DSM-Vに登場した新たなコミニュケーション障害(その1)

昨年5月に、アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)が改定されたのは、周知のところです。最新版のDSM-Vでは、場面緘黙が含まれるカテゴリーが「通常、幼児期・小児期、または青年期に初めて診断される疾患」から、「不安障害」へと移行しました(詳しくは場面緘黙とは?(その2)をご参照ください)。

もうひとつ注目したいのは、この改訂版で自閉症に関する概念や定義が大きく変わったこと。これまで日本で「広汎性発達障害(PDD)」と診断された緘黙児は少なくなかったと思うのですが、「広汎性発達障害」というカテゴリー自体が廃止されたのです。

「広汎性発達障害(PDD)」がなくなり、自閉症関連の診断は「自閉症スペクトラム症(ASD)」に統合。そのうえ、何と「アスペルガー症候群」というお馴染みのサブカテゴリーもなくなってしまいました!(研修中のASD専門校の生徒は殆どがアスペっ子なので、なんだかショックでした)

しかも、「な~んだ、これからは全てASDでいいんだ」と思いきや、そうでもない様子。というのは、これまでPDDのカテゴリーに入っていた全ての診断がASDに統合された訳ではなく、別カテゴリーに移行したものと、別カテゴリーで新たな診断名がついたものがあるからなんです。

DSM-IV(1994年)では、

広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders)

  1. 自閉性障害(Autistic Disorder)
  2. レット障害(Rett’s Disorder)
  3. 小児期崩壊性障害(Childhood Disintegrative Disorder)
  4. アスペルガー障害:(Aspergar’s Disorder)
  5. 特定不能の広汎性発達障害:(Pervasive Developmental Disorder not otherwise specified(PDDnos))

↓ 改定

DSM-V(2013年)では、

 自閉症スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder)

  • ただし、2の「レット障害」はX染色体異常で、自閉症とは関連がないため、診断から除外
  • また、4と5の中で、「社会性の障害」と「常同性」がある場合はASDのカテゴリーに、「社会性の障害」のみの場合は、ASDでなく「社会的(実践的?語用論的)コミニュケーション障害(Social (pragmatic) communication disorder)」となる

厚生労働省のホームページでアスペルガー症候群を調べてみると、

- 自閉症の3つの特徴のうち、「対人関係の障害」と「パターン化した興味や活動」の2つの特徴を有し、コミュニケーションの目立った障害がないとされている障害です。言葉の発達の遅れがないというところが自閉症と違うところです。知的発達に遅れのある人はほとんどいません- とありました。

厚生労働省のホームページ e-ヘルスネット「アスペルガー症候群について」より http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-006.html

あれっ?コミュニケーションの目立った障害がない??? アスペも自閉症も、基本的には「社会性」・「コミュニケーション」 ・「想像力」の3分野に障害があるのでは…。私は、アスペの子は知的発達や言語に遅れがないんだと思ってましたが、どうも医師や団体によって、定義が少しずつ異なっているようですね…。

「常同性」というと、手をヒラヒラさせたり、ぴょんぴょん跳んだり、同じ遊びや何かをする順番に執着したり--でも、年齢によって改善するケースも多いし、はっきり「常同性」と区別しにくいケースもありそうです。

この間、休み時間に校庭で男性のTAと話していたら、そこにクラスの子がやってきたんです。私と話していたTAに、PCゲームのことでやけに詳しい質問をし、よどみなく長いやり取りをしました。彼が行ってしまった後、「あの子の知識はすごいよね。話し言葉も自然だし、ぱっと見だとASDだとは思えない」と言ったら、「実は毎回僕のところに来て、全く同じ質問をするんだよね」と…。これも「常同性」なんでしょうか?

また、特定不能の広汎性発達障害(PDDnos)について、wikiで下記のような興味深い記述を見つけました。

- 東京大学名誉教授医学博士)の栗田廣氏は、「海外ではPDD-NOSとして診断される障害者がPDDの2分の1であるのに対して、日本ではPDD-NOSはほとんど診断されず、アスペルガーとして診断され ている。実際、信頼できるイギリスの診断結果の報告文によると、比率的にPDD-NOSがやはりPDDの2分の1、アスペルガーはPDDの13%(全人口 の0.1%)にすぎない。どちらも高機能であり、診断は難しいが、日本でアスペルガーとして診断されている障害者(全人口の0.3 – 0.4%)の多くは実はPDD-NOSではないか」という旨の疑問を呈している -

こちら → http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E5%AE%9A%E4%B8%8D%E8%83%BD%E3%81%AE%E5%BA%83%E6%B1%8E%E6%80%A7%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3

あれれ、何だかアスペや広汎性発達障害の診断も、医師や病院、属する機関によって少しずつ違うのかも…。

長くなってしまったので、いったん切りますね。ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございます。

なお、発達障害の説明については、「軽度発達障害フォーラム」というサイトが詳しく、解かりやすいと思いました。

こちら → http://www.mdd-forum.net/pdd_teigi04.html

 

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DSM-Vに登場した新たなコミニュケーション障害(その1)」への7件のフィードバック

  1. マーキュリー2世さん

    コメントありがとうございました。

    >アスペルガーについては次回のDSMで復活するだろうと予測している論文もあります。

    そうみたいですね。ASDは連続体ですが、やはり高機能とそうじゃない場合、言語能力が高い場合など、それぞれ対策が随分違ってくると思われるので、何らかのガイドラインは必要になってくると思います。

  2. 龜コメントで申し訳ございませんが一言。

    まずDSMはアメリカ国内での使用を目的に作成された診断基準です。ICDは全世界で使用されることを目的に作成されています。例えば対人恐怖症が日本の文化依存症候群とされるように、「病的とみなされる状態」は集団により異なりますので、当然DSMとICDでは内容に食い違いがあります。

    それはそれでご理解頂くしかないとして、診断作業における常同性(こだわり)とは、同じ行動を繰り返す現象がある、だけではありません。例としてDSM-5をみてみると、Bブロック;限局された反復する行動や興味(こだわり)に、
    1.エコラリア、常同・反復行為
    2.同一性へのこだわり、儀式
    3.著しく限局された興味
    4.感覚刺激の反応亢進または低反応
    以上4つの記載があります(これらから2つ以上)。

    常同行動(1.)まで行かなくても、いつもと違う活動で不安定になる(2.)+聴覚過敏がある(4.)、こんな感じの子はたくさんいますよね?

  3. 通りすがり 様

    コメントありがとうございました。昨年12月から身辺に色々ありまして、お返事が遅れてすみません!

    DSMとICDの違いを説明してくださり、ありがとうございます。日本ではDSMを使用することが多いので、日本の緘黙児にも影響するかもしれないと思い、記事にしました。

    ご指摘の「常同性」についてですが、私はAブロック全体をひとくくりにして「社会性の障害」、Bブロック全体を「常同性」としたつもりで、「常同行動(同じ行動を繰り返す現象)」のみを指したつもりではありませんでした(全部書くのが面倒で、つい省略してしまいました)。説明不足で判りにくかったですね…。

    >常同行動(1.)まで行かなくても、いつもと違う活動で不安定になる(2.)+聴覚過敏がある(4.)、こんな感じの子はたくさんいますよね?

    これは、「社会性の障害」も持ち合わせる、自閉症スペクトラムの子についてですよね?

  4. (pragmatic) ですが、言語学で言う「語用論的」という訳になっている様です。語彙論、統語論、語用論という、言葉が実際のコミュニケーションでどう機能するかに焦点を当てたみかたからすると、喋っていても十分機能しなかったり、言葉の字ずら以外の、皮肉やニュアンスなどが込められている部分が会話では大きな機能を果たしています。その部分に問題があるという意味だと思います。

    • 「喋っていても十分機能しなかったり、言葉の字ずら以外の、皮肉やニュアンスなどが込められている部分が会話では大きな機能を果たしています。」の部分、文章が乱れていました。→「喋っていても十分機能しなかったり、言葉の字ずら以外の、皮肉やニュアンスなどが込められている部分の理解が難しかったりする側面が語用という事になるのだと思います。このように語用の側面が会話では大きな機能を果たしています。」に修正します。
       アスペルガー症候群に知的障害が皆無という訳でもない様です。
       非定型自閉症について、日本では誤解が多いので、触れて頂き有難いです。

  5. 久田信行さん

    pragmaticの訳し方と「語用論」についての丁寧な説明、ありがとうございました。
    訂正させていただきますね。

    >アスペルガー症候群に知的障害が皆無という訳でもない様です。

    そうなんですね。
    知的障害の診断には、知能検査と適応能力検査尺度が活用され、IQ70未満と定義されていますが、イギリスではASD児全員に知能検査をする訳ではないようです。
    息子がASDではないかと疑い、小4くらいの時に受診したのですが、心理士は知能検査をせずにASDではなという診断を下しました。(その後、息子の苦手分野を知りたくて、無理を言ってWISC3を受けさせてもらいましたが…)

    私は今ASD専門校(私立の特別支援学校です)で日本語を教えているのですが、ADHDやOCD、不安障害、鬱病などを併発している子が多く、本当に複雑です。半数以上が友達関係を築けているので、「ASD児は友達に興味がない」という概念を、変えてもらいたいなと思います。

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