今回の旅行の目的のひとつは、名高いシシングハースト城と庭園を訪れることでした。主人の大学の同級生にプロのガーデナーがいて、「ケントで一番美しい庭」と推薦してくれたのです。
最初の印象は「あれっ?お城っぽくないなあ」というもの。もともと中世の豪族のマナーハウスだったそうですが、15世紀に所有者だったベイカー家が建物を増築し、爵位を授かってから「城」と呼ばれるようになったようです。16世紀には、敷地は2.8k㎡にも及ぶ広大なディアパークに。でも、エリザベス1世が200人のお供やゲストを引き連れて3日間滞在した際、費用が嵩みすぎて家が傾いてしまったんだとか…。
メインハウス、タワー、図書庫の他、エリザベス王朝時代の厩舎やファームハウスなど、広大な敷地内は小さな村みたいです
その後、18世紀には牢獄として使用された時期もありましたが、次第に忘れ去られ廃墟に。その廃墟と土地を1930年に購入したのが、詩人で作家のヴィタ・サックヴィル・ウエストと貴族で外交官だったハロルド・ニコルソン(後に政治家)夫婦でした。
ヴィタはサックヴィル男爵家の一人娘として、英国最大の邸宅ノールで生まれ育ちました。が、男子でなかったため爵位と財産を引き継ぐことはできず…。シシングハーストに懐かしいノールを再建しようとしたといわれています。ロマンティックな趣のある建物や庭園には、彼女の郷愁が宿っているのかも。
邸宅へと向かうゲートの中にはダリアの花が。二人が最初にキャンプした塔
とはいえ、暖房設備も何もない雨風吹きさらしの廃墟。当初は、寒さに震えつつ塔の中でキャンプしながら、屋敷の修理や庭造りに打ち込んだとか。
(左から)階段を上る途中の窓に青いカラス器のコレクション。当時のまま保たれているヴィタの書斎。ウルフ夫妻の出版社、ホガースプレスで使用していた印刷機も
タワーにはヴィタの書斎や展示があるのですが、そこにあったヴィタとハロルドの交友関係図を見てビックリ。オープンマリッジを公言していた二人の恋多きこと(同性多し)!特に、ヴィタのレズビアンの恋人は10人以上も…。
その中で特に有名なのが、作家のヴァージニア・ウルフです(1920年代末から10年ほど)。ウルフはヴィタをモデルに『オーランド』を書いたことを、初めて知りました。私が最初に読んだウルフの作品が『オーランド』でした。
1992年にサリー・ポッター監督によって映画化された『オーランド』は、すごく記憶に残っています。主人公のオーランドを演じたのがティルダ・スウィントン。彼女はデレク・ジャーマン監督(今回の旅行で終の棲家と墓地を訪れました)に見出され、彼の作品には欠かせない存在でした。どこか人間離れした中性的な風貌が、オーランド役にぴったりだと思ったものです。
ヴィタとハロルドがデザインした、色やテーマの異なる個別の部屋を垣根やレンガの壁で巧妙につなげた庭園は、当時の画期的なデザイン。その頃、ヴィタが担当していた『オブザーバー』紙のガーデンコラムが大人気を博し、シシングハーストの庭も一気に知られるように。特に、白い花だけを配したホワイトガーデンが大流行したそう。
塔の上から見下ろしたホワイトガーデンと咲いていた白い花々
バラの季節に訪れることができなくて残念…
庭を見て回っている途中で家族とはぐれてしまったのですが、その分ゆっくり堪能できました。彼らの一番の楽しみは、コテッジに戻ってソファに腰を落ち着け、PCをしたり(主人は地元ビールやサイダーを味わいながら)TVを観たり(受信料を払うのを止めたので家では観られない)することだったよう。二人とも私の趣味につきあってくれて、ありがたいことです。
ゲートをくぐって帰ろうとしたら、白いハトがやってきました
ギフトショップで白いカボチャ、パティソンを2ポンド(約300円)で購入。見かけは芸術的ですが、カボチャというより瓜の感じで、カレーに入れたら今ひとつでした
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