PDA(病理的要求回避)の具体例

6月ももうすぐ終わり…ということは2024年がすでに半分過ぎ去ってしまったんですね。早っ!イギリスでは10日ほど前から天気が回復し、やっと初夏らしい気候になってきました。ここのところ夜9時半過ぎまで明るいのですが、6月20日の夏至から徐々に日が短くなっていると思うと、なんだか淋しいです。

      6月は果物が美味しい季節。露地栽培の国産の苺が出回り、時おりヘタに花びらがついた苺も。忘れた頃に芽吹いた鉢植えの苺は、5年連続で小さな実をつけました。ブルーベリーの実は、今年こそ小鳥に盗られないようにしないと…。イギリスでは甘みの強いフラットピーチ(平たい桃)が人気です

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これまで3回にわたってPDAの説明をしてきましたが、実際にはどんな症状なのか?文章を読んだだけでは良く判りませんよね。

9年前にイギリスで放送されたTV番組シリーズ ”My Aggressive Toddler/ Born Naughty?(うちの攻撃的な子ども/ 生まれつき反抗的?)” で、PDAと診断された子がいるので映像を観ていただければと思います(英語ですが、彼の行動を目で追うだけでもかなり参考になるはず)。

この回に出演したのは、3歳のビリーと8歳のチャーリー、そして家族たち。両家の保護者は、ともに子どもがASD(自閉症スペクトラム)ではないかと疑っています。

注目していただきたいのは、8歳のチャーリー(7:19-/ 15:18-/ 20:10-/ 28:17-/ 34:37-/ 34:40-)の方。母親のマキシーンさんは、彼の行動は発達上の問題に起因するものと確信し、支援を求めて4年のあいだ不毛な戦いを続けてきたそう( 15:18-)。番組の終わりに、ようやく「ASDのPDAプロフィール」という診断が降りました。

撮影時点では、チャーリーはホームスクーリングを余儀なくされ、ほとんど家で過ごす毎日(7:19-)。ゲームで負けると不機嫌になり、母親がスイッチを切った途端、叫んで母親を攻撃し始めます。自分の意向にそわないと態度が激変――そんな彼をマキシーンさんは「ジキル博士とハイド氏みたい。全く予測不可能」と告白。

ラビ医師が家を訪問し、まず祖父にインタビュー(17:09-)。祖父母には懐いていますが、祖父いわく「チャーリーは私達を側にいさせるけれど、いつもひとりで遊んでいる」とのこと。ソーシャルスキルの問題を示唆していますね。

学校や友達について聞かれると(17:38-)、チャーリーは「やってないのにいつも怒られるから学校は嫌い」「友達はX Boxの仲間たち。喧嘩しても実際に殴り合いにならないから」と答えました。ラビ医師は「思考や行動に柔軟性がなく、曖昧な言葉や冗談が理解できない。変化を嫌い、社交性がない」とASDの疑いを強めます。

私が気になったのは、ASD児の5人に1人が学校システムから排除されているというナレーション(20:10-)…チャーリーもそのひとりで、週に数時間は家庭教師がつくものの、ほとんどの時間をTVやPCゲームに費やしているのです。外出は極度に嫌うそう。

「犬の散歩に行くから靴を履いて」と頼む母親を拒絶するチャーリー。なんとか玄関まで来させると、チャーリーは止める母親を無視して外へ猛ダッシュ。いつも公園の樹に登り、母親が犬を散歩させている間中ずっとそこにいるのが習慣なんだそう。今まで母親や犬と一緒に歩いたことは一度もないとか…。

次に、児童心理士のケネリーさんと言語聴覚士のヘレンさんがチャーリーを訪問(21:52-)。一人がアセスメントを行う間、もう一人はボディランゲージ他を確認します。体を揺らす、思考が狭い範囲に限定されている、非言語コミュニケーションを使わない――ASDの特性が見て取れます。

また、いつもと違うビスケットを出されたチャーリーは、彼女たちと視線を合わせたり、問いかけたりしません。食べかけのビスケットを口から出して「おいしくない」とテーブルに戻しました。

チャーリーの睡眠のパターンを調べてみると(28:17-)、寝かせようとする母親に対してメルトダウンを起こし、暴力を振るっています…。ここで心理学者のケネリーさんが着目したのは、チャーリーが何度も体を揺らしていたこと。

複数のアセスメントの結果、常同行動や思考の狭さから、専門家チームはチャーリーがASDであると診断(40:00-)。加えて、新しくできたPDA問診を行ったところ、通常よりかなり高い数字が出たため、ASDのPDAプロフィールであることも同時に診断されました。診断結果が出ると、母親のマキシーンさんは安堵の涙を浮かべました。これでやっと皆に理解してもらえ、適切な支援をしてもらえると希望を持てたからです。

診断後、この情報は地方自治体に通達され、チャーリーは新しい学校に受けいられることに(TVで取り上げられたため、上手く行った部分も大きいかと思います)。家庭でも家族がPDAについて学んだことで、状況は好転。以前より笑顔が増え、かなり落ち着いて暮らせているよう。

朝チャーリーを起こす時(44:50-)、マキシーンさんは大きな砂時計を枕元に置き、「今から10分、砂が全部下に落ちたら起きるのよ」と告げます。こうすることで母親の要求は砂時計の要求にすり替わり、彼女が攻撃されることはないのだとか。

砂時計はゲームをやめさせる時や、寝る時にも使えそうですね。また、「◯◯をしなさい」ではなく、「何分で◯◯ができるかな?競争しよう」とゲーム感覚にすれば、要求の様には聞こえません。

緘黙もそうですが、子どもに合う支援を見つけることの重要性を感じました。

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PDA(病理的要求回避)とは?(その3)

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PDA(病理的要求回避)とは?(その3)

イギリスでは先週末から天気が回復して、やっと通常の6月の気温に戻った感じです。一年で一番いい季節を楽しもうと日本からやってきた友達にとっては、雨降りの寒い日が続いて気の毒でした。

    ロンドンのキングスクロス駅近くにある生物学研究所、フランシス・クリック・インスティテュートで脳の研究をテーマにした『Hello Brain!』展を観てきました。現代神経科学の父、サンティアゴ・カハル(1852-1935年)による細密な脳細胞のスケッチや毛糸で編まれた脳細胞を見て不思議な気持ちに

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PDA(病理的要求回避)はASD(自閉症スペクトラム)のプロフィールのひとつ」と言われますが、標準的なASDの支援対策では機能しないことが多いといいます。

英国PDA協会が推奨するアプローチはPANDA:

P(Pick Battles)  やらせたいことを選ぶ

  • ルールは最小限に
  • こどもが選択しコントロールできるようにする
  • 理由を説明する
  • できないこともあると受け止める

A(Anxiety Management) 不安の管理

  • 低覚醒アプローチを使う
  • 不確実性を軽らす
  • 根底にある不安と社会的/ 感覚的な課題を確認する
  • 事前に考えて計画を立てる
  • メルトダウンはパニックアタックとして扱う:一貫したサポートを行い、先に進む

N (Negotiation & Collaboration)  交渉と協力

  • 冷静さを保つ
  • 課題を解決すべく積極的に協力し、交渉を行う
  • 公平性と信頼を主眼とする

D (Disguise & Manage Demands) 要求を隠して、管理

  • 要求は間接的に
  • 常に要求に対する許容範囲をモニターし、それに応じた要求をする
  • 子どもと一緒にやることが助けとなる

A (Adaptation)  臨機応変に

  • ユーモアや気晴らし、目新しさ、ロールプレイを試してみる
  • 柔軟な態度
  • プランBを立てておく
  • 十分な時間を与える
  • ギイブ&テイクの量的バランスを取る

では、具体的にはどうサポートしたらいいのでしょう?

例えば、部屋を片付けさせたい時:

<時間など選択肢を与える/ 柔軟な対応をする>

今部屋を片付けなさい  ⇒  今日は部屋を片付けてみようか? いつやってみる、今それとも後で?

★子どもが何かを要求してきたら、子どもと相談して小さなご褒美を与える

<間接的に言い換える:「~なさい」など直接的な要求は避ける>

部屋を片付けなさい ⇒ 何から片付けたらいいかな? 誰が早く片付けられるか競争しよう!

おもちゃを箱にしまいなさい ⇒ ゲームしようか? 何個おもちゃ箱に入るかな?

★要求されているのではなく、自分で選んでコントロールできるかのような言い方に換える

「色合わせ」をゲームにした具体例:

https://www.instagram.com/tv/Cbrk7S4pkrU/?utm_source=ig_web_copy_link

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PDA(病理的要求回避)とは?(その2)

6月ももう10日を過ぎました。今年がもう半分過ぎようとしているんですね…時間が経つのが本当に早い!

     日本からやってきた旧友と南ロンドンのトゥイッケナムにある、ストロベリーヒルハウス (Strawberry Hill House & Garden)  に行ってきました。18世紀の英国ジョージアンゴシック様式の内装が壮観で、ヤンファンホイスムの有名な静物画も観られて幸運でした

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PDAという症状名は英国の発達心理学者、エリザベス・ニューソン(Elizabeth Newson 1929 – 2014)が1980年代に提案。2003年の論文(Newson et al., 2003)により、その存在がまず英国で認識されるようになりました。ちなみに、ニューソン夫妻の長男にこの症状があり、心理学者の両親が一緒に研究を続けた成果だとか。

現在のところ、PDAはアメリカ精神医学会が作成するDMS-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)にも、世界保健機関(WHO)が作成するICD(国際的な診断基準)にも掲載されていません。それだけに、まだまだ研究が必要な疾患といえますね。

では、PDAとは具体的にどんな症状なのでしょう?

撮影当時(2017年)18歳だったアイザック・ラッセル君が発信するビデオ、『僕のPDA体験』を参考にしてみました。スカイプを通して母親の質問に答えるという形式ですが、これが大きな反響を呼んだため、情報源として公開に踏み切ったそう。当時、ラッセル君は若者専用のケアホームに住んでおり、そこにはASDとPDAを併せ持つ当別支援学校が併設されていました。

<抜粋要約>

● 一番不安を感じるのは、「自分ができない」と感じているのに、周囲から「こんなに簡単なことが何故できないの?」と全く理解されず、やるよう期待される時

● 例えば、精神的に調子が悪い日、靴を履かなければ外に出られる様に感じたとする。誰かに「靴なしで外出なんかできない」と言われても、靴を履くことは絶対に不可能。もちろん、そんな考えは不合理だと自分でも解っている。でも、反対に「絶対できない」という自分もいて、それを周囲に説明できないし、何故なのか自分で理解することも難しい

● 機能的な能力――朝起きて、ベッドから出て、朝ご飯を作って食べて、洗い物をして――こういった普通のことをする能力は当たり前に持っているし、やり方も知っている。時によってはちゃんとできるのに、殆どの場合はできない。ただ、できない。どうしてか説明するのは困難で、本当にフラストレーションがたまる

● 映画『インサイドヘッド』みたいに、脳のコントロールパネルに20人の僕(感情)がいて、例えばそのうちの1人が食べたり、飲んだりしたいと思っても、PDAの僕がハンドルを握っていたら、食べることは不可能

● 例えば、友達との外出。自分でも行きたいし、いいことだと解っている。だけど、どこからか「できない」という感情が介入してくる。これは疲れている時に特に顕著

● 要求は外からだけじゃない。毎日学校に行かなければ、顔や身体を洗わなければと意識しただけで、脳が「できない、できない」とパニックに陥る。最悪な自己破壊行為といえる

● もし誰か近寄ってきて「◯◯をしなさい」と要求したら、すぐパニックになって泣き出したり、パニックアタックを起こしたりする

● 大抵の場合は、まず回避から始まって徐々に不安が拡大していく。例えば、目が覚めて学校に行くことを意識すると、自然にタブレットに手が伸びる。天気や今日のスケジュール、SNSをチェックしたりする。これ以上回避できないところまでいくと、不安が広がって落ち込むことも多い。こうなると、絶対に学校には行けない。反面、すっとベッドから起きて学校に行ける日もあって、自分でも何故だか解らないから、本当にフラストレーションがたまる

● できない自分に対して、自分がいかに無価値か、これからずっとベッドから起き上がれないんじゃないかと絶望的な気持ちになる。自己嫌悪感がつのる

● できないことが続けば、ハードルはぐっと上がる。3日も学校に行けなかったりすると、「今日こそ行かなければ」と困難さが倍増してしまう。たとえ行けたとしても肯定的な気分にはなれず、もっと落ち込んだりする

PDAの子どもは登校拒否になることが多いという統計が出ています。本人は学校に行きたいくないのではなく、行けないのです。また、登校できたとしてもタスク拒否や癇癪を起こしたりすることが多く、学校で対策が立てられないため、停学になることも…。

一見するとコミュニケーション能力が高そうに見えるため、家族にも周囲にも誤解されやすそうですね。ASDの支援では対処できず、当事者は本当に生きづらいし、周囲も大変だと思います。

緘黙でかつPDAも抱えた子ども/人もいると言われています。もし、生活に支障が出るほど言うことを聞かず、癇癪ばかり起こしていると感じたら、ただの我が儘ではなくPDAの可能性があるかもしれません。

次回はPDAの対処法について書く予定です。

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