深い森の奥の『アリス』とオーナー夫妻


ここ3週間ほどの間に大切な人たちの訃報が続き、気持ちが沈んでいました。

アリスさんが旅立たれてすぐ、昨年出したクリスマスカードが「宛先不明」で日本から戻ってきて、いやな予感が…。宛先は帰国する際、できるだけ訪ねるようにしていた森の中のカフェ、『アリスの不思議のお店』でした。

オーナーの太田夫妻は殆どSNSをされておらず、ホームページもありませんでした。帰国の際に訪ねると、いつも温かく笑顔で迎えてくれたご夫妻。家族でも何度か訪れ、行くたびに息子の成長を喜んでくれたのに…。

岐阜県中津川市の山奥に佇む森のカフェ『アリスの不思議のお店』

インターネットで調べると、カフェはすでに営業を停止しているよう…。急いで電話とメールを入れましたが、どちらも不通…。

古い知り合いにメールで問い合わせたところ、何と太田氏が病気になり娘さんの嫁ぎ先に引っ越されたと――そして、昨年亡くなられたというのです。人づてに聞いたので連絡先は不明とのこと…。

すごくショックでした。信じられませんでした。

以前のエントリーでは触れませんでしたが、私は『アリス』が輸入雑貨店だった頃にアルバイトをしていて、オーナーの太田草吉さんには本当にお世話になったのです。私のイギリス行きを応援してくださり、店番をしながら色々語り合いました。おおらかで優しく博識で、ずばっと本質を衝くシャープさも。「草べさん」という愛称で、皆から頼りにされていました。

   画家のアトリエとして建てられたカフェ『アリス』は、木造りで天井が高く、広々とした居心地のいい空間。香り高いハーブティーとゆったり流れる時間が魅力でした

 

太田夫妻が心を込めて作る料理は、優しく奥行きのある味でした

  

    奥様が丹精された庭には、ハーブや四季折々の季節の花が。周囲の森に溶け込む自然な風情に心が和みます

5歳位だった息子を連れて里帰りした時は、緘黙で固まった息子にピアノを弾かせてくださり、すぐに馴染むことができました。「学校なんか1年くらい休んでも大丈夫。自信がついてから行けばいいよ」と草べさん。

アルツハイマーになった母を連れて、父の車でアリスを訪れたことも。お二人とも母に気を使いつつも、ごく普通に接してくださいました。美味しいケーキとハーブティーを堪能し、庭に出た時です。奥さんの美保さんがクリスマスローズをたくさん切って、「きれいでしょう?どうぞ」と母に持たせてくださったのです。

母の病が進行し頻繁に単独で帰国していた時期、山奥まで運転できず友達に頼んで『アリス』を訪れていました。ご夫妻の優しさに甘え、ほっとできる空間でした。

最後に訪れたのは、父を追って母も亡くなり、葬儀を済ませて実家にいた時。色々な問題を抱えて、とても落ち込んでいました。私が独りだと話すと、「アリスにおいで」と、草べさんが雪の中を迎えに来てくれたのです。

『アリス』のある森は雪が深く、冬の間は営業できません。シンシンと降り注ぐ雪の中、森の奥へ奥へと走る草べさんの車。ようやく『アリス』の温かな灯が見えた時、ほっとしたと同時に郷愁のようなものを感じました。

   

降り続いた雪がやみ、しんと静まりかえった午後

暖かな室内に

薪ストーブがパチパチ燃える音

甘いハーブティーの香り

大きな窓越しに雪景色の森を眺めながら

失ってしまった、それぞれの母親の想い出をぽつりぽつりと語り合った時間

 

今思えば、どれだけ『アリス』と太田さん夫妻に救われたことか。

それが、記憶の中の想い出になってしまうなんて、思いもしませんでした…。

もうあそこに戻ることはできないのだと思うと、淋しい気持ちでいっぱいです。

草べさん、本当にありがとう。どうぞ安らかにお眠りください。

(追記:この記事を書いている間に、草べさんの妹さんの連絡先を探し当て、電話で美保さんの住所を教えてもらいました。急いで書いた手紙の返事がくればいいなと、心から願っています)

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