『バリバラ』の続編を観て

2月も今日で終わりです。ラッパ水仙の一番花が咲き、春の兆しが感じられるようになったと思ったら、シベリアからの大寒気が。先週から最低気温が氷点下の日が続いています。今朝はロンドンも雪景色となり、午後は大雪警報…でも、こういう日に限って外出しなければならない用事がいっぱいという…。

1月下旬に放送されたNHK『バリバラ』の『どきどきコテージ』(前・後編)を観ることができました。

場面緘黙と吃音に悩む全国の若者たちに声をかけ、「コミュニケーションは苦手だけど人と関わりたい」と集まった男女8名。場面緘黙の女性と吃音の男性各4名が、三重県の海辺の町にあるどきどきコテージで2日間を一緒に過ごします。

昨年の場面緘黙特集に出演したユリエさんとサナさんも参加。吃音を抱える男性4名のうち、特に症状が顕著なトモヒロ君が、ムードメーカー的な役割を果たしていました。

1日目は顔合わせと自己紹介、そして2手に分かれての活動。写真が好きで緘黙の本も出版しているエリさんのグループは写真撮影に、もう一つのグループは横並びで釣りに挑戦。が、無言の女性たちに男性たちはどうやって対応していいのか分からず、まだまだぎこちない雰囲気…。

4人という小グループ、「カメラ」という媒体を通じたコミュニケーション、「横並び」という位置関係――こういった作戦いいですね!

緘黙の人は直接顔を見ながらのコミュニケーションが苦手です。人に感情を見られるのが怖くて、自分の気持ちを顔に出せず無表情になってしまう…。反応が薄いため、相手はどうしていいか判らず、「自分とやり取りしたくないんだ」という誤解を与えがち。

ワンクッション置いたコミュニケーションからスタートすれば、安心できますよね。そこから徐々に慣れて、少しずつ顔を見ながらのコミュニケーションに移行できればいいと思います。

1日目の夜、夕食を囲んで和やかな雰囲気にと思いきや、女性たちはとても緊張した様子。緘黙児(人)は人前でものを食べることが苦手なことが多いんですが、症状がひどい場合は「会食恐怖症」(せせらぎメンタルクリニックのサイトで詳しく説明されていました eseragi-mentalclinic.com/deipnophobia/」)だと思います。

イギリスでは場面緘黙を恐怖症のひとつとして捉える考え方が主流になっていますが、会食恐怖症も恐怖症のひとつ。CBTのスモールステップで少しずつ克服していく方法は、場面緘黙の治療法と同じです。

1日目の夜、男性たちはエリさんの本を読むなどして、場面緘黙についてより深く理解します。翌日は、筆記、カメラを通じてなど様々なコミュニケーションを許容し、女性たちのアシスト役に。

写真が好きなエリさんは、自らの写真アルバムを皆に見せ、筆談のスピードも分量もアップ。1日目に自分から話せなくて輪の中に入れなかったマイさんは、「一緒に言おう」と協力してくれた男子のおかげで一歩を踏み出すことができました。ユリエさんとサナさんも自分なりのペースと工夫で参加。

2日目は水族館へ。ここでも二手に分かれて行動しましたが、魚という媒体を通してのコミュニケーションはかなり和んだいい雰囲気に。最後に一緒にピザを作って食べる過程も、前日よりスムーズでグループとしての一体感ができていました。女性たちを気遣う男性たちの目が、とても温かかったです。

1泊2日はちょっと短いかなという気がするので、彼らが今後も個人的なお付き合いをしていけたらいいですね。

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『バリバラ』を観て--身体的な緊張

身体的な緊張をほぐすには?

自己肯定感を培う

自己肯定感を培う

ふと気づけば、既に2月も半ば過ぎ。バレンタインデーももう終わってしまいましたね。

2018年の出だしは、受験生君がクリスマス休みからインフルで体調が悪く、赤信号のスタート。元々家で全く勉強しない/できないうえ、授業も休みがちになってしまいました。やっと治って通常運転になったと思ったら、2学期のハーフタームに突入。その間、確定申告や他の仕事が入って、気持ち的にアップアップ…。

ということで、前回の投稿からずいぶん時間が空いてしまいました。

さて、前回の続きです。緘黙のために身についてしまった無表情や身体の緊張を、まず家で改善できないか?――家では普通に話してるんだから、関係ないと思われるかもしれません。

でも、緘黙の人にとって、家は唯一普通の自分でいられる場所。いわば陣地です。身に着けてしまった自分を守る殻を、いきなり外で破るのはハードルが高いですよね。まず、陣地で「自分を認める」「自己肯定感を持つ」ことから始めるのがいいと思うんです。

まずは、自分を認めて好きになることから。「私は大丈夫」「なんとかなる」という基盤がないと、何をやっても不安がつきまといます。最近つくづく思うのですが、自分という存在がこの世に生を受け、今ここにいるってまさに奇跡。誰かに廻り遭うのもそうとうな奇跡ですよね。だから今ここにいる自分を大切にして欲しいです。

1) 自分に優しく

私には、自分は「すごく内向的」と宣言している友達がいるんですが、実は彼女の仕事は大勢の会社役員や大企業のビジネスマン・ウーマンを相手に講義したり、指導することなんです。自分の内向性と対峙するため、今までに様々なセラピーを試してきたそう。以前、SE(Somatic Experiencing ソマティック・エクスペアリエンシング 体細胞療法)について書いたのですが(『出生時のトラウマ体験と不安になりやすい気質』をご参照ください)、彼女がSEについて興味深いことを教えてくれました。

SEは主にトラウマの解消に効果的といわれていますが、彼女は「自己調勢力」を養うことを学んだそう。

「自己調勢力」というのは、簡単にいうと「心のバランスを調整する力」という感じでしょうか。例えば、落ち込んでいる時って気持ちがネガティブになりますよね?そういう時に、天気が悪いと余計に気分が落ち込んだり、家族のふとした言葉が気に障ったり…。すべてが自分に反するように感じて、負のスパイラルに陥りがちです。

(特に、不安の強い人は、悪い方へ、悪い方へと考えがちじゃないでしょうか?私自身その傾向があって、被害妄想気味でした)。

悩んでいる時に、何故こうなってしまったのか?どうして自分が?--などと嘆いたり、原因を追究するよりも、まず心を落ち着かせて、居心地をよくすることが大切だと。

少しでも気持ちを楽にするために、お気に入りの音楽をかけたり、好きな飲み物を作ったり。ペットの猫を抱っこしたり、好きなものに囲まれて、心の持ちようを変えてみるんだそうです。

滅入った気分はいつか自然に晴れますが、ただ待ってるだけでは先が見えません。誰かに慰めてもらいたくても、そういう時に限ってあまり声をかけてもらえないことが多いし…。というのも、内向的な人って自分自身の問題を人に打ち明けられない傾向が強いように思うんです。そういう点では、かなり損してますね。

「自分なんかダメだ」から、「なんとなく大丈夫かな」になれたら、問題を違う角度から見ることもできるはず。心が落ち着いていると視野も開けてくるし、チャンスが来た時にすぐ動けると思うんです。

2) いつもより積極的に

自分から家族に話しかけたり、いつもより長く話したり、家事を手伝ったりして、コミュニケーションを多くとりましょう。また、アプリや電話を使って声を出す練習をしてみてください(過去記事『声を出す練習を』を参照してください)

3) 大声で歌ってみる

おもいっきり大声で気持ちよく歌ってみましょう。大音量で音楽をかけられる状況だったら、一緒に歌っても恥ずかしくない?安心できる人(兄弟姉妹や親)と一緒にカラオケに行ってみるのも楽しいかも。

4) ひとりで外に出てみる

まずはコンビニやスーパーでの買い物など、外に出る機会を多く作りましょう。家族に声をかけて、一緒に外出してください。知り合いに遭遇することが怖いかもしれませんが、会釈できればOK。犬を飼っている方は、散歩係を引き受けてみては?少しずつ行動範囲を広げていくことで、自信がついて次のステップに進みやすくなると思います。

またとりとめのない文章になってしまいましたが、もう春がそこまで来ています。早春の花々の生命力を見て、感じて、パワーに変えたいですね。

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『バリバラ』を観て--身体的な緊張

身体的な緊張をほぐすには?

身体的な緊張をほぐすには?

NHK Eテレの『バリバラー場面緘黙編』を観た後、身体的な緊張をほぐすにはどうすればいいのか考えてみました。

緊張すると喉が閉まったような感じになって、体までいうことをきかなくなる…。そんな体験を重ねる毎に、話せず動けない自分が人にどう見られているかが怖くて、人と接する機会を避けるようになってしまう。

緘黙で苦しんでいる本人は、普通に人と接して話したい・友達を作りたいのに、ものすごく理不尽な状況ですよね…。

でも、事情を知らない人は、無言・無表情で身体を固くしている緘黙の人に、正直どう対処していいのか分からないんじゃないでしょうか?自分が受け入られていないように感じ、それこそ不安になって、そのシチュエーションを回避しようとするかもしれません。「この人は私と接したくないんだ」と誤解されることも多いかも…。

だからこそ、場面緘黙がもっと一般に広まって、もっともっと理解が深まることを願わずにはいられません。ひとりでも普通に接してくれる人が傍にいれば、周囲の見方や反応も変わってくるはず。

それにしても、緊張による無表情やぎこちない身体の動きを改善する方法ってないものでしょうか?

番組を観ていて、人と接する時の緊張度が低いほど、顔の表情やふるまいがより自然な感じになるのが判りました。人前で恥ずかしそうに黙っているのと、無表情でカチンコチンに固まっているのとでは、印象が随分違ってくると思うんですよね。

たとえ無言でも、「あの人感じいいな」と思ってもらえれば、相手の態度も違ってくるんじゃないでしょうか?

緘黙のために身についてしまった無表情と身体の緊張を、なんとか家で改善する方法はないものかと、色々探していたところ、次のような動画に巡りあいました。

ご存知かもしれませんが、大愚元勝という和尚さんの人生相談です。

ひとつめは、ほぼ引きこもりでニートの女性へのアドバイス。

話すことだけがコミュニケーションではなく、ボディランゲージ、絵を描くこと、歌うことなど様々な表現方法があるという言葉に、ハッとさせられます。

また、できないこと・持っていないものばかり追うのでなく、今できること・持っているものを磨くことを提案しています。

うまく話せなくても、素敵な笑顔があれば、思いやりのある手紙が書けばそれでいいと。処方箋として、鏡の前で笑う練習をすること(動画の10分あたりから)をあげています。

実は、私もこれを実行していた時期がありました。

息子が赤ちゃんだった頃、夜泣きが酷くていつも機嫌が悪く、母親の私の方が相当参ってました。睡眠不足で疲れはててしまい、一日を乗り切るのが精いっぱい。当時は、めっちゃ暗い顔をしていたと思います。

相談した保健婦さんのアドバイスは、「息子さんはちゃんと育ってるし、こんなに可愛いじゃない?あなたはよくやってるわよ。毎日鏡を見て、にっこり笑って自分に『頑張ってるね』って言ってあげて」というもの。

で、実際にやってみたら、ほんのりと暖かい気持ちになれたような…(息子の夜泣きは睡眠スペシャリストに相談したり、専門書を読んで、なんとか解消)。自己暗示かもしれませんが、一定の効果があったと思ってます。

気休めかもしれないし、何も変わらないかもしれませんが、気は持ちよう。まず試してみては?大愚和尚は、特に「女の子は」と言ってますが、男の子も是非試してみてください。

ふたつめは、何もしていないのにイライラのはけ口にされるという30歳の女性へのアドバイス

緘黙の人と状況は違うのですが、毎日5分正座をすることによって、身体を変える(22分あたりから)ことを提案しています。

私は昨年からピラテスを始めたんですが、やっているうちに姿勢が良くなったように感じています。みなさん若いんだから、試してみる価値大ありです。

みっつめは、精神的な多汗症に悩む18歳の男子高校生へのアドバイス

こちらも状況は全く違いますが、その元凶は不安です。自分の身体に起こることのしくみ(なぜ緘黙状態になるのか)を理解し、緊張した時にはそのことを考えるのではなく、何か別のことに集中することが問題の解決になるのではと説明しています(15分あたりから)。

大愚和尚さんの言葉、とても愛情がこもっていると思います。話だけでも聞いてみてください。

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『バリバラ』を観て--身体的な緊張

『バリバラ』を観て――身体的な緊張

明けましておめでとうございます。

えっ、もう2018年になっちゃったのか~という感じで始まった新年、もう6日目に入り、今日はクリスマス飾りをかたづけました。

そして、仲間の好意で昨年10月に放送されたNHK Eテレの『バリバラー場面緘黙編』を観ることができました。

10~20歳代の、いわば大人(ひとりは学生)の当事者さんと経験者さん計4名が出演。番組では長期間緘黙で苦しんだ・苦しんでいる人の問題が浮き彫りにされたように感じました。

私の印象に残ったのは、「話せないこと」よりも、身体的な緊張です。

不安や緊張を隠すため(?)に長年身に着いてしまった無表情な顔、そして委縮した身体の不自然な動き…。

無表情だから、困っていてもあまり困ったように見えない…。手足や体の動きがぎこちなくて、話さないことよりもそれ自体が目立つような…。

緘黙のせいで「話せない」だけでなく、他人と接する場面で身体が思うように動かなくなってしまう――そのため外出したり、誰かと会うこと自体が怖くなり、家の外に出ること自体を避けるようになってしまう…。社会生活と直結しているだけに、ものすごく深刻です。

出演したのは、母親と祖母としか話せない加藤さん(男性)、小学校時代に緘黙で今も雑談が苦手な田中さん(女性)、学校ではほとんど話せないほのっぴさん(女性)、外ではほとんど話せない遠藤さん(女性)。

学校や外でほとんど話せないのに、明るいライトに照らされたスタジオで、大勢の人の視線を浴びながら自己紹介?!

と思いきや、ほのっぴさんも遠藤さんも、少し時間はかかりましたが声を出すことができて大感動!

みんなが固唾をのんで見守る中、ものすごい勇気だなと思いました。

きっと、出演者たちの中で「変わりたい!話せるようになりたい!」という気持ちがめっちゃ強かったんだろうなと…。

自己紹介したとき、司会者たちの方を見られたのは、緘黙経験者の田中さんだけでした。

番組冒頭で普段の様子を取材された加藤さんは、音声アプリを使用。無理に声を絞り出そうとはせず、自分が「これなら出来る」と安心できる方法でコミュニケーションしました。

彼は新聞配達の仕事や講演会などの啓蒙活動もしていて、チャレンジ精神がすごいです。まず自分ができそうなことから始めて、行動を広げてきたようですが、そこでは得意のケン玉が大いに役立っているとのこと。やはり好きなこと・得意なことがあると強いですね。「好き」「やりたい」というエネルギーが、緘黙の殻を破る力につながるんだと思います。

専門家の高木先生が言われるように、同じ場面緘黙でもひとりひとり本当に違います。「この人ができるから私も、うちの子も」という訳にはいきません。

声を出せそうな人は音声アプリに頼らない方がいいと思うのですが、音声アプリで自信を得てから、声を出すことに挑戦という人もいるでしょう。信頼できる人に協力してもらい、自分の緘黙・不安状態をしっかり把握することが大切だと改めて思いました。そのうえで、その人に合う方法で少しずつステップアップしていくのが一番かと。

加藤さんの場合は、自宅でも、勤務先の新聞販売所でも、スタジオでも、カメラの前では笑顔は見られませんでした。小学低学年までは話せたそうですが、緘黙になった当時は朝自分の席に座ったら、トイレも行けず、給食も食べられず、一日中ずーっとそのままの姿勢で過ごしたとか…。完全な緘動状態で、毎日緊張でヘトヘトだったのでは?

小学校高学年になると自意識が強くなり、他人の目が気になります。「みんなに変に思われる」と余計に緊張しがち。そのため、緘黙・感動状態が定着する傾向が強くなってしまうのです。

彼の中で、人に声を聴かれることと同じように、感情を外に出すことが一番怖いのかもしれません。母親と二人きりで会話しているシーンでは、言葉が普通にでるだけでなく、身体の動きもずっと自然です。そこに取材スタッフが入ると、すっかり固まって手や腕の動きまでぎこちなくなる…。

そんな彼が、新聞配達の仕事を3年間続けて周囲の信頼を得、講演会や啓蒙活動を通して大勢の人と接しているのは、本当にすごいと思います。

ところで、新聞販売店の所長の「加藤君は大事な戦力」という言葉――本人はもちろん、緘黙の人やその保護者たちにも本当に希望が持てて嬉しいですよね。

どんどん自信をつけて、緘黙克服の力をため込んで欲しいです。

一方、ひとりでの買い物に挑戦した遠藤さんは、自宅で母親が隣にいる状態だと、緊張もそれほど強くないよう。言葉も出やすく、表情も和らいで笑顔に近い…。話すとき、スタッフと視線を合わせているな、というのが判ります。

買い物チャレンジでは、すっとお店に入って店員に会釈も。ただ、事前の分析で緊張レベル2(ふつう)と思っていた「服を選ぶ」行為が、実際やってみたら最難関のレベル5だということが判明。でも、スタッフの所にきて首振りでやり取りしている遠藤さんの緊張度はそれほど高くないように見えました。

急遽、服を決めることだけ母親と一緒にしたのですが、母娘で歩いている時はほっとして嬉しそう。服を決めた時言葉が出て、ひとりで試着した後に店員さんに笑顔で「大丈夫です」と言えました。

新しい洋服、とっても似合ってましたね。

気に入った洋服を手に入れるというワクワク感が、不安に勝ったように見えました。これからも、ひとりでお買い物したり、カフェに入ったりする挑戦をどんどん繰り返してステップアップして欲しいです。もし不安が強い場合は、最初だけお母さんにお店の外で待っててもらったり、店の近くにいてもらえばいいんじゃないかな。

和らいだ表情だと、周りの人も親しみが持てて、とっつき易いですよね。

次回は、どうやったら身体的な緊張をほぐせるか考えてみたいと思います。