イギリスの緘黙啓発月間

あっという間に9月が終わり、すでに10月も末。ひとつの仕事が大体片付いたところで学校のハーフターム(1週間の中間休み)が始まり、やっとまったりできました。

たまっていた掃除と洗濯をした後は、PC中毒気味。それから、久しぶりに本を読んだり、しばらく会えなかった友達とお茶したり。今年の秋は怒涛のように過ぎてしまったな~と思いつつも、ぼーっと過ごす毎日…。

さて、イギリスでは毎年10月が場面緘黙の啓発月間。大変遅ればせながら、SMiRAの掲示板で拾ってきた情報をお伝えします。

SMiRAの今年の啓発イメージはこれ↓

娘が1対1で先生と話し始めた時、

彼らは「これで緘黙が治った」と思ったの。

気づかなかったのね。

これはまだ始まりにすぎないって、

克服への道のりは、まだまだ遠いということを。

掲示板の投稿で興味深かったのは、世界有数のこども病院でロンドンにあるグレート・オーモンド・ストリート・ホスピタルが、今月6日に発表した研究論文。場面緘黙児に対するASD(自閉症スペクトラム障害)の診断方法についての研究です。

http://adc.bmj.com/content/102/Suppl_3/A31.2

(SMiRAでは、かつてから場面緘黙児(人)の中には一定の割合でASDとSMを併発している子ども(大人)がいるというスタンス。掲示板では、ASDの診断がおりた子どもに対する相談が増えているような…。親としてはとても気になるところです)

間違いがあるかもしれませんが、論文の抄訳を訳してみました。

<緘黙症状を呈する子供のための自閉症スペクトラム障害の診断経路の開発>

著者:マッケンナ、Kスティーブンソン、Sティミンズ、Mバインドマン

論文抄訳

背景:自閉症スペクトラム障害(ASD)は複雑な発達上の症状であり、至適な診断基準は多面的なプロセスを要する。我々のクリニックにおける診断は、標準化した発達問診(3DI)、標準化した半定型の尺度(ADOS-2)を用いた子どもとの直接の相互交流における観察を含む。診断評価が複雑になる要因のひとつは、ASD児の約70%がひとつ、もしくは複数のメンタルヘルス系の疾患や、さらなる発達の問題を併発していることによる。約40%のASD児が不安障害の基準を満たしており、その中には特定の状況で話すことができないという特徴を持つ場面緘黙が含まれる(SM; DSM-5)。この子どもたちは、ある状況では自信を持って話すのに、話すことが期待される他の状況では、一貫して話すことができない。最近の研究では、緘黙児の69%に発達に関連する障害が診断されており、うち7%はASDの一種であるアスペルガー症候群と診断されていることが報告されている。

方法:我々のASD専門アセスメントクリニックでは、ASDの疑いがある緘黙児が紹介されてくるケースが増えている。社会的コミュニケーションに対する評価が重要になるが、子どもがクリニックで話さないことがチャレンジとなる。現時点では研究は限られており、緘黙症状を持つ小児におけるASD診断については合意された評価プロトコルはない。我々はケーススタディを使用し、緘黙症状を呈する小児のASD診断のための評価プロトコルを開発している。これには、子どもの緘黙症状の程度やそれが診断に及ぼすインパクトを理解するため、最初の評価を延長することも含まれる。その情報により、子どもがクリニックで話さなくても包括的な評価ができるよう、ADOS-2に必要な変更を加えたり、観察を追加するなどの計画を立てることができる。

結論:緘黙児におけるASD診断のアセスメントには、診断の信頼性と有効性を確保するためのスタンダードなプロセスを維持しつつも、繊細かつクリエイティブで慎重に個別化したアプローチが必要であり、またそれが可能であると提案する。

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まず最初に目が行ったのは、最近の研究では、「緘黙児の69%が発達的な障害を持ち、その中でアスペルガー障害を併発している子どもが7%いる」という部分。これはHクリステンセンが2000年に発表した論文からの引用だと思われます。

「緘黙児の69%が発達障害を併存」ときくと、ASDの子が半分以上も?! という印象を受けませんか?でも、アスペルガーを併発している子どもは7%となっています。

日本で「発達障害」というと、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。近年、広汎性発達障害という言葉が自閉症スペクトラム障害に置き換えられるようになりましたが、なんとなく発達障害=ASDというイメージが強くないですか?

文部科学省ホームページより:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/hattatu.htm

英語でDevelopmental Disordersという場合、例えばDSM-5だと「発達障害」には精神発達障害、運動能力障害(発達性協調運動障害など)、コミュニケーション障害(表出・受容性言語障害や音韻障害など)も含まれます。これらが上記の「その他これに類する脳機能の障害」に値するのかもしれませんが、不明確だし「その他」については障害名も記されていません。

私は、緘黙の子どもがASDと診断される場合、高機能自閉症/ アスペルガーのケースが殆どではないかと思っています。というのは、高機能ではないASDの場合、3歳くらいで家族や園などが気づくことが多いと思うので。

抑制的気質の強い緘黙児は、感覚過敏があったり、極端に怖がりだったり・頑固だったりと、普通の子より育てにくい傾向があるように感じます。彼らをHSC(非常に敏感な子)と呼ぶのか、発達の凸凹がある子と呼ぶのか――でも、それが即ASDには結びつきません。対人コミュニケーションの困難を抱えているかどうか、見極める必要があります。

だいたい、自閉症スペクトラムという概念には、健常の人も含まれるのです。例えば、健常の人を水として、自閉症の人をオレンジジュースとします。水に少しずつオレンジジュースを加えていくと、どこから水ではなくなり、どこからオレンジジュースになるのか?

この図はウィキメディアからお借りしました。

https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=51752079

大切なのは、ASDに限らず緘黙児が他に抱えている問題があれば、早期に発見して対処法を見つけてあげることだと思うのです。特別支援が必要な子どもと接してきて、治らない症状や障害であっても、子どもが抱えている生きづらさを軽減してあげることは可能だと感じているので。