薬の威力(その1)

昨日は秋分の日だったので、本格的な秋が始まりましたね。今年の夏もあっという間に過ぎ去ってしまったのですが、とても嬉しいニュースがありました。

春に開催されたSMIRAコンファレンスで出会ったティーンの女の子が、薬を服用することで話し始めたというのです!時々メールのやり取りをしていたんですが、8月始めにこのニュースを聞いた時は、本当に嬉しく思いました。本人の承諾を得たので、彼女について書きますね。

最初に会った時まず気になったのは、前かがみになって縮こまったような姿勢でした。大勢の人がいる公の場で、しかもテーマは場面緘黙。緊張して、自意識過剰になっても無理はありません。顔を隠すように前髪を長く垂らし、父親の後ろでうつむいて座っている姿を見て、なんだか緘動で固まっているみたいだなと思いました。

隣に座って筆談した際、時折指で前髪を少しだけかき分けて、私の方をチラっと見るのですが、前髪のせいで彼女の表情は殆ど読み取れませんでした(というか、顔が見えなかった)。でも、私の言ったことに対してペンはサラサラと進み、自分の思いをはっきり伝えてくれました。

緘黙や抑制的な気質の人って、目立ちたくないという気持ちが強いと思うんですが、その気持が姿勢や雰囲気に現れてしまい、損してしまうんじゃないでしょうか?なんとなく話しかけにくい雰囲気というか、私に構わないでオーラが漂ってしまうというか。本当は、楽しくおしゃべりしたいのに、不安が強く前面に出てしまう。

もっと酷くなると、緘動で動けなくなって姿勢が固まったり、顔が無表情になったり。こういった状態が固定化すると、「なんか暗い人」、「周りを無視している人」とレッテルを貼られてしまいそう

彼女がいつから緘黙になったのか、詳しいことは聞いていません。でも、セカンダリースクール(1216歳)に進学してから、徐々に学校に行けなくなってしまい、ホームスクールに切り替えたと聞きました。現在は特別支援校に毎日短時間通っているとのこと。

イギリスの公立校システムでは、小学校はどこも規模が小さく、1学年に1クラスということもザラです。そんなアットホームな環境が、セカンダリーからは1学年710クラスのマンモス校に。ベースになる教室はなく、日本の大学の様に教科毎にどんどん教室を移動していかなければならないんです。

校内の騒音、人の多さ、授業ごとに替わる教室・先生・生徒 – デリケートな彼女にはそれが大きな重荷になったんだろうなと想像しています。考えてもみてください。自分の教室も、机も、椅子もない状況って、すごく不安になるんじゃないでしょうか?

また、彼女は物事を深く考える性質のようで、クラスメイト達と話が合わなかったとも。周囲の女の子達が子供っぽいと感じていたようです。学校でずっと黙っている分、思考がどんどん内に向かっていったんでしょうね。

薬(どの抗うつ剤を使用しているかは不明)の服用を始めたのは6月頃からだそうです。彼女自身の言葉によると、「自分でもびっくりするくらいリラックスできた」とのこと。まるで自分じゃないみたい、とまで思ったそうです。それを聞いて、よっぽど症状が酷かったんだなと思いました。

リラックスできたお陰で、特別支援校の先生達と話せるようになり、知らない人達の前でも殆どの場合話せるようになったそうなんです!すごい進歩ですよね。

熱心に支援を続けてきた両親は、薬の服用を始めると同時に、特別支援学校の先生に相談して家庭訪問をしてもらったとか。まず、自宅で先生と話せるようになり、学校でも話せるようになっていったんですね。また、彼女を色々な場所に連れて行って、知らない人の前で話す練習をしたんだと思います。

アメリカのシポンブラム博士も「薬だけでは効果がない」と主張されていて、薬物治療をする際には支援プログラムと同時進行させないと十分な効果は得られないようです。「薬を飲めば何とかなる」というのものでは、決してありません。

また、抗うつ剤の効果には個人差があり、服用しても普段とあまり変わらない、副作用が酷い、というケースもあるので要注意です。色々試してみたけれど効果があがらず、最後の頼み綱としてトライするという感じでしょうか。

薬物治療に関しては、かんもくネットでアメリカの支援団体、SMG~CANの薬物治療に関するQ&Aを翻訳していますので、参考にしてください。

http://kanmoku.org/ask-the-doc.html

 

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