不安をコントロールし子どもを応援してあげられることが重要。

保護者による支援は子どもがティーンになると特に難しくなります。やらせようとすればするほど、本人は不安になり反抗的に。本人が一番やりたいこと、好きなことを見抜いて、それを上手く活用することをお勧めします。その際、協力的な専門家がいると大きな助けになります。

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PDA(病理的要求回避)の具体例

6月ももうすぐ終わり…ということは2024年がすでに半分過ぎ去ってしまったんですね。早っ!イギリスでは10日ほど前から天気が回復し、やっと初夏らしい気候になってきました。ここのところ夜9時半過ぎまで明るいのですが、6月20日の夏至から徐々に日が短くなっていると思うと、なんだか淋しいです。

      6月は果物が美味しい季節。露地栽培の国産の苺が出回り、時おりヘタに花びらがついた苺も。忘れた頃に芽吹いた鉢植えの苺は、5年連続で小さな実をつけました。ブルーベリーの実は、今年こそ小鳥に盗られないようにしないと…。イギリスでは甘みの強いフラットピーチ(平たい桃)が人気です

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これまで3回にわたってPDAの説明をしてきましたが、実際にはどんな症状なのか?文章を読んだだけでは良く判りませんよね。

9年前にイギリスで放送されたTV番組シリーズ ”My Aggressive Toddler/ Born Naughty?(うちの攻撃的な子ども/ 生まれつき反抗的?)” で、PDAと診断された子がいるので映像を観ていただければと思います(英語ですが、彼の行動を目で追うだけでもかなり参考になるはず)。

この回に出演したのは、3歳のビリーと8歳のチャーリー、そして家族たち。両家の保護者は、ともに子どもがASD(自閉症スペクトラム)ではないかと疑っています。

注目していただきたいのは、8歳のチャーリー(7:19-/ 15:18-/ 20:10-/ 28:17-/ 34:37-/ 34:40-)の方。母親のマキシーンさんは、彼の行動は発達上の問題に起因するものと確信し、支援を求めて4年のあいだ不毛な戦いを続けてきたそう( 15:18-)。番組の終わりに、ようやく「ASDのPDAプロフィール」という診断が降りました。

撮影時点では、チャーリーはホームスクーリングを余儀なくされ、ほとんど家で過ごす毎日(7:19-)。ゲームで負けると不機嫌になり、母親がスイッチを切った途端、叫んで母親を攻撃し始めます。自分の意向にそわないと態度が激変――そんな彼をマキシーンさんは「ジキル博士とハイド氏みたい。全く予測不可能」と告白。

ラビ医師が家を訪問し、まず祖父にインタビュー(17:09-)。祖父母には懐いていますが、祖父いわく「チャーリーは私達を側にいさせるけれど、いつもひとりで遊んでいる」とのこと。ソーシャルスキルの問題を示唆していますね。

学校や友達について聞かれると(17:38-)、チャーリーは「やってないのにいつも怒られるから学校は嫌い」「友達はX Boxの仲間たち。喧嘩しても実際に殴り合いにならないから」と答えました。ラビ医師は「思考や行動に柔軟性がなく、曖昧な言葉や冗談が理解できない。変化を嫌い、社交性がない」とASDの疑いを強めます。

私が気になったのは、ASD児の5人に1人が学校システムから排除されているというナレーション(20:10-)…チャーリーもそのひとりで、週に数時間は家庭教師がつくものの、ほとんどの時間をTVやPCゲームに費やしているのです。外出は極度に嫌うそう。

「犬の散歩に行くから靴を履いて」と頼む母親を拒絶するチャーリー。なんとか玄関まで来させると、チャーリーは止める母親を無視して外へ猛ダッシュ。いつも公園の樹に登り、母親が犬を散歩させている間中ずっとそこにいるのが習慣なんだそう。今まで母親や犬と一緒に歩いたことは一度もないとか…。

次に、児童心理士のケネリーさんと言語聴覚士のヘレンさんがチャーリーを訪問(21:52-)。一人がアセスメントを行う間、もう一人はボディランゲージ他を確認します。体を揺らす、思考が狭い範囲に限定されている、非言語コミュニケーションを使わない――ASDの特性が見て取れます。

また、いつもと違うビスケットを出されたチャーリーは、彼女たちと視線を合わせたり、問いかけたりしません。食べかけのビスケットを口から出して「おいしくない」とテーブルに戻しました。

チャーリーの睡眠のパターンを調べてみると(28:17-)、寝かせようとする母親に対してメルトダウンを起こし、暴力を振るっています…。ここで心理学者のケネリーさんが着目したのは、チャーリーが何度も体を揺らしていたこと。

複数のアセスメントの結果、常同行動や思考の狭さから、専門家チームはチャーリーがASDであると診断(40:00-)。加えて、新しくできたPDA問診を行ったところ、通常よりかなり高い数字が出たため、ASDのPDAプロフィールであることも同時に診断されました。診断結果が出ると、母親のマキシーンさんは安堵の涙を浮かべました。これでやっと皆に理解してもらえ、適切な支援をしてもらえると希望を持てたからです。

診断後、この情報は地方自治体に通達され、チャーリーは新しい学校に受けいられることに(TVで取り上げられたため、上手く行った部分も大きいかと思います)。家庭でも家族がPDAについて学んだことで、状況は好転。以前より笑顔が増え、かなり落ち着いて暮らせているよう。

朝チャーリーを起こす時(44:50-)、マキシーンさんは大きな砂時計を枕元に置き、「今から10分、砂が全部下に落ちたら起きるのよ」と告げます。こうすることで母親の要求は砂時計の要求にすり替わり、彼女が攻撃されることはないのだとか。

砂時計はゲームをやめさせる時や、寝る時にも使えそうですね。また、「◯◯をしなさい」ではなく、「何分で◯◯ができるかな?競争しよう」とゲーム感覚にすれば、要求の様には聞こえません。

緘黙もそうですが、子どもに合う支援を見つけることの重要性を感じました。

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PDA(病理的要求回避)とは?(その3)

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PDA(病理的要求回避)とは?(その3)

イギリスでは先週末から天気が回復して、やっと通常の6月の気温に戻った感じです。一年で一番いい季節を楽しもうと日本からやってきた友達にとっては、雨降りの寒い日が続いて気の毒でした。

    ロンドンのキングスクロス駅近くにある生物学研究所、フランシス・クリック・インスティテュートで脳の研究をテーマにした『Hello Brain!』展を観てきました。現代神経科学の父、サンティアゴ・カハル(1852-1935年)による細密な脳細胞のスケッチや毛糸で編まれた脳細胞を見て不思議な気持ちに

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PDA(病理的要求回避)はASD(自閉症スペクトラム)のプロフィールのひとつ」と言われますが、標準的なASDの支援対策では機能しないことが多いといいます。

英国PDA協会が推奨するアプローチはPANDA:

P(Pick Battles)  やらせたいことを選ぶ

  • ルールは最小限に
  • こどもが選択しコントロールできるようにする
  • 理由を説明する
  • できないこともあると受け止める

A(Anxiety Management) 不安の管理

  • 低覚醒アプローチを使う
  • 不確実性を軽らす
  • 根底にある不安と社会的/ 感覚的な課題を確認する
  • 事前に考えて計画を立てる
  • メルトダウンはパニックアタックとして扱う:一貫したサポートを行い、先に進む

N (Negotiation & Collaboration)  交渉と協力

  • 冷静さを保つ
  • 課題を解決すべく積極的に協力し、交渉を行う
  • 公平性と信頼を主眼とする

D (Disguise & Manage Demands) 要求を隠して、管理

  • 要求は間接的に
  • 常に要求に対する許容範囲をモニターし、それに応じた要求をする
  • 子どもと一緒にやることが助けとなる

A (Adaptation)  臨機応変に

  • ユーモアや気晴らし、目新しさ、ロールプレイを試してみる
  • 柔軟な態度
  • プランBを立てておく
  • 十分な時間を与える
  • ギイブ&テイクの量的バランスを取る

では、具体的にはどうサポートしたらいいのでしょう?

例えば、部屋を片付けさせたい時:

<時間など選択肢を与える/ 柔軟な対応をする>

今部屋を片付けなさい  ⇒  今日は部屋を片付けてみようか? いつやってみる、今それとも後で?

★子どもが何かを要求してきたら、子どもと相談して小さなご褒美を与える

<間接的に言い換える:「~なさい」など直接的な要求は避ける>

部屋を片付けなさい ⇒ 何から片付けたらいいかな? 誰が早く片付けられるか競争しよう!

おもちゃを箱にしまいなさい ⇒ ゲームしようか? 何個おもちゃ箱に入るかな?

★要求されているのではなく、自分で選んでコントロールできるかのような言い方に換える

「色合わせ」をゲームにした具体例:

https://www.instagram.com/tv/Cbrk7S4pkrU/?utm_source=ig_web_copy_link

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PDA(病理的要求回避 Pathological Demand Avoidance)とは?

PDA(病理的要求回避 )とは?(その2)

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PDA(病理的要求回避)とは?(その2)

6月ももう10日を過ぎました。今年がもう半分過ぎようとしているんですね…時間が経つのが本当に早い!

     日本からやってきた旧友と南ロンドンのトゥイッケナムにある、ストロベリーヒルハウス (Strawberry Hill House & Garden)  に行ってきました。18世紀の英国ジョージアンゴシック様式の内装が壮観で、ヤンファンホイスムの有名な静物画も観られて幸運でした

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PDAという症状名は英国の発達心理学者、エリザベス・ニューソン(Elizabeth Newson 1929 – 2014)が1980年代に提案。2003年の論文(Newson et al., 2003)により、その存在がまず英国で認識されるようになりました。ちなみに、ニューソン夫妻の長男にこの症状があり、心理学者の両親が一緒に研究を続けた成果だとか。

現在のところ、PDAはアメリカ精神医学会が作成するDMS-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)にも、世界保健機関(WHO)が作成するICD(国際的な診断基準)にも掲載されていません。それだけに、まだまだ研究が必要な疾患といえますね。

では、PDAとは具体的にどんな症状なのでしょう?

撮影当時(2017年)18歳だったアイザック・ラッセル君が発信するビデオ、『僕のPDA体験』を参考にしてみました。スカイプを通して母親の質問に答えるという形式ですが、これが大きな反響を呼んだため、情報源として公開に踏み切ったそう。当時、ラッセル君は若者専用のケアホームに住んでおり、そこにはASDとPDAを併せ持つ当別支援学校が併設されていました。

<抜粋要約>

● 一番不安を感じるのは、「自分ができない」と感じているのに、周囲から「こんなに簡単なことが何故できないの?」と全く理解されず、やるよう期待される時

● 例えば、精神的に調子が悪い日、靴を履かなければ外に出られる様に感じたとする。誰かに「靴なしで外出なんかできない」と言われても、靴を履くことは絶対に不可能。もちろん、そんな考えは不合理だと自分でも解っている。でも、反対に「絶対できない」という自分もいて、それを周囲に説明できないし、何故なのか自分で理解することも難しい

● 機能的な能力――朝起きて、ベッドから出て、朝ご飯を作って食べて、洗い物をして――こういった普通のことをする能力は当たり前に持っているし、やり方も知っている。時によってはちゃんとできるのに、殆どの場合はできない。ただ、できない。どうしてか説明するのは困難で、本当にフラストレーションがたまる

● 映画『インサイドヘッド』みたいに、脳のコントロールパネルに20人の僕(感情)がいて、例えばそのうちの1人が食べたり、飲んだりしたいと思っても、PDAの僕がハンドルを握っていたら、食べることは不可能

● 例えば、友達との外出。自分でも行きたいし、いいことだと解っている。だけど、どこからか「できない」という感情が介入してくる。これは疲れている時に特に顕著

● 要求は外からだけじゃない。毎日学校に行かなければ、顔や身体を洗わなければと意識しただけで、脳が「できない、できない」とパニックに陥る。最悪な自己破壊行為といえる

● もし誰か近寄ってきて「◯◯をしなさい」と要求したら、すぐパニックになって泣き出したり、パニックアタックを起こしたりする

● 大抵の場合は、まず回避から始まって徐々に不安が拡大していく。例えば、目が覚めて学校に行くことを意識すると、自然にタブレットに手が伸びる。天気や今日のスケジュール、SNSをチェックしたりする。これ以上回避できないところまでいくと、不安が広がって落ち込むことも多い。こうなると、絶対に学校には行けない。反面、すっとベッドから起きて学校に行ける日もあって、自分でも何故だか解らないから、本当にフラストレーションがたまる

● できない自分に対して、自分がいかに無価値か、これからずっとベッドから起き上がれないんじゃないかと絶望的な気持ちになる。自己嫌悪感がつのる

● できないことが続けば、ハードルはぐっと上がる。3日も学校に行けなかったりすると、「今日こそ行かなければ」と困難さが倍増してしまう。たとえ行けたとしても肯定的な気分にはなれず、もっと落ち込んだりする

PDAの子どもは登校拒否になることが多いという統計が出ています。本人は学校に行きたいくないのではなく、行けないのです。また、登校できたとしてもタスク拒否や癇癪を起こしたりすることが多く、学校で対策が立てられないため、停学になることも…。

一見するとコミュニケーション能力が高そうに見えるため、家族にも周囲にも誤解されやすそうですね。ASDの支援では対処できず、当事者は本当に生きづらいし、周囲も大変だと思います。

緘黙でかつPDAも抱えた子ども/人もいると言われています。もし、生活に支障が出るほど言うことを聞かず、癇癪ばかり起こしていると感じたら、ただの我が儘ではなくPDAの可能性があるかもしれません。

次回はPDAの対処法について書く予定です。

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PDA(病理的要求回避 Pathological Demand Avoidance)とは?

5月も今日で終わりです。何もしないうちに、またあっという間に時間が経ってしまいました。一時期は初夏の気候になって暑かったのですが、1週間ほど前からぐずぐずの天気に。今日は風が強い雨の一日で、冬に逆戻りした様な肌寒い一日でした。

   今年もまたリージェントパークのメアリー女王の薔薇園に行ってきました。生憎の雨の中、イングリッシュローズが静かに薫って

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イギリスではここ数年の間に、: PDA(Pathological Demand Avoidance 病理的要求回避)という症状名をよく耳にするようになりました。

PDAはASD(自閉症スペクトラム)のプロフィールのひとつと理解されていますが、その研究はまだ初期段階です。ただ、イギリスでは自閉症の診断時にPDAのアセスメントが追加されることも多くなってきているよう。

PDAの子ども/人は、社会的コミュニケーションの困難さや感覚過敏などASDの特徴を併せ持つといわれています。その上で、毎日すべき義務(タスク)を社会的な策略を駆使しながら、異常なまでに避けるというのが特徴。

英国PDA協会(Pathological Demand Avoidance Society)による定義は:

<自閉症スペクトラムのPDAプロフィール>

  • 現在「持続的な困難」と定義されるASDの特徴――社会的コミュニケーションと社会的な相互関係の困難さ、そして制限的で反復的な行動・活動・興味のパターンを――を併せ持つ
  • 多くの場合、一般とは異なる視覚・臭覚、触覚、聴覚、さらに飢えや渇きといった内的感覚などの感覚体験を覚えることが含まれる

上記に加え、下記のPDAプロフィールの多くの主要特性を備えている

  • 日常生活のあたり前の要求に抵抗し、回避する
  • 回避のいち手段として、社会的な策略を使う
  • 社交的に見えるものの、理解力に欠ける――予測よりもっと「社交的」に見えるかもしれない(例えば、より「従来型」に近いアイコンタクトや会話スキルなど)。しかし、これによって根底にある社会的コミュニケーションと社会的な相互関係の困難さが隠蔽されている可能性がある
  • 感情や気分の起伏が激しい
  • 時として極端なまでに、ロールプレイ、ふり、空想に没頭する
  • 多くの場合、度を超えて人に執着する――PDAの場合「反復的または限定的な興味」は社会的な性質のもので、実在または架空の人物が対象となる
  • 自己コントロールの必要性が高い――これは不安、または要求に直面した際の自動的な「脅威反応」によって引き起こされることが多い
  • 支援、子育て、教育における従来的なアプローチに反応しない傾向が強い

About autism & PDA

緘黙児のなかにもPDAを持つ子どもが?

緘黙児にとって「おはよう」や「いただきます」など、毎日の挨拶はとても難しいことです。当たり前のことだからこそ、話すことを期待されていると強く意識してしまう。だから、余計に緊張して言葉がでなくなると考えられます。

当たり前の挨拶をしない――緘黙を知らない人からすれば、「失礼な子」と誤解されてしまいますよね。

言うことが決まっているから簡単と思ってしまいがちですが、うちの息子も学校で声が出始めてから、朝の出欠確認に答えられるようになったのは随分後のことでした。

ただ、日常の挨拶ができないのは緘黙のせいではなく、PDAのケースもあるかもしれません。

イギリスのSLT(言語療法士)、リビー・ヒルさんは、緘黙児の中にもASDの特性を併せ持ち、PDAの症状を持つ子どもがいると警鐘を鳴らしています。

もしPDAの場合は、従来とは異なるアプローチが必要だからです。

(長くなってしまったので、次回に続きます)

場面緘黙と自閉症(その3)SMiRAの立場

イギリスはもうすっかり秋の気候。今日は久しぶりに秋晴れのいい天気になりました。これから落葉樹の梢がだんだんと紅葉していくのが楽しみです。

    雨降りの夕方、東の空にくっきりと円い虹がお目見え。よく見たらダブルレインボウでした。近くの公園でイギリスでは珍しいススキを発見

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場面緘黙の診断に関するSMiRAの立場

a. 診断担当医は、患者がSMの診断基準を満たしていると考える場合、SM(かどうか)の評価を行う必要がある。2018年、ICD-11が発表される前に推奨されていた診断基準は、SMを不安障害として記載していた DMS-5の診断基準でした。ICD-11ではSMを「不安障害または恐怖関連障害」として分類しています。除外疾患として次のものが挙げられます:

  • 統合失調症
  • 幼児の分離不安の一部としての一過性緘黙症
  • 自閉症スペクトラム障害

ICD-11における除外とは、「他(の分野)に分類されるという条件」であり、「ICD内で相互参照として機能し、カテゴリーの境界を定めるのに役立つ」ものです。これはSMとASDが別の障害として分類され、したがって併存疾患として診断できることを意味します。これは「(ASDの経過中)のみに起こるものではない」というDSM-5で使用されている除外の定義とは異なります。

注:解りにくいのですが、DSM-5ではASDの経過中にSMを発症した場合はASDが一次障害として上位診断され、二次障害であるSMは除外されて診断されないことになります。

SMIRA’s position on diagnosis of SM:

a. Diagnosing practitioners should make an assessment for SM where they believe the patient meets the criteria for such a diagnosis.The preferred diagnostic criteria prior to the publication of ICD-11 in 2018 were those published in APA DSM5, which lists SM as an anxiety disorder. ICD-11 classifies SM as an ‘Anxiety or Fear Related Disorder’. It lists as exclusions:

  • Schizophrenia
  • Transient mutism as part of separation anxiety in young children
  • Autism spectrum disorder

Exclusions in the context of ICD-11 are ‘terms which are classified elsewhere’ and which ‘serve as a cross reference in ICD and help to delimitate the boundaries of a category’. This means that SM and ASD are classified as separate disorders and can therefore be diagnosed as co-morbid. This differs from the definition of exclusions used in DSM5 as ‘does not occur exclusively’.

b. 診断担当医は、たとえ他の疾患に対する既存の診断があったとしても、SMについては別個の診断をくだす必要があります。SMiRAではDSM-5の併存診断からSMを「除外」することは、医療従事者とその患者にとって非常に無役だと考えています。これは、特に併存障害がASDの場合に当てはまります。私たちはASDを持つ人はSMの可能性もあると考えており、これはIDC-11の分類を使用すれば〈診断は)許容されます。

このSMiRAの立場は、『場面緘黙リソースマニュアル第2版 The Selective Mutism Resource Manual 2nd Edition』と『場面緘黙支援の最前線 Tackling Selective Mutism』で明らかにされており、後者ではマイケル・ラッター教授(キングスカレッジ・ロンドン精神医学研究所)によって支持されています。

b. Diagnosing practitioners should make a separate diagnosis for SM even if there is a pre-existing diagnosis for another disorder. SMIRA believes that ‘excluding’ SM as a comorbid diagnosis in DSM5 has been very unhelpful to medical practitioners and their patients. This is especially true in the case of ASD. We believe a person with ASD can also be selectively/situationally mute (SM), and this is allowable using ICD-11 classification.

This position is made clear in The Selective Mutism Resource Manual 2nd Edition and in Tackling Selective Mutism, the latter being endorsed by Professor Sir Michael Rutter (Institute of Psychiatry, King’s College London).

SMiRAがこの声明を出しているということは、イギリスでもまだSMの併存診断がつかないASD児がいるということですね…。うちの特別支援学校でも、SMや書字障害などのLD、ADHDを併せ持つ子が大勢います。イギリス国内ではASDの他に、これらも別個の障害として診断がおりているものと思いこんでいました…。

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場面緘黙と自閉症(その2)DMS-5 と ICD-11

今週は雨が降ったり・止んだりの肌寒い天気が続いています。雲の合間に陽が射して青空がのぞく時間もありますが、あたりはもうすっかり秋の空気。学校は始まったものの、まだ最終的な時間割が決まらず、ちょっと中途半端な日々です。

      久しぶりに訪れたハイゲートの森。うちの四季咲きのイングリシュローズは色も姿も儚げ

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さて、前回の続きです。

「現在の規定ではASDとSMの併存を診断できないのか?」という質問に対して、匿名で下記のような回答がありました。

DMS-5 (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders  米国精神医学会が作成する精神疾患の診断・統計マニュアル第5版) においても、ICD-11 (International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems 世界保健機関WHOが作成する疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第11版) においても、ASDとSMとが同時に診断することは可能です。ただし、そのためには子供の持つ発話の問題はASDが原因ではないことを確認する必要があります。

DMS-5よりSMの規定の抜粋

The disturbance is not better explained by a communication disorder (e.g. childhood-onset fluency disorder) and does not occur exclusively during the course of autism spectrum disorder, schizophrenia, or another psychotic disorder.

この障害はコミュニケーション障害(例えば、小児期発症流暢症)では説明がつかず、ASD、総合失調症、その他の精神障害の経過中のみに起こるものではない。

DMS-5より(どこに記されているか不明)

Neurodevelopmental disorders Individuals with an autism spectrum disorder, schizophrenia or another psychotic disorder, or severe intellectual disability may have problems in social communication and be unable to speak appropriately in social situations.

ASD、総合失調症、その他の精神障害を持つ神経発達障害の人、または重度の知的障害がある人の中には、社会的コミュニケーションに問題があったり、社会的状況で適切に話すことができなかったりするケースがある。

       ⇑  <上記に対する投稿者の意見>

でも、彼らにSMの症状がある場合、そのコミュニケーション上の問題は別の種類のものだから、ASDだからという理由ではうまく説明ができません。その問題は様々な場面(状況)を超えて持続する、もしくは会話の欠如ではなく会話の内容に関連するかのどちらかです。

ICD-11から

Boundary with Autism Spectrum Disorder and Disorders of Intellectual Development:

Some individuals affected by Autism Spectrum Disorder or Disorders of Intellectual Development exhibit impairments in language and social communication. However, unlike Selective Mutism, when language and social communications impairments are present in Autism Spectrum Disorder and Disorders of Intellectual Development, they are notable across environments and social situations.

ASDおよび知的発達障害との境界:

ASDや知的発達障害がある人の中には、言語や社会的コミュニケーションに問題を抱える人もいる。しかし、ASDや知的発達障害の人に言語や社会的コミュニケーションの障害がある場合は、SMとは異なり、その問題は環境や社会的状況を問わず現れる。

 ⇑   <上記に対する投稿者の意見>

そのため、ASDの子どもが場面緘黙になっている状況でのみ沈黙している場合は、SMとASDの両方を診断することが可能。反対に、彼らが常にコミュニケーションの問題を抱え、その原因がASDである場合はSMの診断はできません。ASDが除外セクションに記載されているのはこのためです(SMと診断する前に、言語の障害の原因としてのASDを除外する必要があるため)。子どもが安全と感じる状況では話し(例:家庭)、不安が強い状況では話さない(例:学校)のはSMに特有な性質で、ASDが原因ではないからです。

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DMS-5の「SMはASD等の経過中のみに起こるものではない」という言い回し、すごく解りにくくないですか? ASD経過中にも起こりうるし、そうじゃない時にも起こりうるということ?

追記:DSM-5では、ASDの経過中にSMが起こった場合、医学的にはASDが一次障害でSMは二次障害という位置づけ。そのため、一次障害のASDが上位診断となり、原則的に併存するSMは診断されないということだそう。

私は高機能ASD児を専門とする特別支援校に8年間勤務しているのですが、ティーンの生徒たちは言語能力が高く目立つ常同行動もないため、一見するとASDだとは分からない子が殆ど。グレーゾーンの子も入れると、学校などで問題が起きなければ、周囲が子どものASDに気づかないということも理解出来るんですよね…。

スレを立てた方の質問は、診察やテストの際にSM児が話さないから診断不可ということでしたが、子どもが家で話している映像を利用したら、少しは手助けになるかもしれないと思ったのでした。

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もう9月も半ばですね。今年は日本から友達が二人もやってきて、あっという間に夏休みが終わってしまいました。最後の最後に、この夏の課題だった遮光ブラインド作りに着手。やっと完成したんですが、ギリギリになるまで夏休みの宿題をやらなかった学生時代と同じ^^;  なんやかんやでブログをさぼってしまい、前の記事から1ヶ月近く空いてしまいました…。

     

     秋風が吹き始めた中庭に咲く花々。ご近所さんにもらったナスタチウム(?)が巨大化して、あっという間に庭の一角を占拠してます😲

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私がこのブログを始めた2013年頃、イギリスでは場面緘黙(以降SMとします)と自閉症(以降ASDとします)の関連はほとんど取り沙汰されていませんでした。当時はSMとASDの併存という話題も非常に少なかったと記憶しています。その反面、日本では多くのSM児に発達障害が認められると言われていました。

当時、イギリスでは緘黙治療法が進んでいて、マギー・ジョンソンさんをはじめとする専門家たちや緘黙支援団体のSMiRAが全国的な活動を行っていました。そのイギリスで発達障害との関連について議論されていないのに、どうして日本では?と不思議に思っていたのです。

そこで、『日本では発達障害と見なされやすい(1-6)?』という記事で自分の見解を書いた訳です。

ところが、ここ5、6年ほどの間に随分様相が変わりました。SMiRAのFB掲示板でもSMとASDの併存についての話題がぐっと増えてきたのです。

今ではASDとSMが併存することは周知の事実。ただし、これはSM=ASD/ 発達障害ということでは決してありません。ただ、SMの背後に潜んでいるかもしれないASDや他の発達障害、言語の問題等の可能性を慎重に考慮すべきという姿勢になっていると思います。

最近、SMiRAのFB掲示板に特別支援教育の関係者から下記のような質問がありました。

質問者は複雑なニーズを持つ子どもたちを担当。彼女の職場では、子ども達が話さないために5/6歳で行ったASDの診断テストの評価をすることができなかったそうです。子ども達が10、11歳になった現在、心理士達はASDの評価を行うことに消極的なのだとか。その理由が、SMの診断基準ではASDは存在し得ないと規定されているため。両方の診断マニュアルによると、ASDとSMの両方を持つことができないというのです。それで、実際のところはどうなのかと。

この質問に対して多くの反響があり、当事者1人と29人の緘黙児の保護者が「子ども(自分)にはSMとASD両方の診断がおりている」と返答。更に、「SMだからASDの診断ができないというのはおかしい」という書き込みが多くありました。

保護者たちの回答から、子どもたちの診断パターンが2つに別れているのが分かりました。ひとつは幼児期にSMの診断がおりて、複数年後(長くて10年ほど)にASDの検査をして診断がおりたケース。もうひとつは、ASDの診断が先におり、数年後にSMの診断がおりたケースです。SMとASDの診断が同時におりたケースはなく、何故なのか気になっています。別々の専門機関で診断してもらう必要があるんでしょうか?

次回はアメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)DSM5と国際疾病統計マニュアル(ICD 11)におけるSMとASDの規定を比べてみたいと思います。

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