2018年SMiRAコンファレンス(その7)

場面緘黙トーキングサークル―場面緘黙経験者による成人のためのサポート              SM Talking Circles- Peer support for adults with lived experience of SM

公演の最後は、緘黙経験者のジェーン・サラザーさん。何と45歳の時までずーっと緘黙だったんだそう! 5年かけて克服し、現在はTalking Circleというグループの代表として場面緘黙の成人たちを支援しています。

Talking Circleはその名前通り「話すためのサークル」です。同じ緘黙で苦しんでいる仲間が集り、お互いに助け合いながら一緒に克服していこうという趣旨。グループに加わって、気軽に参加して欲しいとのことでした。

ジェーンさんは1対1のセラピーでグループセッションを勧められて参加し、グループによる支援の効果を実感したといいます。不安を感じる状況で、普通に話すことがどんなに難しいか――それを理解し合える仲間同士なら、言葉に詰まっても、黙っていても気兼はいりません。

今やSNSの時代ですが、同じ問題を抱える人同士が顔を突き合わせて対話に挑むことの大切さ、人と接することの大切さを力説。とにかく、まずは人と繋がりを持つことが重要だと。長い間緘黙が続くと、人と接したり、コミュニケーションを持つ機会が少なくなるので、こういったグループの存在は本当に貴重だと思います。

それぞれの頑張りを見て、刺激し合えるという利点もありますよね。例えば、ひとりでダイエットに挑戦すると、どうしても甘えてしまいがちですが、グループに参加することで頑張れるのと同じように。

ジェーンさんは、2016年に地元のカンタベリーでこのグループを立ち上げ、最近南ロンドンでも新たなグループを開始したとか。機会があったら、是非一度のぞいてみたいなと思います。

堂々と明確な口調で話すジェーンさんは、とても45年間(?)緘黙だった人とは思えませんでした。そんなに長い、長い年月をどんなに苦しい思いで過ごしてきたのかと思うと、本当に胸が痛みます。ジェーンさんの努力と勇気に、会場からは暖かい拍手が沸き起こりました。

余談ですが、私のすぐ近くにSMの成人として2015年にBBCのドキュメンタリー(詳しくは『BBCが大人の場面緘黙を紹介』をご覧ください)に出演し、一昨年のコンファレンスでプレゼン(詳しくは『場面緘黙の成人、サブリーナさんのプレゼンテーション』をご覧ください)を行ったサブリーナさんと妹さんが座っていました。

最初に声をかけた時は、まだ緊張が強かったのかちょっと固い表情で会釈してくれました。それが、時間が経つにつれて表情がリラックスし、妹さんと内緒話も。実際に声を聞いた訳ではないですが、ランチタイムには多くの人に話しかけられ、笑顔で応えていたよう。

「皆が理解してくれる場」として、SMiRAコンファレンスに参加するSMのティーンや成人が増えています。参加したら話せるようになるという訳ではありませんが、当事者や保護者が勇気づけられる場所になっていることは確か。

SMの克服は長期戦で、人によって、また状況によっても回復のスピードはそれぞれ違います。焦らずマイペースに前進できるよう、トーキングサークルのようなグループが全国各地にできればいいなと思います。

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保護者そして教員の視点から見た場面緘黙 SM from a parent and teacher’s perspective

次の講演は、小学校の教員で緘黙児の母親、そしてSMiRA委員会メンバーでもあるクレア・ニールさん。彼女の娘さんは4歳の時に場面緘黙になり、12歳の現在も克服中だとか。小学校の現状や教師がおかれている立場を踏まえ、いかに学校と協力関係を築くかを語ってくれました。

娘さんについてはあまり触れなかったので、今緘黙症状がどの程度なのかは不明です。ただ、7歳の時引っ越しのため転校することになり、本人は「次の学校では話す」と強く決意していたものの、結局話すことはできなかったと(家族もですが、本人は相当ショックだったでしょう…)。

(みく注:転校や進学は子どもが話し始めるチャンスといわれます。成功率が高いのは、本人の「話せる」という自信や「話したい」気持ちが充実していているケース。「これまでずーっと黙っていたのに、今話し始めたら皆に変に思われる」という自意識から「今いる学校では、どうしても話せない」と強く思いこんでいる子が多いようです。

新しい学校では、話し始めるという課題だけでなく、新たな友人関係や先生たちとの関係の構築、新たな環境への適応も必要となってきます。新しいクラスに途中からは入っていくのは、SM児でなくても勇気がいりますよね?それを考えると、転校よりも皆が新しいスタートを切る進学の方が、チャレンジしやすいかもしれません。それでも、どんなクラスか、どんな先生か、初日がどうだったかに随分左右されると思います)

クレアさんによると、今小学校で何らかの問題を抱える子どもが増えているとのこと(私も5年ほど前に小学校でボランティアをしてみて、同じように感じました。35人のクラスのうち、10人弱がSEN(特別支援)リストに載っていてビックリ。でも、そのうち何らかの診断が下りている子は2人だけでした)。

それぞれの子どものニーズが異なる中、一番手がかかるのは行動に問題がある子です。席にじっと座っていられない、友達と問題をおこす、授業についていけない――こういった子どもの支援をするだけで、教師とTAは手いっぱい。クレアさん自身はSM児を受け持ったことはないそうですが、普通に授業についていければ、どうしても支援の優先順位が低くなってしまうと実感しているそう。

イギリスだったらキーワーカーがついて支援プログラムを実行してくれる、と思われるかもしれませんが、現実は厳しいです。学校側がいち早く場面緘黙を察知して、支援プログラムを用意してくれるケースもあるようですが、ほんの一握りの本当にラッキーな例にすぎません。

クレアさんのアドバイスは、「ひとりでもいいから子どものことを理解してくれる人を味方につける」こと。日本だと普通はTAがいないので、担任の先生が一番子どもに近い存在になるかと思います。忙しい担任にいかにアプローチするかは、とても難しいですよね。保護者も内向的な傾向が強い場合は、不安やストレスも大きいと思います。

イギリスの学校には必ずSENCo(特別支援教育コーディネーター)がいるので、相談することができますが、日本では教師と兼任というケースが多いと聞きます。でも、できるだけ多くの学校関係者に相談して、子どもの問題を理解してもらうことが必要不可欠だと強調していました。

もうひとつ、進学や転校の際は、なるべく早く進学先・転校先に連絡を入れ、できるだけ多くの教師や学校関係者に関わってもらうようにとのアドバイス。子どもが「言わないで」と主張しても、念のため手を打っておいた方がよさそうです。

なんらかの支援をお願いする時は、スケジュールと期限を決め、できるかどうか返事をもらうこと。というのも、忙しい教育現場ではイベントやハプニングも多く、時間が経つとうやむやになってしまいがち。できない場合は、他のできそうな方法を提案してみましょう。支援の効果をきちんと記録して、次の支援やステップを話し合ったり、提案したりしていくのも大切とのこと。

やはり、保護者が積極的に関わって、教師たちの動きを監視(?)しながら、一緒に子どもを支援していくことが大切だという結論でした。話し合いをした後も継続して関わっていかないと、途中で支援が止まってしまうことも…。緘黙治療は長期戦故に、保護者も途中でメゲずにマラソン感覚で頑張らなくては、ですね。

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ASD(自閉症スペクトラム)とSM(場面緘黙)の併存  ASD & SM Overlap

今回のコンファレンスで一番興味深かったのは、教育心理学者のクレア・キャロルさんによる短い報告でした。実はこれ、プログラムには記載されてなかったんです。事前に参加者に質問を募ったところ、「ASDとSMの併存」についての質問が多くあったそうで、それに対し回答したもの。SMiRA委員会メンバーでもある彼女は、このテーマを研究中だそう。

         午後の部の最初に登場したクレアさん。用事があってこの後退室されたので、質問タイムには不在でした

「これは正式な調査ではない」と前置きした後、SMiRAのFB会員にアンケートをした結果を発表してくれました。このアンケートには300人以上の保護者が回答を寄せたそうです。

1) お子さんは純粋な場面緘黙か、それともASD併存(診断済)か

  • 場面緘黙のみ: 66%
  • ASDとSMが併存: 34%

3割近くの回答者が併存と答えました。今のところ、ASDとSMの併存率については公式な数字が発表されていませんが、イギリスではこれまでもっと少ないと考えられていました。

(以前の記事で併存率について触れましたので、興味のある方はご参照ください。『日本では発達障害と見なされやすい?(その4)』

この結果について、クレアさんは「きちんとした調査が必要」と語っていました。SMとASDの特性に重なる部分があるため、過剰に診断されている可能性がある。また、まだASDの診断が下りていないため、過少に診断されている可能性も考えられるとのこと。以前は、SMがまだ一般に浸透しておらず、ASDの二次障害として現れるSMが見逃されていた点があるとも。

2) 男女比

  • 場面緘黙のみ     男子 23% :  女子 77%
  • ASDとSMが併存     男子 50% : 女子 50%

SMの出現率は、男児より女子の方が多いということは周知の通り。場面緘黙のみのケースは女子が77%と圧倒的に多いですが、併存のケースだと男女比はきれいに半分ずつに分かれています――どうしてでしょう?

ASDの出現率については、男子の方が多いことが分かっていますが、イギリスでは最近になって女子の出現率の増加が話題になっています。これは、女の子の方が成長が早く、自分が周囲と違うことを隠したり、模倣して周囲に合わせるスキルが高いため、ASDが見えにくいという理由からのようです。そのために問題が起きるまで発見が遅れるケースが多いということ。

SMとASDの関係については、更なる研究・調査が必要となりそうです。でも、ともにコミュニケーションや社会性に関わっているので、いずれにしても早期発見がカギとなってくると思います。

長い間子どもがひとりで苦しむことがないよう、「あれっ、変だな」と感じたら、どこかに相談することが必須じゃないでしょうか?SMもASDも周囲の対応次第で本人が随分楽になることは確かなので。

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