告知するかしないか(その3)

小学校中・高学年以上

小学校の中・高学年になると緘黙の治療は難しくなる傾向にあり、治療の効果もゆるやかになるといわれています。一般的には、幼稚園や小学校低学年までの方が治りやすく、早期発見と早期介入がその鍵になってくるというのが定説です。

よく「9歳の壁」という言葉を聞きますが、文部科学省のサイトによると、「子どもは9歳頃から物事をある程度対象化して認識することができるようになる」、とあります。自分のことも客観視できるようになり、自己肯定感を持ちはじめる時期ですが、劣等感を持ちやすくなる時期でもあると…。自我がどんどん発達して、周囲をはっきりと意識するようになる頃なんですね。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1282789.htm

小学校中・後年以上の緘黙児の多くは、もう何年も学校で話せない時期が続いていて、周囲から「話さない子」と見なされていると思います。自分の中でも「学校では話せない」という負のイメージが定着し、そこから抜け出すのは並大抵のことではないはず。特に、抑制的な気質の子どもは感受性が強く、思っている以上に人の目を気にします。

自分が話した時の周りの反応や、そんな環境の中で話し始める恐怖を思えば、緘黙状態でいる方が安全と感じていても不思議ではありません。話さない自分を受け入れてくれるクラスメートや担任がいれば、「別に話したくない」、「このままでいい」と言うかもしれません。

でも、子どもがそう言っても、本音は違うと思います。ただ、みんなと同じように学校でおしゃべりしたい気持ちはあっても、「話さない子」が定着した環境の中でその段階にまで到達するのは不可能、とさえ感じているんじゃないかな…。

もちろん、恥ずかしがり屋の子どもの気持ちを理解し、配慮してくれる先生がいたり、仲良くしてくれる友達がいるなど、環境が良いために気持ちが楽になり、きっかけがあれば話せるようになることもあるかと思います。また、子ども自身が変わりたいと熱望し、クラス替えや進学などの機会に努力して克服するケースもあるでしょう。

でも、周囲の目を気にしながら、子どもが学校で自分から積極的に動くことはとても難しい…。グループで固まったり、友達同士の会話が大きなウエイトを占めてくる時期でもあります。教室の中で誰とも話すことができず、ポツンと一人でいる子どもを想像すると、親も非常に辛いです。

成長すれば自然に治るという考えは、年齢が上になってくると全く当てはまらないと思います。子ども自身が「変わりたい」という意思を持ち、自分で克服していかなければならない。そのためには、周りの支援があった方がいいのは明らかでしょう。そして、傍らで伴走してくれる存在がいたら心強いのは、容易に想像がつきます。

子どもは学校で話せないことをずっと親に隠してきたかもしれないし、知られるのを嫌がるかもしれません。でも、話せない自分はおかしいんじゃないか、普通じゃないんじゃないかという悩みを一人で抱えこんでいると思います。そこからまず開放してあげたい…。

私は子どもの症状に「場面緘黙」という名前があると知り、すごく安心しました。これは、子どもにとっても同じことじゃないかなと思います。自分は変かもしれないと悩んでいたのが、実は不安によってもたらされる症状で、世界中に同じような子どもがいる--そう解かっただけでも全然違います。また、スモールステップで克服できると知れば、自分も頑張ろうという勇気が出てくるかもしれません。とにかく、子どもに「話せないのはあなたひとりじゃない。私は味方」と伝えることが第一歩じゃないでしょうか。

プレ思春期や思春期の子どもの心はデリケートで、ただでさえ難しい時期。親はどうアプローチすればいいか、難しい問題だと思います。子どもの緘黙状態、年齢や性格、親子関係、友達関係、先生との関係、学校の環境などによって、返ってくる反応は様々でしょう。大切なのは、まずは親が共感を示し、味方だと解かってもらうこと。最初は拒否されたとしても、いつでも助けの手を差し伸べる気持ちがあることを解かってもらえればいいと思います。

子どもの気持ちにそって、無理じいはせず、でも少しずつ後押ししていく--さじ加減が難しいです。どの子も違っているので、親は子どもの様子を見ながら、自分がどう支援していけばいいか、試行錯誤で行くしかないと思います。学校側への働きかけも、親にとっては重たい仕事(?)ですよね…。マギー・ジョンソンさんは、年齢が上の子どもの直接の支援者は、保護者ではなく第三者の方が適していると話しています。中学生にもなると、親が学校に介入することが難しくなるし、子どもの自尊心の問題もあるかと思います。

とにかく、子どもにも、親にも、家庭がほっと安らげる場所であることが一番ですね。全く違う話題でも、家で自由に話せることが、心の安定につながると思います。なるべく子どもの好きなこと、得意なことを伸ばすことができれば、自己評価の向上にもつながると思います。

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告知するかしないか(その3)」への4件のフィードバック

  1. みくさん、こんにちは、せとっこです。

    小5の愛娘が、今まさにこの状態↓
    『自分が話した時の周りの反応や、そんな環境の中で話し始める恐怖を思えば、緘黙状態でいる方が安全と感じていても不思議ではありません。話さない自分を受け入れてくれるクラスメートや担任がいれば、「別に話したくない」、「このままでいい」と言うかもしれません。』

    先生やクラスメートに恵まれ、コミュニケーションに不自由さを感じていない愛娘が、注目を浴びるという恐怖感を乗り越えて、新しい事への挑戦(教室で話す)を選ぶ、ことは現時点では無いと感じます。

    その反面、「教室で喋りたい」でもなく、「変わりたい」でもなく、なんと表現するのが良いか私自身もまだ掴めませんが、「愛娘の変化」は感じています。

    変化や新しい事を不安に感じる気質の愛娘が、何かのきっかけで、気持ちと言葉が溢れだす。その前兆のようなものかもしれません。

    そんな中、一つの分岐点として、2年後に中学校の進学があります。カトリック系の女子中学校への進学を考えるのも、そのきっかけ作りのひとつです。

    現在のお友達、ほぼ全員が進学する学区の中学校に進むことは、愛娘にとって不安は軽減されるかもしれません。しかし、その不安軽減が本当に愛娘にとって良い環境とは言い切れないと思っています。

    告知の方法や時期については、悩んでいる親御さんは多いと思います。時期、状況、伝え方、使う資料、さりげなくorはっきり、、、やり方も結論も千差万別。悩みますがトライ&エラーの繰り返しです。

    • せとっこさん

      こんにちは。コメントありがとうございます。

      娘さんは学校では話さなくても、とても安定した状態なんですね。せとっこさんが感じている微かな変化の兆しは、きっと少しずつ形になって現れてくると思います。

      2年後の中学進学という大きな変化にむけて、娘さん自身も色考え、悩んでいることでしょう。友達と違う学校という選択は、彼女自身のものでしょうか?

      いずれにせよ、次のステップに備えて、学校以外の場所で少しずつステップアップを図り、自信を積み重ねていけるといいですね。

  2. みくさん、こんにちは。
    >友達と違う学校という選択は、彼女自身のものでしょうか?
    →Noです。

    長女の中学生活と高校受験を体感し、親がその思いを持ち始めたことがキッカケです。思春期の多感な6年間を、ゆっくりと過ごす事ができる環境に魅力を感じています。

    現時点での愛娘の気持ちは、ハーフ・ハーフだと思います。6月にある学校公開日に、何を感じて、どんな気持ちが芽生えるか、冷静に見ていきたいと思っています。

    最終的には、愛娘自身が強くそれを望んでいる状態でなければ、受験は乗り切れないと考えています。

    みくさんのおっしゃるように、先生や友達に恵まれている現在、自信を積み重ねていけるように、寄り添っていきたいと思います。

    • せとっこさん

      質問に答えてくださって、ありがとうございます。
      娘さんの気持ちはハーフ・ハーフ(浅田真央さんの新語かな?)ということで、本人もその選択を視野にいれているんですね。

      進学や転校といった大きな変化は、子どもに転機をもたらすことも多いですが、どんな先生やクラスメートに出会うかは常に宝くじ的な要素。蓋を開けてみないと判らない部分も多いと思います。でも、娘さんの性格を見据えて、環境のいい学校をというオプションを考えておられるのは流石です。

      私は息子の幼稚園を世間の評判だけで決めたんですが、あとから友人に「息子さんは恥ずかしがりやだから、私だったらもっと小さくて面倒見のいい園に入れるな」と言われてハッとしました(日本人の親友ができて楽しく通ってはいましたが…)。

      小学校からセカンダリーへの移行に際しては、色々考えた末に2人の友達と同じ学校を選びました。本人は「どこでも大丈夫」と言っていたものの、イギリスではセカンダリーから急に学校の規模が大きくなり、全授業が移動教室となるため、知らない子ばかりのマンモス校は辛いだろうと思ったんです。

      変化が大きかったので最初はかなり緊張していましたが、一緒に登校できる友達がいたため、精神的に随分楽だったようです。が、誰も知らない学校に行っていたら、もっと積極的に新しい友達を作っていたかも…。

      >6月にある学校公開日に、何を感じて、どんな気持ちが芽生えるか、冷静に見ていきたいと思っています。

      直接行ってみると、学校のカラーや先生達の人柄なんかも見えてきますよね。娘さんの気持ちを一番に考えて、冷静に行動されているのが素晴らしいです。

      親子関係がとてもいい感じなので、色々チャレンジできそうですね。少し年が離れたお姉さんからアドバイスがもらえるのも羨ましいです。

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