2017年SMiRAコンファレンスより
SLT(言語療法士)アニータ・マッキアナンさんの講演『場面緘黙克服のために抵抗力(Resilience)を高める』
実は、当日地下鉄工事のため予定していた電車に乗り遅れ、講演会が始まってから会場入りした私。すでに満席に近くて、空いている席がなかなか見当たらず…。昨年より参加者が増えたという印象でした。
やっと見つけた席につくと、既にSMiRAコーディネーターのリンジーさんの挨拶が終わり、アニータさんの講演が進行中。
講演者のアニータさん(右)
現代のカウンセリングの基礎である、来談者中心療法(Client-Centered Therapy)を創始した、アメリカの臨床心理学者、カール・ロジャーズの「Actualizing Tendency (自己現実の性質)」について話しているところでした。
あとで調べたら、これは「人間には有機体として自己実現する力が自然に備わっている」という説。アニータさんは、緘黙の克服には生まれつき備わっている困難に抗う力、Resilienceを高めることが重要と考え、その方法を話してくれました。
<アニータさんによる場面緘黙の説明>
子どもが初めて場面緘黙になった時:
怖い体験 → Fight or Flight(戦うか逃げるか)の本能的な反応
↓
脳からの信号により 喉がしまったような状態に ↓
同じような恐怖に襲われそうになると、無意識のうちに同じ反応がおきる
★この反応が繰り返されることで、緘黙が定着
高い所に行くと足がすくんでしまう高所恐怖症などと同じように、場面緘黙の場合は話さなければならない状況になると、喉がしまったような状態になって声を出すことができない。この反応は無意識のうちに起こるので、本人にはどうしてそうなるのか判らない。
克服法:Graded Exposure(認知行動療法CBTによる段階的な暴露法)
何故話せないのかを本人に説明。スモールステップで少しずつ話す恐怖に立ち向かい、意識的に恐怖を克服していく(アニータさん自身、緘黙ではありませんでしたが、幼少の頃から複数の恐怖症を抱え、それをひとつずつ克服したとか。経験者故に話に説得力がありました)。
<緘黙の克服に重要な3つのキー>
- Resilience 抵抗力
- Self-Efficacy 自己効力感
- Healthy Coping 健全な対処
1)Resilience 抵抗力を高める
SM児は学校で話せないこと、家庭外で友達や大人と円滑なコミュニケーションを取れないことで、集団やグループの中で孤立しやすく、弱い立場におかれやすい。学校生活が負担になることも多く、長期間の緘黙が人間関係に大きく影響することも。こういった負の状況に負けない抵抗力をつけることが重要。(「反発力」や「回復力」と訳すことが多いようですが、ここでは「抵抗力」という言葉を使いますね)
・肯定的な人間関係 → 家族、親戚、友人など、子どもを囲む社会的なネットワーク作り/ SM児にとって暖かい家庭環境・人間関係があることが必須
・感情面での支援 → ひとりでも信頼できる人がいると、子どもの心境は全く違ってくる/ 友達や愛情を注げるペットを持つことも大きな支援となる
2) Self-Efficacy 自己効力感を育てる
「自己効力感」とは、簡単にいうと自己に対する信頼感や有能感のこと。何か問題がおきた時、「対処できる」「大丈夫」と思えること。自己効力感を育てることにより子どもの自己評価があがり、行動を起こすことができる。
・自分で問題を解決する機会を持たせる → 子どもが自分のアイデアを持てるようにする(親はサポーター役)
・役割や責任を持たせる → 自分のことは自分で
・自分の価値観を持ち、自己防衛できるよう奨励していく
・子どもの興味や才能を伸ばす → 得意なことや好きなことが、話すことや対人恐怖のバリアを破るきっかけになる
3) Healthy Coping 健全な対処法を身につける
問題に対して健全な対処をするためには、自分の感情を理解してコントロールできることが必要。ネガティブな感情やストレスも人生の一部として受け入れ、自分なりの対処法を身につける。
・大人が模範を見せていく → 理知的な問題解決、問題に立ち向かい、ストレスに耐える姿など
・子どもの視野を広げる → ポジティブな行動や考え方を奨励し、間違いは認め、柔軟性のある対応を
・自分の感情について話せる環境づくり
・大人が自分の人生体験について話す機会を持つ
・緘黙を恐怖症と捉える → 恐怖症は無意識のうちに定着する不合理な思考 → 思考は変えられる → 克服可能
・不安になった時のために、自分なりの対処法を見つけ出す → 呼吸法やマインドフルネスなど、自分にあったものを
★緘黙児は自分の感情について話したがらない傾向が強いので、絵本などを使い誰でも不安になる時があることを理解させる
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3つのキーの他にも、ポジティブな学校環境、助けを求める勇気を持つことなど、いろいろな提案がありました。が、ひとつアニータさんが強調していたのは、「助けを待っているだけではダメ」ということ。イギリスでは緘黙支援が充実していると思われがちですが、参加した保護者たちの多くは「支援不足」を訴えていました。
学校が支援プログラムを準備してくれるといっても、やはり限度があります。政府は各セクターの予算カットを強要していて、特別支援に関しても見直されているのが現状…。場面緘黙のみでは行政からの予算はおりないため、どうしても後回しにされがちなのです。
また、「やっと専門家に会えた」と思っても、専門家が緘黙を治してくれるというものではありません。専門家の提案にそって支援プログラムを遂行していくのは、結局のところ家族が中心。イギリスでも保護者が中心となって、学校に働きかけて協力関係を築き、専門家も巻き込んでスモールステップで克服していくという感じです。それには、本人の努力も不可欠です。
アニータさんは、日常の「小さな機会」を見逃さないようにとアドバイス。例えば、赤ちゃんが産まれたばかりの同級生の家族がいたら、同級生の学校の送り迎えを引き受けたり、近所の子を自宅に招いて遊ぶ機会を設けたり、職場の同僚の家族と出かける機会をもつなど。
アニータさんが担当した子どもの母親は、友達の送り迎えをかって出たとか。初めは何も話せないので、お母さんが間に立って会話を盛り上げていましたが、子どもは徐々に声がでるようになり、友達とも話せるように!以前は通学の際に緊張が強かったそうですが、学校にいくまでの時間を楽しく過ごせるようになったということです(注:子どもの気持ち次第なので、無理強いは禁物です)。
緘黙児にとっては、ほんの小さな変化が大きなステップアップとなります。そのため、保護者には家庭や職場でのソーシャルネットワーク作りを奨励していました。
保護者もシャイな方が多いかもしれませんが、できる範囲で頑張りましょう。小学校高学年になると親の出る幕は少なくなってしまうから、低学年までが頑張りどころかもしれませんね。でも、日本の小学校だと集団登下校だし、他の保護者と会う機会が少ないかな…。
次回は、場面緘黙を克服中のナターシャ・デールさんの講演について書く予定です。
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とても共感しました。私、息子親子で場面緘黙を経験しています。そして、私の息子に取り組んだ方法は、紹介されていたような感じで、私が積極的に間に入りました。こちらの情報をブログなどで紹介させていただいてもよろしいでしょうか。
shizuさん、初めまして。
ご訪問ありがとうございました。
Knet経由でshizuさんの活動は存じてました。
ご自分も経験されていることで、息子さんの気持ちにぴったり沿った支援ができたのでは?
>こちらの情報をブログなどで紹介させていただいてもよろしいでしょうか。
はい、もちろんです(その際は、引用元を明記してください)。