緘黙と不安障害、自閉症スペクトラム障害との関連性は?
緘黙と不安障害の関連性については、過去に多くの文献で取り上げられていて、最新版のDSM-V(アメリカ精神医学会による診断・統計マニュアル)から、場面緘黙は「不安障害」のカテゴリーに含まれるようになりました。
緘黙と不安障害の強い関連性を示した文献:
“研究対象となった50名の子ども全員が、社交恐怖症または回避性障害というDSM-III-Rの基準を満たした” -1997 ”Systematic Assessment of 50 Children With Selective Mutism”(Dummit, E.S. Klein, R.G. Tancer他著)の抄録より引用
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S089085670962832X
“対象となった30名の子どもの97パーセントは、幼年期あるいは青春期に、社交恐怖症または回避性障害と診断された” -1995 ”Psychiatric Characteristics of Children with Selective Mutism: A Pilot Study”(Black, Uhde著)の抄録より引用
http://www.jaacap.com/article/S0890-8567%2809%2963594-2/abstract
上記の2つの文献では、不安障害を併せ持つ割合は97%と100%。ものすごく高いです。
一方、『選択性緘黙への治療』では、分離不安35%、不登校46%(回避性障害とは異なりますが…)。論文内でも、「選択性緘黙は本当に不安障害なのだろうか」と疑問を投げかけています….。
説明が遅れましたが、『選択性緘黙への治療』の調査対象は、2001年~2010年までの9年間に、あいち小児保健医療センター診療科を受診し、選択性緘黙の診断を受けた89名(男児35名、女児54名)の子どもたち。母集団が89名というのは、緘黙研究では規模が大きい方だと思います。
ちなみに、2009年の金原洋治氏の『選択性緘黙例の検討-発症要因と併存障害を中心に』(日本では発達障害と見なされやすい?(その3))では、社会不安障害は23名中15名で全体の65%となっています。
こちらも、海外の2つの研究と比べると、不安障害の割合は低いですね…。日本では社会的、文化的な背景が異なるため、欧米とは異なる特有のパターンになるんでしょうか??
次に気になったのが、「調査の対象はいずれもDSM-IVの選択性緘黙の診断基準を満たしている」のところ。
発達障害の有無を調べた結果、
- 自閉症スペクトラム(ASD) 34名 (その多くは高機能で、全体の38%)
- 精神遅滞 7名
- ADHD 2名
という結果が出ているのですが、DSM-IVによる場面緘黙の定義には下記の項目が入っています。
E. コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、広汎性発達障害、統合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない。
(『場面緘黙へのアプローチ-家庭と学校での取り組み-』(Rosemary Sage & Alice Sluckin/編著 かんもくネット/訳 田研出版 2009年)より引用)
ASDは「広汎性発達障害」に、精神遅滞とADHDは「その他の精神病性障害」に含まれるのではないでしょうか?その場合、この定義によると場面緘黙は二次障害になるため、診断基準を満たさないのではないか、と思ったのですが…。
(尚、2013年に改定されたDSM-Vでは、広汎性発達障害(PDD)という診断がなくなり、自閉症スペクトラム(ASD)に代わりました。また、ASDの判断基準が変わり、アスペルガーという用語が消滅しています)
★追加情報: DSM-Vでは、場面緘黙の定義の部分でも、PDDがASDに変更されています。(ネットで見つけることができず、SMIRAのVicky Roeさんが助けてくださいました)
E. コミュニケーション障害(例えば、吃音)が原因ではなく、また、自閉症スペクトラム障害、統合失調症やその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものは含めない。
長いので、またまた次回に続きます。
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【今月は場面緘黙症啓発月間です】
- 場面緘黙は子どもの将来を大きく左右しかねない深刻な状態です!早期の発見と介入が望まれます。どうか後回しにしないでください
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- 緘黙していると、言語、社会性、コミュニケーション・スキルの発達が妨げらる恐れがあります。家庭では安心して、楽しくおしゃべりできる環境を整えましょう
(5月の場面緘黙症啓発月間の発起人は、『場面緘黙ジャーナル』の富重さんです)
みくさん、こんにちは。
>説明が遅れましたが、『選択性緘黙への治療』の調査対象は、2001年~2010年までの9年間に、あいち小児保健医療センター診療科を受診し、選択性緘黙の診断を受けた89名(男児35名、女児54名)の子どもたち。
→愛娘は、あいち小児保健医療センターを2009年3月に初受診、選択性緘黙と診断されました。愛娘も母数に入っているという事ですね。
当時主治医に、診断の基準は何でしょうか?と確認した記憶があります。
その際には、DSMとは明言されず、知能検査の結果(多分プロセスも含む)・親からのヒヤリング結果・本人との面談結果を総合的に判断しているとの回答でした。特に家庭での様子や園での様子=親からのヒヤリング結果が大きく左右するという印象を持ちました。
杉山先生の文献を読んでみます。
せとっこさん、おはようございます。
>愛娘は、あいち小児保健医療センターを2009年3月に初受診、選択性緘黙と診断されました。
もしかしたら、そうかなと思ってました。娘さんが研究対象になっているというのは、親としてはすごく気になりますね。
>その際には、DSMとは明言されず、
多分、センター独自の基準で診断し、論文を書くにあたってDSMの基準もクリアしているケースを選んだものと思います。
家庭での様子はビデオなどに撮影したものを提出したり、園での様子は園に連絡を入れてるんでしょうか?イギリスでは言語テストをすることが多く(指差し可)、年齢に見合った言語能力があるかどうかチェックしてるんですが…。
乱入失礼します。
私的にはほとんどすべての場面緘黙症児は社交恐怖症または回避性障害を併せ持っているという研究は好きではありませんね。
一般的に科学的調査では最初の報告で誇張された結果がでてくることが知られています。たとえば、少なくとも一部の分野、一部の研究領域では効果量が年々減少する現象が生じることがあります。
なので、初期の緘黙研究は誇張されている可能性が高いと個人的には思っています。
マーキュリー2世さん、お久しぶりです。
でも、家では普通に話す子どもが、学校とか公の場で話せないというのは、常識で考えると、やはり恐怖症のような状態になっているため、もしくは自らの意思で話さないかのどちらかのような気がするのですが…。
そして、例えきっかけが後者であったとしても、それが習慣になると、周りの反応が気になって話し出せないのではないかと…。その背景にあるのは不安じゃないでしょうか?
どんな子でも、家と学校では多少なりとも態度が違うと思うんですが、緘黙児はそれがものすごく極端ですよね?(初めて息子が緘黙状態になっているのを見た時、「これ誰?ただ事じゃない!」と思いましたもの)。
緘黙という症状の背景にあるのが、抑制的な気質であろうと、バイリンガル環境であろうと、何らかの発達障害かコミュニケーション障害(言語を含む)であろうと、いじめ体験であろうと、家では普通に(その子なりに)話しているのであれば、心理的なものが作用していると思います。そして、それが社交恐怖症とか回避性障害とかいう大げさなものでなくても、不安じゃないかなと、母親の勘では思います。
研究では、公の場で話すことに不安になりやすい気質とか、抑制的気質かどうかの調査もしてもらえるといいですよね。
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