ナターシャ・デールさんの緘黙克服(その2)

遅くなりましたが、ナターシャさんの講演の続きです。

実は、ナターシャさんがスピーチしている間、昨年のコンファレンスの講演者でSLTのリビー・ヒルさんが傍でずっと見守っていました。それで、リビーさんの支援を受けてるんだなと思ったんですが、彼女の話しの中には出てこず…。

また、18歳でカレッジに進学したことが緘黙を克服のきっかけとなったということでしたが、どんな支援を受けたのかイマイチ不明確…。

この辺りの詳細を知りたくて本人に連絡してみたら、すぐ返事をくれました。写真もお貸りできることになったので、ここに掲載しますね。

よく転校や進学によって環境が変わることで緘黙を克服・改善できた、という話を聞きます。自分が緘黙だということを周囲が知らない新たな場所で、勇気を出して話し始める人は多いよう。ナターシャさんの場合もそうでした。

進学した農学系のカレッジはのんびりした雰囲気で、動物飼育のコースにはたくさんの動物がいたそう。動物たちに囲まれた環境、そして学校が1対1でTAをつけてくれたことが、ナターシャさんの不安を減少させました。緘動が和らいだのがターニングポイントとなったようです。

かわいい動物たちに話題が集まって、彼女が話さないことがそれほど注目されなかったのかも?それで、以前ほど自意識過剰にならなくて済んだのかもしれませんね。

まずは不安度が下がらないと話す練習もままならないので、環境を変えたことが大きなプラスとなったケースだと思います。そこからかなり努力して、現在までコツコツと緘黙を克服してきたそうです。

どういう縁なのかは判りませんが、ナタリーさんは昨年からリビー・ヒルさんの言語療法センターで働いているとか。そこで場面緘黙に対処できるよう、リビーさんからソーシャルシンキングのセッションを受けたそうです。場面緘黙に対するセラピーは、これが初めてだったということ。

それ以前に不安(多分、社会不安ですね)に関連するセラピーを何度か受けたそうですが、緘黙状態は改善しませんでした。多分、学校の環境が変わらなかったため 、不安を下げることができなかったんでしょう。それでも、誰かが気にかけてくれることは重要ですが…。

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<SMiRAコンファレンスより>

ナターシャさんの緘黙克服法

  • 実現可能な、毎日の小さなゴールを定める
  • 微笑みやジェスチャーも進歩の印とする
  • 家族や親戚に文書でメッセージを送ることから始め、徐々に難度をあげていく

ナターシャさんから家族への願い

もし私が話すようになっても、「よくやった」とか言わないで欲しい。普通のことなんだから褒めたりせずに、他の子と同じように扱って。

(みく注:ナターシャさんは完璧主義の傾向が強いので、他の子と違う扱いをされるのが嫌なんだろうと思われます。子どもによっては、褒めることでどんどん自信をつける子もいます。お子さんの性格を見極めたうえで対応してください)

今はまだ緘黙克服の道半ば。まだまだ、私が緘黙であることを理解して、支援をしてもらう必要があります。

緘黙に苦しむ子や成人は完全主義の傾向が強く、ものを詳細まで見たり、物事を詳細まで考えたりする傾向が強いと思います。だから、写真を撮ることに向いているんじゃないかな。

私にとっては、カメラを持って外に出ること、写真で自分を表現することが助けになりました。

緘黙の克服に取り組んで1年経った19歳の頃、不安が原因で脱毛症になったことも…。ネガティブな思考が頭に浮かぶこともしょっちゅうでした。

でも、「もしこうだったら」と悔やんだり、考え込んだりするのは時間の無駄。

幼いころからの写真やビデオを観返して、自分が誰なのか、何がしたいのか――欠落した部分を探し出そうとしました。自らの不安が作り出した私、ではなく本来の私を取り戻すために。

緘黙は今もまだ私の一部です。まだ不安になることもあって、自分の限界を学んでいるところです。

現在は特別支援の場で働いていて、殆どの人と話すことができます。たとえ何かうまくいかないことがあっても、それでいい、違う形でアプローチすればいい、と思えるようになりました。

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環境を変えるのはひとつの方法ですが、「学校を変えれば、緘黙を治せる」と安易に考えない方が懸命です。環境は変わっても、それが合わないこともあるし、特に人間関係は運に左右されることが多いので。また、「このチャンスに絶対話し始める」とハードルをあげすぎると、かえって落胆してしまい、逆効果になることも…。

ナターシャさんも言ってましたが、緘黙児・の人は完璧主義の傾向が強いです。「これができなきゃ駄目」と頑なにならず、失敗しても「まあいいか」と居直れることも大事。自分に優しく、マイペースでゆっくり一歩ずつ進むことが大切ではないでしょうか?

学校外で話せるようになった子どもが、どうしても学校だけで話せないというケースだったら、転校してみる価値はありそう。その際は、本人の意志を確かめてください。規模が小さい面倒見のよさそうな学校、子どもが得意なことを活かせそうな学校が見つかるといいですね。

緘黙の克服には時間がかかります。思い通りに進まないことも、うまくいかないこともあるでしょう。有能な専門家やセラピストにめぐりあえても、彼らはあくまで支援者。誰かが治してくれる訳ではなく、自分が努力して声を出し、話す練習をしていくしかないんです。

不安で緘動になっていた時期が長かったというナターシャさん。18歳からコツコツ頑張って、21歳の今、100人近くの聴衆の前でスピーチできるようになっています。本人はもちろん、ご家族も長いこと悩み苦しんできたんだろうなと思うと、本当に感慨深いものがあります。

そうそう、ナターシャさんの質疑の時に、最前列の端にいた元緘黙の女性が、「緊張するので前を向いたまま話しますね」と前置きしてから発言したのが印象的でした。自分の不安を減らすだけでなく、周りの理解も得られる不安への対処法ですね。

あと、午後の質疑の時間には、家族以外と何年も話したことがないという女性が、手を挙げて堂々と発言!「周囲が緘黙を理解してくれる人たちばかりだと、話すのがこんなに楽!」と本人も驚いてました。きっと、同年代のナターシャさんが頑張っているのを見て、触発されたんだろうと思います。

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