場面緘黙とは?(その2)

場面緘黙を診断する世界的な基準になっているのが、アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル、DSM (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)です。

このマニュアルが今年5月に改訂され、最新版のDSM-Vとして公開されました。

場面緘黙に関する大きな変更は、場面緘黙が「通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患」というカテゴリーから、「不安障害」へと移行したこと。

SMIRAの最新ニュースレター(7/10付)によると、この変更に際してSMIIRAとマギー・ジョンソンさんが尽力されたようです。

カテゴリーの他はほぼ変更なしということなので、改定前のDSM-IVの(1994年)診断基準を書いておきます。

<DSM-IVによる場面緘黙の定義>

  •  他の状況では話すことができるにもかかわらず、特定の社会的状況(例えば、学校のように話すことが求められる場所)では一環して話すことができない。
  •  この障害によって学業や職業上の成績、または社会的な意志伝達が阻害されている。
  •  このような状態が少なくとも1ヶ月以上続いている(学校での最初の1ヶ月間に限定されない)。
  •  話せないのは、その社会的状況で要求される話し言葉や話す楽しさを知らないことによるものではない。
  •  コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、広汎性発達障害、統合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない。

『場面緘黙へのアプローチ-家庭と学校での取り組み-』(Rosemary Sage & Alice Sluckin/編著 かんもくネット/訳 田研出版 2009年)より引用

(上記は2002年に出版された『DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引き』(高橋三郎他訳)などを参考に、Knetの翻訳チームで訳したものです)。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

改めて見てみると、の「話す楽しさ」というのが何となく気になります。これはcomfort withの訳し方の問題かな…。

原文ではFailure to speak is not due to a lack of knowledge of, or comfort with, the spoken language required in social situation.

「話し言葉の知識がないためや、話し慣れないことによるものではない」の方が判りやすいかもしれません。

この診断マニュアルは短く簡潔に書かれているのですが、緘黙児はひとりひとり違っていて、症状もひとくくりにはできません。

「学校で一貫して話せない」といっても、仲の良い友達にだけ呟ける子、授業中に当てられたら答えられる子、無表情でほとんど動けない子、表情豊かなのに言葉だけが出ない子など、本当に千差万別です。

ちなみに、うちの息子は教室内では全く話せないのに、なぜか放課後の校庭では普通に声が出て、動けていました。

理由は多分、

  • 学校が終わり校舎から騒がしい校庭に出て、ほっとしていた
  • 母親の私がいた
  • 幼稚園時代の親友たちと日本語で遊べた

同じ学校内でも、人、場所、時間帯によって不安の度合いがかなり違うのです。項目を細かく分けて詳しく調べていくと、学校での支援のヒントになると思います。

もうひとつ、は緘黙児の保護者や当事者にとって、すごく気になるところではないでしょうか。

「コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、広汎性発達障害、統合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない」

原文ではThe disturbance is not accounted for by a Communication Disorder (e.g., Stuttering) and does not occur exclusively during the course of a Persuasive Developmental Disorder, Schizophrenia, or other Psychotic Disorder.

ややこしい言い回しなのですが、反対にいうと、広汎性発達障害、統合失調症や他の精神病性障害の経過中にも、場面緘黙になりうるということですよね。

ただし、この場合の場面緘黙は、広汎性発達障害、統合失調症や他の精神病性障害(一次障害)の結果として生じる二次障害と判断されるため、一次障害としての場面緘黙には含めないのだと解釈できます。

日本では「場面緘黙=広汎性発達障害」とみなす考え方もあるようですが、イギリスでは殆ど切り離して考えているようです。私はイギリスと日本の考え方の違いについて、ずーっと不思議に思ってきました。一次障害と二次障害で区別している他にも、様々な理由があるのではないかと考えています。

場面緘黙と発達障害の関連については、現在のところ世界でもまだきちんと解明されていないのではないでしょうか?これについては、おいおい触れていきたいと思っています。

 

 

場面緘黙とは?(1)

かんもくネットが2008年に出版した『場面緘黙Q&A』に掲載されている場面緘黙の定義です。

  • 発症時期  多くは2~5歳、入園や小学校入学時、また小学校低学年までに発症します。
  • 出現率  男子より女子の方が多く、日本のこれまでの調査では0..2~0.5%くらい、近年の海外メディアでは0.7%をあげることが多いようです。仮に0.5%と考えると、200人に1人の割合です。
  • 特徴  場面緘黙は不安から生じる状態であり、恐怖症のひとつではないかと考えられています。子どもは話しているところを見られたり、聞かれたりすることに恐怖を感じます。
  • 原因  複合的な要素がかかわって生じます。子どもによって影響している要因が異なるが、多くの緘黙児が不安になりやすい気質を生まれつきもっているのではないかと言われています。

『場面緘黙Q&A』 かんもくネット著/角田圭子編 (学苑社 2008年)より引用

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

うちの息子の場合、

  •  発症時期: 4歳半で小学校に入学して3週間後
  •  発症要因: 生まれながらの抑制的気質 + バイリンガル環境
  • 引き金となった要因: 込み合う滑り台の上でおしくらまんじゅう状態になり、押されて地面に落下

落ちたショックのためか、全く口をきかず泣きもせず、その場に立ちすくんでいたとか。一緒に遊んでいた幼稚園時代の親友(クラスは別)が先生を呼んできてくれました。

その翌日から教室で話せなくなり、更に緘動で動けなくなっていたようです。

息子のように、目立った出来事が引き金になる子もいますが、周りが気づかないうちに緘黙になっていたという子も多いようです。普通の感覚ではなんでもない友達や先生の言動が、不安が強く繊細な子どもには、恐怖体験となり得ます。

いつの間にか口をきかなくなっていても、家では話しているので親はすぐには気づけません。先生もすぐ気づいてくれないかもしれないし、情報が素早く保護者に伝わらないこともあるかと思います。

でも、緘黙治療は早期発見・早期支援が大切。

今年2月に放送された『ザ!世界仰天ニュース』で場面緘黙が取り上げられ、一般にも緘黙のことが少しずつ知られるようになってきたのでは?緘黙の正しい知識がもっと学校関係者にきちんと広がり、早期発見に繋がるようになればいいなと思います。