ローカン君とジェシーキャット(その1)

動物を飼うことで緘黙児が話し始めたという例はけっこう多いようです。自分のペットのことが話題になったり、褒められたりするのは、子どもにも大人にとっても嬉しいもの。実際に、”Show & Tell”(自分の好きなものを家から持ってきて見せ、クラスに説明する)で飼い猫のことを話し、大きく前進した子を知っています。

動物だけでなく、得意分野は発話の後押しをしてくれます。もし、友達や先生との会話を促す時は、子どもの得意分野を話題にしてみてください。うちの息子は地下鉄マニアだったのですが、課外授業で地下鉄の話題になった時、皆の前で手を挙げて答えたのにはもうビックリ!(たまたまクラスの付き添いをしていて目撃しました)

話が逸れましたが、今週の土曜日(29日)に開催されるSMIRAの全国保護者会では、言語聴覚士のマギー・ジョンソンさんと、猫を飼うことで沈黙を破ったアスペルガーの緘黙児の母親、ジェイン・ディロンさんが講演する予定です。

ジェインさんと息子のローカン君については、飼い猫のジェシーキャットが2012年にコンテストで最優秀賞「キャット・オブ・ジ・イヤー」に輝き、”緘黙の少年と猫の絆”が話題になりました。その後、ジェインさんは2013年に『ジェシーキャット - 少年の心を開いた猫(Jessie Cat: The cat that unlocked a boys heart)』を出版しています。

booksSMIRAではメンバーにASD児が少ないせいなのか、今までASDとSMが併存するケースはあまり話題になっていませんでした。今回ジェインさんがゲスト講師ということで、ASDで緘黙の子どもの支援について聞けるのが楽しみです。2013年にガーディアン紙に掲載された記事”The cat that gave a boy his voice back” を訳してみたので、よかったら読んでみてください。

なお、SMIRAなど複数のチャリティをサポートしているミスイングランドのカースティさんは、残念ながら今回の保護者会は欠席とのこと。彼女の次なるビッグベントは4月13日のロンドンマラソンです!’Variety’ という子どもためのチャリテイを代表し、42kmのフルマラソンに向けて現在トレーニング中だそう。日テレの『ザ・世界仰天ニュース』の続編に関しては、続編という形ではなくもっと大きな企画が実現するかもしれません。

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2013年8月31日ガーディアン紙

The cat that gave a boy his voice back

– 少年の声を取り戻した猫 –

8歳のローカン・ディロン君は話すことが難しい場面緘黙です。しかし、新しいペットが転機をもたらしました。

 

わが子の満面の笑顔を見て大抵の親は嬉しくなるものですが、8歳のローカン・ディロン君が笑うと、母親のジェインさんは感慨でいっぱいになります — 例えその笑みがペットの猫にだけ向けられたものだとしても。

ローカン君は3歳の時、社会不安障害の場面緘黙と診断されました。彼の笑顔の裏には内なる会話が隠されているため、母親のジェインさんは常に息子の気持ちを読み取ろうとします。「みんなの警戒を解こうとアピールしてるのかしら?それとも、不安を緩めるために嬉しそうなふりをしている?」– こんな風に45歳の元助産婦は推測するのです。

場面緘黙の人達はある場面では流暢に話しますが、その他の場面では凍りついたように黙ってしまいます。家庭では早くから的確に話せていたローカン君の発達の様子からは、幼稚園に入園して話すのを止めてしまうまで、寡黙になる兆候など見当たりませんでした。

「家ではいつも声が大きくて自己主張が強いので、園に入った時はものすごいショックでした。どうして喋らないのか訊ねても全く説明できず、喉を指さすばかりだったんです」。

3歳児が園生活への適応を拒むのは良くあることです。しかし、息子が園で話すのを拒否し続けていることは、ジェインさんを悩ませました。というのも、その頃長男のアダム君がアスペルガー症候群と診断されたばかりだったのです。「場面緘黙について何かで読んだおぼえがあって、ローカンの先生に話したら、先生はもうその可能性を探っていました」。

SMIRAによると、この症状は165人にひとりを超える割合で発症します。ローカン君もそうであることが、言語療法士によってすぐに確認されました。

ローカン君の幼稚園では、園で話せない理由を見つけようとプレッシャーを与えたりせず、自信をつけさせるために遊びをベースにしたプランを遂行。ローカン君の症状は徐々に改善していきました。しかし、2009年9月に小学校にあがり、その12ヵ月後にレセプションクラスから1年生に進級した時点で、彼の歩みは逆転し、また口をきかなくなってしまいました。

さらに、ローカン君が自閉症スペクトラム障害ではないかという兆候もありました — 触られたり、抱かれたりするのを嫌がり、ほとんど共感を示さず、言われたことを言葉通りにとらえがち —  両親にも兄弟たちにも、愛していると口にしたことはありませんでした。

2010年9月にジェインの年老いた猫、フローが死んで新しい子猫がやって来たことが、ディロン家にとって予期せぬ転機となりました。ジェインさんによると、子猫のジェスはすぐさま変化をもたらしました。「彼らはお互いに惹かれあってました。ジェスは大きな青い目の、新しいふわふわした素敵な毛玉の固りで、ローカンの言うことに反応して鳴くんです。二人には深い絆がありました」

ローカン君は、出合ってすぐにジェスを抱くようになりました(名前もジェシーキャットに改名)。もっと驚いたことに、初めて保護者的な感情を見せ始めたのです。二人はすぐに切っても切れない仲となり、猫がやってきてから6ヵ月後、ジェインさんは息子から聞くことはないだろうと思っていた言葉を耳にしました。

「猫がお気に入りの玩具で遊んでいた時、ローカンがかがみ込んで、『ジェシーキャット、大好き』と。そして、『お前は僕の親友だね』と付け加えたんです。彼が”I love you(大好き)”の三語を話すのを初めて聞きました。涙が出るほど嬉しかったわ」。

「よく、私でなく猫に『大好き』と言ったことに対して、がっかりしてるんじゃないかと訊かれます。でも、最終的に人にも愛情を持つよう学んでくれたら本望です」

ローカン君はまだ学校で自由にコミュニケーションが取れる訳ではありませんが、ジェシーキャットとの絆が深まるにつれ、どんどん自信をつけてきています。ジェインさんは、ローカン君が最善の支援を受けられるよう仕事を辞めました。息子の不確かな将来や長期に渡るであろう家族へのインパクトについては、冷静に受け止めようとしています。

「思春期に入ってからのことは想像がつかないわ。上手くいけば、ちょっと変わってるくらいで治まるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。全く分かりません。でも、これは私にではなくローカンに起こる問題。私たちには選択の余地がないから、悲観にくれても仕方ありません」

母親が話している間、ローカン君は黙りこんでiPadに夢中になっていました。彼に簡単な質問をしてみましたが、始終ニャーニャー鳴いて私たちの会話を中断させるジェシーキャットと違い、お行儀よく沈黙を守ったままでした。

もし、彼の情緒の発達や育成に欠かせないジェシーキャットがいなくなったら、ローカン君はどうなるのでしょうか?

「ジェシーはまだ3歳。彼女が命を全うする頃には、ローカンが成人していることを願うわ」

 

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