お父さんは場面緘黙?

うちの息子は、You Tube で日本語の面白い番組を見つけるのが得意です(日本語は全然駄目ですが)。この間、偶然に大食い番組の動画を見つけ、一緒に笑いながら観ていました。そうしたら、推薦動画に『探偵 ナイトスクープ 23年間会話のない夫婦』というのが目に付き、何気なくのぞいてみてビックリ!

それは、奥さんにだけ全く話しをしない、という男性の話でした。このご夫婦には18歳~25歳までのお子さんが4人いるんですが、何と一番上の娘さんが物心ついた頃から、両親が会話するのを見たことがない!というのです。でも、お父さんは子どもには普通に話すんです--とっても不思議…。子ども達は昔からこの状況に慣れっこになっていて、疑問に思いつつもずーっとそのまま暮らしてきたとか。末の息子さんが番組に依頼したことで、その現状を打破しようと探偵が動き出します。

まず、冒頭の映像を観ると、お父さん、おとなしそうな方ですね。お母さんは普通に話しかけてるのに、お父さんは反応しません。でも、お母さんを極度に避けているという風でもなく、子どもには積極的に話しかけています。普段から口数は少なそうな感じ。

このご夫婦、いかにも善良そうで、子ども達もすれたところがない印象。両親に会話はないけれど、ほんわかした雰囲気の仲の良い家族だなというのが伝わってきます。何よりも、お母さんのお父さんに対する愛情が感じられ、お父さんもまんざらではなさそう…。(私が彼女だったら、とっくの昔に切れてると思います)。

探偵がお父さんを問いつめたところ、話さなくなった原因は、「子ども中心の生活になり、放ったらかしにされてスネた」というもの!最初のうちは意地で話さなかったのが、途中から引っ込みがつかなくなったのだとか。ここ10年は話したい気持ちでいっぱいだったと、最後に補足がありました。

--奥さんにだけ話せないとう症状を持つこの男性は、果たして場面緘黙なんでしょうか?

私には断言できませんが、自意識過剰になって声がでない状態なのは、テレビ画面を利用してお母さんと対話の練習をするシーンで明らか(11分40秒あたりから)。答えようとしてもなかなか声が出ず、喉から「…ん」と搾り出すような音が…。この光景、見覚えありませんか?

通常、場面緘黙の子ども(人)は、場所・人・状況に応じて、緘黙の度合いが変わることが多いんですが、この男性の場合は人、それも奥さんに対してのみ、どこでも・どんな状況でも話せなくなっていました。

奥さんが会社に電話すると、お父さん自身が電話に応えたのにもかかわらず、奥さんと判った途端に沈黙…。わざとじゃなく、精神的なものなんでしょうね。話そうとすればするほど緊張して、喉がぎゅ~っと閉まったみたいになったんじゃないかな…。

練習を繰り返し、テレビ画面のお母さんの質問に何とか答えられるようになったお父さん。お母さんの待つ奈良公園に向かいますが、それまでの彼の様子からも、彼女が待つベンチに行くまでの様子からも、抑制的な気質が透けて見えるような気がしました。

結局、話し始めるのに30分かかったものの、見事23年の沈黙を破ることができました!家族で喜び合うのを見て私も大感激したんですが、第三者の介入がなければもっと長く沈黙が続いてたかと思うと、複雑な心境になりました。

この番組で使った方法は、緘黙の子どもにもそうですが、大人にも使えそうです。特に大人の場合、家族ではない第三者が介入することが現状の打破に効果的かもしれません。

1) 伴奏者としての第三者が介入することの利点
①本人のやる気のスイッチを入れる
②自分の状況をより客観的に見られる
③背中を押してくれる第三者が側にいることで、より安心できる

2) ビデオを使った会話の練習の利点
①話せない人、苦手な場所や状況のシミュレーションを体験しながら、話す練習ができる
②自分のペースで練習できる
③話せない人、苦手な場所や状況に、映像を通じて少しずつ慣れることができる

学校で話せない子どもだったら、教室で先生が簡単な質問をする映像、大人の場合は話せない親族や友達が問いかける映像もいいかなと思います。親しみをこめて話しかけてくれたら、嬉しいし、不安も減りそうです。映像はハードルが高いという場合は、携帯電話の文字メッセージや音声メッセージを使いながら、徐々に電話で話せるようにし、次に映像を使ってという進めかたもありますね。

緘黙治療のコンセプトさえ理解していれば、心理士などの指導なしでも、本人に一番合う方法でステップアップしていけるんじゃないでしょうか。

 

『ザ!世界仰天ニュース』(その3)

昨日、インドネシアのバリ島でミスワールドの最終選考会が行なわれ、ミスフィリピンがミスワールドに輝きました(下の映像の最初のイメージがミスフィリピンのメガン・ヤングさんです)。

残念ながらカースティさんは選ばれませんでしたが、セミファイナルではトップ10のうち6位に入りました。世界各国を代表する美女126名のなかで6番目に選ばれたんですから、すごいですよね。映像では堂々としていて、元緘黙の片鱗などまったくありません。

セミファイナルの様子。カースティさんは6位でした(2:24)

イギリスの日曜(29日)のニュースでは、どのメディアも写真入りでミスフィリピンが選ばれたことを報道したようです。BBCのニュースサイトでも、テレグラフ紙の日曜版でも、カースティさんのことは全く言及してなくて、ちょっと残念…。

同時に、イスラム強硬派が各地で抗議デモを展開したため、会場がジャカルタからバリに移されことが大きく書かれていました。武装警官を動員して厳戒態勢が敷かれたということで、無事に閉幕して良かったです。

→BBCニュースの記事はここ

インドネシアでミスワールドの様々なイベントに参加したカースティさん。イギリスに戻ったら、少しのんびりできるといいですね。

『ザ!世界仰天ニュース』(その2)

カースティさんに自分や子どもを重ねて、ドキドキしながらドラマの展開を見守った方も多かったのではないでしょうか?

特に、幼稚園児役で出てきた最初の女の子の演技、なかなかリアルじゃなかったですか?

幼稚園の先生に挨拶をしようと口をモゴモゴするところ、どっかで見たなぁと思っていたら、うちの息子でした。それも緘黙時代(4歳半~8歳)ではなく、克服後の10歳の頃のこと。威厳のある元教員のおばさまに質問されて、声が出るまでに「モゴモゴ」があって、小さな声でごく短く答えていました。私たち二人に凝視されて、ものすごく緊張したんでしょう。

カースティさん、もしもこのモゴモゴの後にひと声出ていたら、緘黙になってなかったかもしれません。でも、「場面緘黙の要素を持つ引っ込み思案」のままだったかも…。緘黙の始まりって、紙一重のタイミングなのかもしれません。

息子は今でも緊張すると、口数が少なくなり、声が小さくなる傾向にあります。特に、この春帰国した際は見知らぬ集団に合流することが多く、人前では寡黙になってしまい、「大人しい」と言われまくり。本人は日本語ができないことをしきりに気にして、「僕だけ喋れない」と言いつつも、挨拶と片言返事だけはしていました。

それを考えると、うちの息子はまだ「場面緘黙の要素を持つ引っ込み思案」なのかなとも思いますが、もう緘黙状態に戻ることはないような気がしています。

学校ではどうかというと、ドラマの授業で演技もし、クラスでの発言も発表も「嫌だ~」といいながら何とかこなしていて、「大人しい奴」というキャラクターで定着しているようです。

考えてみると、緊張すると口数が少なくなるのは私も同じ。最近まで、『発音・言語・コミュニケーションに困難を持つ子どもの支援』というコースを受講してたんですが、英語と経験不足の壁を感じて、小さくなってました(笑)。

話を番組に戻すと、小学校入学の際、クラスメイトに話そうとして「ん、ん」と少し声が出たり、口を開けたりしたのは、ちょっと違うなと思いました。緘黙モード(緊張時)の時って、無表情になってませんか?

息子に映像を見せて感想を訊いてみたら、「周囲がどんなに意地悪か描ききれてない!」と文句が出ました。えっ?と思って突っ込むと、「クラスのみんなは、違う先生や転校生に、すぐ『この子はしゃべれないから』って告げ口するし、意地悪もいっぱいされた。先生だってキツイこと言ったり、僕を邪魔にする時もあった」と。

小さい子には遠慮がありません--悪気はなくても思ったことをすぐ口にします。そして、周りも同調しやすい。また、先生だって人間です。忙しくて大変な時に手のかかる子がいれば、少しばかり口調がきつくなることもあるでしょう。

緘黙児は繊細で敏感な子が多いので、周囲の空気を深読みして、それで実際の10倍くらい傷ついてしまうのかも…。ちょっと被害妄想気味になっちゃうこともあるかもしれませんね。

番組の最後にカースティさん本人が出てくる場面。終わりの方で、「普通の人にとっては何でもないことも私にとっては大きな挑戦です。でも何度も挑戦することで少しずつ自信になって、成長することができました」とサブタイトルが出ます。

聞き取りにくいですが、実際には、”If anything, it looks quite scary, but I think ,then it’s sort of scary times having to be confident, which is actually improved my confidence. So, as much as I hated it, I am sort of enjoying it at the same time. Because I am sort of achieving these little goals in my head, that to most people wouldn’t even exist.” と言っているようです。

直訳すると、「(モデルの仕事は)自信をもたないといけないから怖い。でも、実はそれが自信につながったんです。だから、すごく嫌だけど楽しくもあるの。普通の人は思いもよらないでしょうが、私は頭の中で常に小さなゴールを達成しているんです」という感じでしょうか。

ということは、つい最近までスモールステップで小さな成功体験を積み重ね、自己評価をあげてきたのかな。ミスイングランドになる過程で自信をつけ、もっと冒険したいう心境になれたみたいですね。

下の映像を見ると、ミスコンに挑戦したもともとの理由は、自己評価をあげて、友達を作り、楽しみたかったからだと言っています。昔場面緘黙だったので全く話さなかったことも告白してますね(0:54から)。

“I’ve always suffered with confidence problems and I used to have Selective Mutism when I was younger, so I didn’t speak at all. And originally I entered because I wanted to get my confidence up and I wanted to make friends and just to have fun, which I did. And now I feel I have qualities and skills to be Miss England.”

こんな美女の口から、「自信がなかった」とか「友達を作りたい」とか聞くと、やっぱり抑制的な気質がベースにあるんだろうなと思います。28日のファイナル、頑張って欲しいですね。

 

『ザ! 世界仰天ニュース』(その1)

緘黙の関係者はまだ記憶に新しいと思いますが、今年2月に日テレの『ザ! 世界仰天ニュース』という番組で、『静かな少女の秘密』と題されたドラマが放送されました。これは、元場面緘黙だったイギリス人モデル、カースティ・ヘィズルウッド*さん(24歳)の幼少時代をドラマ化したもの。場面緘黙に苦しむ少女と周囲の様子が克明に描き出されていたと思います。

事前にかんもくネットでも話題になっていましたが、ゴールデンタイムの人気番組だった為か、放送の2日後くらいにイギリス在住の日本人の友達から情報が入りました。彼女は全く知らなかったそうですが、日本の友人から連絡が入ったとか。すぐに、中国版ツベで映像を観ることができ、インターネットのありがたさを改めて感じました。

→ 映像はここからどうぞ http://youtubeowaraitv.blog32.fc2.com/blog-entry-26558.html

当時ミスイングランド候補のひとりだったカースティさんは、6月の大会で見事ミスイングランドに輝きました。現在、バリ島でミスワールドの選考会に参加中で、様々なコンテストを終え、最終審査が行なわれるのは今週末の28日だそう。

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写真はMiss EnglandのFPからお借りしました

今頃どうして『ザ!世界仰天ニュース』かというと、カースティさんがイギリスの支援団体SMIRAをサポートすることになったからなんです。ミスイングランドになると、任期中の一年間は複数のチャリティーを支援する任務があります。カースティさんが一番に選んだのがSMIRA。そのSMIRAから、10月19日に予定している創立21周年記念パーティーで、カースティさんを会員に紹介するというニュースレターが届いた訳です。

私もかんもくネットのロンドン支局員として出席させていただく予定なので、本人に会えるんだったら、色々お訊きしたいと思いました。それで、7月末にSMIRA経由でミスイングランド事務所に連絡を取りはじめたのでした。

実は、担当者の方も元ミスイングランドだそうで、写真を見たらものすごい美人でした~(笑)。でも、超ご多忙らしく、なかなか連絡が取れないんですよね…。先日、やっと連絡が来て、何とかパーティの時にインタビューさせてもらえそうです。

で、ほっと一息ついていたら、翌日「カースティがミスワールドになれる様、Knetからも応援メッセージを」というリクエストが。事務局で慌てて準備し送った途端に、もう先方のFBにあがってました(笑)。

さて、『静かな少女の秘密』ですが、みなさんはどんな感想を持たれたでしょう?私はとてもよく出来たドラマだと思いました。シリアスな番組ではないので、どんな風に仕立てるんだろうと不安に思っていたんですが、製作スタッフの温かいまなざしを感じました。

特に、番組中で「障害」という言葉を使わず、場面緘黙を「症状」と説明していたのに、ほっとしました(私自身、緘黙は「症状」で、その背景にあるものは人によって違うと思っています)。曖昧に「病気」としていましたが、これが「障害」だと偏見を持たれる可能性もあるかと思います。かなり研究したのか、「恐怖」、「自信」などのキーワードが、大きくテロップで流れたのも印象に残りました。

*コンテストの画像では、他の人たちはカースティさんの苗字Heslewoodを「ヘスルウッド」と発音していますが、カースティさん自身は「ヘィズルウッド」と言っているようです。夫に訊いてみたところ「どっちでもいいんじゃないの」ということで、ちょっと謎です。