緘黙だった教え子のAちゃんが卒業しました

もう2週間が過ぎようとしていますが、7月に教え子のひとり、Aちゃんが卒業していきました。 私が勤務している学校は、高機能ASD(自閉症スペクトラム障害)の子どもを専門とする特別支援学校。Aちゃんは高等部で日本語のGCSE(国家試験)コースを選択したので、3年間の付き合いでした。

 

        最後の授業の日にAちゃんにもらったカード、とても嬉しかったです。右は彼女が作った日本語すごろくのイラストの一部

このAちゃんが場面緘黙(だった?)と知ったのは、なんと教え始めて1年ほど経ってからのこと(詳しくは『教え子が緘黙だった!!』をご参照下さい)。

私の授業では何ら問題がなかったので、彼女が緘黙だということに全く気づかなかったのでした^^;  ただ、いつも声が出るまで少し間があくのが気になっていました。

声を出そうと緊張しているのは解っていたため、5秒くらい待つことにしていました。日本語を選択している生徒は1つのクラスに片手で数えられる程。だから時間をかけられたんですね^^;

Aちゃんの最初のクラスはなぜか寺子屋スタイルで、一時期レベルが違う生徒4人が一緒に授業をしていたことも。が、Aちゃんが黙ってしまったことは一度もありませんでした。

その理由は小人数で安心度が高かったためか、自分の知識に自信があったためか?それとも、負けず嫌いの一面が影響したのか…。

負けず嫌いといえば、日本語3年目の生徒と一緒に会話の練習をした際、Aちゃんの声のほうが大きかったのが印象的でした(習ったばかりの箇所だったので、自信もあったはず)。

GCSEのクラスに変わってからは、もうひとりの生徒に負けじと自主的に応えることも多くなっていったのです。

日本では、よく場面緘黙時に英語を習わせるといい、と言いますよね?外国語の方が母国語より話しやすいと感じる緘黙児は多いようです。考えてみれば、語学学習の初期は、復唱や回答が決まっていることがほとんど。自分で答えを考えて言うよりは随分楽です。

この3年間でAちゃんに変化がありました。質問をふると、応える時に微笑むことが多くなり、応えた後もニコニコしているのです。応える時の間もほとんどなくなり、応えるスピードも上がりました。

(まあ、これは試験用の「会話」の練習をした成果かもしれませんが)

外国語のGCSE(国家試験)で試されるのは、「会話」「読解」「聞き取り」「作文」の能力。「自分」「将来の希望」「地域・旅行」など5つのテーマがあって、自からの意見を表明することが重要になってきます。

だから、彼女の趣味がPCゲームで K&J-ポップのファンであることや、将来の夢など、授業で聞き出して、それをテーマに会話の練習をすることも多かったんです。興味のあることを話すのは、誰でも楽しいですよね?

Aちゃんの唯一の欠点といえば、欠席がものすごく多かったこと(ストレスに弱い?)。試験前後もかなり休んで焦ったのですが、勉強は家で続けていたよう。なんとか無事に試験を終えることができました。

そして、卒業間近になって彼女のTAから連絡がありました。

卒業式の日にAちゃんを送り出す祝辞を述べなければならないのに、言うことが見つからないというのです…。

「クラスでは何も話さないし、褒めるべきことが何もないから、良いところを教えてほしい」と。

えーっ、良いところはいっぱいあるのに!

そして、いまだクラスで話せてなかったということがショックでした…。

2年前、彼女が緘黙であることを偶然耳にした時、1対1なら話すけどグループ活動やクラスでは声が出せていないと聞いて、

「まずは一番仲の良い子とスライディングイン法をしてみれば」と提案し、その後も、時々クラスでの様子を訊ねたりはしていたのですが…。

でも、私には生徒のケアをする役割は与えられていないし、講師の分際で口出しすることも憚られ…。そして、カリキュラムの遂行や細かな授業計画・各生徒の学習状況報告の要求に追われて、いっぱいいっぱいの状況。

もっと何かしてあげられなかったのかと、今とても悔やまれます。

殆どの卒業生たちは9月から学校近くのカレッジに通うんですが、Aちゃんは自宅に近いカレッジに1人で電車通学する予定。

知っている人が誰もいない全く新しい環境で、Aちゃんが希望に満ちた新たなスタートを切れます様に!!

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教え子が緘黙だった!!

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CBTってどうやるの?(その4)

イギリスは雨が降ったり止んだりの日々が続き、記録的に寒い5月となりました。その天候不順もようやく終わり、今週末から例年なみの天気に回復するようです。

やっとモノクロームの空とサヨナラできそう

…………………………………………………………………………………………………………………………..

3)  ステップ毎に克服できそうな目標を定める

スモールステップで重要なのは小さな成功体験を積み重ねていくこと。だから、高すぎるハードルは禁物です。だからこそ、目標を立てる際に当事者である子どもの意見をきくことが大切といえるでしょう。

段階的に少しずつ不安に直面し、その状態に慣れることで不安を克服していくのがエクスポージャー法。ステップ毎に達成できそうな目標を立てることが重要です。

ハードルが高すぎて失敗すると、後退することも多々あるので要注意です。「もうやらない!」と拒絶する子もいるかも…。でも、そういう時でも粘り強く励まし続けて、一歩一歩進むしかないのです。

子どもは新たな挑戦に対して、「そんなの無理」「イヤ」としり込みするかもしれません。そんな時、もうひと押ししても大丈夫かどうか判断できるのは、一番近くで子どもを見ている保護者だと思うのです。できそうだなと思ったら、「ちょっとだけ、やってみる?」と誘って反応を見てみて。

失敗を恐れず、子どもの気持ちに沿ってコツコツ進むしかないですね。

スモールステップに挑戦したら、必ず声をかけて褒めること。褒められることでだんだん自信がついてきます。しばらく続けると、自ら「挑戦したい」という気持ちに。挑戦を続けることで、自分で計画し自主的にスモールステップを実施できるようになっていきます。これは将来とても役立つと思います。

4)  モチベーションや明確な目標を持たせる

小さい子なら、ステッカーチャートやお菓子、玩具などのご褒美が有効。星が5つたまったら、好きなお菓子や欲しいものを与えることで、モチベーションが上がります。

息子が小2(6歳)の頃、Dr WhoがTV放送されて全国で大流行し、学校中の男子がDr Whoカードやグッズを集めていた時期がありました。息子はカード欲しさに、自分から「ありがとうを言うから買っていい?」と、何度も文具店に足を運んだものです。

年齢が上の子の場合は、ご褒美というよりも自分がやりたいことや将来の希望など、現実に沿ったスモールステップ計画を本人が主体となって立てるのが望ましいよう。でも、本人に「変わりたい」という気持ちがなければ、計画を立てることは難しいかもしれません。(年が上の子の支援については『マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』』をご参照ください)。

何年も緘黙が続くと、本人も周囲も「話さない子」に慣れてしまい、行動を起こすのに多大な勇気とエネルギーが必要になってきます。周囲の雰囲気が良くサポートもあって、本人があまり困っていない場合は特に。不安が低減し居心地が悪くない状態で安定しているため、新たな変化の方がより恐ろしいのです。

こうした場合は無理強いせず、いつでもサポートできることを知らせてください。
進学や就職が近づいてきて、本人が「変わりたい」という気持ちになるまで、趣味など学校外でのスモールステップがお勧めです。ひとりで買い物する、電車に乗る、家事を手伝うなど、自立に向けた準備もできるはず。

下の図は、人が恐怖に対面した際の恐怖の度合を時間の経過ともに現したものです。赤い矢印は本人が予期する恐怖感。緑の線は1回目のトライ、紫は2回目、オレンジは3回目、ブルーは4回目と、同じ恐怖に4回繰り返して直面しています。

どの回でも恐怖感は2分でピークに達し、その後時間が経つにつれて下降。10分で半減、もしくはそれ以下に。1回目のトライでは最大90%の恐怖を感じますが、2回目は60%に軽減。4回目のトライでは最大で30%と恐怖感は1回目の1/3に。

何度も繰り返すことで恐怖の対象に慣れ、それほど恐怖を感じなくなるのです。頭の中で想像がどんどん膨らんで、不安がマックスに達してしまうのが緘黙児。実際に恐怖と対面して最初の2分間を我慢すれば、不安が徐々に軽減していくことを自ら体験することが本当に大切。

「なーんだ。それほど怖くなかった」と思えたら、次もやってみようという気になるはず。

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CBTってどうやるの?(その2)

CBTってどうやるの?(その3)

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Cちゃんのこと

この春、緘黙のティーン、Cちゃんと接する機会が何度かありました。カレッジに通うアニメ好きの18歳の女の子です。

父親か母親が傍にいれば、第三者の前でも言葉が出るし、こちらの質問には筆談でスラスラ答えられる――でも、直接話せる人は両親と異父兄弟ふたり、友達ひとりしかいません。

両親はCちゃんが小学校低学年の頃に離婚し、その後ふたりとも再婚しています。Cちゃんは母親に引き取られましたが、週末や休みには父親の家に泊まりに行ったりと、頻繁に会っているそう。

義父とは10年以上も一緒に暮らしている訳ですが、直接話したことは一度もないとか。また、慕っている義母とは、知り合って3年以上になるのにやはり直接は話せません(実の親とは目の前で話しているだけに、自分には話してくれない義娘への感情は複雑ですよね…)。

Cちゃんが緘黙になったのは、小学校に入学した5歳のとき。父親によると、学校では手厚い支援を受けてきていて、クラスに自分が話しているビデオを観てもらい、少し言葉が出かけた次期もあったそう。

でも、セカンダリースクール進学(12歳)やカレッジ進学(16歳)など、学校やクラスが変わる度に元に戻ってしまうことを繰り返したとか。

カレッジでも席順を考慮してもらったり、TAをつけてもらったりと、話せないけれど安心できる学校生活を送れていたよう。イギリスでは夏休み明けの9月から新学年が始まるのですが、来期からは新たなコースで勉強し始めるということでした。

一度Cちゃんと待ち合わせて家に来てもらったことがありました。最初は緊張していましたが、好きなアニメのゲームをしているうちに笑い声が出ました。Cちゃんと筆談で色々話をしてみて、その時に感じたことを書きとめておきます。

1) 年齢にそぐわない幼さと食の細さ

Cちゃんは平均的な18歳の女の子と比べると、体格が小さく年齢よりも随分幼く見えました。この年齢だと、お化粧やネイルをしてる子が多いんですが、化粧っ気は全くなし。服装も地味なジャージ姿で、友達とお洒落やファッションの会話をするのは難しそうだなと感じてしまいました…。

彼女の希望でチキンナゲットとポテトをテイクアウトしたのですが、もともと量が少ないのに2/3ほどしか食べませんでした。スムージーを勧めたところ、バナナと苺はOKだったものの、ブルーベリーとラズベリーはNG。これも半分以上残し、お水も殆ど飲みませんでした。

きいてみたら、普段から水分はあまりとらないと…。トイレに行くのを避けるため、水分を摂らないようにしてきた結果ではないか?と思い当りました。嫌なことがあると腹痛になるということで、とても繊細な子だなと感じました。

2) 家庭でのサポートは?

小学校低学年の時に両親が離婚して、一緒に住んでいた母親が割とすぐに再婚し、弟が二人生まれました。幼い弟たちの世話に追われ、母親は手いっぱいだったようです。事情はよく判りませんが、家庭での緘黙支援はあまりなかったよう。

父親によると、感覚過敏のためか好き嫌いが激しく、食べられるものが極端に偏っているとか。彼女が頑固だったせいもあるのか、極力好きなものしか食べないという生活をしてきたようです。

 

学校では早くから緘黙を察知して支援体制を整えてくれたそうですが、もしかしたら「話さなくてもいい状況」に慣れてしまった恐れがあります。また、家庭との連携や家庭での支援不足が緘黙を固定させる要因のひとつになったのかも。また、多感な時期に両親が離婚して新しい家族ができたことで、家でのびのびしたり、自己主張したり、思い切り甘えたりすることができなかった可能性もあるのかなと…。

話せる友達が同じカレッジにいるそうですが、違うコースで学んでいるため、一緒にいられる時間があまりない、と淋しそうでした。友達はどんどん新しい友人関係を築いていて、置いて行かれる気がするとも…。父親によると、一緒に遊びに行ったりできる友達がいないということで、将来をとても心配していました。

でも、オンラインでやり取りしている外国人の友達がいるとのこと。オンラインでもSNSでもいいので、誰かと繋がれるといいですよね。好きなアニメが今後の突破口になるかもと思い、何かイベントに参加してみたらと勧めてみました。その後どうなったのか、気になっています。長い夏休み、楽しめてるといいんですが…。

SMiRAのFBページでも、友達付き合いがなく外出できないでいるティーンが大勢いるようです。年齢があがってくると、家族と外出することを嫌がる子もいますよね。そんな子たちが出遭える機会があればいいのにな、と心から思います。

サキ君の動画について(その3)-自分を信じる強さー

私はこの動画を訳していて、サキ君の学校に驚いてしまいました(動画の15:10分あたりから)。場面緘黙で9年間も話せていない生徒に、『絶対しゃべりやまないで』賞を授与しようなんて、日本の学校だったら思いもつかないでしょう。下手をしたら、保護者から訴訟を起こされかねないのでは…。

サキ君に訊いてみたところ、事前に学校側から打診され、快く承諾したのだとか。「まあ、受け狙いだよ。学校も授賞式を盛りあげなきゃいけないからね」とクールな対応。受賞のために壇上にあがったら、みんなにヤンヤ言われることは承知していた訳ですね。

サキ君がすごいと思うのは、場面緘黙に対する皮肉も軽いジョークと受け流せていたこと。普通、抑制的な気質の人って、ものごとをネガティブに考えがちですよね?実は、私もそういう傾向が強い方で、私がサキ君だったらめちゃくちゃ凹んで、学校に行くのが嫌になっていたかもしれません…。ましてや、話さないことで嫌がらせをする同級生もいた訳ですから。

きっと本人は、心のどこかに「自分は大丈夫」という自信を持ってたんじゃないかな?ミスイングランドのカースティさんに会った時も、「自分はどこも変じゃない」とずっと思っていたとききました。生まれ持った性格もあるかもしれませんが、お母さんは一体どんな育て方をしたのかなと感心します。以前、カースティさんのお母さんにその質問をしたら、「この子はこういう性格だから大丈夫」と大きく構えていたそう。子どもへの信頼がすごいですね。私なんか何かあるごとに「大丈夫かな?」とユラユラ揺らいでいたので、見習わないといけません。

ちょっと照れるかもしれませんが、親は子どもに緘黙で辛いのは解かっていること、自分が味方だということを、時々口に出して言った方がいいような気がします。態度で判るとはいえ、言葉で言ってもらえると、やはり嬉しいし、安心できると思うので。

サキ君のお母さんは息子が話さないこと(社会性がないこと?)に関しては、とても心配して手を尽くしたようです。でも、息子がティーンになってからは学校で話すことを話題にしなくなり、そのままの状態になっていたとか。だから、サキ君は自分から「話したいから心理士に会わせて」と親に切り出したのです。

自ら緘黙の克服に動き出した際、親も学校も素早く対処してくれたようですね。きっとそれまでは、「現状でOK。無理に改善させようとしない」という環境だったのでしょう。外部の心理士を巻き込んで、専門家に学校と交渉してもらうことで、うまく支援体勢が整ったのかなと思いました。

特に、年齢が上の子の場合、取り組みをする際に最も重要なのは本人の意思。周りがいくら頑張っても、本人のやる気と努力がなければ、目標を達成することはできません。自分が主導権を握り、納得しながらステップを踏んでいくことで、成功体験を実感しながら重ねることができ、それが達成感と自信につながっていくのだと思います。

ところで、サキ君が変わろうと決意した大きな理由は、「色々な国を旅したい」という夢だったんだろうなと想像していたところ、実は違っていました。それよりも、「もうこんな状態ヤダ!早くみんなと同じようにになりたい!じゃないと、もうヤバイ!」という、高校卒業が視野にはいってきた危機感の方が大きかったそう。そして最後に、「ガールフレンドも欲しかったし」と照れ笑いしながら追加。そうだよね~青春を楽しみたいのは誰も同じですよね。そして、誰もが悩み自己を確立していく時期。だからこそ、思春期まっただ中の緘黙はより複雑なんだろうなと思います。

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明けましておめでとうございます

サキ君の動画について(その1)

サキ君の動画について(その2)

 

電話を使った緘黙克服プログラム

 

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』は、今回でやっと終わりです。最後に、ティーン&大人のための電話を使った実用的なプログラムが紹介されています。このプログラムだったら、支援者は祖父母や叔父叔母といった親しい親戚や友達でも大丈夫そう。2010年にイギリスで放送されたBBCのドキュメンタリー番組『My Child Won’t Speak』では、マギーさんのアドバイスにより、緘黙の少女レッドと祖父の間で行われ、かなりの成果をあげていました(番組内では直接話すまでには至りませんでしたが)。試してみる価値は大いにあると思います。

《緘黙に苦しむ小学校中・高学年&ティーンへの支援》

場面緘黙アドバイザリーサービス 言語療法士マギー・ジョンソン著/ ケント州コミュニティヘルスNHSトラスト

内容の著作権はマギーさんに属しますので、この記事の転記や引用は固くお断りします。なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual Speechmark社)』の第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です。

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その16)

話すことへの恐怖を克服する6つの戦略

  • 新たなスタートを切る(転校や進学、新しい習い事を始めるなど新たな環境へ)
  • 認知行動療法(CBT)
  • 不安の生理学を理解する – 心拍数を減少させるための深呼吸、硬い姿勢から力を抜き、身体の緊張を緩める体操など
  • スライディングイン手法  (話せる人とのセッションに、段階を踏んでひとりずつ話せない人を加えていく手法: 親戚にも効果があります!)
  • 子どもからのパーソナルメッセージでクラスメイトや同級生の理解を仰ぐ – 音声録音やビデオ、手紙などを使用
  • コミュニティ内で見知らぬ人と話すことを目標にする(子どもの不安度とリンクさせて) — 人がいるところで聴こえるように話したり、電話で話すプログラムから始めること

みく注: 緘黙を克服していく・支援していく前に、まず長期戦になることを肝に命じておきましょう。長年話せなかったのだから、やっと声がでるようになっても、クラスメイトとの会話のスピードや話題にうまく乗れないかもしれません。例えば、楽器をやったことがないのに、いきなり曲を演奏できないのと同じことです。とにかくメゲずに、自分のペースでコツコツと進むことが大切かと思います。学校では話せなくても、普段から安心できる場面でたくさん話をしたり、何かにチャレンジしたりするよう心がけましょう。家族は、子どもの好きなこと、やりたいことなど、安心して楽しく過ごせる時間を過ごせるように協力できるといいですね。

抑制的な気質の子どもはひとつの環境に慣れるのに時間がかかります。例えば、夏休みあけはクラスの空気にすぐ馴染めないかもしれません。そんな時には、進歩するどころか後退することもあり得ます。また、人の何気ない言葉や行動にひどく傷つき、元に戻ってしまったように見えることもあるかもしれません。そういう時のために、頼りになる支援者がずっと見守ってくれると心強いですよね。ただ、日本の学校にはTAがいないため、誰に支援者になってもらえばいいのか、難しい問題だと思います。児相や病院でも、毎週プログラムを組んで規則的なセッションするのは難しそうだし…。ひとつの手としては、家庭教師的な存在に家に来てもらい、一緒に勉強しながら少しずつ話せるようにしていくというのがあるかもしれません。

緘黙のティーンと大人のためのプログラム: コミュニケーションに対する自信を培う

見知らぬ人と話す:第一段階

  1.   電話で 自動音声に応答する
  2.   電話で 実際の人物に話す
  3.   実際に 顔を合わせて話す

このスモールステップを使ったプログラムで、緘黙の大人が私(支援者)と顔を合わせて会話できるようになりました。更に、プログラムを推し進めた結果、初めて地元の人と話すことにも成功しています。

1) 支援者の携帯電話にメッセージを残す

  • それほど不安にならずにできるようになるまで練習する
  • 「こんにちは」など一言 → 文章を読む → 一日の出来事を話す と徐々に難度をあげていく
  • 私(支援者)は聞いていないので安心すること

2) 電話の自動録音プログラムを用いて、実際に相互的な会話の練習をする

  • 不安(と呼吸数)を抑える傍ら、会話を繰り返して話すスピードや声の大きさを改善していく

3) 支援者が聞いていることを知りながら、支援者の携帯電話にメッセージを残す練習

4) 事前に決めた時間内にメッセージを残し、メッセージを話し終えた時点で支援者が電話に出て、そのメッセージについて質問をする練習

5) 4)の質問に応えることができたら、支援者はあと2、3問の質問を追加する

6) 5)の後、緘黙の子ども・大人が支援者に質問をする

7) 事前の打ち合せなしで5)~6)を繰り返す

8) 数週間おいて7)を試す

9) 実際に会う — 子どもが支援者に写真を見せ、支援者がそれについて質問する

10)他の人と1)~9)までを繰り返す(回数を重ねるごとに容易になる:「こんにちは」から始めても、時間をかけずにメッセージを残し、顔を突き合わせて話せるようになる

みく注:残念ながら、いただいた資料には第一段階の説明しかありません。でも、これだけでも顔を合わせて話すいい練習になると思います。

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マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その14)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その15)

 

 

学校での支援体制

昨年から途切れ途切れに掲載してきたマギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンへの支援』も、あと2回ほどでおしまいです。マギーさんが所属するケント州のNHS(国民保険サービス)トラストでは、この支援が大きな効果をあげているよう。支援者が専門家に相談できるシステムが整っているのが、何といっても強みといえます。イギリスでも住む場所によって支援サービスが全く異なるため、マギーさんのいるケント州やSMIRAのあるレスター州を羨む保護者が多いのが現状です。

《緘黙に苦しむ小学校中・高学年&ティーンへの支援》

場面緘黙アドバイザリーサービス 言語療法士マギー・ジョンソン著/ ケント州コミュニティヘルスNHSトラスト

内容の著作権はマギーさんに属しますので、この記事の転記や引用は固くお断りします。なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual Speechmark社)』の第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です。

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その15)

4. 家庭と学校の協力的な環境

学校職員全体の教育を

  • 個別教育プラン(Indivisual Educational Plan)の作成(定期的に見直し、ターゲットを更新)
  • リスク要因も含め、職員会などで子どもについて話し合う
  • 場面緘黙のDVD(『場面緘黙へのアプローチ』など)を利用し、関係者の理解を深める
  • 支援原則を学校全体に浸透させる — 最初は言語コミュニケーションへのプレッシャーを取り除く(話すことを期待せず、機会として捉える)
  • 全ての活動に参加させる
  • ひとりの支援者が継続して関わり、言語による参加を徐々に増やせるようコーディネートしていく

主となる支援者/学校職員をひとり決める

  • 緘黙の生徒と定期的にコミュニケーションを取る(直接的/間接的)
  • クラスの状況を監視する
  • 子どもの不安度(快適度)を確認
  • 職員間で支援策を決め、協力しながらそれぞれが貢献していく

学校での基本的な方針

  • 必要であれば、1対1もしくは小グループで話す機会を設ける
  • 学校内に安心できる場所を与え、ランチタイムや休み時間に孤立しないようにする
  • 苛めがないよう徹底管理する(生徒が報告するまで待たない)

みく注: 通常、支援プログラムは学校もしくは家庭で行います。実際にはとても難しいですが、プログラムを始める前に、まず子どもを取り巻く学校と家庭での環境 — 対人関係はもちろん、授業や休み時間に不安なく過ごせ、家庭ではリラックスできる環境を整えておくことが望まれます。特に、思春期の子どもは傷つきやすいため、予め子どもにどのように対処して欲しいかをきくことも大切ではないでしょうか。

緘黙が起こる主な場所、学校の環境は本人にとって死活問題。頼れる大人がいて、自分の教室以外に逃げ場があると随分違うと思います。ただ、緘黙児は自分から動くことが難しいので、声をかけたり、誘導してもらえると心強いかも。また、先生全員に子どもの特徴や支援策を知らせ、学校全体で取り組むことも大切ですね。中学校以上だと科目によって担当教師が変わり、より多くの先生と接することになります。それぞれの先生が子どもに対して一貫した態度・支援方針を取ることが、子どもの心の安定に繋がるかと思います。

公的な試験に際して

  • 試験をする際の配慮

緘黙の子どもは、試験時間の延長(うまくできるか/間違えるかもという不安からスピードが落ちるため)、及び普段教室で使う用具や学習環境、特別教育プラン(IEP)に記されている用具等の使用を認められる権利を持つ

(例)

  • 録音やビデオの使用
  • 小グループ、または単独試験官による試験
  • 外部の試験管でなく、馴染みの先生による試験

みく注: 症状が場面緘黙のみだと、イギリスでも試験の際の特別な配慮は困難です。例えば、ディスレクシアなどの学習障害を抱えている場合は、特別な用具の使用などが認められやすいのですが…。長期間緘黙が続いている子どもの中には、問題を解くスピードが遅かったり、動作自体が鈍かったりする子もいるようですし、実技や口頭試験が難関となることも多いでしょう。他の子どもとのかね合いや学校の方針もあるでしょうし、とても難しい問題だと思います。

次の段階(中学、高校、大学、専門学校、就業研修など)への計画的な移行

  • 新しい環境に慣れるための準備
  • スタッフの教育
  • 家庭訪問の回数を増す(相互協力 ― 3月に新担当者が学生を訪ねることを検討)
  • 16歳以上の子どもには、将来にむけた計画を立てる

専門家間のネットワーク

学校/家族用に個別教育プラン(IEP)の評価ミーティングをする際、言語聴覚士や教育/臨床心理士などの専門家を交えるとより有効

  • 支援活動をうまく持続するため、目標ターゲットや戦略を定期的に見直し、更新することが不可欠。記録を取る係を決めておくこと
  • 通常アセスメントのフレームワーク(CAF)または(教育的ニーズの)ステートメント
  • 16歳以上の子どもに対する特別支援
  • 関連チャリティ団体へのアクセス

みく注: 日本では特別支援制度がどの程度浸透しているのか私には判りませんが、IEPを作成して関係者が定期的に会合するというところまではいってないのでは?(文部科学省のサイトで、平成19年度に作成された「特別支援教育の推進について(通知)」を見つけました。基本的には、個別指導計画(IEP)の作成を推進しているようですね。 

http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/07050101.htm)。

イギリスでも学校によって緘黙児に対する支援の体制・程度は本当にまちまちです。ただ、特別支援の対象になれば(通常は何か問題があれば、診断が下りてなくても対象になります)IEPの作成が義務付けらるため、何らかの支援は受けられるはず。また、保護者が関わることによって、SENCO(特別支援コーディネーター)と担任との連携も強くなるような気がします。緘黙児は問題をおこさないため放っておかれがちです。また、緘黙期間が長ければ長いほど、担任も保護者もどうにもできないと思いがち…。保護者から学校への働きかけが必須になるかもしれません。

 

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マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その13)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その14)

 

どうして緘黙のティーンが短期間で話し始めるのか?

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その14)

先回の投稿から、またまた1ヶ月空いてしまいました。いきなり仕事が集中し、その後2週間ほど帰国している間はネット難民になっていました(日本では空港を除いて無料Wifiを飛ばしているところはないんでしょうか…)。イギリスに戻ったらすっかり春の気候。なにも手入れしていなかった中庭が、すっかり緑につつまれていました。

帰国中に息子は知人宅で生まれて初めてのホームスティ(4泊5日)を体験。なんと、スティ先の3人の子ども(特に、11歳の長男くん)が息子に輪をかけたような恥ずかしがり屋で、親が仲介して会話を盛り上げてくれたとか。あまり日本語は上達しませんでしたが、薪風呂や掘りごたつのある実家に連れて行ってくれたり、パネルで注文するくるくる寿司や空手教室など、貴重な経験をいっぱいさせていただきました。

さて、番外編の続きです。年が上の子への支援について、マギーさんに直接お伺いしたところ、「支援を受けたティーン全員が2、3週間で口をきくようになった」との答え。これらのティーン達は緘黙が長期間続いていたと思われるのに、すごくないですか?

その理由を色々考えてみて、下記のようなことを思いつきました。

1) 公の場で話せるようになった訳ではない

まず注意すべきなのは、彼らは自宅または学校の一室で支援者に話した、または読本などで声をだしたのであって、クラスで周囲に聞こえるように話せるようになった訳ではないということ。緘黙が習慣になってしまったティーンがそんなに簡単に話せるはずはなく、やはり克服までにはかなりの時間と努力が必要と思われます。でも、一言の答えであれ、一行の文章であれ、新しい人に対して発話できたというのはすごいことですね。これをきっかけに、どのようにステップを進めていくか、子どもが支援者と共に納得しながらどう取り組んでいくかが重要なんだと思います。

2) 学校内でのセッションの不安度が低い?

自宅は安心できる場所ですが、緘黙が起こっている現場の学校はかなりの難関のはず。どうして学校での支援も同じような結果がでるのか?これはイギリスのセカンダリースクール(12~16歳)の構造によるところが大きいような気がします。イギリスでは小学校はどこも小規模ですが、セカンダリーでは急にマンモス校と化します。日本の大学のようなシステムになっていて、教科ごとに教室を移動。ベースとなる自分の教室はなく、決まった席も机もありません。同じクラスでもバラバラの教室で授業を受けることが多く、常に移動している状態。誰かが特別な支援を受けていても、それほど目立たないのではと思います。

また、イギリスには特別支援チーム専用のスタッフや学校に通ってくる専門家がいて、教師でない大人が支援セッションを担当します。緘黙の子は自意識が過剰なことが多く、同じ学校内でも人・場所・時間帯で不安や緊張度が違います。自分のことを知っている(=苦手意識が強い)クラス担任と自分の教室でセッションするのでなく、別の大人と他の生徒が入ってこない部屋・時間帯にセッションをすることで不安度が下がり、成果が出やすいと考えられます。

3) 第三者の大人とのつながりを持ちやすい環境

年齢が上の子には、本人が納得したうえで意識的に緘黙を克服していく方法が有効といわれています。第三者の大人と信頼関係を持つことで、自分を客観的に見ることができ、それが大きな自信に繋がるのでしょう。イギリスではこの第三者の大人はだいたい特別支援員(TA)か言語療法士。こういった教師でない大人が長期の支援を行うシステムがあることが、すごく強いと思います。

日本で特別支援教育を担うのは教師だと思いますが、例えばスクールカウンセラーを増やすなど、外の大人に定期的な支援をしてもらえるといいなと思います。養護教諭や用務員など、教員以外の大人にも配慮してもらえると嬉しいですね。

4) 家庭のサポートも大きく影響していそう

マギーさんが所属しているケント州のコミュニティヘルスNHSトラストは、公共の機関です。ケント州に住む友人によると、親や支援者が直接マギーさんに無料相談できる定例会が開かれているそう。(同じイギリスでも住んでいる場所によって違うんですが、ケント州とSMIRAのあるレスター州は緘黙支援が充実しています)。ということは、支援者と親、専門家のネットワークも充実しているんですね。この支援プログラムでは親とのセッションもあるので、親も子どもの状況を把握でき、それに見合ったサポートが可能になります。

思春期の子どもとどうコミュニケーションを取り、家庭を居心地のいい場所にできるかは世界的な課題です。例え子どもが自分のことを話さなくても、親に信頼されていて、いつでも助けてもらえると感じていれば、心理的に随分違うのではないでしょうか。

 

緘黙のティ―ンが2、3週間で話し始める?!

 

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その13)

前回から随分間があいてしまいましたが、マギー・ジョンソンさんの年齢が上の子の支援について再開します。この講演は昨年3月のSMIRAコンファレンスで行われたものなので、既に丸1年が経ってしまいました~。講演の翻訳はもう終わりに近いのですが、今回はその続きではなく番外編をお届けします。

SMIRAの講演では、支援方法やセッションの進め方を中心に話が進められました。そのため、ジェイ君がどの時点でマギーさんに話し始め、学校でどのように変化していったかという説明はありませんでした。

小学校中・高学年以上の緘黙の子ども達は、幼稚園や小学校の低学年から学校でずっと沈黙を守り続けていることが多いと思います。支援を受けた子ども達(多分、11歳以上の子が多いと思います)は、マギーさん、もしくはマギーさんの指導を受けた支援者と何回目のセッションで話し始めたのか?それがとても気になり、昨年秋にマギーさんにメールで質問しました。そして、下記のような回答をいただきました。

1) 長期間緘黙してきた子ども達は、大体何回目のセッションで話すようになるのか?

大体このくらいというような目安はない。子どもへの対処の仕方、信頼関係、子どもが持つ困難に対してどんな説明が行われたか、またセッションの頻度にもよる。でも、私が担当する学校支援者に限っていうと、全員のティーンが2、3週間で支援者に口をきくようになっている。

2) 各セッションの長さと場所は?

各セッションは、最後に両親と話す時間も含めて1時間半ほど。ジェイ君の場合は、クリニックではなく自宅で行った。

3) 「声をだして読む」課題はだいたい何回目のセッションから始めたらいいのか?

初回から読める子もいれば、もっと回数を経ないとできない子もいる。ジェイ君の場合は、2回目のセッションでできた。すぐに話し始める子には、「声を出して読む」課題は必要ない。子どもによってペースが異なるので、よく観察してどんな課題を与えるか判断する必要がある。

「全員のティーンが2、3週間で支援者に口をきくようになった」ときいて、正直ものすごく驚きました。学校で何年間も沈黙していただろう子どもが、たった2、3週間で話すようになる?! 本当なんでしょうか?しかも、ジェイ君の場合はマギーさんが彼の自宅でセッションしましたが、学校支援者は場面緘黙が起こっている現場の学校内で支援を行っているはず…。

どうしてそんなに早く話せるようになるのか、次はその理由を考えていきたいと思います。

支援セッションの構成

あっという間にもう12月も半ば。家庭の事情で学校の仕事を早めに切り上げ、先週末から急遽帰国しています。状況が少し落ち着いてきたので、10月中旬で止まっていたマギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンへの支援』の続きをぼちぼち再開していきます。

内容の著作権はマギーさんに属しますので、この記事の転記や引用は固くお断りします。なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual Speechmark社)』の第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です。

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その12)

ジェイ君(15歳)のケース

<支援セッションの内容と構成>

セッションは毎回3つのカテゴリーに分けて行った(順番を決めたのはジェイ君自身)

1) キーボードとPC画面を使うセッション

ランキング表やスケール表を作ったり、概括的に考察しながら、自己分析をする。質問表のいくつかは、セッションの合間に電子メールを介して完成させた。

2) コミュニケーションスキルを上達させるための実用的なセッション

面接で良い印象を与えるための指導

3) 実際に課題をこなすセッション

(課題例)

・私(マギーさん)のパワーポイントのプレゼンをどう改善できるか、自分の考えを文書で説明する(非言語)

・PDFのソフトウェア設置と使用方法について説明する(準備したものを読み上げる)

・午後4時に電話を受け、指定しておいたPCに関する質問について答える(事前に警告)

・明日の午後に電話を受け、PCに関する質問に答える(事前の準備なし)

みく注: 子どもによって性格や緘黙の程度、家庭と学校の環境、得意とすること等が異なるため、それぞれの子どもに合わせて、その子のペースでセッションを進めていく必要があります。どんな風に接したら子どもが安心してくれるか–それは支援者との相性によるところも大きいかもしれませんね。とにかく、最後までじっくり付き合うという心構えでいきましょう。子どもが支援者に心を開いた時、すぐ声が出る子もいれば、ちょっとした工夫が必要な子もいるかと思います。どの時点で非言語の課題から「読む」・「電話で話す」に進むか、どの程度進むか、その見極めも重要なポイントとなってきそうです。

関連記事:

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マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その3)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その4)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その5)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その6)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その7)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その8)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その9)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その10)

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その11)

 

目標を達成するために何をすればいいか?

この3月に開催されたSMIRAコンファレンスで、イギリスの緘黙治療の第一人者、マギー・ジョンソンさんが、小学校中・高学年&ティーンの支援方法について講演されました。その内容をKnetと拙ブログに公開する許可をマギーさんから得ましたので、概要を少しずつ翻訳してご紹介しています。

内容の著作権はマギーさんに属しますので、この記事の転記や引用は固くお断りします。なお、年が上の子どもへの支援は、緘黙支援のバイブルと呼ばれるマギーさんとアリソン・ウィンジェンズさんの著書『場面緘黙リソースマニュアル(Selective Mutism Resource Manual Speechmark社)』の第二版(2015年春/夏出版予定)に新項目として掲載される予定です

《緘黙に苦しむ小学校中・高学年生&ティーンの支援》 

場面緘黙アドバイザリーサービス 言語療法士マギー・ジョンソン著/ ケント州コミュニティヘルスNHSトラスト

マギー・ジョンソンさんの『小学校中・高学年&ティーンの支援』(その11)

ジェイ君(15歳)のケース

取り組むべき2つの項目について、目的を達成するために必要なことを箇条書きにし、自分にとっての難易度をつけてみる

取り組み1 良い仕事につくために、カレッジに行く
それぞれの課題の難易度 0 – 10  0 = 問題なし 10 = 絶対に無理

<課題>

・ 電話を使う 0
・ 公共交通機関を使う 0
・ 学生食堂を利用する 0
・ お金/銀行口座の管理 0
・ 授業を理解する/課題・宿題をこなす 2
・ 新しい人たちとの出会い 2
・ 他の生徒(1人)に課題を説明する  3
・ 試験に合格する 3
・ 人に助けを求める 3
・ 仕事/アルバイトのインタビュー 4
・ 他の学生達/仕事の同僚とのディスカッションに参加する 4
・ 先生/上司とのディスカッションに参加する  5

<困難が予想されること>

1 全く経験したことがない/経験不足
2 安心できない
3 自意識過剰
4 言葉が出てこない
5 知らない人と会話をするのが苦手
6 緊張する
7 嫌いな食べ物
8 騒々しさ
9 (人は)自分の言ってることが聞こえない/理解できないかもしれない
10 楽しめない
11 自信がない
12 周囲が攻撃的/冷淡すぎる
13 その他?

●取り組み2 自立する – 人に頼らず自分でやる

下記を行う頻度はどれくらいか?自分でスコアをつけてみる。
0 = 全くない、1 = 殆どない、2 = 時どき、 3 = かなり頻繁、4 = 毎週、 5 = 毎日

・カフェや映画館などで食べ物や飲み物を購入する
・友達と公共の交通機関を利用する
・ひとりで公共交通機関を利用する
・友達と外出する
・ひとりで外出する(例:犬の散歩)
・電話を使う - 友達と話す
・電話を使う - 電話注文/映画館/親戚など
・お店でのやり取り/質問(例:PC販売店などで)
・買い物 - コンビニ、スーパーマーケットなど
・アルバイトする - 週末のバイトやベビーシッターなど

みく注: 子ども自身が取り組むと決めた2つの大きな目標を達成するために、何をする必要があるか、どんな課題が出てくるか、支援者と一緒に書き出していきます。それに難易度をつけることで、既にできていること、克服すべきことが明確になってくるはず。克服すべきことのリストの中から、まず難易度が低く、自分ができそうと思えることから取り組んでいけばいいのだと思います。ジェイ君の場合、取り組み1の難易度チェックを見ると、最も難易度が高いのが「先生/上司とのディスカッションに参加する」で、5/10と自己判断しています。「問題なし(0)」と「絶対に無理(10)」の間なので、それ程の不安はないんですね…ちょっと驚きました。

取り組みの内容やスピードなどは、それぞれの子どもによって大きく異なってくると思います。子どもと支援者がよく話し合い、納得しながら決めていく必要があるでしょう。また、実際のチャレンジの結果により、もっと小さなステップにしたり、アプローチの仕方を変えなければいけないケースも出てくるかと思います。それをしていくためには、やはり子どもと支援者の信頼関係が不可欠ですね。

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