マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』は、今回でやっと終わりです。最後に、ティーン&大人のための電話を使った実用的なプログラムが紹介されています。このプログラムだったら、支援者は祖父母や叔父叔母といった親しい親戚や友達でも大丈夫そう。2010年にイギリスで放送されたBBCのドキュメンタリー番組『My Child Won’t Speak』では、マギーさんのアドバイスにより、緘黙の少女レッドと祖父の間で行われ、かなりの成果をあげていました(番組内では直接話すまでには至りませんでしたが)。試してみる価値は大いにあると思います。
《緘黙に苦しむ小学校中・高学年&ティーンへの支援》
場面緘黙アドバイザリーサービス 言語療法士マギー・ジョンソン著/ ケント州コミュニティヘルスNHSトラスト
内容の著作権はマギーさんに属しますので、この記事の転記や引用は固くお断りします。なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual Speechmark社)』の第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です。
マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その16)
話すことへの恐怖を克服する6つの戦略
- 新たなスタートを切る(転校や進学、新しい習い事を始めるなど新たな環境へ)
- 認知行動療法(CBT)
- 不安の生理学を理解する – 心拍数を減少させるための深呼吸、硬い姿勢から力を抜き、身体の緊張を緩める体操など
- スライディングイン手法 (話せる人とのセッションに、段階を踏んでひとりずつ話せない人を加えていく手法: 親戚にも効果があります!)
- 子どもからのパーソナルメッセージでクラスメイトや同級生の理解を仰ぐ – 音声録音やビデオ、手紙などを使用
- コミュニティ内で見知らぬ人と話すことを目標にする(子どもの不安度とリンクさせて) — 人がいるところで聴こえるように話したり、電話で話すプログラムから始めること
みく注: 緘黙を克服していく・支援していく前に、まず長期戦になることを肝に命じておきましょう。長年話せなかったのだから、やっと声がでるようになっても、クラスメイトとの会話のスピードや話題にうまく乗れないかもしれません。例えば、楽器をやったことがないのに、いきなり曲を演奏できないのと同じことです。とにかくメゲずに、自分のペースでコツコツと進むことが大切かと思います。学校では話せなくても、普段から安心できる場面でたくさん話をしたり、何かにチャレンジしたりするよう心がけましょう。家族は、子どもの好きなこと、やりたいことなど、安心して楽しく過ごせる時間を過ごせるように協力できるといいですね。
抑制的な気質の子どもはひとつの環境に慣れるのに時間がかかります。例えば、夏休みあけはクラスの空気にすぐ馴染めないかもしれません。そんな時には、進歩するどころか後退することもあり得ます。また、人の何気ない言葉や行動にひどく傷つき、元に戻ってしまったように見えることもあるかもしれません。そういう時のために、頼りになる支援者がずっと見守ってくれると心強いですよね。ただ、日本の学校にはTAがいないため、誰に支援者になってもらえばいいのか、難しい問題だと思います。児相や病院でも、毎週プログラムを組んで規則的なセッションするのは難しそうだし…。ひとつの手としては、家庭教師的な存在に家に来てもらい、一緒に勉強しながら少しずつ話せるようにしていくというのがあるかもしれません。
緘黙のティーンと大人のためのプログラム: コミュニケーションに対する自信を培う
見知らぬ人と話す:第一段階
- 電話で 自動音声に応答する
- 電話で 実際の人物に話す
- 実際に 顔を合わせて話す
このスモールステップを使ったプログラムで、緘黙の大人が私(支援者)と顔を合わせて会話できるようになりました。更に、プログラムを推し進めた結果、初めて地元の人と話すことにも成功しています。
1) 支援者の携帯電話にメッセージを残す
- それほど不安にならずにできるようになるまで練習する
- 「こんにちは」など一言 → 文章を読む → 一日の出来事を話す と徐々に難度をあげていく
- 私(支援者)は聞いていないので安心すること
2) 電話の自動録音プログラムを用いて、実際に相互的な会話の練習をする
- 不安(と呼吸数)を抑える傍ら、会話を繰り返して話すスピードや声の大きさを改善していく
3) 支援者が聞いていることを知りながら、支援者の携帯電話にメッセージを残す練習
4) 事前に決めた時間内にメッセージを残し、メッセージを話し終えた時点で支援者が電話に出て、そのメッセージについて質問をする練習
5) 4)の質問に応えることができたら、支援者はあと2、3問の質問を追加する
6) 5)の後、緘黙の子ども・大人が支援者に質問をする
7) 事前の打ち合せなしで5)~6)を繰り返す
8) 数週間おいて7)を試す
9) 実際に会う — 子どもが支援者に写真を見せ、支援者がそれについて質問する
10)他の人と1)~9)までを繰り返す(回数を重ねるごとに容易になる:「こんにちは」から始めても、時間をかけずにメッセージを残し、顔を突き合わせて話せるようになる
みく注:残念ながら、いただいた資料には第一段階の説明しかありません。でも、これだけでも顔を合わせて話すいい練習になると思います。
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