今秋もアメリカのケリー・メルホーンさん主宰のSM H.E.L.P.が、恒例のオンラインサミットを開催。今回のテーマは神経心理学による診断・子どもへの告知から、子どもを支える家族のメンタルヘルスケアに至るまで、ますます裾野を広げた内容になっていました。
ロンドンは街じゅうがハロウィンの飾りだらけ。31日の今宵は生憎の雨となってしまいましたが、子ども達が”Happy Halloween!”と大勢やってきました
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講演者:リズ・アンゴフ博士(Dr. Liz Angoff)
神経心理学の専門医資格を持つアメリカの教育心理士。20年にわたり学校神経心理士として勤務した後、自らの診療所を設立。脳の多様性を持つ子どもとその家族が、子どもの脳の特性を理解し、子どもの考え方や感情を支援していけるよう尽力している。
神経心理学(Neuropsychology)とは?
近年の研究により、発達障害がある子どもの脳は通常の子どもの脳と機能に違いがあることが確認されています。この脳機能の特性の違いが、コミュニケーションや行動に影響を及ぼすと考えられています。現在では、この違いを多様性として捉え、互いに尊重し合い、活かしていこうという考え方が主流になってきました。 神経心理学では、人の脳と神経系が行動や認知機能にどのように関連しているかを研究。神経心理学士は臨床評価と認知機能検査を組み合わせて患者のもつ課題を理解し、管理と治療のための方針・対策を決めます。
子どもが持つ負のイメージを覆すために
脳/神経の多様性(neurodiversity)がある大人と話すと、それぞれの発達障害が何であれ全員が同じことを言います。「小さい頃から自分が他の子達と違うのは判っていた。自分はバカで、のろまで、怠け者で、駄目なんだって…」。
彼らの話から見えてくるのは、幼少期から自分に対して否定的な負のイメージを持ち続けてきたということ。
私たち神経心理士が目指すのは、子どもが創りあげた負の自己イメージをくつがえし、自信を持って生きられるようにすること。そのためには、保護者だけでなく、子ども本人にも(年齢相応に)自らの脳の働きを説明し理解させることが重要になってきます。
どの段階で神経心理士に相談するか?
例えば、学校での発表が不安な子がいたとします。発表について子どもと話したり、落ち着くための呼吸法を教えたり、不安を和らげるためのセラピーを受けさせたり、学校に支援を求めたり、というのが第一段階の介入です。
それでも根本的な問題が解決せず、疑問や混乱が残る場合、次のレベルとして神経心理学が使われます。
私が良く使うメタファーは、私たちの脳は常に建設途上で、新たな回路やコネクションを常時作り続けているというもの。どの回路の性能が良く、どの回路の性能が悪いかーーよく使う回路は効率的で安定しており、中には高速回路もあるかもしれません。反対に、工事中の回路はショートしたりと不安定です。保護者に求められるのは、子どもが脆弱な回路を使わなければならない時、その回路をどう強化していくか。また、その回線が使えなければ、新たな回路を開発していくことです。健常児が使う典型的な回路が有効でない場合は、その子に合う新たな回路を見つけるよう支援します。
場面緘黙の子どものケース
場面緘黙の子どもの場合は、不安の背景にあるものは何かを探ります。例えば、他の神経系の問題として ASDやADHD、学習障害などが根源にあることも。また、不安になりやすい神経系統に生まれついた子もいます。
アセスメントは子どもに複数の活動(非言語のものが多数)を行わせる他、保護者や子どもを良く知る教師などに問診をします。そうして、子どもが情報をどう処理して、世界をどう捉えているかを理解していきます。
場面緘黙の子どものアセスメントにおいては、子どもが安心して自由に話せる場が限られているため、保護者の助けが必須。「得意なこと・苦手なことは?」「もし魔法の杖があったら、変えたいことは何?」など、保護者が子どもに訊くよう指導することもあります。
診療所、家庭、学校などから集めた情報を元に、アセスメントの評価を行います。その評価を元に診断を下し、治療・支援方法を考えていきます。
アセスメントと診断・告知の手順
- アセスメントを始める前に、本人に後で結果を教えると告げる
- アセスメントを行う
- 脳がどう働いているかを解析したら、その情報をシェアしていいか子どもに確認する。子どもにも参加させ、意見を言う場を与える
- 保護者に子どもの脳の特徴と診断名を告げ、支援方法を話し合う
- 子どもに脳の特徴・診断名を告げ、今後どうしていくかを話し合う
- 高速回路(得意分野)は何か?
- 脳が工事中のところ(不得意分野)は何か?
- 今頑張って進歩していると思えるところは?(例えば、自転車に乗ること、特定のPCゲームなど)
- 日常生活で困難なところは?
- 診断名を告げる時は、世界中に同じ様な子がいること、子どもの持つ良い面(集中力がある、観察力が鋭いなど)を強調する
- 子どもを交えて、今後の方針・計画を立てる
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みく注:
私が勤めている特別支援学校(高機能ASD児専門)でも、脳の多様性の理論が浸透していて、それぞれの生徒が自分らしく生きられるよう支援しています。本人が自分の特性を知り、それをどう生かしていくか、苦手な部分をどうカバーしていくかが課題。書字障害がある子が試験の時にワープロを使ったり、ADHDの子が頻繁に小休憩を取ったり。周囲の理解と協力がどんどん広がっていくといいなと願っています。
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