場面緘黙と併存しうる不安障害 SM H.E.L.P. 2024年秋サミットより(その2)

あっという間に秋が深まり、先週ロンドンでは初雪が降りました。街では既にクリスマスのイルミネーションが輝き始めています。ハムステッドの森林公園は日本ほどではないですが、紅葉がピークを超え枯れ葉が舞い散る季節に。

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アメリカのケリー・メルホーンさんが緘黙啓蒙月の10月に開催したSM H.E.L.P.秋サミットの続きです。このサミットでは場面緘黙とASD(自閉症スペクトラム障害)との併存、そしてその他にも併存しうる不安障害などがテーマ。その中には、社会不安障害(Social Anxiety Disorder:SAD)全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder: GAD)、病理学的要求回避 (PDA)、強迫性障害(obsessive-compulsive disorder: OCD)、拒食症(anorexia)などが含まれていました。

対談者:マイケル・トンプキンズ博士(Michael A. Tompkins, Ph.D. )

トンプキンズ博士は公認心理学者であり、サンフランシスコ・ベイエリアの認知療法センターの共同所長及び、ベック認知行動療法研究所の教員でもある。著書と共著書は16冊。この対談は特に全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder)に焦点を当てたもの。

場面緘黙と不安障害の併存について

一つの不安障害を抱えていると、別の不安障害や感情障害(うつ病など)を抱える確率が24、5%になると言われており、子どもの場合はその確率がもっと高くなります。例えば、社会不安障害(SAD)、うつ病、パニック障害などを併発する可能性が増加。特に、ティーンになる過程では、過剰な心配のためパニックアタックを発症することも。そうなると、今度はパニックアタックが起こるのを心配しすぎて症状が強化されたり、OCDの場合は症状が悪化して医療介入が必要になったりします。

不安障害の治療には、何が一番の不安要因であるかを解明する必要があります。場面緘黙の子どもの場合は幼少期に発症するため、併発している他の障害があっても判明しにくく、要因も突き止めにくいのが特徴。

子どもが極端に心配性だったり、身体的な症状が出ていたり、登校を拒否したりする時、他の子ども達に比べて不安の度合いが強すぎることが保護者には判るはずです。最初のステップは、専門医の診断を得ること。信頼できる医師を受診し、できれば小児の治療に慣れている心理士にかかることが大切です。特に、CBT(認知行動療法)の暴露療法(エクスポージャー法)を実践しているかどうかが重要になってきます。

全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder: GAD)とは?

全般性不安障害(GAD)は、毎日の生活の中でさまざまな物事に対して漠然とした心配や不安を6ヶ月以上持ち続ける疾患です。この障害を抱える人の不安は持続的で程度も過剰であり、本人は思うようにコントロールできません。徐々に身体症状や精神症状が現れ、睡眠や毎日の生活にも支障をきたすようになります。

GADの人は常に身体が緊張した状態で、腹痛や頭痛、睡眠障害などが起こります。要因はまだ解明されていませんが、生まれ持った気質と環境に影響されると見られています。本人は不安をコントロールできないと信じ込み、心配することを止められません。治療法としては、CBT(認知行動療法)を用いて不安になるプロセスを抑え・遅らせるスキルと自信を身につけさせます。

GADは克服できるか?

不安障害は慢性的なものです。例えば喘息と同じで、喘息の薬は喘息を完治させるものではなく症状を和らげるためのもの。GADの治療は症状によって本人が苦しまなくなること、上手くコントロールできるようになることを目指します。不安がなくなる訳ではありませんが、不安に対処するスキルを色々身につけることで、自分を守っていくことができる様になります。

まずは、子どもがエクスポージャー法にトライすることが第一。不安に立ち向かうことで、自己肯定感が高まります。不安と自己肯定感は同じベクトルの対極にあるのです。

子どもが自分から「やろう」と思えること、モチベーションを持つこと。小さい子どもの場合は、トライした後に褒美や報酬があるといいでしょう。子どもは恐怖心や不快感から不安になる状況を避けようとするため、保護者の支援が不可欠になってきます。子どもが不安だと保護者も不安になりやすいですが、保護者が自分の不安をコントロールし子どもを応援してあげられることが重要。

保護者による支援は子どもがティーンになると特に難しくなります。やらせようとすればするほど、本人は不安になり反抗的に。本人が一番やりたいこと、好きなことを見抜いて、それを上手く活用することをお勧めします。その際、協力的な専門家がいると大きな助けになります。

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