イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その1)

『日本では発達障害と見なされやすい?』のシリーズでは、日本では場面緘黙児がPDD(広汎性発達障害)と診断されることが多いように思えること、またその理由について考えてきました。今度は、イギリスの学校環境やシステムの中では、ASD児が二次障害として場面緘黙を発症する率が低いのではないか、という私の勝手な仮説について考えてみたいと思います。

その前に、『日本では発達障害と見なされやすい?(その5)』でも触れたのですが、杉山登志郎氏の著書『発達障害のいま』に着目したいと思います。日本における高機能自閉症の権威のひとりといわれる杉山氏は、あいち小児保健医療総合センターの心療科(児童精神科)の部長として、2010年まで9年間、臨床の最前線にいた方です。

2011年夏にこの本が出版された時は随分話題になったようですが、読まれた方はどの様な感想を持たれたでしょうか?私は2011年秋に帰国した折、Knetのおしゃべり会 in 名古屋に行く途中立ち寄った書店で、偶然にこの本と出遭いました。読んでみて、難解な中にも目からうろこの発想が沢山あったように思います。特に、発達障害が何故増えているのか、発達の凸凹とトラウマについては興味深く何度も読み返しました。

ご存知かもしれませんが、この本の中には「選択性かん黙」についての記述があります(P170)。      要約してみると、

1) 緘黙はASD(自閉症スペクトラム障害)ではないと考えられてきたため、国際的な診断基準にもそのための除外診断の記載があるが、最近になって重症の緘黙児には高頻度にASDの子どもがいることが明確になってきた。

2) 軽症の緘黙児は不安感が強いとか、家族の中で見えない対立があるなどの家庭環境の要因がみられる。しかし、コミュニケーション全体に遅れを認める難治性の緘黙児は、殆ど実はASDの併存症として生じている。

3) このグループは思春期に転帰が分かれ、外でコミュニケーションが取れる子と、取れないままの子に二分される。

4) ASDの併存症としての緘黙症に対しては積極的な治療、つまり入院治療を行うと成果があがる。入院して家族と離れて生活するだけで、早い子は2週間、粘る子でも1ヶ月、最悪の場合は3ヶ月あれば、家庭外でも会話によるコミュニケーションが可能となる。

(『発達障害のいま』 杉山登志郎 講談社現代新書 2011年)より抜粋&要約)

ここから、またまた続きます。

関連記事:

緘黙は発達障害なのか?

 

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イギリスの学校ではASD児が場面緘黙になりにくい?(その1)」への4件のフィードバック

  1. みくさん、こんにちは。
    愛娘は、あいち小児保健医療総合センターの心療科に定期的に通っています。

    杉山先生に直接お会いした事はありませんが、主治医は杉山先生から薫陶を受けていると勝手に想像しています。

    以前(2年前の2年生の頃)、主治医からこうしなさい、ああしなさい、いつまでに何をやりましょう、など具体的な指導が頂けない事にフラストレーションが溜まり、主治医に具体的な治療方針や今後の進め方について相談した事があります。

    その際に、本当に直そうと思うなら、入院治療(病院に併設された院内学級)をお勧めします、と説明された事を思い出しました。

    その時は、入院治療?そこまでしなくてはならないのか・・・?という疑いの念と、そこまですれば治るかもしれないのか・・・?という思いが錯綜していた様な気がします。

    『4) ASDの併存症としての緘黙症に対しては積極的な治療、つまり入院治療を行うと成果があがる。入院して家族と離れて生活するだけで、早い子は2週間、粘る子でも1ヶ月、最悪の場合は3ヶ月あれば、家庭外でも会話によるコミュニケーションが可能となる。』
    ・・・と言う文面を読み、当時主治医から入院治療について説明された話と文脈が似ているなぁと感じました。

    愛娘の場合、その時点で広汎性発達障害PDDや自閉症ASDとも診断されていないので、はたして場面緘黙児に対して、入院治療が有効かどうか考えると、今となっては入院治療を進められた事に疑問が残ります。

    主治医との面談が今週の土曜日にあります。(私の仕事の都合で11月予定を延期)
    現在主治医に対する報告事項と質疑事項を書面にまとめています。
    ①これまでの取り組みと成果
    ②今年度の取り組みと現在の状態
    ③今後取り組みたい事と支援の進め方
    ④現状の強み/弱みを知る為に知能検査を実施したい事
    ⑤日本では発達障害と見なされ易い?-場面緘黙と発達障害PDDとの診断基準と診断プロセス
    などを整理し、相談しようと考えています。

  2. せとっこさん、こんばんは。

    実は、明後日急遽帰国することになり、先週から焦ってバタバタしています。
    ロンドンのクリスマス飾りの様子を伝えようと、写真は撮ったんですが、なかなか更新できず…。

    娘さん、あいち小児保健医療総合センターに通ってらっしゃるんですね。

    >愛娘の場合、その時点で広汎性発達障害PDDや自閉症ASDとも診断されていないので、はたして場面緘黙児に対して、入院治療が有効かどうか考えると、今となっては入院治療を進められた事に疑問が残ります。

    ASD児だから入院治療をという訳ではなく、緘黙の子には入院治療が効果的なのだと私は思いました。特に、ASD児は緘黙症状が重いので、より効果的ということかと。
    病院といっても、小グループでキャンプ生活を行なっているような感じなのでは?助けてくれる親はいないし、周囲の顔ぶれに慣れてくれば、自分の要求が伝えられるようになるんじゃないでしょうか?

    経験者に是非訊いてみたいですね。

    >⑤日本では発達障害と見なされ易い?-場面緘黙と発達障害PDDとの診断基準と診断プロセス

    この質問もしてくださるんですね。どんな回答が返ってくるか、とても興味深いです。
    では、また帰国して落ち着いたら、じっくりお返事を書きますね。

  3. 先週12/14(土)主治医との面談に行ってきました。
    先にKnet掲示板に書き込みましたので、内容は同じです。

    日本に於ける場面緘黙と診断されるプロセスとその診断基準について質問しました。
    例として、イギリスでは言語療法士が言語能力テストを実施、場面緘黙か否かを判断。
    そして、発達に何らかの問題があると判断されると、心理士が必要に応じて発達テストを実施。
    (みくさんのブログを参考に、イギリスの診断プロセスを事例として紹介)

    日本の場合、医師が診断。知能検査は臨床心理士が実施。
    ただし、場面緘黙児は正確な数字の把握が難しい場合が多いため、医師が親からヒヤリングし、
    これまでと現在の状態(出来る事/出来ない事)を総合的に判断し診断するとのことです。
    診断基準に言及はありませんでした。(DSMに基づきます、といったコメントは無し)

    興味深かったのは、アメリカにお住まいの患者さんの事例を紹介してくださったこと。
    アメリカの場合、学校が核となり、必要な医療体制(医師の診断)と支援体制を構築するとのこと。
    その子の場合は手先の不器用さがあり、作業療法士が配置されているそうです。

    そして、日本の場合は残念なことに、医療と学校が独立し連携が取れていない事が問題だ!と、
    少し怒りのオーラを出しながら、医療保険制度の違いについても言及されていました。
    ---------------------------------------
    最後に、愛娘は発達障害の二次障害による場面緘黙でしょうか?と改めて質問しました。

    先生いわく、
    愛娘ちゃんはそうではないと思います。やはり、場面緘黙児としてのこだわりが強いのだと思います。
    当初からそう判断していましたとのことです。

    では、愛娘は発達障害(例えばアスペルガー症候群など)を併せ持っていますか?の質問に対し、

    先生いわく、
    凸凹は持っていると思います、ときっぱり言われました。でもそれは個性のうちだとも言われました。
    ---------------------------------------
    県の小児医療の最前線でさえ、場面緘黙の判断基準は医師個人の裁量に委ねられていると感じ、
    故に、場面緘黙に対する臨床経験が無ければ、間違った判断も下されるのだと、改めて実感しました。

    そして主治医が言うように、日本に於ける医療と学校の連携不足が、場面緘黙児の理解と支援を
    大幅に遅らせている現実も再認識しました。

    でも、Knetはじめ支援団体や親たちの活動が少しずつ理解と支援の輪を広げていることも事実で、
    愛娘との活動を通じて、その広がりの一助になることを期待しながら、取り組んで行きたいと思います。

    • せとっこさん

      こんにちは。お返事が遅くなって本当にすみません。

      今、名古屋の友達のところにいて、明日ロンドンに戻る予定です。
      日本で何度か更新できるかなと思っていたのに、ネット環境が全然整わず、ほとんど何もできませんでした…。

      発達凸凹については、私も興味があって話題にしたいと思ってます。来年は頑張ってもっと更新したいと思ってます。来年もよろしくお付き合いくださいね。

      それでは、良いお年をお迎えください。

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