緘黙児の保護者として SM H.E.L.P 2025年10月サミットより(その2)

イギリスは先月末に夏時間から冬時間に変わり、どんどん日が短くなってきました。今秋は例年になく暖かで、春夏の日照時間が長かったためか紅葉がきれいです。といっても、落葉樹の葉はかなり散り始めていて、もうあたりは晩秋の風景。

      今年のアメリカ蔦も、紅葉も例年より赤かったような…。街角の郵便ポストには児童書のキャラクター達の編みぐるみが

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講演者:ジョリーン・ファーナルド博士(Dr. Joleen Fernald)https://www.joleenfernald.com/

乳幼児期における精神保健学の博士号を持ち、フロリダ州で神経多様性を尊重する診療所を運営。場面緘黙の子どもたちに使用するDIR(The Developmental, Indidual-difference, Relationship-based)-SMカードデッキを出版している。

緘黙児の親としての道のり

ファーナルド博士の娘さんが場面緘黙(SM)になったのは、今から21年前のこと。まだインターネットが普及しておらず、SMが知られていなかった時代でした。言語療法士の資格も持つ彼女でさえ、SMに対する知識はなかったといいます。

「当時3歳だった娘は、恥ずかしがり屋で臆病なところがあり、音に対する強い感覚過敏がありました。家では自信たっぷりに話すのに、外に出たとたん貝のように押し黙る…」

当時、SMの原因はトラウマと考えられており、診断までに随分時間がかかったそう。治療してくれる専門家が見つからず、緘黙について学びながら自身で治療にあたることに。

ファーナルド博士は娘さんとSMについてオープンに話し合い(年齢相応に)ながら、小さなステップを積み重ね症状を改善させていきました。

もちろん、目標は話すことですが、そこに行きつくまでの小さなステップのひとつひとつが大切だと話します。

「一歩進んで三歩下がるといった感じで、落胆して泣きたくなることも多かったわ。緘黙児はそれぞれ違うから、子どもも支援者も常に手探りで学んでいる状態。だから、失敗してもいいんです。失敗を振り返って、更に細かいステップに分けてみたりと、子どもに合った工夫を重ねていければ大丈夫」

例えば、「こんにちは」と言えなくても、スクールバスから手を振るだけで大きな進歩。それを支援チームみんなで喜ぶことで、次に向かう勇気がわいてきます。反対に、失敗したときは一緒に支え合うことが大切。

娘さんは早くから「SMは特定の場所で言葉を出しにくい症状」と説明を受け、理解していたそう。言語能力が高く、大好きだった『オズの魔法使い』の中の臆病なライオンをよく引き合いに出していたとか。

彼女たちは発話以外にもっと多くの挑戦ができる様、抗不安薬の服用にも踏み切りました。娘さんはこの薬を「勇気がでる薬」と命名。積極性が出てきて、かなりの成果があがったそうです。

SMの背後にあったもの

「実は、娘には気がかりな点がありました。同年代の女の子とは興味の対象が全く違っていて、社会性の遅れが明確だったんです。ASD(自閉症スペクトラム障害)ではないかと疑っていたんですが、色々な専門家に相談してもずっとグレーのまま。今考えると、娘はマスキングが上手かったんでしょうね」と当時を回想します。

「思春期になっても、娘にはお洒落をしたり、恋愛をしたり、遊びに出かけたりといった経験が全くなくて。社会性では妹にも追い越されてしまい、親としてはすごく落胆したし、悲しかったわ。娘は一生友達も恋愛もできないんじゃないかと悩みました」

この疑惑は、コロナ禍にドキュメンタリー番組を観ていた時に解けました。ASDの主人公の女の子を見て、娘さん自身が「私にそっくり」と気づいたからです。

最終的にASDの診断が下りたのは19歳の時でした。家族は娘さんの性格やそれまでの行動に納得し、安心できたといいます。

娘さんは、今では結婚して家庭を持ち、幸せに暮らしているそう。

「保護者はどうしても『普通の子のように』と望んでしまい、失望や落胆や悲しみを感じるでしょう。でも、今何が起こっていようと、どんなに大変だろうと、それは今だけのこと。子どもは日々必ず成長していくものです。明日、来年、5年後にはどうなっているか誰にも判りません。今子どもができて嬉しいことは何か?今子どもとの絆を深められることは何か?子どもが今できることに焦点を当て、子どもとの時間を楽しみましょう」

近年、脳の多様性が重んじられる様になり、その人らしく生きるという考え方・フレームワークが主流になってきています。多様性があるからといって、決して人より劣っている訳ではありません。子どもに診断名を告げることは昔より楽になってきているといえます。

子どもにどんな診断名がつこうと、今までと変わらないあなたの子どもだということをどうか忘れずに。

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