抑制的気質とHSP(その4)- ASD児の共感力

イギリスでは1週間ほど最高気温が30度近くまで上がる真夏日が続き、先週の水曜日はなんと34度に!6月にこれほど気温があがったのは40年ぶりだそうです。この日は電車とバスを乗り継いでちょっと遠出をしたのですが、痛いくらいの陽射しと熱風にもうぐったり。こちらの公共交通機関にはエアコンなどついてないので(学校はエアコンどころか扇風機もなく、先日アイスを配ってました~)、夕方になるとドドっと疲れてしまっていました。

さて、時間があいてしまいましたが、『抑制気質とHSP』の続きです(前記事は『抑制的気質とHSP(その3)共感力ってなに?』)。今回はASD児の共感力について。

「ASD児は人に興味がない」といいますが、決してそうではないと思います。私が日本語を教えている特別支援校は、高機能自閉症/アスペの子(90%以上が9・10~18歳の男子)を対象としているのですが、どの子も例外なく母親が大好きで、強い絆を持っているよう。

また、ほとんどの子が友達関係を築いていて、休み時間に一緒に遊んだり、隣同士で座ったり。趣味が合う子同士が友達になり、カードゲームをするグループや校庭でサッカーなどの遊びをするグループができています(休み時間はスタッフが交代で生徒の見守りをするんですが、時間が空いているスタッフも遊びに参加。一緒にゲームをしながら、生徒の個性を知ったり、人間関係を深めることができて一石二鳥です)。

当たり前のことですが、ASD児にとっても学校での人間関係はものすごく大切。もしかしたら、「彼らは自分の世界に閉じこもっていれば幸せなんだ」と思っている方がいるかもしれませんが、全員がそうな訳ではありません。少なくとも、うちの学校の生徒さん達は違うし、以前公立の小学校で担当した高機能ではないASD児に関しても、学校生活を続けているうちに徐々に仲間意識が芽生えていったように思います。

ASD児同士の会話を聞いていると、友達の話をそれほど熱心に聞いていないと思われることも多いんですが、共通の話題で盛り上がったり、一緒に行動することを楽しんだりと、仲間意識を持っていることは間違いありません。それは共感力に繋がるものだと思うし、みんな友達を欲しがっているんです!

でも、中にはうまく友達関係を結べず、クラスの中で孤立しがちになって、社会不安や鬱に苦しむ子も…。ASDやADHDなど発達障害を持つ子・成人が、二次障害として社会不安や鬱病などを併発することは結構多いといいます。

仲間に入りたいのに、どう受け答えすればいいのか、どう行動すればいいのか判らない――。

話せるようになった緘黙の人が、同じような悩みを抱えるケースをよく耳にします。緘黙を克服しても、人とうまく話せない・社会に溶け込めないことを「緘黙の後遺症」と呼び、深刻な社交不安や社会不安に悩まされるケースも…。

話し言葉・言語・コミュニケーションの発達は18歳くらいまで続きます。子どもは実際の体験を通して対人コミュニケーションを学び、社会性を培っていくので、発達の大切な時期にこうした体験を積めないことは、かなりのハンデになり得ます。

ASDの人は脳の機能障害で、緘黙の人は体験不足で対人コミュニケーションが苦手――原因は違いますが、症状はほぼ同じですよね。両者とも自分の気持ちを伝えることが苦手と思われるので、原因をはっきり判別するのはかなり難しいのでは?

話をASD児に戻すと、よく耳にするのが「ASDの人は言われたことを額面通りに受けとめるので、冗談が通じない」という説。でも、私の生徒さんたちはジョークを飛ばすことも多く、受け取る側の反応もすばやい。あうんの呼吸というか、ちゃんと通じ合っているものがあるのです。これって共感性のひとつでは?(ちなみに、英語やその時学校で流行っていることなどの問題で、私の方がジョークを受け取り切れない場合が多いです)。

でも、考えてみると中学生以上の子ばかりなので、それまでの集団生活や社会学習の成果なのかも?ということは、学習すれば社会性とともに、共感性も少しずつ身につくということでしょうか(常識からは程遠い行動や思考もあるにはせよ)?

以前、小学部でTAの見習いをしていた時、「やっぱりASD児に思いやりの心はないんだろうか?」と思ったエピソードをご紹介しますね。

ある寒い冬の朝、TAのひとりが風邪をひいてひどい咳をしてたんです。クラスの子ども達はそんな彼女の様子にすぐ気づきました(なにか普段と違うことがあると、反応が早い)。共感力がある子どもなら、「大丈夫?」と心配するところですよね?

すると、殆どの子が彼女のところに行って「なんで咳してるの?」と訊くんです。「風邪ひいちゃったの」というTAの答えに、「ふーん、そうか」と納得し、すーっとその場を離れる――それが何度も繰り返されました。

見かねて、「Miss Aは風邪をひいてすごく気分が悪いんだよ。こういう時は『大丈夫?』って声をかけてあげると嬉しいんだよ」と教えたら、みんな「ふーん」と返事してましたが――それを実行に移すには、まだまだ時間が必要だなと思ったのでした。

そういえば、先日小学部の先生が新入生を連れていたので名前を訊いたところ、後退りされました(笑)。それから、私にしかめっ面をして先生の後ろに隠れたという…担任にはよく懐いてました。

人は誰でも自分が一番大事です。普通だったら自然に社会の中での振る舞いを学んでいく訳ですが、ASD児の場合は生まれつき周囲の人の表情や場の空気を読めないため、「自己勝手」と思われる行動にでがち。でも、悪気は全くないんです。思ったことを正直にそのまま口にしてしまうので、摩擦を起こしやすいんですが、指摘されるとちゃんと反省し、学習しています。

社会的なルールを自然に身に着けることが困難なので、小学部では対人コミュニケーション技術をパターン学習させて、社会生活に対処できるよう支援しています。その過程で、スタッフや他の生徒たちとの人間関係が育まれ、学校生活を円滑に送れるようになっていく感じです。

緘黙の子どもや成人にも、安心して社会的な経験を積める場所や機会が設けられるといいのになと思います。多分、「言葉の教室」はそのひとつだと思うのですが、安心して集まれる小グループのようなものがあるといいですよね。

息子の場合は、クラスメートを家に招くことが緘黙の克服に加え、社会性を身につけることにも繋がりました。小3の頃から男子5人のグループに入れてもらって、放課後は持ち回りでそれぞれの家を行ったり、来たり。我が家には週に一度の割合で集まり、毎回5人分の夕食を作るのが習慣に。大変でしたが、他の子供たちのことを知ることができ、なにより息子はこの小グループで同世代の子達との密接な関わり方を学べたんじゃないかなと思っています。

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抑制的気質とHSP(その3)

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