マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その14)
先回の投稿から、またまた1ヶ月空いてしまいました。いきなり仕事が集中し、その後2週間ほど帰国している間はネット難民になっていました(日本では空港を除いて無料Wifiを飛ばしているところはないんでしょうか…)。イギリスに戻ったらすっかり春の気候。なにも手入れしていなかった中庭が、すっかり緑につつまれていました。
帰国中に息子は知人宅で生まれて初めてのホームスティ(4泊5日)を体験。なんと、スティ先の3人の子ども(特に、11歳の長男くん)が息子に輪をかけたような恥ずかしがり屋で、親が仲介して会話を盛り上げてくれたとか。あまり日本語は上達しませんでしたが、薪風呂や掘りごたつのある実家に連れて行ってくれたり、パネルで注文するくるくる寿司や空手教室など、貴重な経験をいっぱいさせていただきました。
さて、番外編の続きです。年が上の子への支援について、マギーさんに直接お伺いしたところ、「支援を受けたティーン全員が2、3週間で口をきくようになった」との答え。これらのティーン達は緘黙が長期間続いていたと思われるのに、すごくないですか?
その理由を色々考えてみて、下記のようなことを思いつきました。
1) 公の場で話せるようになった訳ではない
まず注意すべきなのは、彼らは自宅または学校の一室で支援者に話した、または読本などで声をだしたのであって、クラスで周囲に聞こえるように話せるようになった訳ではないということ。緘黙が習慣になってしまったティーンがそんなに簡単に話せるはずはなく、やはり克服までにはかなりの時間と努力が必要と思われます。でも、一言の答えであれ、一行の文章であれ、新しい人に対して発話できたというのはすごいことですね。これをきっかけに、どのようにステップを進めていくか、子どもが支援者と共に納得しながらどう取り組んでいくかが重要なんだと思います。
2) 学校内でのセッションの不安度が低い?
自宅は安心できる場所ですが、緘黙が起こっている現場の学校はかなりの難関のはず。どうして学校での支援も同じような結果がでるのか?これはイギリスのセカンダリースクール(12~16歳)の構造によるところが大きいような気がします。イギリスでは小学校はどこも小規模ですが、セカンダリーでは急にマンモス校と化します。日本の大学のようなシステムになっていて、教科ごとに教室を移動。ベースとなる自分の教室はなく、決まった席も机もありません。同じクラスでもバラバラの教室で授業を受けることが多く、常に移動している状態。誰かが特別な支援を受けていても、それほど目立たないのではと思います。
また、イギリスには特別支援チーム専用のスタッフや学校に通ってくる専門家がいて、教師でない大人が支援セッションを担当します。緘黙の子は自意識が過剰なことが多く、同じ学校内でも人・場所・時間帯で不安や緊張度が違います。自分のことを知っている(=苦手意識が強い)クラス担任と自分の教室でセッションするのでなく、別の大人と他の生徒が入ってこない部屋・時間帯にセッションをすることで不安度が下がり、成果が出やすいと考えられます。
3) 第三者の大人とのつながりを持ちやすい環境
年齢が上の子には、本人が納得したうえで意識的に緘黙を克服していく方法が有効といわれています。第三者の大人と信頼関係を持つことで、自分を客観的に見ることができ、それが大きな自信に繋がるのでしょう。イギリスではこの第三者の大人はだいたい特別支援員(TA)か言語療法士。こういった教師でない大人が長期の支援を行うシステムがあることが、すごく強いと思います。
日本で特別支援教育を担うのは教師だと思いますが、例えばスクールカウンセラーを増やすなど、外の大人に定期的な支援をしてもらえるといいなと思います。養護教諭や用務員など、教員以外の大人にも配慮してもらえると嬉しいですね。
4) 家庭のサポートも大きく影響していそう
マギーさんが所属しているケント州のコミュニティヘルスNHSトラストは、公共の機関です。ケント州に住む友人によると、親や支援者が直接マギーさんに無料相談できる定例会が開かれているそう。(同じイギリスでも住んでいる場所によって違うんですが、ケント州とSMIRAのあるレスター州は緘黙支援が充実しています)。ということは、支援者と親、専門家のネットワークも充実しているんですね。この支援プログラムでは親とのセッションもあるので、親も子どもの状況を把握でき、それに見合ったサポートが可能になります。
思春期の子どもとどうコミュニケーションを取り、家庭を居心地のいい場所にできるかは世界的な課題です。例え子どもが自分のことを話さなくても、親に信頼されていて、いつでも助けてもらえると感じていれば、心理的に随分違うのではないでしょうか。